20話 過保護な母親、盟主レオノーラ【バードウェイ視点】
私の名前はオーロット・バードウェイ。男みたいな名前だねと良く言われるが、れっきとしたズボラで面倒くさがり屋の女だ。裏社会に名を轟かす大組織ナイトメアで執行者を務めるしがない研究者でもある。現在、盟主様と共に極秘でレアルカリアの街へと向かっている道中だ。
―――その目的は、盟主レオノーラ様の御息女ソフィア様にお会いする為だ。
「たまには馬車に揺られるのも悪くありませんね」
「そうですね、最近研究室に篭ってばかりでしたので空気が新鮮です」
バードウェイは天才であり苦労人でもある。年齢は30歳だが、バードウェイの研究成果の1つ【不死の聖水】を開発し己の身体に投与した結果、身体の老化は小学生並みの見た目で止まってしまったのだ。身長は135cm、黒髪ツインテールの愛らしい容姿をした白衣の女性だが、その中身は残虐性と狡知を併せ持つ危険な人物でもあるのだ。
「はぁ……ソフィア」
「盟主様、心配なさらずともきっと大丈夫ですよ」
「ごほんっ。バードウェイちゃん……よしよし♡」
「あ、あの……」
「遠慮しなくて良いのです♪」
盟主様の本来の姿を知る者は私と一部の執行者のみ。本当は慈愛に満ち溢れた聖女の様な心根の優しい御方なのだ。今回のマグリウス共和国で起きた襲撃事件も盟主様は相当に深く傷付いておられる。
「こらこら、大人しくしないとメッ!ですよ?」
「……」
盟主様のお心を傷付ける輩は私達が決して許さない。何処までも追い詰めて死ぬ事が慈悲とも思える様な凄惨な苦痛を与えた後に始末してやる。
「うふふ……何だかこうして穏やかな日を迎えるのは久しぶりだわね♪」
「ですね。天候も快晴ですので絶好のお出かけ日和」
こうして何処かお忍びで出掛ける際には、私が必ず同行……盟主様の護衛に赴くのだ。盟主レオノーラ様、マリア様、ソフィア様に付く護衛は信頼も厚く実力が確実な者でなければならない。
私達、執行者クラスが最低1人は護衛に着くと言うのが暗黙の了解。ソフィア様のお姉様……マリア様は実力は疑う余地も無く優秀で、冒険者ギルド協会が定めたギルドランクも最上級のSランクだが、基本的に【不死鳥】フラムベスタ・アレクトーが常に傍に付いている。アレクトーは赤髪の寡黙な女だが、盟主様からの信頼も厚く実力も確かな者だ。
今後、恐らくソフィア様の護衛にも執行者の誰かが着くだろう。今はキャロムの右腕であるレティ・クロムウェルが付いているそうだが正直不安だ。実力に関しては良いのだが、レティは純粋な変態なんだよ。
「あの、私こう見えて30歳……ですが」
「ん? 私から見たら子供同然です。あら、バードウェイちゃん軽いわね。ご飯しっかり食べてる? ちゃんと寝る前に歯磨きをして睡眠時間は最低でも6時間は……」
「はい、大丈夫です」
盟主様は私のお母さんですかね? 組織での私の立ち位置は、一応執行者と言う大幹部の筈なのだが……ノウェム、ルーナ、シャルロッテ、キャロム達からは妹の様に子供みたいな扱いを受け、部下からもお世話させて下さいと毎度圧が凄いし……いくら見た目が幼いからって、私30歳だよ?
