11話 宿屋カナエの花園
「ふぅ……色々と今日は疲れたな」
貿易都市レアルカリア。表通りは賑わっていて活気に満ち溢れているが、一歩裏へと入るとこのスラム等の闇深そうな現状だ。治安も悪く、皆心に余裕が無い。レティが護衛をしてくれたお陰でトラブルや揉め事等は少なかった。
「ソフィア様、そろそろ宿に行きましょう。時期に日が暮れます」
「うん、そうだね。ルシアちゃん、ニーナちゃん宿に行きましょうね♪」
「おう!」
「は〜い!」
今日はルシアちゃん達にスラムを一通り案内して貰ったが、この街の貧困層の現状はとても悲惨である。道端で物乞いをする者、盗みを働く者、飢餓に苦しむ者、不衛生な環境、更には非合法な奴隷に横行する人身売買や色々な問題が浮き上がっている。
スラムを歩く度に自分の心が締め付けられるような気持ちになった。今まで暖かいご飯、お風呂、娯楽、仕事や家があると言う環境がどれほど恵まれていた物だった事か……改めて考えるきっかけにはなった。
「ソフィア様?」
「ちょっと待ってて」
今日で何度目かは分からないが、私はスラムの人達にお金を少し分けてあげた。やせ細った母親が、我が子にまともなご飯を食べさせてあげる事が出来ないと嘆いていた女性が居たのだ。
その母親はろくにご飯も食べずに、自分の子供に僅かなパンを食べさせていた姿を見てたら、もう何もせずには居られなかった。
「少しばかりですが、これでご飯を買ってください」
「え、良いのですか……?」
「はい、その子達にお腹一杯にご飯を食べさせてあげて下さい。勿論、貴方もですよ?」
「うぅっ……何と言う……あ、ありがとうございます。こんな私達に手を差し伸べて下さる方が居るなんて……本当にありがとうございます!」
私は頭を下げてからこの場を後にした。やらない偽善よりやる偽善……例え自己満足の偽善だと言われたとしても、私がやった事は決して間違いでは無い筈だ。だけど、この問題は根本的な所を解決しない限りは、お金やご飯を分け与えるのは焼け石に水だ。
「ソフィア姉……」
「ソフィア様、それではキリがありませんよ? 私達の路銀は無限ではありません」
「分かってるよ……分かっては居るんだけども」
神様が私を罪人と言った理由が分かったような気がする。私は何と言う贅沢な日々を送っていたのだろうか……好きな物をたらふく食べたり、これは美味しく無いからと言って食べ物を粗末にして残す事も沢山あった。様々な生命を犠牲にしながら生きてると言うのに、安易な考えで自殺を選んだ私は本当に愚かだった…………生きる事や明日食べる物が無くて、飢えに苦しむ人達が大勢居ると言うのに……
「レティ、明日で良いからお金の事やこの街の事について教えて」
「はい、分かりました。ソフィア様、良い目をしておりますね……スラムを見て何かを感じたのですか?」
「そうね。私のやるべき目標が少しだけ固まったよ」
2度目の人生は人の為に頑張ろう。沢山お金を稼いで、世の中苦しんでる人達を一人でも多く救ってあげたい。それに、今の私はルシアちゃんとニーナちゃんのママなのだ! 愛情を持って接して、立派の子に育て上げてみせる!
