17話 放置プレイ
「ちょっとレティ! どこ行ってたの!」
「すみませんソフィア様。お花を詰みに行ったら、貧乳……アヤメさんが具合悪そうでしたので、医務室に連れて行って、ベッドに縛り付けて置きました」
「は、縛り付けた!? それと貧乳と言うのはやめなさい。アヤメさんに失礼だよ!」
「だって……あの人、面白っ……ごほん。気さくな方ですから」
「今面白いって言おうとしたよね!? 全く……後で落ち着いたらアヤメさんの所へ顔を出しに行きます。今は冒険者の方達が増えて来たからここを離れる訳には行かないの」
レティの表現も中々に過激だけど、文字通り縛り付けると言う事は恐らくしてないと思いたい。
「すみません、こちらのクエストを受注したいのですが……」
「は〜い、では冒険者カードをご提示下さい」
ふむふむ、Eランク冒険者のレオンさんね。あれ? でも、このマーダーウルフ討伐依頼はCランクだ。この場合は受注しても良いのかな? しかも、この書類サインする項目がないんだけど……ど、どうしよう……他の受け付けのアーリア先輩は今取り込み中だし……やっぱりアヤメさんの所へに行くしかないかな?
「姉ちゃん、素材の換金してくれや」
「すみません、冒険者登録をしたいのですが……」
「おい、姉ちゃん早くしろよ」
「あ、少々お待ち下さいませ! 順番にお並びください!」
次から次へと人が津波のように押し寄せて来るよ。一体どうすれば良いのだ!
「おい、お前達落ち着け。このソフィアちゃんとレティちゃんは今日から入る新入りだぞ?」
「兄貴の言う通りですぜ。みんな女の子には優しくしないと駄目だと教わらなかったのか? ソフィアちゃん達に優しく丁寧に仕事を教えてやるんだ! いつも受け付け嬢の仕事は見て来て居るから、お前らなら問題無いだろう?」
おお~また貫禄がありそうな、筋骨隆々で眼帯をしたスキンヘッドのベテランさんが来たぞ。ここのギルドのまとめ役的な立場の方だろうか?
「話しはギルマスから聞いたぞ? 俺の名はB級冒険者のコルベートって言うんだ。こっちは俺の相棒のロランだ。ソフィアちゃん、レティちゃんよろしくな!」
「はい! こちらこそ宜しくお願い致します!」
「どうも」
ギルドの冒険者の方々が優しい人達で助かったよ……
「ソフィアちゃん、分からない事や困った事があれば何時でも相談乗るからな。こう見えて、昔ここでギルドで働いていたからな」
「え!? そうなのですか! それは心強いです!」
「まずは素材の換金は、魔物の部位や魔石を冒険者から買い取ってそれに見合うお金を渡すんだ。今回こいつが持って来たのは、ゴブリンの魔石にウルフの毛皮だな」
魔石……確か、魔物の核となる部分だったけ? 見た目は少し綺麗な石に見えるけど、これが魔石と言うのか。まるで宝石の様に綺麗だな。
「このウルフの毛皮少し傷んでるな。状態があまり良くない。これなら12ガルムくらいが相場だろうな。ゴブリンの魔石は10ガルムくらいか。そこの引き出しに売買に関する取引書類が入ってるからそれを1枚取ってくれ」
「了解です!」
こうして私とレティの慌ただしい一日が過ぎて行くのでした。
―――夕方・帰り道―――
「あぁ……疲れた」
「ソフィア様、お疲れ様です」
「レティもお疲れ様。靴がヒールみたいなの履かされたせいで今日何回も転けそうになったよ……」
「慣れれば大丈夫ですよ」
今日は本当に色々とやらかしてしまった。でも、冒険者の人達が優しく接してくれたお陰で、何とか仕事を無事にこなす事が出来た。荒くれ者が多いと聞いて居たけど、根は真面目な方が多いのかもしれない。
「ソフィア様、私は受け付け嬢をするよりも冒険者として動く方が良いです。私にはこの仕事は性にあわないかと」
「そう? 凄い人気あったじゃん」
「男は論外です。美少女が来てくれるなら大歓迎ですけど」
まあ、レティのサディスティックなドS対応にみんな悶えて居たけどね。レティの対応は、お世辞にも良いとは言えなかったな。冒険者が来る度に【ゴミ虫は消えろ】、【お前にはこの依頼は無理だ。わたしの靴を舐めてさっさと失せなさい】、【何ジロジロ見てるんですか? 死にたいの?】、【は? 付き合って下さい? お前のチ〇コ切断したろか? 美少女になって出直して来なさい】、【変態チ〇カス野郎、一生寝てろ】、【何かムカつくから貴方死になさい】とか、めちゃくちゃな罵詈雑言の嵐で、冒険者達の間では既にファンが出来始めている程である。
「あとソフィア様は、もう少しスカート周りや振る舞いを気にして下さいませ。ゴミ虫共が、穢れた視線でソフィア様の胸や太ももを凝視しておりました」
「ええ、やっぱり見られてた?」
「はい、後知らない人からお食事に誘われても行ってはなりません。お酒を飲まされてお持ち帰りされあんなことやこんな事を……」
