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episode46.都市陥落

 降伏勧告は出されるも、拒否されてしまったそうだ。それもそうだろう。そんな簡単に降伏するのなら、そもそもこんな戦争は起きていない。


 よってリアムの作戦は継続されてしまった。想像生命体(エスヴィータ)はダウンアンダー連邦の都市、ウィリアム、ミアンジン、新カースルなどの北部都市を次々に陥落させていく。


 そして現在、降伏をさらに促しつつ連邦首都ンガンビラに向けて進撃中であるらしい。


 そのような報告を受けたセレネは驚愕すると同時に、そのやり方の悍ましさに全身から力が抜けるような思いだった。


 こんなことが許されるはずがないッ!!


 都市にいくら避難勧告を促そうとも住民全てが避難できるわけではない。多くの住民が逃げ遅れる。

地下要塞に避難できたとしても想像生命体(エスヴィータ)の攻撃力を前に徐々に防壁は破られ、いつかは全員が殺される。


 もし撃退できたり、防衛をし続けることが可能であるのなら、人類は悪霊祓の光石(セレニテス)など使わない。人類の力だけで防衛し、攻勢を仕掛けてこの星から想像生命体(エスヴィータ)を駆逐していたはずだ。


 つまり、避難勧告など、意味がない。


 そしてこれをやらかしたのが同じ皇族であるリアムであるなどと、セレネの心の内は深い絶望感に苛まれていた。


 一体、どうしたらこんなひどい作戦が思い浮かぶのだろう。

想像生命体(エスヴィータ)の群れと戦ったセレネだから分かる。


 あれに喰われて死ぬのは、どんな死よりもきっと残酷。

喰われても簡単には死ねず、その腹の中で苦しみながら殺されていく。あのアーマイゼの腹の中にはそういう存在が、確かにいるのだから。


 動物も、虫も、ヒトも、心を亡くした者たちが無感情のままに苦しみ続ける。いや、心が終わることない苦痛によって壊されていつしか無感情に、そして心そのものが亡くなる。


 想像生命体(エスヴィータ)の研究は時に非情なるものだが、その事実が発覚されたのは随分昔。


 もしかすると、あの想像生命体(エスヴィータ)の鳴き声は、喰われた者たちが残した苦痛と絶望に満ちた断末魔だったのかもしれない。


 そんな化け物を戦争に利用するなど、狂気だ。


「――さ、少佐? 殿下? 大丈夫ですか、殿下?」


 気が遠くなっていたところをヴィスタ艦長に呼び戻された。未だに動悸が激しい。だが、どうにかそれを落ち着かせようと努力する。数回深呼吸をしてやっとヴィスタ艦長に言葉を返すことができた。


「……申し訳ありません。ヴィスタ艦長。あまりのことに、動揺してしまって……」


「無理もありません。こんな作戦、私であれば不敬罪で極刑に処されようとも反対します。既に本国にも情報が伝わっているでしょう。我々に出来る事は本国の判断に従うのみですが、気持ちの整理のためにも一度お休みになられてはいかがでしょう?」


「いえ、責任を負うものとして、それは許されません。確認します。本国はなんと言って来ているのですか?」


 セレネ達第一艦隊は万全の戦闘ができない状態だ。今は残存艦艇だけで神聖海軍の周辺警戒をしていることしかできない。何か命令されてもそれが戦闘を伴うものであるのなら自殺行為に他ならない。


「本国では未だ結論は出ていないようです。しかし現在進行中の作戦を中止せよと通達がありました。本格的に我々は何もすることはなく、警戒し反撃することしか出来ません」


 シスぺランサ艦長がそのように告げ、次にヴィスタ艦長が口を開いた。


「ただ、上陸した部隊も橋頭保は築いたとはいえ戦線は未だに安定していません。早々に神聖陸軍は撤退しなければ部隊は全滅するでしょう。それでも連邦が降伏、もしくは消滅した場合はその限りではないと思われますが」


 それを聞き、セレネは悩むように考える。


「そちらは陸軍と海軍の管轄ね。宇宙軍に出来る事は、偵察と警戒くらい……。本当にやれることがないなんて……」


 歯痒い。

 セレネにできることは何もない。


 しかしふと、そこで閃くことがあった。


「……撤退の支援はどうかしら?」


「少佐? それは出来ないと――」


「いえ、そうではなく……連邦の都市市民の撤退です。全員が全員地下に逃げるわけではありません。航空機や船舶、近い所なら鉄道を使って撤退するでしょう。それを追いかける想像生命体(エスヴィータ)を排除するのです」


 ヴィスタとシスぺランサはセレネが最初何を言っているのか理解できず困惑していた。しかしその困惑が治まってくると驚愕したように目を見開いた。


「し、しかし少佐。我々が連邦に突入しても迎撃されるだけでは? 混乱させはすれ、助けることは出来ないと思われます。それにまた我々が想像生命体(エスヴィータ)に捕捉されでもしたら……」


「はい。しかし我々の兵器はこの飛行艦だけではないはずです」


 ヴィスタは直ぐに理解し、頷いた。


「宇宙兵器を用いれば確かに可能です。限定的ではありますが、撤退の支援はできるかもしれません。しかし、大きな問題が一つあります」


「それは私が直談判いたします。種族が違うとはいえ、連邦の人間種(ロイテ)も同じ人類です。人道に反した行いを認めないためにも、それを否定しなければなりません」


 そうしてセレネは二人と別れ、本国に通信を掛けることにした。もちろんシスぺランサ艦長には許しを得ている。


 そしてビデオ通話が始まった。現れたのは龍神種(ミツチ)の男。


「リューラー国防大臣。突然の通信にお答えいただき感謝いたします。神聖宇宙軍第一艦隊旗艦ユミト所属の調宮少佐です。この度はお願いがあり、通信をさせていただきました」


『調宮少佐。こちらこそお目にかかり光栄に存じます。まずは、ご要望をなんなりと申し下さい』


「はい。今回の春宮大佐が起こしたことは間違いようもなく狂気だと言わざるを得ません。その罪滅ぼしとは申しませんが、連邦避難民の撤退を支援する許可を頂きたいのです」


 その言葉に、リューラー国防大臣は渋い顔をするのだった。

 否定しないこと、それは認めること――。

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