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episode58.講和交渉

 ダウンアンダー連邦首都ンガンビラの地上部は壊滅的な被害を受け瓦礫の山となっている。しかし今回講和交渉の席が設けられたホテルは奇跡的に無傷の状態で佇んでいた。元々お偉いさんしか泊まることのないホテルのため会場としては相応しい。


 その会議室で、片方にはダウンアンダー連邦及びノヴァ・ジーランディア自由連合共和国の代表者たちが座り、もう片方には神聖ルオンノタル帝国の代表であるネレヤ外務大臣とその秘書官、それから彼らの会話を記録する書記官が赴いている。そして両者を仲介する豈皇国代表が上座に議長として進行役をしていた。


 セレネはと言えばその神聖帝国側の本当に端の席で交渉の進行を見守っている。本当に彼女に仕事はほぼなく、見ているだけでもいいとまで言われてしまった。


 加えて実は戦争初期に連邦側をバックアップしていたウェプスカ合衆国もこの交渉の席に参加をしている。セレネの対面で興味なさそうな表情でいる様子がどうにも不気味に見えてしまった。


 戦争に加担しておいて当事者意識がないのかしら?


 ちなみに連邦側からの要請により講和交渉は全て非公開とされている。差別的な人間国家からすれば非人間(ヘテロ)種と対等な交渉をしたというだけで、神聖帝国を人間と同じ国家と認める行為となってしまうらしい。


 他の人間国家に敵対れるリスク、そして国民からの大きな反発を恐れてのことだ。


 交渉が終われば戦争の決着内容も公表されるだろうが、それすらも情報操作で国民を操るのだろう。

この世界に真に自由な国民は少ない。


 ちなみに連邦側でアラン総督は出席しておらず意識を取り戻したスミス首相が出席している。総督は本来政治的なことにあまり口出しできないため首相が執務を熟せるようになればお払い箱なのだそうだ。


 ただ、セレネからすると彼は総督よりも神経質見えてしまう。

交渉が上手くいくのか少々不安だ。


「これよりダウンアンダー連邦及びノヴァ・ジーランディア自由連合共和国、神聖ルオンノタル帝国間の戦争終結に関する講和会議を始めさせていただきます」


 豈皇国の代表の言葉に会議は始まった。


「まず我々からの要望になります」


 ネレヤ外務大臣は要求を書き込んだ書類を連邦と共和国両者に提出する。


 それを確認した共和国は諦観めいた表情で、しかし連邦はあからさまに嫌悪する表情を出した。


 内容は、以下。

1.リンゴ島(神聖帝国が上陸作戦をした島)とアウストラリス大陸周辺諸島の割譲。

2.想像生命体(エスヴィータ)支配地域であるアウストラリス大陸西部の主権放棄及び神聖帝国への割譲。

3.同じく共和国の大きな二島の内、南部のヒスイ島とその周辺諸島の主権放棄及び割譲。

4.核攻撃に対する多額の賠償金及びその謝罪。

5.外征目的の軍の解体と軍全体の軍縮、戦争責任者の引き渡し。

6.指定技術の開示及びその供給。

7.10年間神聖帝国軍を連邦領土及び共和国領土内に駐屯させること。

8.上記の条件が達成されない場合、両国は神聖帝国の保護国として管理されること。

など。


 絶対に受け入れられない内容だ。しかし基本でもある。一般的な交渉はまず相手が飲めない条件を提示し、会議を重ねる中で”妥協した”というスタンスで条件を少しずつ引き下げていく。


 それでも連邦からすれば嫌悪感を抱く内容だろう。

完全に連邦や共和国の主権を侵害している。普通にやり過ぎな内容だ。


 それに、領土をそんなに手に入れたとしても管理できないのではないだろうか?

