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episode41.覚醒

 先週の金曜日は編集足らずで投稿してしまいました(汗

ほとんど変わっていませんが、少し推敲しあとがきも追加しました。

 セレネは息を呑む。


 彼女の目の前に広がる景色は、見たこともないほどに美しいものだった。


 温かな風が吹き抜ける広大な草原と、生命溢れる緑で染められた森、心地好い(せせらぎ)が聞こえる澄んだ川に、真っ白な雪を被る荘厳な山稜、水平線の先まで波間がきらきら輝く雄大な海。


 そして大自然の合間を縫うように広がる人類の街。それは要塞都市でも、巨大な地下基地でもない。地上に広く建設された小さく可愛い家々。


 戦争も、想像生命体(エスヴィータ)の脅威も、寒さや飢餓も何もない。

死への恐怖も抱かなくてもいい。

平和な理想郷(ユートピア)


 それらが今目の前に広がっている。


 セレネの知っている星の景色ではない。どこに目線を向けても生き物がいる。大地には草と虫と動物が、川と海には魚やそれを狙う生き物が、空を見やれば飛び回る鳥たちがいる。

命が消えゆく死の星ではない。


 それらの生き物はどれも生き生きとしている。


 様々な動物がのんびりと草を食む。

肉食獣が慎重にそれを狙う。

小さな虫が懸命に飛び回り、花の花粉を運ぶ。

小鳥が華麗に舞いながら美声を囀らせる。

水の中で泳ぐ魚はどこか優雅でいて力強く泳いでいく。

青く澄み渡った空には大きな鳥が自由を謳歌する。


 思わず、セレネはその世界に足を踏み出す。こんな世界を、セレネは知らなかった。

いや、インターネットなどの過去の情報ではよく知っている。


 だが、こんな風に体験などしたことがなかった。


 太陽の光がこんなに暖かいものだと知らなかった。

こんなに土が柔らかいものだと知らなかった。

草の温もりとその柔らかさがこんなにもくすぐったくて心地好いものだとは知らなかった。

自然の香りが風に乗ってくることを知らなかった。

何もかも、知らないものばかり。


 それらはセレネを戸惑わせ、同時に感動させた。


 太陽が空で眩しいくらいに燦然と輝く様などもはやセレネの住む星にはない。

こんなにも生き物で溢れた場所も想像生命体(エスヴィータ)と人類の兵器で破壊されて失われてしまった。


「……なに、これ……」


 気付いたら泣いていた。こんなにも美しい世界があったなんて、知らなかった。


「これは私が過去に見た景色だ。まだ世界には人間しかおらず、想像生命体(エスヴィータ)など想像すらされていなかった頃の原風景」


 神聖皇帝はセレネの傍に立ち、しかしどこか寂しそうに彼女に語り掛けた。


「この景色を忘れるな。そしてこの景色を奪い去った存在を許すな。お前が選ぶ未来に、この景色の一端があることを願っているよ」


「……はい。忘れません。私は、あの笑顔のために戦います」


 セレネが見つめる先、そこには子供たちの姿があった。


 自然の中で駆け回り、みんな笑顔を浮かべながらはしゃいで遊んでいる。きっと昔はこんな子供たちがたくさんいたのだろう。自由な世界をあのように駆け回る。


 あの光景をまた取り戻せるのなら、セレネはそのために尽力しよう。


 まずはユミト乗組員を救うことからだ。


「主上陛下、そろそろ私は戦場に戻ろうと思います」


「もう少し見て行けばいいものを」


「いえ、この景色は私がいつか取り戻しましょう。見るのは、その時で充分です」


「……ならば、準備すると良い。お前の視界にカウントダウンを表示させる。頑張ってこい」


「はっ!」


 そしてカウントダウンが0を示した瞬間、セレネは現実に帰還した。


 それと共にセレネに向かって襲い来るアーマイゼの群れ。


 普通であればこんなところに放り出されてしまっては何も出来ず身体を八つ裂きにされて終わるだろう。


 だが、今のセレネには周りの景色があまりにもゆっくりとしたものに見えた。映画でよくあるようなスローモーション。もしかすると実弾銃の弾丸すら見えるかもしれない。


 ああ、これが、能力の向上?


 思考する早さが時間感覚をおかしくしてしまったらしい。こんな世界でセレネの身体も、上神種(ディアキリスティス)ゆえに多少ゆっくりでも十分動ける気がする。


 武器をなくしても、再びそれを魔法的に生み出す最適な手順すらも閃く。これからどうすべきかも作戦を閃く。


 瞬時に対想像生命体(エスヴィータ)用のプログラムが組み込まれた金作の太刀を顕現させる。これを生み出すための魔法的なプログラムは複雑だが、それすらも瞬時に組み立てられた。


 何もかもできる。

できないことなどない。


 そんな万能感を覚え、思わずセレネは口元を歪ませた。


「消えなさいッ!」


 金作の太刀と同じ性能を持つ(アーティファクト)をさらに複数顕現させる。セレネは落下速度に魔法の飛翔能力を加えて勢いよくアーマイゼの群れの中に飛び込んだ。


 イメージを膨らませ、突入と同時に複数のアーマイゼを瞬時の後に切り伏せる。そしてそれらの残骸を掻い潜るように駆け抜け、さらにアーマイゼを殺していく。


 敵の前足による攻撃もそのまま受け流し、力任せに他のアーマイゼに叩きつける。糸を通すような隙間からユミトに入ろうとするアーマイゼに遠距離攻撃を敢行する。セレネの一太刀は一度に10体以上を切断する。


 もし彼女だけなら余裕過ぎる戦闘になっていた。


 そして時間が引き延ばされた世界の中、早口にならないように気を付けながら、旗艦の戦闘指揮所に通信を取った。


「こちらセレネ。艦長に報告。これより旗艦ユミトの制御を私が行います。全員、脱出の準備を」


『何をするつもりです? こちらはもう最後のバリケードで防衛中です。もはや脱出など――』


「承知しています。しかし、生き残るにはこれしかないのです。どうか、すぐに脱出できる心構えをしてください」


『……承知した。万策は尽きた。最後の賭けは殿下にしていただく』


 そんな会話をしつつも半ば強制的にセレネは旗艦ユミトに搭載された魔力を自らの支配下に置いた。


 本来これらは大規模魔法や<アイギス>、そして流動装甲(スヴァリン)に用いられているもの。そしてその全てを制御することは超高性能な電子頭脳でしか出来ない。


 だが、今のセレネにならば、これを自らの力に出来る。


「<アイギス>」


 最後に残った魔力、それを構成するナノマシンを制御し新たなシールドを生み出す。シールドの形は元々自由自在に変えることができるように設計されている。やろうと思えば迷路のような複雑な形状だって作れる。


 今回セレネがイメージした物、それはアーマイゼを切り裂く無数の刃。それは一瞬のうちにユミトに取り付いた内外のアーマイゼを切り伏せる。


 そして上空の第一艦隊残存艦まで伸びるアイギスの壁を生み出した。それを円筒のように上空の艦隊まで伸ばす。内部を安全になるように気を付けて。


 地表に広がる地獄から生還する、唯一の道。

あらゆる攻撃から守り通す、希望の道。


 絶対に助けるッ!!

 上神種と呼ばれるヒト達の本当の力——。

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