「これから忙しくなるかもね」
「ソフィア様、私もお供致します」
「レティありがとう。今はまず、生活の基盤を固めるのが優先だね」
さて、そろそろ宿屋に向かうとしよう。
「…………」
「あらあら♡ ニーナちゃんは甘えん坊さんだね♪ ママと一緒に手を繋ぐ?」
「うん! ママ!」
あぁ、癒される♡ ニーナちゃんマジ天使すぎる! それにママと言う響き……あぁ、何と言う甘美な言葉なのだろうか。後はルシアちゃんが、私の事をママと呼んでくれると嬉しいのだけど……
「ソフィア姉……」
「ルシアちゃんも私の事をママと呼んで良いんだよ?」
「なっ……!? 俺はソフィア姉で良いよ! それにソフィア姉は若いんだから、ママじゃなくてお姉ちゃんじゃないのか?」
「ふむふむ、ならソフィアお姉ちゃんで良いよ♪」
「却下!」
ぐふっ……でも私は諦めないぞ! いつの日かルシアちゃんが、私の事をママと呼んでくれるようになるまで私は頑張るぞ! よし、ならばここは手を繋ごう。ルシアちゃんもまだ子供だから、私と手を繋ぐのは全然おかしくは無い筈だ。
「ルシアちゃん♪ 私と手を繋ごっか!」
「お、俺はそんなガキじゃないよ!」
「むぅ……遠慮しなくて良いんだよ?」
「ソフィア様、ならば私が手を繋ぎたいです」
「え、レティと?」
「はぁ……はぁ……じゅるり」
怪しいな……今のレティの顔が、最早変態不審者そのものだ。鼻息を少し荒らげて、顔を赤く染めている時は内心いかがわしい事を考えてるに違い無い。そうえば、今日絡んで来た男達の一人が、レティの事を【青髪の氷剣姫】と呼んでたな。レティは有名人なのかな? かっこいい異名……ちょっと羨ましいかも。
「…………」
「お? ルシアちゃん?」
「しょ、しょうがないから俺が手を繋いで…………」
「ふふ♡」
やれやれ、素直になれないお年頃何だね♪ ルシアちゃんも強がっては居るけど、私から見たらまだまだ子供だ。恥じらいながらも私の手を握るルシアちゃんが可愛いしゅぎる! まさにおじさんキラーだよ!
「なっ……!?」
「レティ、残念だね。もう私の手が満員です♪」
「むむ、まあ良いでしょう……今日の夜はルシアさんも混じえて〇〇〇です」
「うん、決めた。レティだけ別の部屋ね」
「そ、そんな……!? 少しマッサージするだけですから!」
「分かった……ならば、寝る時はレティを縛って寝るね」
少し心苦しいけど、レティを縛って寝ないと私やルシアちゃんの初めてを奪われてしまうかもしれない。それだけは何としても阻止しなければ!
「はぅ……!? 私を縛って下さるのですか!? 何と言うご褒美……縛る時は強めにお願いします! そして、口には猿轡の代わりにソフィア様のおパンツを口にお願いします!」
「ねぇ……レティ。私が言うのも何だけど、貴方女性としての恥じらいは無いの?」
「え、ありませんよ。私は欲望のままに生きる女です(ドヤ顔)」
「即答!?」
あぁ、ニーナちゃんとルシアちゃんが笑ってる。もしかして、レティは気を使って場の空気を和ませてくれてるのかもしれないね。私もレティの事を変態と決めつけるのは早計なのかな?
「はぁ……はぁ……ソフィア様に踏まれたい♡ 首輪に繋がれて、手足も拘束されて裸にされて……【レティ、今日は全ての穴を攻めてやるから覚悟しろ】とか……ディフフ♡」
うん、やっぱりレティは純粋な変態さんだったよ。レティは黙って居れば儚さが残る美人さんだけど、喋ると本当に残念系美女だ。毎度ながらギャップが凄まじい……
「ソフィア姉、あれどうするの?」
「ルシアちゃん。レティを指さしてあれと言うのは失礼だよ? まあ、しばらく妄想に耽ってるみたいだから置いて先に宿屋へ行こっか♪」
「うん」
さて、今日はもうベッドの上で横になりたい。疲れの方が食欲より勝ってるし。
◆宿屋・カナエの花園◆
「おお、凄い宿屋だ……」
「ソフィア姉、ここやばくないか?」
「わーい、綺麗なお家だ!」
冒険者ギルドの近くにある立派な宿屋に着いたのだけど、名前が……【カナエの花園】と書いてあるのだ。名前からして嫌な予感がする。
「まあ、レティが確保してくれたのはここの宿屋だけだよ……泊まれるだけ有り難いと思うしかないね」
「そうだな。俺も先入観だけで判断するのは良くないよな」
私達は意を決して宿屋の扉を開けた。入ってみると中は意外と豪華でBARみたいなカウンターもあり、机と椅子が綺麗に整列してあってお洒落だ。奥に階段があるので、宿泊する部屋は2階にあるのだろうか?