まあ、その決定権がセレネにはないので見守ることしかできない。


 対して怒り心頭な連邦側は外面だけは冷静を装って新たな書類を取り出した。


「こちらが我らの要求になります」


「ふむ……」


 連邦と共和国からの要望は簡単だ。

1.現在駐屯している神聖帝国軍の即時撤退。

2.都市を壊滅させたことへの賠償と謝罪、戦争責任者の処刑。

3.不当占拠しているメガラニカ大陸沿岸部の割譲。

などである。


 まるで戦勝国の要求だが、神聖帝国の軍がそれだけの被害を出したことは事実。しかし舐められないためにすぐに謝罪ができない。


 交渉は長続きしそうだ。


「我々の認識では()()()()で戦争が終結し、我が国が有利に戦争を進めていたことは事実であります。また、貴国の核攻撃は明らかに人道に悖る攻撃手段であり、そちらの要求は受け入れざるを得ないと判断します」


「この大地もメガラニカの大地も歴史的に我々の土地だ。それに戦争終結の原因は想像生命体(エスヴィータ)の大規模侵攻であり、それは貴様らが行った蛮行である。こちらとしてもそちらの要求は一切受け入れられない。核兵器に関しても想像生命体(エスヴィータ)に対する攻撃であり、何も間違ったことは行っていない」


 セレネは正直もうここにいたくなかった。互いに嫌悪の感情が溢れた場所で、互いを思いやることもなく自己中に利益を貪ろうとしている。


 本当に気分が悪くなってくる。

こんなことを罷り通らせているヒトとその社会が嫌いになりそうだ。


 とりあえず間違いは修正しておこう。


「お待ちください。戦闘詳報を確認しても開戦時周辺海域に想像生命体(エスヴィータ)は確認されておりません。明らかに我が国の海軍艦隊に対する直接的な核攻撃です」


 セレネの主張に連邦側はさらに顔を顰めて睨みつけてきた。セレネは表向きそれを受け流し、軍機を省いた戦闘詳報を見せつける。だが、スミス首相は忌々し気に答えた。


「それこそ信用ならん。非人間(ヘテロ)種のズル賢さは把握している。偽った証拠など何の根拠もない」


「……本気でそうお思いで?」


「少なくとも我が国の戦闘詳報の方が信頼できるし、その報告には想像生命体(エスヴィータ)への核攻撃とある!」


 ただの言い訳にしか聞こえないわ。


 そこで会議を眺めているだけだったウェプスカ合衆国代表が口を挟んだ。


「我々の偵察衛星からの情報では想像生命体(エスヴィータ)の存在は確認されておりませんな」


「な――」


「連邦からすれば神聖帝国は想像生命体(エスヴィータ)と変わりないのかもしれませんがね」


 皮肉っぽく言う合衆国代表にスミス首相は絶句した後に顔を真っ赤にして合衆国代表に怒鳴った。


「貴国は同盟国である我が国を裏切るのか!!」


「いえいえ。まさか裏切るなどありえません。ただ事実を申しただけ」


「ぐぐぐ……」


 セレネはやはり合衆国の動向が不気味だった。合衆国は決して神聖帝国と友好国ではない。それどころか仮想敵国と言っても良いだろう。それに連邦並に神聖帝国への差別意識があるという話もある。そんな国が神聖帝国の主張を認め、有利になるかのような発言をした。


 既に裏で何かあったのかな?

 う~ん……。


 確か連邦は合衆国からの支援を受けて国土を保っていたはずだ。もしそれを合衆国が負担だと感じていたとして、それの意趣返し……。


 うん。

 絶対違うな。

 でも、本当になぜ?


 それからも講和交渉は平行線を辿り、もつれ込むことになる。セレネの感覚からして交渉が終わるのに一月は掛かりそうだった。

 自己中な知的生命体たち――。


国を題材にすると碌な描写を描けませんね。本当にこういう世界は関わりたくないけど、こういう世界があるからこそ我々の生活があります。そう考えると何とも言えない気持ちになります。

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