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episode51.第二艦隊指揮官セレネ

 連邦市民への援護は続いている。しかし実質的にセレネのすることは援護の申請で終わっている。人工衛星からの攻撃は本土に勤務する宇宙軍人の仕事。セレネはデータリンクで見守ることしかできない。


 そんな彼女に一つの通知が届けられる。


 緊急事態に基づき、第二艦隊の臨時指揮権を国防省に通達された。リアムは指揮権をはく奪され更迭。その後釜にセレネが選ばれた。


 新設の宇宙軍艦隊を指揮できる者は、ある意味誰もいない。第一艦隊は宇宙軍人の中でもあらゆるテストを経て最も適性があると見られたヴィスタが総指揮を担当し、選出された宇宙軍人がそれに従う。第二艦隊では海軍のノウハウをそのまま使えるかを確かめるためにリアムと海軍軍人が選出された。


 しかし今回のことでリアムと、それに影響を受けているかもしれない海軍軍人は次の指揮に適さない。第二艦隊の指揮は宇宙軍人が行うこととなり、及第点の指揮能力を発揮したセレネが選ばれた。


 まあ、本国の本音は皇族がやらかしたことを皇族に後始末させたいのかもしれない。

他がやれば皇族の権威に響いてしまうから。


 責任を取れってことね。


 第二艦隊の現状は非常に呆気ないものだった。リアムは連邦が降伏したことを確認し、本国からリアムの更迭が伝えられると自ら自室に閉じこもったらしい。責任は取るだとか抜かして。


「はぁ。責任を取るなら最初から謀反なんかしなければいいのに。全然嬉しくない出世だわ」


 思わずセレネは第二艦隊を指揮するに当たって特例で中佐になったことを嘆息した。彼女からすればいきなり副艦長になり、艦隊の指揮さえ任されただけでも大出世だ。だが、軍人になったばかりの小娘に任せていい大任では決してないだろう。


 それが今度は臨時とはいえ艦隊一つのトップに立つ。


 本当に嬉しくない。


「臨時だし。任された仕事はしっかり熟さないとね」


 とりあえず今はやるべきことをやろう。


 セレネは艦橋に赴き、ヴィスタ艦長を始めとした乗組員に挨拶した後にビデオ通話を始めた。通話相手は第二艦隊の各艦の艦長たちだ。


「私は神聖ルオンノタル帝国第三皇孫セレネ・H・ルオンノタル。国防省より臨時で第二艦隊の指揮権を移譲されました。これより第一艦隊と共にダウンアンダー連邦各都市に対して上陸作戦を開始します。データリンクで随時指示を出しますので、その通りに従ってください」


『……』


 しかし艦長たちの顔色は芳しくない。そして誰も何も言わない。


 そうだ。

 私は皇族の一員。

 疑問や質問、それ以外の意見も簡単に言ってはならない存在。

 それでもリアムの行いを見て思うところがあるのだろう。


 それ故の、沈黙。

沈黙による反抗。


「発言を許します。互いに思うところがあっては作戦に支障が起きかねません。この場で何を言おうが一切を問題にしないと誓いましょう」


 こう言ってしまえば彼らは何かを喋らざるを得ない。

喋らないことが逆に不敬に当たるから。


 するとラメンタツィオーネ艦長、龍神種(ミツチ)のフッサール艦長が恐る恐る口を開いた。


『では、私から一つ。……我々は正しいことをしたのでしょうか?』


 余りにも曖昧な質問。しかしそれでいて重い発言だった。


『我々は軍人です。命令には従います。しかし今回行われた作戦のように、心からは賛同しかねる作戦は……恐ろしくてなりません……』


 他の艦長たちも無言ではいたが、その瞳はフッサールと同じ気持ちだと訴えていた。皆不安そうな、怖がっているような、そして悲しそうな、そんな感情が見えた気がする。


 それもそうだろう。彼らは虐殺をしてしまったのだ。その詳細な累計は判明していないが、500万の人口しかない連邦を半分想像生命体(エスヴィータ)に壊滅させた。未だに地下で抵抗しているとはいえ、地上にいた者は一瞬のうちに死んだだろう。


 そして今この時もその命を刈り取られている。それをしてしまったのが自分たちだと、彼らは自覚している。軍属でもない、小さな子供や関係のない人間さえも殺してしまった事実に、皆の心がやられていた。


 リアム兄様はこういうことを分かっていたのかしら?


 少し考えれば分かることだろう。ヒトは本能的にヒトを殺すことに忌避感を抱くことが普通。虐殺ともなれば最早言及するまでもない。一部の精神異常者や極端な狂人でもない限り耐えられる事実ではない。


「正しい、とは私は申しません。世間からすればあの作戦を正義と語るにはどうしようもない歪曲と残酷さがあったことは事実です。あなた方の恐怖は正常なヒトの証です」


 一拍置き、セレネは続けた。


「あのような作戦を行ったリアム兄様に代わり、あなた方への配慮がなかったことへの謝罪を致します。そして私はあのような卑劣なやり方をしないとここに誓いましょう。大変、申し訳ありません」


『そんなっ! 殿下が謝罪されるようなことはありません! 私が軽率なことを申したばかりに、殿下には大変なご迷惑をおかけしてしまいました! この罰はいかようにもお受けいたします!』


「いえ、先程申した通り、ここでの発言はどのようなことでも許します。これは私のわがままです。身内の過ちを謝罪させてください。そしてどうか、一度だけで良いのです。私を信じて作戦を共にしてはいただけないでしょうか?」


 彼らは傷ついた。本土でカウンセリングを受けるべき立場だろう。だがまだ戦場は喫緊の問題を抱えている。連邦を放っておけばこのまま滅んでしまう。人類の命とその大地が失われる。


 戦力を前線から戻すわけにはいかない。彼らが協力してくれるというのなら大変に助かる。国を倒す戦いではなく、これからは人類を救う作成を実施しなければならない。


 それでも彼らを尊重するなら、彼らの意志に委ねるべきであろう。帰りたいというのなら帰すことが彼らのためになる。


 このセレネの判断は敵前逃亡を誘発したと軍法会議に問われかねない。しかし軍人を磨り潰すような指揮官にはなりたくなかった。


「もし信じられないというのなら、補給の名目で本土への帰還も申請いたします。それでも、これ以上の犠牲者を出さないために、未だに生きようとしている者たちを救うために、今だけ私を信じていただけないでしょうか?」


『……』


 僅かばかりの沈黙が降りた。その沈黙は、なぜか驚きによる言葉が出ないというものだった。誰からもそのような雰囲気が感じ取れる。そして最初に口を開いたのはフッサール艦長だった。


『殿下は、今までの皇族の方々とは違うのですね。殿下のような方は初めてお会いいたしました』


 一度彼は目を瞑り、そして顔を上げた時には覚悟を決めた顔になっていた。


『罪滅ぼしにはならないかもしれません。しかし少しでも人命を救えるのならば、殿下の指揮を信じましょう』


「ありがとうございます」


 皆の同意を得てセレネは正式に第二艦隊の指揮官となった。

 皇女は進む――。


【解釈について】

艦隊を指揮するのは大佐ですが、それだとセレネが二階級特進みたいになってかなり不吉なので中佐にしました。二階級特進とは、戦死した時に階級が二つも上がる特例処置のことで、生きている者に与えるには不適切と神聖帝国では扱われています。まあ、臨時ですし、今後の彼女の貢献度合いによっては少佐に戻されることもあります。

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