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episode76.未来のために

 お久しぶりです。リアルがとても忙しくてなかなか書けていませんでした……。

「すみません。もう大丈夫です……」


 セレネは自分を落ち着かせると涙を拭き取った。しかし悲しみが消えることはない。神聖皇帝が何を思ってその行動に出たのかを知らない今は無条件に彼女を批判することはできない。それでも家族と言う存在を消したことだけは何一つ賛成することはできなかった。


「昔の彼女も信頼できる人には守るための魔法を掛けていた。本当は優しい人なのよ」


 石川はポンポンとセレネの背中を軽く叩いた。それと共に何か暖かい気配を感じる。そしてそれが魔法の気配だと気づき、セレネは石川の顔を見た。


「今のは?」


「あなたへの祝福。もう二度と誰もあなたの魂を弄れない。自分と自分の信じる者を大切にね」


 石川は再び車椅子を動かしてセレネの対面へと戻る。そして部屋に飾られたこの星の地図を記す球体模型を見やった。


「この星はかつて美しい姿をしていた。生命も今と比べなくとも明らかに多種多様に繁栄していた。今では……寂しい世界……」


「寂しい、世界……」


「最後に何か質問はあるかしら? そろそろ時間だからね。これ以上はあなたにもっと迷惑を掛けることになりそう」


 セレネは少し考える。恐らく彼女の年齢からして会話できるのは今回が最後になるかもしれない。ならば、ここで聞けることは聞くべきだろう。だが彼女の口調からしてあまり時間がない。


「もし仮に、主上陛下がこの国に帰ることを選択したら……この世界は平和になりますか?」


「そうね……それは貴女から見て、というのなら――」


 石川は考えるように視線を少しだけ下げ、すぐに目を合わせた。


「——それでも大きな試練が残っている。けれど、それさえも乗り切り、あなたが自分の意志を貫くのならきっと歴史に類を見ない平和がこの星に訪れるでしょう」


 その答えは石川の目的とセレネの目的がぶつかり合うことはないという意味を持つ。すなわち彼女の願いが叶ったとしても敵対することはきっとない。そしてその未来には希望が溢れている。


 しかし。


「試練、ですか?」


「もうじき、世界全体を巻き込む大戦争が起きる。そしてそれは歴史上最大規模の破壊を生み出すでしょう。でも、誰が勝っても人類は絶滅することはない。その未来がどのようなものでもね」


 そんな戦争がそもそも起きるのだろうか。

神聖皇帝は人類全ての魂に干渉できるはず。ならばそんな戦争自体起こさせないこともできる。


 なら逆に、その戦争を引き起こすのは……。


「陛下は、戦争を起こすのですか?」


「かもしれないわね。あるいはしないかもしれない。でも、どちらにしろ大戦争は起きるのよ」


 それは陛下でも制御不能の未来ということだろうか。必ずそんな未来が来るというのなら、神聖帝国も準備を進めなければならないだろう。


 今の神聖帝国は飛行戦艦のようなへんてこ兵器を作っている。歴史上最大規模の戦争が起きるならそんな兵器に資源を使うべきではない。想像生命体(エスヴィータ)の脅威がない神聖帝国だって常からエネルギー供給がギリギリなのだから。


「最後に、質問ではないですけれど、何か恩返しができませんか? 助けていただいて、いろんなことを教えていただいて、貰ってばかりでは私の心が私を許せません」


 石川は皺だらけの顔に柔和な笑みを浮かべて嬉しそうな感情を見せた。


「優しいわね。そうね……どうかあの人を支えてあげて。できる範囲で良いから」


 懐かしむように虚空を見つめる石川。そして言葉を続けた。


「もし私が彼女と別れなければ、絶対に支えた。でも、一番大変な時にそれができなかった。これはただの後悔よ。それをあなたに押し付けるのはお門違いかもしれない。それでも私はもう長くない。どうか、彼女を支えてあげて」


「……わかりました。約束します」


 神聖皇帝と石川に何があったのかはわからない。それでもセレネは彼女の願いを叶えたいと思った。彼女は180年近くの間ただ一つの目的のためだけに生きてきたのだ。まだ幼いセレネには想像も絶する年月。


 セレネには分からない感情がそこには多く存在していて、それでも貫いた心情と果たせなかった後悔があったはず。良くしてくれた彼女に恩を返すならここで約束すべきだろう。


「ありがとう」


 石川は今まで以上に満足したような笑みを浮かべていた。


 それから私たちは魔法店アースシャインが用意した車両に乗り込み、帰路に着いた。窓から見える豈の景色を眺めているとスィリアが徐に話しかけてくる。


「殿下。先ほど豈皇国の茶葉と菓子をいくらか分けていただけました。本国に戻りましたらお茶を入れますね」


「ありがとう。とても楽しみだわ」


 セレネは今回の成果の報告のため本国に一度帰還する。思えばかなり遠くまで来てしまった。分厚い氷の下であろうとやはり生まれ故郷というものは何物にも代えがたい心の拠り所なのだと実感する。望郷の念とはまさにこのことだろう。


 豈皇国で学んだこと。知ったこと。託されたもの。それらを活かし、祖国のためにこれからはより一層奮励努力しなければならない。未来に起きる大戦争にも備え、想像生命体(エスヴィータ)の脅威からも臣民を守り、平和と安寧を手に入れる。


 それがセレネの責務であり、願いだ。

きっとそこにはセレネ自身の幸せと安寧があるはず。そして知りたい真実も。


 石川に魂を守られた今、神聖皇帝に対しては少し複雑な心情を抱いている。だがセレネは皇族として行動しなければならない。個人的な心情で国家を揺るがすようなことがあってはいけない。


 自身が望む、カティスを消し去った真実を知ることが二の次になってでも行動しなければならない立場にセレネはいるのだ。


 神聖ルオンノタル帝国を実質的に支配している神聖皇帝に物申せるのは魂の干渉を受けなくなった今のセレネくらいなものだろう。国家の未来のためには神聖皇帝とも多くの言葉を交わす必要がある。


 望む未来のため、セレネはこれからも戦い続けることを改めて誓った。

 セレネは未来を願う――。

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