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episode5.開戦Ⅰ

 本編よりあとがきが長い駄作小説。

 神聖ルオンノタル帝国オーツ地方沖。


 メガラニカ大陸周辺海域はかなり荒れやすい。理由は単純に暴風が凄まじいからだ。


 メガラニカ大陸の極寒で冷却された空気が大陸中央部で極高圧帯を産み出し、気圧の低い周辺海域に吹き込む。そして山などに遮られない暴風は偏西風の影響も受け、陸地に遮られない海流の速度も相まってこの星で類を見ないほどに荒れる。


 自然の要害とはまさにことのこと。想像生命体(エスヴィータ)が現れる以前の平和な時代でさえも人類が簡単には近づかないそんな辺境なのだ。国家の建設など、本来ならあり得ないほどに。


 核融合炉からエネルギーを得る現代の軍船でさえ大きく揺れるため、新兵は訓練過程の間に船酔いで倒れることも少なくはない。


 そんな海域に一つの艦隊が悠々と進んでいた。辺りは濃い霧に閉ざされているが、それが艦隊の影を色濃く浮かび上がらせている。しかし艦隊自体が纏う雲のような防衛システム<アイギス>のために自然の霧以上に艦隊の様子は伺うことが難しい。


 この艦隊は、神聖ルオンノタル帝国南大洋大洋州方面艦隊の中核であった。


 彼らは今、南進してきたダウンアンダー連邦及び、ノヴァ・ジーランディア自由連合共和国艦隊迎撃のために帝国影響圏の外一歩手前まで前進して来ている。


「警告文は届いているのか?」


 ケニー・ヤシャは苛ついていた。彼は神聖海軍大洋州方面艦隊旗艦である戦艦アレウス艦長である。艦隊管制人工知能(AI)に対して貧乏ゆすりをしながら問う口調からもその心情が漏れ出ている。


 彼は闇黒種(トイフェル)の中でも身体的に強力な鬼人で、その長い二つの角はまるで剣歯虎(けんしこ)の犬歯のように鋭い。苛ついた顔は文字通り鬼の形相であった。


 周りもその気迫に緊張した面持ちで首を竦めている。そして出来る限り自分に飛び火しないように兎に角自分の仕事を黙々と熟していた。


 基本的に損害がほとんど出ない紛争ばかりを経験し平和ぼけした彼らからすれば、迫り来る敵よりも今の艦長の方がよっぽど怖かったのだ。


 そして問われた人工知能(AI)アレウスは。


『国際基準の周波数だけでなく、あらゆる周波数で呼び掛けています。完全に無視をしていることは確実です』


 と、淡々と答えを返した。


「舐めやがって! 命令が迎撃でなければ殲滅してやったというのにッ!」


 拳をヤシャ艦長は振り下ろす。瞬間、バンッと叩きつけられた合金製の肘掛けが大きく歪む。それだけで艦橋が静まり返ってしまった。


 だが、それを諫める者がいた。


「艦長。物は大切にしたまえ。それと冷静さを欠くのもいただけないな」


「ッ! 申し訳ありません。ゾイル司令」


 艦橋の奥の席に静かに腰を卸していた人物にヤシャ艦長は慌てて頭を下げる。そこにいるのは死霊種(ネクロ)の艦隊司令である。名前はミスエル・ジェン・ゾイル。彼は文字通り感情の読めぬ佇まいで申し訳なさそうにしているヤシャ艦長を見つめていた。


 まあ、ゾイルの身体は骸骨なので瞬きできず、眼窩に宿る赤い光が眼のように見えるだけだが。


 しかし豪奢な三角帽子と立派な軍服を着た様はどこか威厳に溢れ、階級章も煌びやかに輝いている。品性がありながらある程度着崩した様は近世の海賊映画のキャプテンのようでもあった。


 ただ彼がここにいることは少々おかしい。本来であれば本土にいたまま衛星経由で艦隊を指揮し、直接前線に出ることはないはずだった。


 これには理由がある。一週間程前、艦隊を直接運用する帝国軍人の働きぶりを視察するためにこの船に乗り込んだのだ。しかし視察の途中で情勢が悪化し、敵艦隊の指向性兵器が神聖帝国領空に撃たれ始めた。船で帰るには本土から離れすぎており、航空機で帰ろうものなら撃墜されかねない。その危険性ゆえに本土への帰還を断念せざるを得なかったのである。


 敵が行っているのはこちらを挑発する行為ばかりであり、未だに直接的な攻撃はない。軍は好戦的だが中央政府は外界に対して不干渉を基本方針としている。本来であれば神聖帝国の島が攻撃された時点でこちらも攻撃していいはずなのだが、どういうわけか今現在中央政府は積極的な攻撃を許可していなかった。


