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【完結】川越妖狐怪異譚 ~小江戸のキツネが人の恋路を邪魔してくる~  作者: 工藤 でん
第二章 お散歩デートは要注意

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事故現場

現場けんしょー

事故多発地点、なんだそうだ。

ここ三ヶ月で四件の交通事故が起こっている。

いずれも運転操作を誤って、田んぼに突っ込むという事故だ。重傷者一名、軽傷者六名。その内、子供が四名。

見通しのいい交差点で、しかも事故は全て単独事故。車の故障の疑いもないという。

運転手の証言では、ハンドルが勝手に切られたというのだが。



「……なんで警察が調べるようなこと、カイトさんがやってんの?」


カイトさんがしょーちゃんに説明する内容をついでに聞いて、私が疑問に思うのも仕方ないだろう。

だって、交通事故だもん。キツネ関係ないじゃん。

当たり前の顔して、何やってんの?



カイトさんはきれーな顔して、私をガン無視した。

こいつっ。

私に説明するのが面倒なんだ。このキツネは必要ないことは本当に何もしない。


しょーちゃんが代わりに説明してくれる。

しょーちゃんは丁寧で優しい。よくできている人だ。

そこの顔だけいいキツネは見習って欲しい。



「警察や市役所で抱える案件の中で、常識で図ると解決できないような問題が出てくることがある」

「常識……?」

「目には見えないけど、それが存在とすると仮定するならば説明できるようなこと。警察官や市役所職員には分からないけど、僕たちだったら簡単に分かるようなこと」

「ああ……異形が関わっているかもしれない件?」

「カイトの別の仕事というのが、そういう仕事。

異形が絡んでいることを前提に調べ直してみる。解決できるなら、そこまで請け負う。

カイトは行政から、未解決の案件の調査を委託されているんだ」


カイトさんはカフェのマスターだけじゃなかったってこと? ていうか、カフェがサブなのか!

当のカイトさんは涼しい顔してスマホを弄っていた。


「カイトがカフェをやっているのは、こういった案件の、ちょうどいい窓口になるから。当人から直接話を聞くこともあるんだけど、霊感商法手がけてそうな怪しい事務所だと入りづらいでしょ」

「確かに」

「もともとカイトは、昔から料理得意だし。

ていうか、凝り性だからやり始めると止まらなくて。趣味と実益兼ねてこの形に落ち着いた、って感じかな」

「はあああ」


因みに、今凝ってるのはタイ料理。定期的に激辛がやってくるから、定期的に僕は死んでる。としょーちゃんがカイトさんをジト目で見ていた。

カイトさん、しょーちゃんが大事ならそこは加減してやれよ。



カイトさんはスマホで必要な情報を見つけたようだ。

しょーちゃんの可愛いジト目に、麗しい微笑みを返していた。


「しょーちゃんがそこの交差点で視認した女性は、七年前の事故の被害者だ」

「七年前……随分前だな」


しょーちゃんが眼鏡を外して見た交差点には、椅子に座ったような姿の女性がいた。

かなり薄らとしていて、カイトさん達にも影があるとしか認識できなかったそうだ。

もちろん、私の目にはまったく映らなかった。


「七年前、女性とその子供がここで事故にあった。単独事故ではなく衝突事故だ。女性の運転する車の右から、一時停止を無視した車が突っ込んだ。女性と子供は死亡。突っ込んだ車の運転手は重傷。かなり酷い事故だったようだな」

「その、亡くなった女性がここにいる?」

「椅子に座っているようだ、というしょーちゃんの証言から、まだ車を運転しているつもりなんだろう」

「事故にあったことを、わかってない?」

「そこまでは断定できないが」


しょーちゃんが、交差点をじっと見つめている。

しょーちゃんだけが女性を認識できているのだ。

眼鏡を取ったしょーちゃんは、やっぱり綺麗な顔立ちだと思った。


「しょーちゃん、女性から話は聞けるか?」

「難しいな。話しかけても応答しなかったし、存在が希薄で感情も読めない」

「そもそもそんなに弱い力で、交通事故を引き起こすようなことができるだろうか」

「この女性が事故原因ではない、となると。

他に事故を誘引するようなものがある?」

「それが、わからない」



カイトさんが顎に握った指を当てて考え込んでいる。イケメンはなんでも絵になる。見てくれだけはホントにいいな、この人。


ぼーっと見ていたら、カイトさんが私に目を移してきた。カイトさん的には、そういえばこいつもいたな、くらいの視線だ。

そのまま、じーーーーっと見てくる。

無駄に緊張するから、ガン見やめてくんない。

普段お目にかかれない秀麗な容貌からのガン見は、一般庶民には負担かかるんだぞ。



「……しょーちゃん、りーを使おう」

「は?」

「はあっ?」


しょーちゃんと私の声がハモった。声のトーンは全く違うが。

私を使うって、どういうことよ?

