21話 醤油と言う名の至高品
―――仕事終わりの帰り道―――
「はぁ……疲れた」
「あらあら、ソフィア様……大丈夫ですか? 肩は凝ってませんか? 良かったら、ソフィア様の豊満な……いやらしい……んん。ごほんっ。えっちなお〇ぱいお持ち致しますよ?」
「言い直す意味無いよそれ!? 胸は持たなくて良いから! やれやれ……何だか余計に疲れちゃったよ。だいたい、レティが暴走し過ぎなの!」
「あ、ありがとうございます。ポッ……♡」
「いやいや褒めてないからね!?」
今日は受け付けの仕事が忙しくてご飯を食べる暇も無かったよ。幸い残業とかは無いので良いけど、その分定時内で早く終わらせないと行けないのでその分濃密なのだ。その中でもレティの対応が余りにも酷過ぎて……もう少し男性に優しく接する事ができないもんかね。
「そうだ、ソフィア様に近付く雄は去勢して置きますね。そうすれば私が受け付けを少し離れていてもそういう間違いは無い……つまり無問題ですね! 冒険者ギルドに登録する際、雄は一緒にあそこを切り落とす事を義務付けましょう!」
「問題大有りだよ!? そんなことしたら絶対駄目だから! てか切られたら死ぬよ!?」
想像するだけでもゾッとしてしまう。今の私の身体には息子が付いては居ないが……レティの思考はどうなってるんだろ。ぶっ飛び過ぎてて目を離すことも出来ないぞ。
「ソフィア様は甘過ぎます! 男共にあんな天使の様な微笑みを向けてはなりませぬ! あいつらは欲望に飢えたケダモノ……私はソフィア様がいつ襲われてしまうかと内心ドキドキで心配なのです!」
「うん、完全にブーメランだよね。私はレティと一緒に居る方がある意味心配なのだけど……」
「女性同士で間違いが起きる筈は……」
「ん? 何で急に無言になった!?」
このままレティに受付嬢をやらせて置くと第2、第3の犠牲者が出るかもしれない。今日だって、冒険者のシーナさんや受付嬢のアヤメ先輩がレティの毒牙に……しかし、対応が酷いと言いつつも冒険者達の間ではレティのファンが急増してると言う摩訶不思議な事実もある。
「ソフィア様、大丈夫です。遅いか早いかの問題ですので」
「え、何が!?」
「私とソフィア様の愛の結晶♡ 子供が産まれたら……名前はどうしましょうね♪ うふふ♡」
「うふふ……じゃないよ! 全くもう」
レティは喋らなければクールでお淑やかな美人さん何だよねぇ……喋らなければ。口を開くと残念な美少女なのだ……喋らなければ! レティは何の恥じらいも無く真顔で下ネタ言うし、冒険者達の皆さんを踏み付けてサディスティックな表情を浮かべるドSな1面もあるし……いや、ドMな面もあるな。属性が多過ぎるんだよこの子……しかも、このルックスで剣の達人でもあるんだ。
「ソフィア様、迷子になると行けませんし……手を繋ぎましょう」
「レティは私のオカンか! 手を繋ぐのは遠慮しとくよ」
「なっ……ちゃんと手は綺麗に洗ってますよ!」
「そう意味じゃないよ!」
レティと手を繋ぐだけで私が不覚にもドキドキしてしまうのだ。しなやかなで白くて綺麗な華奢な手……しかも、レティから凄く良い匂いもするから、近づくだけでも私の理性が危ない。前髪で片目が隠れている青髪の美少女……レティのミステリアスな雰囲気と綺麗な瞳に油断すれば吸い込まれそうだ。
女の身になったとは言え、心は男……そらこんな美少女と手を繋いだりあれな事をしたい欲は勿論あるが……それをしてしまえば私が私で無くなる気がするのだ。
「レティ、近い」
「私とソフィア様は磁石で例えるならNとS……つまりはそういう事なのです♪ 私とソフィア様が合体するのは最早自然の摂理。運命なのです♪」
「……」
はぁ……これは何を言っても駄目そうだな。しかも、レティの胸が私の腕に当たってるし……何だかニコニコしてるレティにこれ以上言う気にもなれんよなぁ。まあ、本人が嬉しいならそれで良いか。
「ぐへへ……ソフィア様の匂い好きです♡」
「レティ……涎出てるよ」
「デュフフ♡」
レティがこれ以上間違った方向に行かないようにしっかりと私が見張って居なければなるまい。
「ん? レティ、向こうで何か祭りやってるの?」
「ふむ、あれは海鮮市場で御座いますね。レアルカリアは海に面した水の都でもあります。新鮮な魚介が朝と夜にああやって並ぶのですよ」
「ほほう〜イカやタコとかもあるのかな?」
少し寄り道して行きたい。イカやタコ、マグロやカンパチとか色々食べたい! 私は肉よりも海鮮とかの方が大好きなのだ! キンキンに冷えたビールとスルメ……ごくり。これはキメるしかないな!
