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episode78.帰国

 それからセレネ達一行に妨害が入ることはなかった。羅紗や石川の介入があったのだろうと思う。何度も襲撃を許せば流石に豈皇国の面子も丸つぶれになる。

彼らはそんなこと気にするような人たちではなかったが、国家としてそれは許容できないだろう。


 今は何事もなく豈皇国を脱することができていた。ボニン諸島から再び原子力航空機に乗り、赤道を越え、神聖帝国軍が駐屯するダウンアンダー連邦首都ンガンビラを目指している。そこで乗り換えてさらに南進し、神聖帝国に帰還する予定だ。


想像生命体(エスヴィータ)の妨害で足止めを食らうことも計算に入れていたのだけど、なんだかあっさり帰国できそうね」


「そうですね。今日の世界は凪いでいるようです。軽く調べてみましたが、世界的に想像生命体(エスヴィータ)による戦闘が発生していないようです」


 珍しいこともあるようだ。いっそのことこのまま永遠に沈黙していてほしい。


 ちなみに連邦でわざわざ乗り換えるのは豈皇国の機体が神聖帝国に入れないからだ。この世界では常時宇宙から監視されているため、そんなところを見られてしまえば国際問題になるだろう。そして神聖帝国の国民感情としても許容できないに違いない。


 もっと表向きに交流できればいいのだけれど、すぐには無理よね。


 しばらくすればアウストラリス大陸近海上空に入り、大陸を回り込むように移動していく。すると目的地の都市と半壊した防壁が目に入ってきた。


 やはり戦闘らしい戦闘は起きていない。つかの間の平穏か。

だが瓦礫が退けられただけで、ここにあるのは都市というよりも廃墟としか言いようがない。


「連邦の復興はいつ頃終わるのかしら」


「どうでしょう。我が国も国内のことで手一杯なところがあります。もしかするとかなり時間が掛かるかもしれませんね。それに連邦の人口は先の戦争で大幅に減少していますから、単独独立は当分無理ではないでしょうか?」


「国家が優先すべきものは自国民の命、財産。他国に力を貸すくらいなら自国民のために。……理想は理想でしかないのね」


 問題ばかりが積み重なって理想とは程遠くなっていく。情勢も人々の感情も悪い方向へと進んでしまう。


「……」


 それから機を乗り換えようとした時、スィリアが何かしらの通信を受け取ったらしく、「あ」と間抜けな言葉を零した。本当に、しまったっ! みたいな顔をするものだから気になって足を止めてしまった。


「どうかしたの?」


「えっと……その、殿下。皇太子皇太女両殿下に報告を定期的にしていたのですが……殿下が軍役に着かれたことに関して説明を求められてしまいまして……」


「え? まさか?」


「……はい。伝達することをすっかり忘れていました」


「え……あっ!!」


 これはなんということだろうか。報連相が欠如していたのは流石に問題ではあるが、今セレネが考えねばならないことは両親への説明である。


 両親からすれば、少し出掛けていた間に子供が唐突に何の連絡もなく国外に出て、しかも戦場で戦ってきたなど、卒倒ものだろう。セレネ自身も連絡しなかったのは本当に問題だ。


 ここでしっかり説得して納得してもらえなければセレネが国外に出ることはおそらく100年はあり得ない。


 やりたいこと、やるべきこと、やらなければならないこと、それらのためにセレネは軍に身を置き国外に出る必要がある。そのためには言い訳でも何でもひねり出さなければ。


「大変申し訳ありませんっ! 殿下っ!!」


「い、いいのよ。私もすっかり忘れていたし……あとは私が何とかするわ」


「はい。パイロットにはできる限り急がせるように致します!」


 そうしてスィリアは早速搭乗する航空機に一足先に駆け出していった。


「……言い訳考える時間がなくなるんだけどなぁ」


 航空機が早く本国に向かってしまえば言い訳を考える時間が必然的になくなってしまう。しかしそんなことを頑張っているスィリアに言えるはずもなく、セレネは気持ちゆっくりめに乗り換える航空機に足を進めたのだった。



            ☽



 ダウンアンダー連邦でもう少し滞在して調べ物などしたかったが、両親に色々話さなければならない。


 何から両親に説明しようかをずっと航空機の中で悩み続けている。少なくともこういう時は誠意を示すために直接会う方がよい。この移動時間で悩めるのは不幸中の幸いだ。


 でも、父上も母上も怖いと言うか、厳しいからなぁ……。


 怒られることは確定なのでそこは仕方ないと諦める。


 そんな少し憂鬱なセレネの元に一つの通話が入ってきた。


 確認してみると相手はリュミナスだった。研究ばかりしている彼女が連絡してくるのは珍しい気がする。


「どうか致しましたか? リュミナス姉様」


「やっほ~……ふぁ~……っ。セレネ、やっぱ~り速い方が良い? それとも~……硬い方?」


「はい?」


「今眠ぃ~から~……一番か二番かで、選んで~……ふぁ~……」


 意味がわからない。何に対してそんなことを聞くのか聞きたいところだが、欠伸が止まらない時のリュミナスはしっかり説明してくれないことが多い。


 それにセレネは両親との話し合いに向けて考えをまとめたいのだ。強引でも早めに終わらせよう。


「じゃあ、一番で」


「……ん~……?……うぇ~……? ふぁ~……りょ~か~い……うにゃ~……速い~の~ね~……」


 ゴンッと何かがぶつかる鈍い音がして通話は唐突に途切れた。


 ……。

 大丈夫なのかな?

 何かぶつけた音だよね?


 そこでふとある疑念が浮かんできた。何故リュミナスは永遠にも等しい寿命を持っているにも関わらず睡眠時間を削ってまで研究に没頭するのか、と。


 今の彼女はかなり自由にスケジュールを組むことができるし、彼女の実力ゆえにそのスケジュールに文句を言う者もいない。極端な話、一年の内3日だけ研究したとしても誰も文句を言わないのだ。


 例えそのような怠惰な生活をしたとしても、他種族よりも多くの研究が出来るくらいに上神種(ディアキリスティス)は寿命が長大。


 なのに急いでいる。そんな風に思えた。面白いから睡眠時間を削るということはあるかもしれないが、呂律が怪しくなるまでやるだろうか?


 やはり天才は凡人と考えることが違うのかしらね。


「今度お茶会をこっちから誘おう」


 そして甘いものをたくさん食べさせよう。そうでもしないとセレネが心配で寝れなくなってしまう。


 あれこれ考えている内に、セレネの乗る航空機は神聖帝国領空に至った。

 報連相って大事だけど、正直心情的に苦手です。

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