 そのためこの艦隊も直接的な攻撃を受けるまでは何もできない。反撃という手段でしか攻撃を許されていない。


 ちなみに、ゾイル司令が個人的に予定に入れていた婚活パーティが帰還できないことによって延期になったのは別の話。楽しみにしていた分、内心彼はかなり落ち込んでいる。誰もそんな彼の消沈した心情をその見た目故に察することはなかったが。


「はぁ……いい加減にしてほしいものだ」


 誰にも聞こえない声で彼は愚痴を溢す。


 最初こそゾイルも前向きに考えようとしていたが、こうも長々と緊張を強いられては嫌になる。もちろん戦う覚悟が無くなることはない。それどころか今は至極冷静であった。


「ここは戦場である。艦長も今一度兜の緒を締め直したらどうだ?」


「はっ! 申し訳ありません」


 自分自身に言い聞かせるように彼はヤシャ艦長を叱責する。


 とある理由で海軍は血気盛んな兵士が多い。ゾイルが上手く抑えなければ今頃こちらから戦端を開いていただろう。軍の末端まで制御を利かせる共通方針を信条として刻み切れていない現状の神聖帝国では、上に立つ者の意向一つで良くも悪くも簡単に軍は動いてしまう。


 このタイミングでこの場所にゾイルが来たのも、ある意味僥倖だったかもしれない。海軍の暴走を止めることができるのだから。


 その時、唐突に外を映し出すモニターが真っ白に染まった。

 衝突——。


【用語解説】

・極高圧帯

極地付近に於いて年中発生している高気圧のこと。極地付近の熱放射にて空気は急激に冷やされていく。そして冷やされた空気は暖かい空気よりも重いため地表に向かって吹き込む下降気流となる。結果的にこの現象が高気圧と同じものである。そして地表に吹き込んだ風は氷床というほとんど遮るものがない砂漠地帯を吹き抜けて海へと抜けていくのである。

ちなみに、南極還流という海流が現実世界の南極を囲うように流れており、これは一様にして冷たい水で構成されているため南極を異常に冷やしている原因の一つにもなっている。仮に南極大陸が他の大陸と陸続きであるならば、南極は緑で溢れた大陸になっていた可能性も捨てきれない。

そして極地の大陸を囲む海の荒れ具合を簡単に言い現わすと日常的に台風の暴風域並みの荒れ具合である。これが普通であるため、荒れると80m以上の波も発生することがある。


・<アイギス>

本来はありとあらゆる邪悪や災厄を払いのける魔除けの防具である。形状に関しては明確なものはなく、一般的に盾とされているが、肩当てとも胸当てとも言われている。とある神の防具として扱われる際は雲の象徴とされている。現実世界で別名のイージスなどは軍の防衛システムの名称として使われている。

本作に於いて<アイギス>は技術体系的に魔法の部類に分けられる。

(基本的に< >で囲われる用語は本作では魔法である)

そしてこの<アイギス>は魔力と命名されている超微粒子で守護対象を覆い隠すことによって防壁を作り出す。よくあるSFの薄い膜のようなシールドではなく、文字通り雲のように配置されている。これによって本作に於いて大気をプラズマ化させるほどの熱量を持った指向性エネルギー兵器(レーザー兵器)の直撃を受けてもその光を分散させて破壊力を削ぐことができ、熱を外に逃がすことができる。そしてその密度を調整することでミサイルやレールガンのような物質兵器をも防ぎきることができる。ある意味システム的な非ニュートン流体のダイラタント流体のようである(片栗粉と水の混合物で水の上を走れたり、カスタードクリームで弾丸を防げるのと同じ原理)。

この超微粒子は、他の国家文明に於いてナノマシンと大きさを含めて似たような性質を持つ。なので他の国家のシールドも原理は同じ方法で防衛を行っている。

ただしどちらももちろん欠点もあり、超微粒子はかなり繊細であるため防衛するごとに消耗していく。そのためその消耗率を戦闘中は確認し続けなければならない。そして音速を超えるような兵器や航空機に関しては<アイギス>の微粒子を置いてけぼりにしてしまうためこれが用いられる防衛対象は個人、艦艇、都市など動かなかったり低速で動くものである。この時代では航空機はかなりの確率で撃墜されるため圧倒的な消耗品である。