「うん、分かった。気を付けるよ」
レティは私の母親か!? 心配してくれるのは嬉しいけど、段々と過保護になって来ている気がするよ……
「ソフィア様、何者かに付けられております」
「え? 何処に!?」
「静かにして下さい」
そう言うとレティは私を守るようにして、前へと剣を構えて出る。
「出て来なさい」
「およよ? バレてもうたかぁ〜流石やなぁ。まあ、レティはん。大丈夫やさかい……わいやで」
「はっ……!? こ、これは大変失礼致しました! オクトー様!」
「レティはん、顔を上げてくださいな。わいは姫様の御様子を見に来たんやで〜盟主様が大層心配なさってたで」
だ、誰だ……? この背の高い青髪の兄ちゃんは!? しかも、いつの間に私達の傍まで忍び寄って来たんだ……全く気配を感じなかったぞ。
「姫様ご機嫌麗しゅう。てまえはナイトメアの執行者No.Ⅲ【殲滅王】と言う名を戴いている、オクトー・ザレフキアと申します。姫様のご事情はキャロムから聞いておりますやさかい」
「え、あの……頭を上げて下さい!」
「姫様がお元気そうで何よりです。今回は別件もあり、少しの間こちらに滞在することになりましてなぁ」
あかん、何故か言葉が詰まる。コミュ障の自分には、ちと荷が重いぞ。しかも、このオクトーさん無駄に爽やかイケメンだ! 私もこんなふうにイケメンだったら……女の子にモテて居たのだろうか。
「オクトー様がわざわざ来られると言う事は、この街で何か起きようとしているのでしょうか?」
「せやなぁ。一番の目的は、盟主様に頼まれた姫様の安否の確認と護衛やけど、この街にあるブツが流れたと言う情報もあってなぁ〜その真偽を確かめるべく来たんや。それに……この街の領主の息子が一枚噛んでるらしいんや」
「そうでしたか……あるブツと言うのは?」
ええぇ、全然話に着いて行けない。レティだけでもお腹一杯だと言うのに……それに姫様と呼ばれるのもあんまり好かないな。
「合成麻薬アスモデウス」
オクトーからその名前を聞いたレティは、驚いた顔をする。普段表情に乏しいレティが、目を見開いて驚くのはかなり珍しい。確かに、名前からしてもうアウトの代物だろうな。
「まさか……そのような代物がこの街に? 合成麻薬は何処の国でも所持しているだけで極刑に処される……戦争のきっかけとなった薬物ですね」
「せやな、他にも5年前の法国で起きた凄惨な事件……【セイルダム崩壊】の引き金となったのも合成麻薬アスモデウスや。レガリア教の腐敗は見るに堪えないものやったでぇ」
何処の国でもそう言った物は存在するんだな。
「せや、そうえばレティはん。ラクリマの支部が壊滅したと言う話しは聞いてるかいな?」
「はい……詳細まではまだ聞いてはおりませんが」
「あぁ、そうかそうか。ラクリマが不在の際に襲撃にあってな。ラクリマの側近2人が瀕死の重症で、配下達も死傷者多数」
ラクリマ? 確か、ナイトメアの幹部にラクリマ・オペランディと言う名前があったような。何だか物騒な事が起きそうな予感……いや、もう起きてるのか? 争い事には首を突っ込みたくは無いな。平和に生きたい……
「側近の2人……【光剣】と【暴風の舞姫】がやられたと言うのですか……信じられません」
「レティはん、敵さんはもしかしたら例の合成麻薬を持っている可能性があるんや。バードウェイに頼んで死体を検体してもろたら、何と合成麻薬アスモデウスの成分が検出されたんや。ラクリマの配下達は何らかの経路で合成麻薬アスモデウスを口に含んで壊滅した可能性があるんや。わいだって、側近の2人がやられたと言うのは未だに信じられへんねん」
ソフィアは真面目な顔をして2人の話しを黙って聞いていた。
「おっと……そろそろ時間や。レティはん、何かあったらわいらに相談しいや。しばらくこの街に潜伏するやさかい」
「はっ……!」
「姫様、夜分遅くに失礼致しました。以後お見知り置きを……では御免」
オクトーは闇夜に紛れて去って行った。
「レティ、とりあえず宿屋に戻ろう。疲れたよ」
「はい、ソフィア様の貞操を守る為に今宵は私が添い寝を致します」
「逆に危ないわ! レティは隣りのベッドで寝てよ!」
「わ、私では不服と申しますのでしょうか!?」
「いや、そう言う意味じゃないから!」
身の危険の前に私の貞操の方が危険だよ……
「そうえば……何か忘れてる様な?」
「確かに……何かあった様な気がしますね」
「多分、思い出せないと言う事はそんなたいした事では無いかもね。レティ、疲れたし早く帰ろ」
「はい♪ 何処までもお供致します♪」
レティは受付け嬢のアヤメを医務室のベッドに縛り付けていた事をすっかりと忘れており、何事も無かったかの様にソフィアと共に帰路へ着くのであった。