「ソフィア様……ま、まさか。触手プレイがお好みですか!?」
「なわけあるか! レティの思考はいつもどうなってるの……」
「はい、私は煩悩の塊……ごほん。健全と書いてレティと呼ばれる程純粋な乙女です♪」
「ふーん。あそ」
「はうっ……!? ソフィア様の塩対応……良き」
ニーナちゃんとルシアちゃんにもお土産を買って行こう。これだけ規模のデカイ市場だ。異世界と言えど何かしらはある筈だ。
「ソフィア様、そもそもイカやタコは食用では御座いませんよ。あんなヌメヌメした生き物を食べようと思う者は居ません。漁で取れた物は廃棄するか畑の肥料に混ぜるのが一般的ですね」
「え? それは勿体無い! 醤油とかに付けて刺身で食べると最高だよ?」
「しょ……醤油!? そんな最高級な品を使うのですか!? この大陸で醤油等は取り引きが厳重に制限されております! 貴族ですら安易に手に入れるのは困難な物ですよ! 醤油を作れる物はこの大陸でも3人しかおらず、国が国宝とまで認定し、その製造方法は秘密のベールによって……」
「材料等、色々必要ではあるけど……作り方なら知ってるよ」
「えぇ!?」
レティのこんな驚いた顔は初めて見たぞ。え、この世界では醤油とか一般的に流通してないの? まさかそんな希少な調味料だとは……え、まさかビールも無いの?
「ソフィア様の記憶の中に醤油の製法がある……もしやそれの痕跡を辿ればソフィア様の身に起きた出来事が分かるかもしれませんね……だとすればこれは国絡みの……」
「え、えと……レティ?」
「ソフィア様、醤油の製法をもし本当に知っているとすればこれは一大事で御座います」
「は、はぁ……?」
え、そんなにスケールデカイ話しなの? と言うか親戚のおじさんが醤油を製造していたから、そのよしみで若い頃にアルバイトをした事があるのでおおよその事が分かるだけだ。
「レティ様! た、大変で御座います!」
「何かしら? 騒々しいですね」
ふぁっ!? いきなりびっくりしたなぁ……レティの配下の人達、いつも何処から出て来るのだ? 黒装束を身にまとって居るとは言え、まるで瞬間移動したかのように目の前に現れたぞ。
「め、めめめめめ!!」
「め?」
「盟主レオノーラ様が! レアルカリアの街に向かって居るとバードウェイ様からご連絡が!」
「盟主レオノーラ様がっ……!?」
「ソフィア様にお会いになりたいとの事! 2日後に到着の予定との事! オクトー様とキャロム様が大至急会合を開くとの事です!」
え、何処のソフィア様何だろう……私シラナイヨ? てか、いきなり過ぎないか!? まだこの街に来たばかりだと言うのにいきなりそんな組織のトップの方とご対面!?
「レオノーラ様はそれ程までにソフィア様の事を……して、盟主様の護衛は?」
「はい! 執行者の一人、【金色の観測者】オーロット・バードウェイ様とレオノーラ様直轄の近衛部隊が護衛の任に付いているとの事!」
「そうですか、バードウェイ様なら一安心です。最も護衛として適任な御方ですね。しかし、このレアルカリアの街に一騎当千の【殲滅王】オクトー・ザレフキア様、【常闇の女帝】キャロム・ベルマーレ様、【金色の観測者】オーロット・バードウェイ様の執行者が3名も集うとは……執行者がシャルマーレ城以外で集まるのは滅多に無い」
自分に関係ある事何だが、何処か他人事の様な感覚だ。盟主様……どう接して良いか分からないぞ? 私からしたら、いきなり知らない人の事をお母さんと呼ぶと言う事だ。ナイトメアと言う組織のボス……きっと怖くておっかない人に違い無い。
「レティ、私まだオクトーさんとキャロムさんしか会ったことないよ? そんなに……」
「ソフィア様、大丈夫です。いずれ記憶が戻れば、皆様の事や私の事を思い出せますよ。ソフィア様は堂々としておれば宜しいかと。盟主レオノーラ様の御息女であらせられるのですから♪」
「う、うん……」
ひえぇぇぇぇえええ! 私の人生これからどうなってしまうんだ!? 間違い無く大きな事件に巻き込まれる予感しかしないんだが!?




