18話 冒険者ギルドの平凡な日常
あれから色々ありましたが、約3週間の時が経ちました。受付嬢の仕事はまだまだ不慣れで、周りの人に沢山迷惑を掛けてしまってはいるけれど、同僚や冒険者の方や街の人の優しさに助けられながら何とか働いている。レアルカリアの街……良い街だ。
「はい、ゴブリンの討伐クエストの依頼確かに承りました。べナードさん、ヒルダさんお気を付けて♪」
「おうよ! ソフィアちゃんも頑張れよ!」
「ソフィアさん、行って参りますね♪」
今日は平和ですね〜今日のシフトは、私、レティ、アヤメさんの3人です。相変わらずレティとアヤメ先輩は犬猿の仲と言うか……仲が良いのか悪いのやら。レティに関しては完全に楽しんでる様にも見える。
「おい、馬鹿野郎がっ!」
「てめぇこそふざんけじゃねーぞ!?」
何だ? 壁際の席に座って居る冒険者達が大声で何やら言い争って居るな。はぁ……一応仕事だから、喧嘩の仲裁に入るとしようか。
「あの、どうしましたか? コリンさんにプルスタッドさん」
「あ、ソフィアちゃん! 聞いてくれよ〜巨乳の素晴らしさをこいつと熱い議論を重ねて居たのだが、コリンの野郎が貧乳の良さに気が付いたんだとかほざいて、貧乳派に寝返ったのだ!」
めっちゃ、しょーもない事で揉めていらっしゃった!? 気持ちは分からんでも無いが、私は中身おじさんだから別に気にはしないけど、ここには職員や冒険者の女性も居るのだ。そんな議論は他所でして欲しいものだね。公共の場でする事では無いな。
「えと……そんな事で?」
「裏切り者め!」
「プルスタッド! お前こそ裏切者だろ! アヤメ派だったのにソフィア派やレティ派に寝返りやがって!」
え、何……その派閥は!? おじさん初耳なのですけど!?
「2人とも喧嘩はやめて下さい! そんなアホな事で仕事を増やさないで下さいよ……やるならお外でどうぞ」
ん? 何故だろう……2人の視線が私の胸に……
「プルスタッド……俺が馬鹿野郎だったよ。巨乳も素晴らしいじゃねえか」
「コリン……ごめん。俺も熱くなってたぜ。貧乳は貧乳で、無い胸を隠そうとするあの恥じらいもありだよな……どちらも良さがあるか」
しまった……またボタンがはち切れていたよ。そろそろギルマスに受付嬢の制服をボタン式じゃないのにして欲しいと相談してみようかな。最近男性からの熱い視線を良く感じるしな……最初は自意識過剰かなと思ってたけど、冒険者達は隠す事も無く己の欲望を剥き出しにしている。
「ソフィアちゃん、今夜仕事が終わった後にお食事でもどうだろうか?」
「プルスタッドてめぇ!? 抜け駆けは許さないぞ! うちのギルドのお姫様を誘うなんぞ、お前には1万年早いんだよ!」
「コリンさん、プルスタッドさん……出禁にしても宜しいでしょうか?」
私がニッコリと対応をすると2人とも青ざめた顔で大人しくなりました。2人から色々な話しを聞いて分かったのだが、どうやら冒険者の間でアヤメ派、ソフィア派、レティ派で現在水面下で争い事が起きているらしい。受付嬢も何処ぞのアイドルみたいだな……と言うかそんなしょうもない事で争わないで欲しいのだけど。仕事が増えそうで困るぞ。
「ソフィアちゃんも大変やなぁ。受付嬢の仕事はどうだい?」
「あ、コルベートさん♪ 皆さんのお陰で上手くやっておりますよ♪」
私に話し掛けて来たのは、B級冒険者の【隻眼】の異名を持つコルベートさんだ。この方は初日の時から、私やレティの事を色々と気に掛けてくれる冒険者で、荒くれ者達を纏めあげる兄貴分みたいなお人だ。見た目はスキンヘッドに眼帯と迫力はあるけど、話すと優しくて義に厚い方である。
「おーい! クエスト受注したいんやが」
「あ、は〜い。少々お待ちください! レティ、対応頼んだわよ」
「お任せ下さいませ」
レティはいつも通り表情を崩さずに受け付けへと向かった。
「青髪の姉ちゃん、あんた別嬪さんやな。今夜俺と一杯やらねぇか? イヒヒ……こう見えても俺はDランク冒険者でそこそこ有名なんだぜ?」
「…………」
「姉ちゃん名前は何て言うんや? 何時頃に仕事は終わるんや?」
「…………」
あ、あいつ死んだな。レティの事知らない冒険者の方か。コルベートさんの方に視線をやると苦笑いしながら成り行きをそっと見守っていた。周りの冒険者達もソワソワとしながら成り行きを見守っている。
