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episode56.実在証明

 神聖帝国は戦争に実質勝利し、連邦都市の開放にも成功した。そして連邦軍の武装解除も進んでいく。


 だが平穏とは言い難い。都市は壊滅し、様々な生産工場に被害が出ており、集団墓地からヒトの影は消えない。連邦国軍も壊滅的な被害を出している。その被害は、都市の防衛を神聖帝国軍が担わなければ想像生命体(エスヴィータ)の侵入を許してしまうほどと言えばその悲惨さがよくわかる。


 それ故に神聖帝国本土から更なる駐屯兵が派遣されてきている。しかし差別意識の高い連邦市民からの反発は大きい。


 あまりの出来事に絶望を通り越して無気力になっていた連邦市民も、具体的に石を投げられる憎むべき存在が現れたことで皮肉にも生気を取り戻していた。


『化け物ども出て行けッ!』

『裏切り者には制裁をッ!』

『我らの国を化け物から取り戻せッ!』

非人間種(ヘテロ)に自由にさせるなッ!』

『拷問して惨殺せよッ!』

『死んでも奴らに資源を供給するなッ!』

『ここは我らの国だッ!』

『出て行けーッ!!』

『出て行けーッ!!!』

『出て行けーッ!!!!』


 そんな文言が飛び交い、瓦礫と化した壁には罵倒の言葉が殴り書きされている。中には実際に神聖帝国駐屯兵に対して銃撃を加えたり、どこから持ち出したのか対想像生命体(エスヴィータ)兵器を撃ち込んできていたりしている。


 幸い今のところこちらには犠牲者は出ていない。神聖帝国軍も常に強化外骨格(パワードスーツ)を使って防御するか、魔法が得意なものは小さな<アイギス>を用いて治安維持を実施している。


 だが双方にとてつもないストレスが掛かっていることは事実で、市民には多少の負傷者が出てしまっている。その負傷者を収容する臨時病棟も手当てできる連邦の人間がすでに死んでいて、神聖帝国の軍医の治療に対して彼らは反抗的だ。


『我らの大地、我らの故郷ッ!! 唯一神エロアの名の下に奴らを叩き出せッ!!!』

『家族を返せッ!!』

『返せ返せ返せッ!!!』

『侵略者どもめッ!!!』

『殺せ殺せ殺せッ!!』


 そしてそんな罵詈雑言と人種差別で冷え込んでいる連邦首都ンガンビラ首都のとある建物にセレネはいた。窓の外から見える大通りは既に瓦礫が取り除かれている。それでもその景色はデモ活動やそれが過激化したテロ行為によってもっと酷いものになっていた。


「すぐには差別はなくならない。父様が昔言っていたわね」


 セレネの父もかつて種族差別をされたことがあるという。どんな差別だったかは知らない。けれどその差別をなくすには長い年月をかけて互いに歩み寄ることが大事だと言っていた。


 実際神聖帝国でもいがみ合う種族同士が長い年月をかけて殺し合いをしなくなっている。同じことをこの地でも行えば、感情的に拒絶してくる彼らの感情を少しでも無くすことができるかもしれない。


 また理想主義だと言われるかもしれないけど。


「……あまり情報はないわね」


 セレネが今いる場所。それは連邦の知識が蓄えられた図書館だ。あらゆる情報にアクセスできる施設でもあり、権限さえあれば国の機密情報にもアクセスできる。


 かつて世界が滅びかけた時に情報を一括で検索できるように作ったシステムをずっと使っているらしい。


 今回セレネは機密情報まで検索できるようになっていた。理由は不明だが、無理だろうと思いつつも申請したらアラン総督が直々に許可を出してくれた。彼の心境的に親切心とかではなく何かしら企んでいるようだったが、見れるなら気にすることはない。


 そして連邦が神聖帝国と交戦した記録などを見漁り、ついにその情報を見つけた。


「聖誕歴2203年の記録……新月歴だと141年ね。連邦海軍は神聖ルオンノタル帝国を名乗る勢力の艦隊と交戦。その際艦隊を指揮していた人物の名を知ることとなった。名は――」


 ――カティス。


 思わずその情報に触れてセレネの手は震えた。ずっとずっと探していた名前をやっと見つけることができた。情報をさらに精査しても名前が出てくるのはここだけ。それでも神聖帝国ではもう入手できなかった情報が確かに存在していた。


「……よかったっ」


 夢なんかではなかった。確かに兄は存在していて、神聖帝国のために戦っていた。この戦闘記録では連邦は神聖帝国と戦闘中に想像生命体(エスヴィータ)に襲撃を受けたらしい。そして多大な損害を受けカティスと名乗った指揮官の計らいで救助活動を受けている。


 神聖帝国の記録ではカティスという名の指揮官はいない。記憶の中のカティスはリアムと同じような権限を持っていた。ならば人違いでもなんでもなく、これは間違いなく兄の記録。


 泣きそうになったセレネ。しかし唐突な通信が入り、セレネは一度呼吸を落ち着けた。

そして通信に出る。


『セレネ殿下。ヴィスタです。今お時間はよろしいでしょうか?』


「はい。大丈夫です。何かありましたか?」


『実は外務省より殿下に要請がありまして、講和交渉の席に殿下も参加してほしいそうです』


 え?

 また??


 なんだか最近事前に予定にない会談やら交渉の席に呼ばれ続けている気がする。普通そういうものは事前に報告されるものではないのだろうか?


 本当に大丈夫だろうか、我が国は……。


「また唐突ですね」


『ええ。いきなりのことだったので問い合わせました。しかしどうも機密事項とのことで詳細を説明してもらえませんでした。ネレヤ外務大臣がもうすぐこちらに着くとのことだったので、そちらで詳しく説明をするそうです』


 宇宙軍艦隊の指揮を行うヴィスタに教えられない機密事項となるときっと軍関係のことではないだろう。彼女はセレネよりも階級が上だからだ。


 となると皇族にまつわる何か?

 でも外務大臣が直々に説明するというのはよくわからない。

 いったいどういう繋がりがあるというの?


「わかりました。日時と場所を後ほど送ってください。それと外務省の方には私の方から了承の通知を送ります」


『了解しました。よろしくお願いいたします』


 そうして通信は切れる。すぐにヴィスタからは必要な情報は送られセレネはそれに目を通すと、再び連邦の資料に目を通した。


「まさかこれを見つけることを予見してってことはないわよね?」


 もしこの僅かな情報さえも抹消しようと神聖帝国が、いや神聖皇帝をはじめとする皇族が動いているのだとすれば、一体カティスが何をしたというのだろう?


 彼を覚えているのは皇族だけ。まるで彼の存在が世界に知られてはいけないような扱いではないか。


 セレネは兄の実在証明となる資料をしばしの間見つめ、外務省に連絡をすると図書館を後にする。


「あっ! 殿下ぁ!!!」


 図書館を出た途端、セレネに向かって駆けてくる少女が見える。彼女を見てセレネは酷くびっくりした。


「スィリア?!」

 確かに兄は存在した――。


 いやあ、ついに兄の実在を証明する資料を見つけることができました。しかしこれを閲覧するためにアランが手を貸していたり、このタイミングで皇族が介入してきたり、色々不穏ではあります。まあ、全部セレネの妄想であるのなら気にする必要はないのですがね。


あと久しぶりにスィリア登場。やっとのほほんとしてくれるといいな。

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