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episode73.過激派

 通りを歩く群衆の悲鳴が木霊する。逃げるヒトの足音。何が起きたのかわからずただ泣くヒトの叫び声。


 唐突な衝撃にセレネは何が起きたのか理解できずに激しく身体を揺さぶられた。そのまま頭を窓に強く叩きつけてしまう。激痛が走り、一瞬意識が遠のくがすぐにそれも治まった。


 セレネは上神種(ディアキリスティス)だ。他の種族では致命傷になろうとも、意識を失うような損傷を受けようとも、即座に再生して意識もはっきりしてくる。今のも恐らく頭蓋が骨折し、脳にまでダメージが及んでいたかもしれない。


「……スィリア? スィリア?! 大丈夫?!!」


「で、殿下……はい、大丈夫です……」


 言葉とは裏腹にスィリアは頭から多量の血を流していた。背中の翅の光も減光しており今にも消え入りそうにも見える。


「大丈夫じゃないでしょう?! 今治癒するから待って」


 そうしてセレネが魔法を使って治療しようとした時だった。


「くたばれ!! 非人間種(フェロン)!!」


 そんな言葉が織り交ざる銃声が鳴り響く。そしてこの車両を前後で護衛していた豈皇国の警備員が応戦する射撃音も聞こえてきた。それに対して咄嗟にセレネはスィリアを庇うと隠れるように車両の床に倒れ込む。少しでも遮蔽がないと直撃を受けてスィリアが危ない。


 スィリアを傷つけさせたくない!


「殿下ッ、逃げてください……っ」


「馬鹿なこと言わないで。私は滅びない。貴女のことは絶対守る! ここで少し待ってて」


 セレネは応戦すべく金作の太刀を顕現させる。彼女身体能力なら一太刀で人間種(ロイテ)は絶命する。国際問題になるかもしれない。しかし無抵抗でいることはできない。


「お嬢さん。こっち」


 激しい銃撃音の中でなぜか女性の声がハッキリ聞こえた。声の聞こえる方向に目を向ける。車両の扉の向こう側が透けて見える。その先に、何かがいた。


「真っ直ぐ走りなさい」


 その瞬間、辺りは光で満ちた。


「なんだ?!!」


「目がァ!? 目がぁ?!?!」


「うわぁ?!!」


 そしてセレネたちを襲った者たちの悲鳴が響く。


 まるで閃光手榴弾の如き光に先ほどとは違う阿鼻叫喚の泣き叫びが響いた。だが、おかしい。目を瞑ってもその光は減光することはない。どこを見ても、瞼を閉じても、手で目を押さえても光が目を焼く。セレネでさえ全く目が回復しない。


 つまり、セレネにさえも影響を及ぼす強力な魔法だった。


「さあ、真っ直ぐその子を連れて走りなさい」


「誰?! 誰なの?」


「月の孫。助けてあげる」


 視界が奪われ、魔法すら上手く使えない今、セレネには選択肢はなかった。突然の銃撃から逃れるためには言う通りにするしかない。


 セレネは怪我をして動けないスィリアを抱き上げると走った。何も見えないが、真っ直ぐに走った。走って走って走った。


 するとまた唐突に視界が戻った。


「ここは?!」


 辺りを見渡せば、小さな路地裏だった。誰もいない。本当に細い道が続く暗い場所だった。


「こっちよ」


 声のした方に目を向ければ小さな黒い何かがいる。

確か……あれは猫というものだったか。それがテレパシーのように声を伝えてきていた。


「月の孫。ついてきなさい。ここも直に過激派が来る」


「あなたはなに? なぜ助けようとする?」


「友達の孫を助けるのに、理由がいるかしら?」


 友達の孫。その友達とは、神聖皇帝のことか。主上陛下にも友人がいたのか。


「罠だったら許しませんよ」


「私の魂を賭けてもいいわ」


 そう言って黒猫は歩き出した。その後をセレネも追う。


 今思えば銃撃されたときに応戦していたらセレネの存在が多くの人間に露見していた。例え存在がすでに過激派らしいあの集団にバレていたのだとしても、あの場で姿を見せてはならなかった。


 皇国の一般人にセレネの存在がバレれば国際問題どころではない。国際問題以上の影響が起きるに違いない。


 その点で言えばこの黒猫の判断は的確だったと言えよう。それにこの黒猫が用いた魔法は普通にすごいものだった。


 視界を光で埋め尽くす魔法。セレネの種族は魔法にも色々耐性を持っていると聞いていたが、全くそれが発揮された気がしなかった。それだけでもこの黒猫はセレネよりも実力があり、逆らっていい相手ではないことを認識させる。


 下手すれば私でも滅びるかも?

 とりあえずは言う通りについていこう。


 その間もセレネは頭を怪我して気を失っているスィリアを背負って歩き出す。そして彼女を治療すべく魔法を行使した。幸い彼女は命に別状はないようですぐに傷が癒えていった。


 そして入りくねった道を進んで辿り着いた場所は、小さなお店だった。


「魔法店? アースシャイン?」


 そんな店の看板を見上げ、ふと周りを見てみる。ここは本当に誰も来ないような路地だ。他に家もなければ、何かの店があるわけでもない。なのにこの店だけがぽつんとここに存在している。あまりにも意味不明な店だ。


「中にお入り。過激派がそろそろ店に来るわ」


 言われた通りセレネが中に入ると、そこは昔見た絵本にそっくりの魔女の家だった。数多の薬草が保存され、何かが入ったカラフルな瓶が大量にあり、暖炉では虹色の湯気を棚引かせる大釜がある。セレネはその奥、重々しい扉の向こうに誘導され衣装ケースの中に誘導された。


「ここで待っててね」


「は、はい」


 幼い頃かくれんぼでこういうところに隠れたことがあったが、皇女として振舞うようになってからはそんなことは許されなかった。だからこういう時に抱いてはいけないが、新鮮な感覚になっている。

いわゆる、ワクワクと言うやつだ。


 暫くすると店の表から声が聞こえてきた。


「おい。ここに非人間種(フェロン)が来ているはずだ。すぐに差し出せば店には手を出さないでやる」


「これはこれは、短気な犬どもだ。証拠がないのに荒捜しするつもりか?」


「なんだと? こちらは警察から立ち入りを許可されているのだ。国家権力には従ってもらおう」


「ここには”境界”を管理するシステムがある。それに誤って触れられたら困る。それで我が国の国民すべての命が奪われても良いというのなら、探してみるのだな」


 そんな押し問答が続き、暫くすると静かになった。そして誰かが来る気配があり、徐に衣装ケースが開かれる。


「もういいよ。お茶を出すからおいで」


 黒猫はそう言ってまた歩き出した。

 かくれんぼって楽しいよね――。


【解釈について】

神聖帝国では死んでも復活できるけれど、それでも死は恐れてるんですよね。やはり本能的な問題なのでしょう。というより、大切な者が傷つけられることを許容したらそれはもう大切な者ではないのでしょうね。

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