「研究に没頭するのも良いですが、自分の身体の事も大切にしないと駄目ですよ?」
「は、はい……」
盟主様に頭を撫で撫でしてもらうのが実は嫌いでは無い自分が居る。本当は分かってるんだ……私、心の奥底では盟主レオノーラ様の事が本当のお母さんの様に好きだと言う事を。私は自分でも性格の悪い女だと自覚はしているが、何が何でも盟主レオノーラ様を悲しませる様な真似はしないと心に誓っている。
―――ナイトメアの強さは、盟主様に対する絶対的な忠誠と信頼。レオノーラ様はそのカリスマ性で組織をここまで巨大にし、その配下も皆レオノーラ様に惹かれて見出され、この身を犠牲にしてでもレオノーラ様を支えたいと思う連中ばかりだ。
執行者の皆も過去に訳ありを抱えた者達ばかりである。皆それぞれ辛い過去を持って居るが、レオノーラ様に拾われ救われた。私もその中の1人である。
―――レオノーラとバードウェイが穏やかな雰囲気の中、馬車の外から部下からの報告が上がった。
「失礼します! 盟主レオノーラ様! この先の村でどうやら山賊に村が襲われている模様。如何なさいますか?」
「賊は一人残らず捕縛。村人達を救うのです」
「御意!」
盟主様は悪と理不尽決して許さない。時には王国の腐敗や汚職、他国との戦争の介入に奴隷解放等、様々な事件に関わって来た。裏社会の組織ではあるナイトメアだが、行っている事は正義だ。
執行者の中にはラクリマ・オペランディの様な変態でどうしようも無いゴミも居るが、あいつも意外と仲間想いで優しい。幼女を買い漁ってる変態ではあるが、その実態は奴隷の身から解放してあげたり、孤児院に莫大なお金を寄付して居たりとやっている事は善行だ。
「あぁ……君達、ちょっと待ちたまえ」
「はい? 如何なさいましたかバードウェイ様?」
この時バードウェイの表情は、悪戯を思い付いた無邪気な子供の様な表情をしていた。
「こいつらにやらせよう」
バードウェイは馬車の小窓を開けて身を乗り出した。そして、バードウェイは召喚魔法を唱える。
「出て来て……【召喚の義7】冥獄の門を守護する番人、馬頭鬼! 牛頭鬼!」
魔法を唱えた直後、空中に突如紫の悍ましい瘴気を纏った巨大な門が現れた。ゆっくりとその門が開かれて出て来たのは、馬の頭をした青色の巨体を誇る鬼と牛の頭をした赤色の巨体を誇る鬼がそれぞれ出現する。その手には大きな棍棒と斧が握りしめられている。
「バードウェイサマ、オヨビデゴザイマスカ?」
「ナンナリトゴメイレイヲ」
「あぁ、馬頭鬼、牛頭鬼。この先で暴れてる野蛮な賊共を半殺しにしてトラウマを植え付けた後、捕縛しろ」
「ギョイ」
「メイレイヲ、ウケタマワリマシタ。オマカセクダサイマセ」
こいつらは中々強いぞ。冒険者ギルド教会が定めた危険指定ランクA級の地獄の番人達だからな。山賊達はどうしようも無い程の理不尽と言う名の絶望を味わう事になるだろう。まあ、賊どもはいつも弱き民から奪って居たのだ。自分達が奪われ狩られる側になるのは最早自然の摂理、摂理に反することは許されない。
「はぁ……本当世の中ままならぬものですね」
「はい、難しいものです。ですが、我々は盟主様の思い描く理想郷を実現させるべく、これからも地獄の底へもお供致します」
「ふふ……ありがとう。バードウェイちゃん♪」
盟主レオノーラ様は、私にとって正義であり神そのもの。レオノーラ様に牙を剥く勢力は私達が決して許さない。私も実力に関しては、過信はしては居ないがそれなりに自信はある。執行者達は、皆一騎当千の実力ある強者ばかりだ。
「レアルカリアに辿り着くまで色々とありそうね」
「盟主様が通る道に……邪魔者が現れたら私達が徹底的に排除致します」
