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episode47.理想主義的な作戦

 リューラー国防大臣はセレネの提案を聞いて正直ヒトが良すぎると思っていた。そして同時に、それをすることが嫌だと感情的に思ってしまった。


 外の人間種(ヴォルク)どもを助けなければならない理由などない。


 神聖帝国を想像生命体(エスヴィータ)と同列に扱い、ヒトとしての尊厳と存在を否定する核攻撃を実施した国家の人間たちだ。人間国家はそのどれもが差別意識を抱いていて、こちらを滅ぼすことに躊躇しない。


 リューラーもかつてその光景を見てきた経験がある。リューラー自身の家族も消滅させられ、共に行動した者たちもたくさん滅ぼされた。


 あんなクズどものためにわざわざ神聖帝国の兵器を使うなど。


 もしセレネの提案が主上陛下の赤子の命を救う作戦であるのなら直ちにゴーサインを出していただろう。だが憎むべき敵を救うことに使うことは、感情的な話であるものの許すことができない。


 奴らの自業自得だ。

 死んで当然。


 リューラーはリアムの行動について問題があると理性的には理解している。それでも心のどこかでは歓迎している自分もいる。


 本当にこのまま人間国家の一角を滅ぼすことができるのなら、放置しても良い。いや、放置してあの大陸の人間種(ヴォルク)どもを根絶すれば、どんなに心が晴れることか。


「……」


 ……だが、目の前のあまりにも幼い少女は、その虐殺を否定する。それどころか救いたいと宣っている。しかも彼女の言動は簡単にリューラーが否定していいものではない。そういう身分の者の言葉だから。


 なんと純粋で、優しいお方か。

 小娘でしかないか。

 過去の残虐な殺し合いを殿下は知りもしない。

 心のままに優しさを押し付ける。

 何も知らないくせに。


 それでも、リュドラーは大人だ。感情的になることはあっても、それでも最後は冷静な判断を下せる大人。そして通信している相手はリュドラーが忠誠を誓う神聖皇帝の皇太孫。最大限の敬意を払いつつ彼女の言葉に返答することにする。


「神聖帝国にとって利点がないように思われます。助けてもまた核兵器が飛んでくるだけでしょう」


『それは戦後処理の仕方によって変わるはずです。どうか、作戦の許可を頂けないでしょうか? これは国家だけではなく人類の危機なのです。全種族平等の理念のためにも我々は助けるべきです。我らの人道に(もと)る行いが否定されなければ、次にその報いを受けるのは、我々になるです』


 セレネは真っ直ぐに、そして強くリュドラーを見つめ訴える。


「それは推察でしかないのでは? 戦後処理をいかに工夫しようとも何も変わらないかもしれない。それどころか反発する者もいるでしょうな。さらなる憎悪を生む前に、その芽を摘み取ってしまうのも、神聖帝国の全種族を護ることにつながると思われます」


「これは私からのお願いを聞いて頂く通信です。ゆえに実益ではなく、自分勝手な皇女の感情を優先させたお話しです。私は多くの歴史を学び、神聖帝国建国時の話も知っていると自負しております。180年以上経った今でも当時の経験ゆえに憎み合う存在であることも確かです。ですが、過去にばかり目を向けては掴める未来も掴めないのではないでしょうか? 未来を諦めてはいけません」


「……」


 20年も生きていない子供に何が分かる?

 学んだところでそれは無機質な情報でしかない。

 当時を経験した生々しい歴史ではない。

 どこまで行っても当事者でない者に、虐殺し合った歴史を理解することはできない。


 それでも、未来を掴まなければ神聖帝国の未来も狭まる。新しい思想は進化の歴史於いて重要だ。


「……これは私の裁量を越えます。我がままなお話であれば主上陛下の裁量も必要です」


「リューラー国防大臣! そのような暇はありません!! もしここで許可が出ないのであれば、私はたった一人だけだったとしても、この後軍法会議に掛けられるとしても、人類を救いに参りましょう。これ以上の犠牲は許容できませんッ!!」


 理想主義。ここまで言葉通りの存在が現実主義の軍に所属している。神聖皇帝のー国防大臣はセレネの提案を聞いて正直ヒトが良すぎると思っていた。そして同時に、それをすることが嫌だと感情的に思ってしまった。


 外の人間種(ヴォルク)どもを助けなければならない理由などない。


 神聖帝国を想像生命体(エスヴィータ)と同列に扱い、ヒトとしての尊厳と存在を否定する核攻撃を実施した国家の人間たちだ。人間国家はそのどれもが差別意識を抱いていて、こちらを滅ぼすことに躊躇しない。