「で? どうだ姉ちゃん? 飯の後は一緒に宿で、激しい運動を……」
「本当うるさい羽虫ですね。それと貴方にはこのクエストは無理です。分を弁えなさい。この〇〇〇〇〇〇(自主規制)」
「あぁ!? んだと! このアマ調子に乗りやがって! この俺様を怒らせてただで済むと思うなよ!? 少し分からせてやる必要があるようだな!」
「あまり強い言葉は使わない方が良いですよ? 弱く見えます。まあ、雑魚が強がった所で、所詮は雑魚ですが」
「んだと!? てめぇ!!!」
男はいやらしい視線でレティの太腿や胸元を凝視する。レティは次の瞬間刹那の速さで、ヒールの先端を男の股間に向けて蹴り上げる。
「変態」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
「地べたに這いつくばりなさい。ヒールで踏んでやるから」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!! 俺の股間が!?」
「大丈夫です。貴方の股間に付いてるアダムとイヴの片方が欠けても死にはしません」
うわっ……めっちゃ痛そう。思わず私まで股間を押さえてしまった。まあ、今の私には息子は不在だけどな。
『うわっ……あいつ死んだな』
『レティちゃんえげつないな』
『ちきしょー! レティちゃんに踏まれるとか……ただのご褒美じゃねぇか!!』
『まて、あの男どさくさに紛れてレティちゃんのパンツ下から覗こうとしてるぞ!』
『は!? ふ、ふざけんなよ! 何処の馬の骨か知らねーけど、あいつ後でやっちまうか!』
『レティちゃんは恐らく白だな』
『いいや、レティちゃんは青髪……恐らく下着も青だろ』
『レティちゃんはソフィアちゃんと違って、スカート周りのガード固いからな……俺は案外大胆な下着だと思うぞ。赤にレースの入った大人な下着とか』
本当に冒険者の男共はアホばかり……と言いたい所だが、私も元おじさんだ。あいつらの気持ちが分かる所が悲しきかな。
「お、姉ちゃん案外大胆な下着を穿いて……」
「このゴミ虫が! 死ね!」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
レティはヒールで男の顔を踏み潰してから、男をギルドの外へとゴミを捨てるかの様に放り投げたのであった。
『あ、あいつ……レティちゃんの下着を見たのか!?』
『おい、あの男を問い詰めるぞ!』
『ちきしょー!! 俺だって毎日通ってるのにまだレティちゃんのパンチラ拝めてないんだぞ!!』
『お前、受け付け嬢のパンチラ拝む為にここに通ってるのかよ! 仕事しろ!』
『いや、おめーも人の事言えねぇだろうが!』
『喧嘩は良くない。我らレティ派の同士では無いか。私の知り合いに風属性の魔法を使える者が居るから、そいつに頼んで意地悪な風をこのギルドで吹かそうでは無いか』
『おい、その風属性の魔法を使えるやつここに呼べ!』
君達必死過ぎやしないか!? 呆れを通り越して最早清々しい気分だよ。それよりも依頼が沢山貯まってるのだ。パンツを見る為に労力掛けるよりも依頼をこなして欲しい……
「やれやれ……男って、本当馬鹿ばっか」
「あ、アヤメ先輩。ジークさんが来ましたよ。掲示板の方へと行くのが見えましたが……」
「ソフィアさん、貴方は受け付けの対応をお願いするわ。私は少し席を外すから」
「え、あ……はい。分かりました」
「あぁん♡ 愛しのジーク君♡ 今行くからね♡」
本当にジークさんの事が大好き何だね。アヤメ先輩……確か今日の朝早起きして、ジークさんの為に愛情弁当を作ったと言ってたな。アヤメさんの恋が無事に実る事をおじさんは心の底から祈ってるよ。
「あの……す、すみません。冒険者登録をしたいのですが」
「うるさい! 私は今、猛烈に機嫌が悪い……の!?」
「ヒィィィ!? す、すみません!」
ほう? 珍しい……今度はむさ苦しい男では無く、可愛い女の子が冒険者登録をしに来たぞ。水色の肩まで揃えた髪に少しオドオドした自信が無さそうな女の子が来たな。今にもレティの気迫に怯えて泣きそうだ。恐らく年齢は15歳くらい……冒険者登録は15歳からだから、田舎の村から出て来たばかりと言った感じかな?
