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episode43.復活

 セレネが再び目を覚ますと、一つの部屋にいた。見た所第一艦隊の艦内に設置された医務室のようである。そのベッドの上に、セレネは五体満足の状態で横たわっていた。


「殿下。お目覚めになられましたか?」


 軍医と思われる幻獣種(ミシカル)の猫っぽい女性が尋ねてくる。

それにセレネは上体を起こして答えた。


「ええ。もう大丈夫よ。意識もはっきりしています」


「それはよろしゅうございました。それにしても、流石皇族であらせられますね。死からの復活を私が垣間見れたのは、僥倖でございました。光の中から殿下が復活されるお姿など眼福そのものであり、神々しいとはまさにあのようなことを言うのでしょう」


「……」


 正直、その様子を見ていないセレネ自身からすればいきなり崇め祀られているようで気分が悪い。セレネの感性として、自分は能力的にはただのヒトであり、同時にヒトとして生きたいと思っているのだ。


 たとえ、存在そのものが怪物であったとしても。


 セレネが生き残ったのは、上神種(ディアキリスティス)の性質によるところが大きい。上神種(ディアキリスティス)はその肉体が死に至ると、任意の場所に再び肉体を生成しそこに今までの精神を宿らせることができる。


 つまりどんなことをしても滅びない種であり、死とはただの状態でしかなく、死んでいる状態の期間すら自ら決めることができる。同時に生きている期間すらも。


 上手く使えば世界中に瞬間移動できるようなものであるが、この世界に縛られていることに変わりない。故に物理法則を無視して光の速度を超えた移動などは不可能だ。


 ……もう二度としたくない。

 あの時は仕方なかったけど。


 今回は最早脱出不可能な状態だったため、喰われるくらいならと自決したに過ぎない。もっと上手くやれていれば死ぬ必要すらなかった。


 あんな愚行を冒した自分に忌避感しか浮かばない。


 ん?

 そういえば、時間感覚が戻ってる?


 神聖皇帝からアストラル光記録の断片を賜りセレネはその能力を向上させたはずだった。しかしどうにも今はそのような感覚は感じない。スローモーションに感じていた世界はもう既になかった。


 どういうことだろうか?


 首を捻り、しばし考えてみる。


 ……。


 能力は本当に戻ってしまったようで、今のセレネには推測の一つすら閃かなかった。


「どうかなさいましたか? 殿下」


「いえ、なんでもないわ。そろそろ仕事に戻ります」


「はい。何か体調に問題があるようでしたらまた来てくださいね」


「ええ。ありがとう」


 そうしてセレネは医務室を出ると早速データリンクに接続し、現状を把握する。


 どうやら神聖宇宙軍第一艦隊はアウストラリス大陸から脱出し、リンゴ島に進路を取っているらしい。どうやら旗艦ユミトとは別に、アーマイゼからの集中攻撃によって他の艦の<アイギス>が想定以上に消耗してしまったらしい。


 大破とまではいかないが、中破程度の損傷を受けたようだ。


 これでは修理が必要になるだろう。もちろんこの状態で本土に戻ることは危なすぎて無理なので、とりあえずは神聖海軍と合流することになる。


 旗艦も失い、本当に酷い有様だ。


「セレネです。失礼します」


 艦橋に入るとヴィスタ艦長と、この艦エスペランサの艦長らしき闇黒種(トイフェル)の男が会話していた。そしてセレネの入室を見て、二人は敬礼して挨拶する。それにセレネは答礼する。


「少佐。お目覚めになられましたか。体調に問題はありませんか?」


「はい。大丈夫です。御心配をおかけしました」


 次にエスペランサの艦長が口を開き。


「殿下。お初にお目にかかります。このエスペランサの艦長を務めさせていただいているミリウス・シスぺランサと申します。この度の御活躍、目を見張るものでございました」


「ご丁寧なあいさつをありがとうございます。第三皇孫のセレネ・H・ルオンノタルです。軍では調宮。階級は少佐として任務にあたっています。犠牲者が多く出てしまったのは、私の至らなさ故であります。判断を間違えなければもっとうまく立ち回れていたでしょう」


 それを聞きシスぺランサは意外そうな表情を浮かべていた。


「殿下。お気に召されることはありません。生存者がいるだけでも奇跡なのです。それに殿下は謙虚であらせられる。驕らなければ過去の過ちも直視し、それを活かすことができることでしょう」


