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episode52.都市上陸

 神聖帝国主力軍は都市支援と都市に対する上陸のため、アウストラリス大陸東海岸沖に展開していた。神聖宇宙軍第一艦隊もそれに同行している。対して第二艦隊は未だに大陸内陸部に展開している。


「これより都市上陸作戦を開始する! 第二艦隊全艦、出来得る限りの敵を引き付け大陸内陸まで後退せよ!!」


『了解!!』


 セレネの号令により第二艦隊がまず動き出す。ダウンアンダー連邦都市に最も近いのが第二艦隊だ。彼らは想像生命体(エスヴィータ)を誘導した時と同じ要領で数多の無人機、有人機、艦艇を用いて散開する。そして引き付けるように想像生命体(エスヴィータ)に対して砲撃を加えつつ後退していった。


「ヴィスタ艦長。第二艦隊が既定ラインまで後退したらよろしくお願いします」


「はい。お任せください。殿下」


 今回ダウンアンダー連邦の降伏を受け、神聖帝国は連邦の都市を制圧する方針を出した。現在都市の地上部は想像生命体(エスヴィータ)の攻撃で蹂躙されている。そのため一刻も早く都市を制圧し、実質的に平定しなければならない。


 命を救う作戦。

きっとこれは正しい行いと信じる。


 本国からすれば救済を名目にした占領作戦であろう。利他的行いと利己的行いの共通項がこの作戦であることをセレネは知っている。それでも信じると思ったことは、信じていたい。


 助けられる命は救われるべきだ。


「神聖海軍及び空軍、制海権と制空権を維持。第二艦隊の誘引作戦が成功しました。都市内部の想像生命体(エスヴィータ)脅威度規定値を下回ります。これより神聖陸軍が降下作戦を開始」


 都市は城壁のように巨大な壁で囲われている。例え海から上陸しようと思ってもその壁が進軍を拒んでしまう。よって陸軍が都市に入るためには、想像生命体(エスヴィータ)が破壊した壁か上空からの降下でしか入れない。


 今回はあらゆる地形に対応するために降下作戦を実施することとなった。もちろんその前にほとんどの想像生命体(エスヴィータ)を追い出す必要はある。


 そして数世紀前のようなパラシュート降下ではなく、強化外骨格(パワードスーツ)に付属したジェットエンジンの反動で一気に地上に降りる。これは想像生命体(エスヴィータ)に迎撃されないためだ。


 その後神聖帝国軍は順調に作戦を遂行していた。連邦からの妨害もなく、想像生命体(エスヴィータ)が新たに現れて襲ってくる様子もない。


「……勝って兜の緒を締めよ」


「殿下? なんですか?」


「順調な時ほど心に隙が生まれるもの、そう教わったことがあります。まあ、心構えのようなものです」


「なるほど。確かに、戦況だけを見れば我が国は順調すぎる作戦を遂行していますね」


 注意することに越したことはない。こんなに戦争という暴力行為が簡単に終わるわけがない。きっとこの順調な戦いの代償を、いつか神聖帝国は払わなければならないだろう。


 しかし今は目の前の最善を尽くすだけだ。


「第二艦隊既定ラインまで後退成功。上陸部隊が予定通り悪霊払の光石(セレニテス)を起動します」


 既定ラインまで想像生命体(エスヴィータ)を誘導できれば神聖帝国軍が上陸しても奴らが引き返してくることはない。そのような距離を設定していた。

そして都市に搭載されたモンキーモデルよりも高性能な悪霊払の光石(セレニテス)を起動することでさらに奴らに見つからないようにする。


 そこからは本当に順調だった。不気味なほどに順調だった。本当に上陸するまで連邦の攻撃を受けることはなく、想像生命体(エスヴィータ)も大半が第二艦隊の誘導によって大陸内陸に十分移動し、本当に脅威はない。


 作戦開始から依然として犠牲者はほぼなく、損害は想像生命体(エスヴィータ)を誘導している無人機や有人機の撃墜くらいなもの。


 その状況に、とんでもなく嫌な予感がした。こんなにも順調にいくには何か理由があるはずだ。


 セレネは一つの推察を思いつき、すぐさま頭を振る。

しかしそれを確かめないわけにはいかないだろう。


「神聖陸軍に要請。地上都市制圧を遅らせてでも地下要塞の状況を把握してください」


「了解。神聖陸軍に連邦都市地下要塞の迅速な状況把握を要請」


 セレネの予想が正しければ――。


 それから暫く時間が経った頃、漸く報告が来た。


「ッ! 神聖陸軍の偵察ドローンから情報共有! 北部4都市に、生存者は確認されず! なお、残存した想像生命体(エスヴィータ)との戦闘に妨害されているため、確実性は非常に高いものの確定情報ではないとのこと」


 データリンクをセレネも参照する。今現在の確認情報では北部に都市に生存者なし。残りの首都以外の都市では未だに戦闘が続いているものの、その戦闘は地下要塞の最奥で行われている。そして首都ンガンビラでは地上都市は放棄しているが防衛には成功しているようだった。


 もちろん、そのどれもが長期戦となれば瓦解するだろう。神聖帝国の上陸作戦はギリギリのところで間に合ったとも言える。もう少し遅ければ彼らは全滅の運命を辿っていた。


 それでも、あまりにも救いがない。300万人弱は犠牲になった計算だ。


「ただいま作戦第二段階への移行時間になりました」


 その報告にヴィスタ艦長が命令を発した。


「第一艦隊全艦前進せよ! 連邦都市上空に達すると同時に残存した想像生命体(エスヴィータ)の駆除を開始する!」


「了解!!」


 神聖宇宙軍第一艦隊に与えられた任務は飛行艦特有のものだった。想像生命体(エスヴィータ)を排除するにはそれなりの装備と火力が必要だ。


 上陸した陸軍の装備では火力不足な上に、想像生命体(エスヴィータ)を駆除できる人員も限られる。ならば陸軍が地下に潜伏した奴らを誘い出し、宇宙軍の空中艦隊から高火力を叩き込む。そういった連携によって駆除を行う必要があった。


 ちなみに陸軍が先に上陸したのは生存者の居場所を確認する目的と、予想以上の敵が残っていた時に主力軍に被害を出さないための威力偵察の意味合いがある。


「攻撃開始!」


「攻撃開始!」


 そうして上陸部隊との連携を以って上空からの攻撃を開始した。主砲とミサイル発射管から奴らを自潰させるアーティファクトが射出されていく。距離はほとんどない。迎撃されることなくほとんどを滅することができる。


 敵が少ないからできる作戦である。


「やはり私も出た方が良いと思うんですけど……」


「殿下。それでは軍の沽券に係わります。どうかご賢明な判断をされますよう」


「わ、わかっています」


 セレネの活躍の場は特に与えられることはなかった。

 都市開放へ――。


【用語解説】

・威力偵察

敵の規模や装備などを確認するために実際に戦うことで把握する偵察活動のこと。ここでは都市に残った想像生命体の総数や種類を把握するために行われたと解釈できる。

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