 リューラーもかつてその光景を見てきた経験がある。リューラー自身の家族も消滅させられ、共に行動した者たちもたくさん滅ぼされた。


 あんなクズどものためにわざわざ神聖帝国の兵器を使うなど。


 もしセレネの提案が主上陛下の赤子の命を救う作戦であるのなら直ちにゴーサインを出していただろう。だが憎むべき敵を救うことに使うことは、感情的な話であるものの許すことができない。


 奴らの自業自得だ。

 死んで当然。


 リューラーはリアムの行動について問題があると理性的には理解している。それでも心のどこかでは歓迎している自分もいる。


 本当にこのまま人間国家の一角を滅ぼすことができるのなら、放置しても良い。いや、放置してあの大陸の人間種(ヴォルク)どもを根絶すれば、どんなに心が晴れることか。


「……」


 ……だが、目の前のあまりにも幼い少女は、その虐殺を否定する。それどころか救いたいと宣っている。しかも彼女の言動は簡単にリューラーが否定していいものではない。そういう身分の者の言葉だから。


 なんと純粋で、優しいお方か。

 小娘でしかないか。

 過去の残虐な殺し合いを殿下は知りもしない。

 心のままに優しさを押し付ける。

 何も知らないくせに。


 それでも、リュドラーは大人だ。感情的になることはあっても、それでも最後は冷静な判断を下せる大人。そして通信している相手はリュドラーが忠誠を誓う神聖皇帝の皇太孫。最大限の敬意を払いつつ彼女の言葉に返答することにする。


「神聖帝国にとって利点がないように思われます。助けてもまた核兵器が飛んでくるだけでしょう」


『それは戦後処理の仕方によって変わるはずです。どうか、作戦の許可を頂けないでしょうか? これは国家だけではなく人類の危機なのです。全種族平等の理念のためにも我々は助けるべきです。我らの人道に(もと)る行いが否定されなければ、次にその報いを受けるのは、我々になるです』


 セレネは真っ直ぐに、そして強くリュドラーを見つめ訴える。


「それは推察でしかないのでは? 戦後処理をいかに工夫しようとも何も変わらないかもしれない。それどころか反発する者もいるでしょうな。さらなる憎悪を生む前に、その芽を摘み取ってしまうのも、神聖帝国の全種族を護ることにつながると思われます」


「これは私からのお願いを聞いて頂く通信です。ゆえに実益ではなく、自分勝手な皇女の感情を優先させたお話しです。私は多くの歴史を学び、神聖帝国建国時の話も知っていると自負しております。180年以上経った今でも当時の経験ゆえに憎み合う存在であることも確かです。ですが、過去にばかり目を向けては掴める未来も掴めないのではないでしょうか? 未来を諦めてはいけません」


「……」


 20年も生きていない子供に何が分かる?

 学んだところでそれは無機質な情報でしかない。

 当時を経験した生々しい歴史ではない。

 どこまで行っても当事者でない者に、虐殺し合った歴史を理解することはできない。


 それでも、未来を掴まなければ神聖帝国の未来も狭まる。新しい思想は進化の歴史於いて重要だ。


「……これは私の裁量を越えます。我がままなお話であれば主上陛下の裁量も必要です」


「リューラー国防大臣! そのような暇はありません!! もしここで許可が出ないのであれば、私はたった一人だけだったとしても、この後軍法会議に掛けられるとしても、人類を救いに参りましょう。これ以上の犠牲は許容できませんッ!!」


 理想主義。ここまで言葉通りの存在が現実主義の軍に所属している。神聖皇帝の宸意を組んで人事に介入したとはいえ、リューラーは自分自身の過去の行うを悔いた。


 とはいえ、ここで結論出さなければならない。


 もしここで作戦を拒否したとしよう。セレネは恐らくその理想によって本当に自分勝手に動きかねない。そしてその原因がリューラー自身にあるのは確実。しかも軍の暴走があったにもかかわらず再びそれを引き起こした無能と評価されかねない。


 今の立場を維持するためにもそのような評価は避けた方が良いか……。


「……わかりました。内容に問題がなければ作戦を許可いたします。こちらに詳細をお送りください」


「ありがとうございます!!」


 モニター越しの皇女はあまりにも嬉しそうだった。

 存在意義、責任、そして理想へと至る――。

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