「た、大変失礼致しました。私は受け付け嬢のレティ・クロムウェルと申します。お嬢さん、お名前は?」
「は、はひ!? ぼ、僕は……シーナと申します」
「まさかのボクっ娘!? 激レア……ごほんっ。シーナさん! 必要な情報はこの書類にご記載下さいませ! それと魔力具に寄る測定や身体測定も向こうの部屋で実施致します。何と今なら、初心者向けの冒険者キャンペーンとして、登録料は何と無料で御座います! それに加えて不詳ながら、このレティが初心者講習の指導員として手取り足取りねっとりと! シーナさんのお役に立てる色々な知識をご教授させて頂きますので!」
おい、レティよ。そんなキャンペーンはやってないぞ? 勝手に作るな。それに先程の男とは対応が真逆過ぎやしないか?
「え、えと……あの」
「シーナさんはどんな武器を使う予定でしょうか?」
「剣とか……良いなぁと思って……ます」
「剣で御座いますか! 素晴らしい着眼点です。でしたら、この後私が初歩の技術をお教え致します」
レティは可愛い女の子と見たらすぐこれだよ。普段あんまり喋らない癖にこういう時に限ってレティは饒舌だよな。魂胆が透けて丸見えだぞ?
「ふ、ふぇ……」
「ささ、あちらに女性専用の更衣室があります。まずはこちらの服に着替えてから……」
「あ、あの……すみません。僕、こう見えて男なのです」
「えっ……お、男!?」
えええぇぇ!? マジか。あの見た目と声で男!? 何処からどう見ても可愛いらしい女の子にしか見えないぞ!? あらら、レティは男は眼中に無いからな。これはどうなるやら……
「何と!? その美しい見た目で生えてるのですか!? めっちゃお得……ごほん。これはちゃんと確かめ無ければ行けませんね。性別を偽って登録するのも冒険者協会の法の第6条に触れてしまいます。大丈夫です。優しく触れますので確認させて下さいませ!」
「ふぇ!? や、やっぱり……登録は辞めようかな。え、あ、レティさん待って下さい!」
「善は急げです」
「ひえぇぇ!?」
やれやれ……レティは一度、公然猥褻か何かの罪で捕まった方が良いかもしれんな。まさか、レティが男の娘も行ける口だったとは……と言うかシーナさん、どう見ても女の子に見えるぞ。
「ささ、こちらです!」
あぁ……シーナさんが連れてかれてしまった。無事な事をおじさんは祈るよ。
「ふははは! 平和だなぁ♪」
「そうですね。コルベートさん、依頼の方は良かったのですか?」
「あぁ、俺はその……あれだよ! あれ!」
「あれとは? 顔が赤いですよ? 大丈夫ですか?」
「ごほんっ……まあ、俺の事は気にしなくて大丈夫だから」
熱でもあるのだろうか? こうも狼狽えるコルベートさんは初めて見るぞ。