ちなみに……この魔力は神聖皇帝とその子供たち、そして賢者の間では■■■■■と呼ばれている。セレネは知らない。


・南大洋

南極海を含むさらに広い範囲を指し示す言葉。荒れ始める緯度よりも南側を総じてそう呼ばれている。これは現実世界も本作の世界も変わらない。暴風、荒波、濃い霧、船の進行を阻む流氷。これらがある時点で冒険心を持たなければ安易に行ってはならない海域である。


・大洋州

世界を六つに分けた(六大州)時、その中の州の一つ。


・アレウス

戦闘の狂乱を神格化させた神の名称であり、狂乱と破壊の側面を持つ。本作の神聖海軍はかなり好戦的であるため、艦の命名時に皮肉を込めて艦隊旗艦の船にこの名称が付けられたという逸話が存在する。しかし神聖海軍では好印象であるらしい。

アレウスという神からすれば、神聖帝国を守護する艦の名前に自分の名前が使われたため名誉と感じているか、なんで自分が、という感情を抱いていることだろう。


・闇黒種

トイフェルは悪魔や鬼、悪魔のような人を示す言葉。しかし字ずら的に悪魔と呼ぶと悪であると決めつけてしまうようであるため神聖帝国ではそう呼ばれない。トイフェルも本来の意味など臣民は知らない者が多いため差別的な意味も、恐怖的な意味も持っていない。これは正義と悪の二元論的主張を避けるためである。その容姿が闇色のように暗い者が多かったため、闇暗種と命名された。神聖帝国に於いて翼輪種とかなり仲が悪いが、殺し合いでもすれば神聖皇帝が両者に滅びの鉄槌を一方的に落とすため争うことができず、時間の経過によって住み分けができるようになっていた。

見た目に関しては鬼のような者たちもいるが、現実世界における悪魔のような見た目の者が大半を占めている。その中でもさらに様々な種族が存在しているが、ひとまとめに扱われ実際彼らもある程度仲間意識を持っている。共通して彼らは残虐で暴力的な思考を持っており、他の種から目を背けられるような残虐性を発揮し相手を傷つけることがある。しかし理由もなくそんなことを実施したり、個人の趣向で行ってしまうと神聖帝国の秩序の崩壊につながり、種族単位で神聖皇帝に滅ぼされかねないために彼らは互いを監視しながらその欲求を別の方向に向けている。(焼き鳥の串の先に鳥の頭をそのまま突き刺すとか)


・ヤシャ

恐らくこの艦長のファミリーネームであるヤシャは夜叉ではないかと思われる。鬼神や鬼を指し示す言葉であり、鬼人という頭部に角を持つ種族を上手く言い表している。


・剣歯虎

サーベルタイガー、もしくはスミロドンのこと。現実世界に於いて長大な犬歯を持つ大型肉食動物。なんとその牙の長さは20㎝以上。(もちろん本作の登場人物はそんなに犬歯が長いわけではない)

しかし既に絶滅しており、猫や豹に近いとされたこともあるが、実際のところそこまで近くない種である。絶滅理由に関しては明確な見解を得られていない種でもある。


・死霊種

ネクロは医療で壊死、文学的に黒魔術師や降霊術師などを指し示す。言葉の由来としては「屍」であり、死や傷つけるを意味する。

本作の死霊種は既に死んでしまった知的生命の中で死んだ姿のまま復活した者たちを纏めて言い表す種族名である。体の構造的に死んでいるのとほとんど変わりないため、体がバラバラになっても死ぬことはほとんどない。多くが脳に当たる知性の納めたコアを所有しており、それが破壊されると死ぬ。そのコアも体を動かす神経系も魔力を用いるため日常的に魔法を使って活動している。その影響か他の種よりも魔法の扱いはかなり卓越している。

見た目に関しては骨だけになってしまった者もいるものの、かつてはゾンビやミイラのような存在もいた。しかし彼らも元は生きていた過去を有するため自分たちを清潔にして自らが化け物ではないと証明している。それは変わり果てた自分に知性あるものだと言い聞かせるためであり、他の種族に嫌われないためでもあり、同じ死霊種同士で仲間意識を作るためでもある。腐った肉などはほとんど捨て去り、魔力である超微粒子で精密に形作り生きている者のような容姿を作っている。それでも別の種からは理解されないため敢えて死んだような肌色とすることで仲間を見分けて互いを支え合っている。ゾイルのようにかつての姿よりも骸骨の姿でいたいと思っている者も存在している。


【解釈について】

この世界は極端なコミュニティ社会で構成されているが、かつてグローバル社会になっていたこともありその名残として国際的な通信の周波数が慣例として用いられ続けている。これによって互いの勢力圏同士であっても迅速に連絡が可能になっている。

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