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episode67.宮城

 セレネは豈皇国の首都に降り立った。その都市を見た最初のセレネの感想は、驚嘆であった。


 目の前に広がるのは想像を超える未来都市。優に1000mを超えるビル群が森のように連なり、すべての物流が効率的に動いている。地図を見ればこのようなビルの群れが平野を覆い尽くしていることがわかる。


 ヤマタイ湾の中央にも1000mのビルと大都市が聳えている。あれも海上都市の一種らしい。そしてこの都市の中でも最も発展した場所には3000m級のビルが天空の雲を貫いていた。


 神聖帝国と違って豈皇国は地震が頻繁に発生し、その規模も想像を絶するという。そんな国があんなビルを建設している事実にただただ驚くばかりだ。


 もしかするとあの上に住んでいる者は青空の下に住んでいるのではなかろうか?


 神聖帝国にはない都市の形。神聖帝国は氷床の中にある関係上その全貌を見ることが叶わない。それでもその規模を数値に表せば、あのビル2,3個で神聖帝国の一つの都市に匹敵する規模になるだろう。そのビルが地平線の先まで続いている。


 人口3000万人と神聖帝国より少ないのが不思議でならない。


 世界で最も発展した大都市、且つ最も広大で巨大なギガシティ。この国で学べることはきっと無数にある。セレネが自分の公務や目的以外にも学びを深めようと決意するほどに圧倒的なものがそこにある。


「こちらです」


 羅紗が先導し、セレネとスィリアもその後についていった。


 しかしそこで気づいた。迎えに来ている豈皇国側の護衛たちがかなり殺気立っている。そしてセレネの後ろに控えるスィリアも殺気を放っている。


「スィリア。そこまで警戒しなくても大丈夫よ」


「しかし殿下。あんな殺意を向けられて落ち着いてなどいられません」


 実のことを言えばセレネも不愉快でならない。まるで敵意を隠そうともせず、街中に現れた猛獣を見るかのように怯え警戒し隙があれば殺さんとしているようだ。きっとセレネたちが何かすればすぐに動くだろう。


 だが、今は敵でも味方でもない。ただ監視しているだけなら、無視していればいい。


 まあ、人間国家の首都に神聖帝国の怪物が現れればこんな対応も当たり前ね……。


 そしてセレネたちは再び浮遊型車両に乗り、豈皇国首都の街を疾駆する。数分の後に辿り着いたその場所は、悪く言えば前近代的、よく言えば伝統的な風貌の土地だった。


「ここだけ開発されていないんですね」


「はい。一応ここは宮城(きゅうじょう)であるので伝統的な建造物も多くあります。それを簡単に壊すわけにはいきませんから。それに、国民はこの形を望んでいるのです」


 ビルが立ち並ぶ中、一か所だけ何もない広大な土地が残されていた。まるで壁で囲まれたようなビルの隙間、そこだけセレネが神聖皇帝に見せられたような緑の樹々が数多く生い茂っている。そしてその中にわずかに古い城壁が見え、その先に宮城があるのだろうと理解できた。


「あの樹々は本物ですか?」


「はい。一応生きています。本当は遺伝子操作された生物の実験場ですが、見栄えだけは良いものです」


「もしかしてあれらを植林しているのですか?」


「はい。極東動乱により生態系が根本から破壊され、それに伴って地盤が弱くなりました。全国的に土砂災害などが頻発し、かつては禁忌であった遺伝子組み換え生物を自然界に放ったのです。ヒトの傲慢さはどこまでもこの星を破壊するのでしょうね」


 羅紗の言い回しはなんとなく自虐を含んでいる気がした。


 だが、生命によって支えられた大地を支え続けるには生命の力に頼るほかなかったのだろう。想像生命体の脅威を排除している豈皇国ならば植物だけでなく動物なども自然界に放っているのかもしれない。


 でも、なんで宮城が実験場になっているのかしら……。


 しばらくしてセレネたちの乗る車両は宮城に入り、ある建物の中へと進んでいった。エアロックを通り、そのまま進むと中は静寂に満ちている。耳が痛いほどの静寂とはこのことだろうか。


 完全に外界から切り離された建物。放射能などから隔離するためであろうが、不安な気持ちになってしまうのはなぜだろうか。今にも押し潰されそうだ。


「ここからは殿下御一人でついて来ていただきたい。侍女の方はそちらの者が案内します」


 ここからはセレネと羅紗だけで行くらしい。ただの従者が他国の皇帝に謁見するなどありえないから当然かもしれないが、護衛も付けないとは。


 やはりここは普通ではない。


「スィリア。また後でね」


「はい、殿下。お気をつけて」


 セレネと羅紗だけが建物の奥に向かって歩き続ける。廊下を構成するものはこの世界で多くが死に絶えた木材だった。きっとこれらも遺伝子組み換え生物なのだろうが、それでも高級品に違いない。