「シスぺランサ艦長、ありがとうございます」


 肉食獣のような歯を煌めかせる浅黒い肌のシスぺランサの見た目はとても怖い。しかし見た目によらず彼はとても優しいようだった。


 まあ、挨拶はこれくらいにしよう。


「データリンクで確認しましたが、これからの動きはどういたしましょうか」


「そうですね。主上陛下の御聖旨は最早叶えられそうにありません。そして第二艦隊がリアム殿下の宣わるようにダウンアンダー連邦を降伏させることは戦力的に不可能でしょう。まずは第二艦隊が撤退してくることを想定し、我々は補給を受けるべきでしょう」


 ヴィスタ艦長の言葉にシスぺランサも同意するように頷く。


「ええ、そのためにリンゴ島南方を目指しているのですからね。リンゴ島占領は上手くいっていませんが、補給は可能です。あとは、撤退してくるであろう第二艦隊をどう支援し、どう帰還させるかが問題ですな」


 第二艦隊の戦力では都市を落とすなんてことは出来ない。戦略兵器を多数投入したとしても陥落できない程に要塞化されているのが、この時代の都市である。


 必然的に戦闘に敗北、あるいは膠着状態になった時第二艦隊は撤退してくるだろう。多少なりとも損害を被っているはずでそれをどう援護するかが問題となる。


 彼らがいるのは大陸内陸部だ。それと同時に想像生命体(エスヴィータ)支配地域でもある。そこに向かえる戦力は宇宙軍艦隊と空軍くらいなもので、しかしそれも今や微々たる戦力でしかない。


 宇宙軍は戦力を大きく失い、空軍はまともに<アイギス>を張れないために継続的な支援は難しい。


 もし第二艦隊が都市を突っ切り海洋に出るのであれば海軍との共同作戦となるだろうが、リンゴ島攻略の最中に制海権を維持している海軍を引っ張り出すのは難しいに違いない。


 はてさて、どうしたものか。

 機密保持のためにも最低限宇宙軍艦は敵に渡ってはいけないし……。


 ああ、あとでユミトの残骸も宇宙から破壊しないといけないか。


「いっそのこと、このまま南に戻ってもらって北部からリンゴ島を攻撃してもらえば上陸作戦も上手くいきそうですけど……」


「それも微々たるものでしょう。第二艦隊には上陸能力はないですし」


「う~む……」


 三人で頭を捻るが、どうにも良さそうな手段は浮かばない。人工知能(AI)の演算を用いてみたりして見ても、やはり現状の戦力で彼らを救出することはできないようだ。


 それに第二艦隊はデータリンクをこちらと切っている。人工衛星からその進路や行動は見えるものの、細かく何をしているのかがわからない。連絡も着かない。


「はぁ……リアム兄様は何を考えているのか……」


 そんな愚痴を呟いた時、突如データリンクに信じられない一報が齎された。


「第二艦隊が都市を一つ落としただとッ?!」


 シスぺランサが驚愕のあまり声を荒げ、セレネとヴィスタも予想外過ぎる出来事に口を開くことしか出来なかった。

 まさかの進撃——。


【用語解説】

・大破、中破、小破

これらは軍艦などで損害が出た時の被害の規模を表した言葉です。大破は修理不可能なほどの損害、中破は修理すれば直る程度の損害、小破は程度の小さな損害であることを指します。ただし軍に関係なくともこの用語は使われることがあり、中には損害の値段の規模によって区分する場合もあります。

今回の第一艦隊は修理をすれば回復する程度の損害を被った艦が中破となります。失ったユミトは修理も何もないので、そのまま撃墜ということになるでしょう。想像生命体に襲撃されなければ大破となっていたと思います。


【解釈について】

 本作の死の定義は現代基準とは大きく異なっています。遺伝情報から肉体形状までの情報と、一定基準の連続性を持つ精神情報を保存できており、それを再構築できるのであれば死んでいると定義されません。ある意味個人そのもののバックアップがあれば死んでいないとされるのです。

死とは、これらの情報の内、特に精神情報に基準以上の連続性が確認できない場合を死と定義づけています。この時代に於いてそれらの情報の保存は可能ですが、コスト面からほとんどのヒトが保存しているわけではありません。上神種はこの辺りが生まれた時から自動的に機能として備わっています。

ちなみに、死の定義は現実世界でも時代が進むごとに変化しています。少し前までは心肺停止状態が死でしたが、今ではそこから復活することもあります。どんどんと医療技術の発展で死は遠くなっていき、本作世界ではかなり死がかなり遠くなっているので復活できない死を特別に”滅び”と呼ぶようになっています。

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