「あんらぁ〜? 新しいキャンディーちゃん達が来たのかしらぁん?」
思わず唖然としてしまった……奥の方からマッチョなメイド服を着た大男が出て来たのだ! 顔はキラキラな目にたらこ唇からの厚化粧……ピンク色のアフロにもう色々とインパクトが凄い! 黒いニーソックスにメイド服と言うコンボはまさにこの世の終わり……いや、地獄絵図……実にユニークだ。
「ヒィッ……!?」
「あらやだぁん♡ 可愛いキャンディーちゃん達だねぇ♡ あちしはここの宿屋を切り盛りしてるカナエよん♪ 宜しくねぇん♡」
「わ、私の名前はソフィアと申します! こちらは私の娘のルシアちゃんとニーナちゃんです! そして、こちらのド変態はレティ」
「あらあら、宜しくね♡ あらやだ、そちらの青髪ちゃんは変態さんなのね! 大丈夫、あちしも変態よぉん♡」
「あはは、まあ血が繋がってる訳では無いんだけどね」
「色々と事情がおありのようねぇ……深くは聞かないで置くわね」
何だか優しそうな人だな。最初は驚いたけど、こういう人は情に熱かったり、紳士に相談に乗ってくれたりする人生の先輩だ。年齢はいくつかは分からないけど、40は間違い無く過ぎているだろう……多分。
「ソフィアちゃん、部屋は沢山空いてるから好きな場所使って頂戴ね♡ 何せ、ここには誰も近寄ろうとはしないのよぉ……色々と充実してると言うのにぃ〜!」
「そ、そうなんですか……」
「そろそろ新規のネコ……ノンケ客を取り入れたい所だったのよん〜よし、ソフィアちゃん達には、色々とサービスしちゃう! お代は半分で大丈夫よん!」
「え、良いのですか!? ありがとうございます!」
おお! これは運が良いな。安いのであれば、しばらくここの宿屋にお世話になろうかな。
「お部屋は4人部屋があるわよん〜ベッドは2つ、机や椅子も置いてあるわん♪」
「では、その部屋でお願いします」
「はぁ〜い♡ お食事は後でお持ちするわねぇん♡」
「ありがとうございます♪」
私達はカナエさんの案内で宿屋の2階へと足を踏み入れた。階段を登って、右手へ行った奥の部屋が、私達の宿泊する部屋だ。
「ルシアお姉ちゃん綺麗なお部屋なの!」
「あぁ……豪華な部屋だなぁ。しかも、身体を洗う部屋やマッサージに売店等もあるみたいだぞ」
「おおぉぉ……しゅごいの!」
2人共、歳相応に喜んでるね〜とりあえずおじさんは横になって少し寝るとしよう。身体の疲れと言うより、環境の変化による気疲れの方が大きいかもしれない。やっとベッドの上で横になれるぞ。
「みんなごめんね。ご飯が出来るまで少し寝るね」
「むむ! ニーナも一緒にママと寝るの!」
「あらあら、じゃあ一緒に寝ようか♪」
ニーナちゃんを抱き抱えてベッドの方へと移動した。横になるとフカフカで、清潔感ある何処かの高級ホテルのような豪勢なベッドだ。
「ソフィア様、私も添い寝お供致します」
「レティはそっち側で寝てね♪」
「ぐふっ……致し方ありませんね。ならば、ルシアさんを抱いて寝ます」
「はっ……!? お、俺は遠慮しとくよ……」
「じゃあ、ルシアちゃんもこっちで寝る?」
「う、しょうがないな……ニーナが寂しがるだろうから、俺も一緒に寝てやんよ!」
ルシアちゃんはモゾモゾと恥ずかしがりながら、私のベッドの方へと入って来た。やっぱりルシアちゃんもまだまだ甘えん坊さんだな♪ これぞまさに両手に花だ。ニーナちゃんもルシアちゃんも良い匂いがする。
「やれやれ、仕方ありませんね……今は我慢しておきます」
「レティ、ごめんね。じゃあ少し寝るね♪」
「はい、ごゆっくり」
横になって数分後……私の意識は暗闇の中へと落ちて行くのであった。