 様相は質素で素朴。そして飾り気のない絵画や花が飾られ、謎の圧迫感以外は調和が整っている。


「これより常ノ御所へいらしていただきます」


(つね)ノ御所、ですか?」


「はい。簡単に言えば、天帝陛下が日常を過ごす場です。私も入れない場所ですが、ここに訪れるルオンノタルの皇族のみが代替わりの際に入ることが許可されます」


 本当に意味が分からない。なぜ身内すら入れないその場所に、非人間種の国の使節が入れるのだろうか。明らかにおかしなことが起きている。なのにそれが当たり前であるかの如く語られる。


 実は罠に掛けられていたりしないわよね?


 頭を捻って答えを探そうとするが一向に見つからない。そう考えている内に、徐に羅紗が足を止める気配を感じた。


「この先に常ノ御所があります。私はこれ以上進むことを許されていません。ここからは分かれ道もないので、迷うこともないでしょう」


「……わかりました。しかし、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「はい。どうぞ」


「羅紗殿下は、私のことをどう思っていますか?」


 羅紗は少しだけ考える仕草をすると微笑を浮かべて答えた。


「お友達になれたら嬉しいなと思っています。私に友と呼べる人はいませんから」


「それは私も同意します。またお会いしましょう」


「はい」


 礼をしてセレネは歩き出す。羅紗からは嘘の感情は感じられなかった。だから彼を信じてセレネはこの先に進むことにする。罠かと疑っていたが、そんなものがないことは羅紗の感情からわかった。


 それに、対等の身分のお友達ができたらセレネも嬉しい。


 今度は何をお話ししようかしら?


 しばらく歩き続ければ、大きな二枚の引き戸が立ち塞がっていた。重厚な木材で作られたそれはとても立派で、細かな彫刻が美しい。


 きっとここが常ノ御所。


「神聖ルオンノタル帝国第三皇孫セレネ・H・ルオンノタルでございます」


 しばらくして中から。


「入り給え」


 若い男性の声がする。しかしその声にセレネは違和感を覚えた。


「失礼いたします」


 礼をし、引き戸を開けようとするとそれは自動ドアだったようでゆっくりと戸が開かれた。


「!」


 しかし目の前に飛び込んできた光景に、一瞬セレネは言葉を失った。なぜならそこには今までの様相とはかけ離れた部屋があったのだから。


「ようこそ。鳥かごへ」


 一言で言い表すのであれば、その部屋の奥にあったものは無菌室だった。

 天帝に謁見――。


【用語解説】

・常ノ御所

正式には常御所。貴族や将軍、天皇、院などの居住空間のことです。ああいう形式ばった社会に生きる人たちって部屋一つ一つに子難しい名称をたくさんつけていて、これもそのうちの一つです。でも常御所はかなり古いもので、今は常御殿のように独立した建物へとバージョンアップしていますね。

広い家に住みたいけど貴族とか皇の住むような広さはいらないと思いますね。逆に不便な気がしてなりません。


【解釈について】

 昔ネオ・トウキョウ計画?みたいなものが日本にはありまして、東京湾の真ん中に新首都建造を行おうとしたものでした。首都の名前はヤマトとなる予定だったとか。高度経済成長期に考案されたんだったかな?後に海外の建築家が東京に1000mのビルを作るなら東京湾の真ん中が一番安定するとも言っていて、実はそういう都市構築は夢物語ではなかったりします。

まあ、当時の計画としては核兵器で千葉の山を吹き飛ばしその土砂を埋め立てに使う核の平和的利用をしようとしていたぶっとんだ計画でもありましたが。

で、なぜこんな話をしているかと言えば、本作の豈の首都もこんな都市建設がされていて、現実世界よりも進んだ材料工学も相まって海上都市として実現させています。土地が少ないなら作ればいいじゃないみたいな発想ですね。それと同時にこの湾内の都市は極東動乱と呼ばれた歴史的事件からの復興の象徴としても建造された背景があります。

3000mのビルについてはもうオーバーテクノロジーとしか思えませんが、私の感覚だとこれくらいは実現してそうなんですよね。


宮城きゅうじょうって普通に通じる言葉かと思ってたけど、実はこの時代のヒトは使わな過ぎて宮城県を思い浮かべそうですね汗w。

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