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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第三章 緊急事態発生! 異界からの侵入物

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また妄想

飲食業って、唐突に激混みすることある。

理由は誰にも分からんが、どうにもならん。

カフェ店員のお仕事。


入店したお客様をお席へご案内します。

お冷をお出ししてオーダーを聞きます。

ドリンクを作成して提供します。

お会計をします。

テーブルを片付けます。

お皿を洗います。


一人や二人のお客様ならどんと任せてください。

私だってちゃんとこなせます。

なんで今日に限って十一名の団体様がいらっしゃるんだろうね!


今日はドリンクのみで、閉店も七時なんですが、と言っても、大丈夫よーおばちゃんたち気にしないわーと元気に仰られ、狭い店内をみしっとおばちゃんたちが占領した。婦人会がどうのとか言っているので、ランチ会の後の二次会なのかもしれない。


全員オーダーがコーヒーで統一ならよかったなー。

ホットコーヒー四、ホットカフェラテ二、アイスコーヒー二、ジャスミンティー一、ダージリン一、ココア一………………お湯の温度がっ、カップの用意がっ、茶葉がっ、豆がっ。

プチパニックに陥りながら一杯ずついれていく。一杯ずつしかいれられないから、時間がかかる。ねえ私のお茶まだー? なんて声もかかる。ひいいいい。

そのうち三名様が先に帰られるという事で、先にお会計。入れ替わりで2名様ご来店でカウンターへご案内。ドリンクのみと閉店時間の説明している中、ちょっとぉ帰った人のカップ下げちゃってよ、お冷ちょうだい、などと言われて、またパニック。



さらになんだか、たくさん話しかけてくださるお客様だったりして、どうしていいものか……。


ねえねえいつものイケメンお兄さんはいないの? 店長は用事で出てます、ねえ店長のフルネーム教えてー、それは個人情報的に良いのか悪いのかわからないんで、ちょっと定員さんお会計! ここカード使えないの? 現金のみですすみません、お姉さん店長の歳はいくつ? 知らねっす、お姉さん言葉素に戻ってるよー、すいません…………



カイトが二階から降りてきたちょうどその時に、カウンターのお客様が帰った所で。

私はレジに頭を突っ込む形のままで燃え尽きていた。頭がぱしゅっとなっていた。



誰だよ、ドリンクならできるからとか言ったやつ。

ちゃんとできたのかもわかんないよ。

まだテーブルの片付け残ってるよ。

カイト、これをドリンクだけじゃなくてフード付きでこなしてんのかよ。

どんだけ激戦だよ。


本当にわずかにちょっとだけ、カイトを尊敬してやった。



「……りー。お前、短時間で老けたな」

「うるせー。

しょーちゃんはどう?」

「熱、下がらないどころかまだ上がってるな。言わんこっちゃない」

「……よくあるの?」

「しょっちゅう、だった。最近は減ってきたが」


綺麗な顔が憂鬱そうだ。

カイトが小さな土鍋を火にかけた。

お粥を作るみたいだ。


「おそらくだが、キツネ遣いの力は人の体には合っていないんだろう。しょーちゃんの力は歴代よりかなり強いしな。

発熱の原因は不明なんだ。しょーちゃんはもともと健康だ。ただ、小さいだけで」

「……カイト、しょーちゃんが最も気にしてる余計な一言ついてんぞ」

「熱の原因はいくら調べても分からなかった。考えられるとしたら、通常は人が持たない力のせいだろうと」

「解熱剤でなんとかするしかないってこと?」

「そうだな。

あとは、精神面を安定させることか。前にも言ったが、しょーちゃんは落ち込むと長いんだ。そこから発熱したこともある」

「へー」

「りー、今日学校でしょーちゃんに何かあったか?」


しょーちゃんになんかあった?

学校で?

いや、別に。



何かあったかといえば、私が巻き込み事故にあったくらいだ。

階段での場面が思い起こされる。やけに近い先輩の顔だの、一方的な言い草だの。いまだにあの言い方は腹が立つんだが。鵜野森先輩め、嫌な記憶を残しやがって。


……おおっと。

ちょっと、待て。タイム。



自分の彼女が他の男に告られる、というのは事件なんだろうか?



ぬーん。

どうなんだろう。

ヤな感じ、と思うかな。そういうこともある、とか思うかな。

……ちょっと、わかんねーな。

よし、置き換えて考えてみよう。



しょーちゃんが誰か女子に告られました。

どうする、私?



……事件だ。大事件だ!

誰だそいつ、どこの女だ、まず顔見せろ、どういうつもりだ、サシで話そう、テメエかコノヤロウ、そして潰す!

と、私は鼻息荒くして実力を行使するだろう。


しょーちゃんが誰かに告られるなんてことがあったら、私的には全く冷静になれる気がしないわけだが。



それってわたしがしょーちゃんを好きだから冷静になれないだけで、しょーちゃんがそこまで私の事好きかというと……そんなでもない気がする。

付き合ってって言われたから付き合ってるけど、好きかって言われるとちょっと。とか思ってないか?

つまりなんていうかその………………精神的な波風はさざ波すらも立ってないので、しょーちゃんの発熱とは無関係です。終わり。



うぅ、自分で言ってて胸が痛い。痛いよう。私、自主的に大怪我負ってない?



でも、しょーちゃんはびっくりしたって言っていたから、心の乱れは少しくらいはあったのかなあ。


それにしたって。

こんなのカイトに言えるわけないじゃん。

付き合ってるの内緒なんだから。

バレたら食い殺されるんだから、私。



だから私は思い切り顔を歪めてカイトを振り返った。


「学校デハ、何モ、ナイデスヨ?」

「……お前は腹芸ができない奴だな」



カイトはただそう言って、特に追求してこなかった。

なんでか聞いたら、思春期真っ只中のガキ共に囲まれて、毎日何も無いことはないだろう、それくらい織り込み済みだ、って返ってきた。


八百年、人と関わってきたキツネはそこら辺は達観していた。見かけが若いイケメンだけど、こいつはじーさんなんだった。

改めて肝に銘じとこう。



りーりの腹芸。わかりやすっ。

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