私、ただの人だよ。何の役にも立ちません。

今現在、しょーちゃんのおまけでしかないんだよ。

カイトさんは淡々と計画を口にした。


「あの女性をりーに憑依させる。りーを通じて女性の内面を見る」

「ダメ」


しょーちゃんがきっぱり却下した。

すごく不機嫌そうだ。取り付く島もない様子だ。

カイトさんが軽く眉を寄せた。ここまで綺麗に却下されるとは思っていなかったらしい。


「しょーちゃん、事態を打破する最短方法だぞ」

「りーりを使うなよ。他の方法考えてよ」

「今現在手詰まりだ。りーは以前、異形に憑依されてた経験もある。馴染みはいいだろう」

「りーりを道具として考えるな、って言ってんの」

「道具ではない。有効な人材の活用だ」


カイトさんがにこやかに私を振り返った。

私に笑顔を向けるなんて初めてではないだろうか。

きらきらすんな、黒キツネ。


「りー、協力してくれ」

「そんな怖そうなこと、はいいいですよー、とか言うと思った?」

「ちょっと異形くっつけるだけだ。この間までやってただろう」

「私その時、めちゃくちゃ怖がってませんでした?! ちゃんと見てた?」

「別に今回はお前を狙っている異形ではないし」

「そこは、精神的な壁ってやつがあってね……!」



カイトさんが、ちょいちょいと私を手招きしてきた。

なんだよ。とって食う気かよ。

恐る恐る近付くと、しょーちゃんに背をむけるようにしてスマホ画面を見せつけてきた。

なんだ? 何を見せる気?



スマホには写真が表示されていた。

短パンTシャツでアイス食べてる、しょーちゃん。


うっ。


カイトさんが画面をスワイプする。

次の写真は。

勉強したままかくんと寝落ちしてる、しょーちゃん。


ううっ。



カイトさんがにやーりと笑いかけてきた。


「……りー。

お前は、可愛いしょーちゃんをいくらでも愛でていたいという、俺の同士だろ?」

「なんで、バレたっ」

「俺がしょーちゃんを見てるからだ」

「まんまだな! でもわかっちゃう自分もいるなっ」

「類は友を嗅ぎ分けるんだ。

今手伝えば、俺の持つ厳選普段着しょーちゃん写真を、五枚セットでくれてやる」

「卑怯なっ。真っ黒な手段じゃないのっ」

「いらないのか?」

「……後でSNSを交換してください。そして、速攻で送ってください」

「商談、成立」


我々はがっしりと握手を交わした。

マジで、すぐに送れよ。



状況に置いてかれたしょーちゃんが、慌てて私の服を引っ張った。


「りーり?! なんで引き受けてるのっ」

「大丈夫大丈夫、ちょっと心霊ホラー体験するだけだから」

「危ないかもしれないだろっ」

「専門家監修の元、安全確認を徹底して行っております」

「カイトは思いつきでやろうとしてたよね!」

「ここで解決しておかないと、また交通事故が起こるかもしれないし。条件はそろっているんだから、片付けておきたい」

「カイトぉ……」


しょーちゃんはわしわしと頭をかきむしった。

憤然とカイトさんの前で仁王立ちになった。

小さいけど。


ぷんぷん怒ってる小学生みたいだ。癒されるー。



「じゃあ、僕からも条件を出す。

僕もやる」

「しょーちゃんっ?!」

「僕がりーりと手を繋いだ状態で憑依させる。りーりが見た光景は、僕にも見えるようにできるだろ?」

「だめだ! 危ないよ、しょーちゃん!」

「……危ない、だあ?」


しょーちゃんがカイトさんの胸倉を掴んだ。身長差があるから、カイトさんが大きくかがみ込む形になった。


「しょーちゃん、苦しっ」

「そんな危ない事をりーり一人に押し付ける気だったのか、お前はッ」

「違うっ。りーには経験があるが、しょーちゃんにはないだろうっ」

「僕はもう何年も、キツネに憑かれてるようなもんだよっ!」

「俺たちは慕ってるだけで、取り憑いてるわけじゃないぞっ」

「四六時中僕に付き纏ってるのは、どこのキツネだ!」

「わかったよ、しょーちゃん! わかったからっ」


しょーちゃんがカイトさんを解放してあげた。

カイトさんが首の辺りをさすっている。

しょーちゃんのお怒りはまだ解けてないみたいで。


嫌~な空気のまま、現場検証が行われることになった。





カイトの使う裏取引は、りーりにはとても有効です。

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