「バードウェイちゃん、そんな気張らなくて良いからね。もっと気楽に行きましょう♪」
盟主様はそう言うが、きっと内心ではソフィア様の事で頭が一杯の筈。こうして御身自ら出向く等、本来有り得ない事だが、それ程ソフィア様の事が心配なのだ。ソフィア様が行方不明と報告を聞いた際は、あの盟主様が酷く動揺する程……今の盟主様は、愛する娘に会いに行く1人の母親なのだ。
「ソフィア……元気にしているかしら。無頼漢に襲われて無いかしら……ごはんちゃんと食べてるかな?」
「盟主様、大丈夫です。安全に関してはキャロムやオクトー達がレアルカリアの街に滞在しておりますし、レティ達がソフィア様の護衛に常に付いております」
「そ、そうよね……」
ソフィア様……私の事を覚えているかな? 報告に寄ると記憶が曖昧で色々と一波乱起きたそうだからね。昔は私もソフィア様と一緒にお出かけに同行したものだ。
「そうえば、キャロムからの報告に寄れば……ソフィア様は冒険者ギルドレアルカリア支部に受付嬢として働いているそうですよ」
「受付嬢……バードウェイちゃん。レアルカリア支部の冒険者ギルドを買収しなさい」
「え、買収ですか!?」
「冒険者ギルドはむさ苦しい男共が蔓延る危ない場所。ソフィアは私の大切な可愛い娘、変な虫が付かないようにしなくては……バードウェイちゃん、ソフィアはどんな家に住んでるのかしら?」
何だか雲行きが怪しくなって来た。盟主様はとんでもない程に過保護と言うか……やる事成すことがぶっ飛んで居ることがある。特にソフィア様やマリア様絡みになれば尚の事……
「え、えと……話しに寄れば民宿に」
「まあ!? ソフィアがそんな場所に……バードウェイちゃん、レアルカリアに城を建てなさい。500億ガルムを用意して……」
「レオノーラ様、落ち着いて下さいませ……レアルカリアにそんな豪勢な城を建てたら貴族達の目やその町の領主に……」
「なら、その街の領主をソフィアにしましょう! あの子は人の上に立つ才能があるわ♪ 領主や貴族達の弱味はこちらで色々と握っております。スキャンダルをチラつかせれば……」
ま、まずい。この流れは非常にまずい。私が同行したもう1つの理由は、盟主様の暴走を止める為でもあるのだ。盟主様はその昔、ソフィア様が通う帝国の学院に魔道列車を自宅から繋げて護衛も100人付けようとか、理事長をお金で買収しよう等色々とぶっ飛んだ事を平気でしようとする御方なのです。
「ソフィアには最高のプレゼントをするのよ♡」
「レオノーラ様……」
私は知っている。昔、ソフィア様が家を飛び出した理由はレオノーラ様が過保護過ぎると言う事なのだ。普通の生活をして、友達を作って一緒に買い物したり、カフェに行ったりアルバイトをしてみたいとか色々仰って居たのを今でも覚えている。
「今頃ソフィアは寂しくて泣いているかもしれないわ。ママが恋しいお年頃何だから♡ 昔は一緒に寝たり、深夜のトイレに一緒に付いて行ったり……」
「ごほんっ。レオノーラ様落ち着いて下さいませ。ソフィア様はもう立派な成人の義を迎えた女性です。それは子供の頃の話しで……」
それに話しに寄れば今は記憶喪失だと聞いてもいる。会って実際に状況を確かめなくては行けない。
「だって……ソフィアは!」
「レオノーラ様はちと過保護が過ぎますよ。ソフィア様のお姉様であらせられるマリア様も仰っておられましたよ?【もう! ママは過保護過ぎるの! 友達とカフェに行くだけなのにわざわざお店を買収して、護衛500人とか落ち着けないよ!】とか色々」
「なっ……!? だって心配何だもん! ぐすんっ……」
「ああっ!? レオノーラ様、い、今のは嘘です! 嘘ですから泣かないで下さいませ!」
バードウェイの苦難はこれからも続くのであった。




