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episode39.絶望的戦闘

 ※注意:結構残酷かもしれないので、ご注意ください。

 キャァぁアアアアッ!!!!

 ギャぁぁアアアアッ!!!!

 アガァァアアアアッ!!!!


 人々の絶望、苦悶、悲しみ、憎しみ、嘆き、蔑み、痛み、辛み。

その全てをない混ぜたような絶叫が地表のあらゆる場所から響き渡る。


 そう。地表全てがその絶叫で満たされていた。耳を塞いでも身体中を駆け巡る哀哭と慟哭が伝わり精神を否が応でも蝕んでいく。


 だが、それを発しているのはヒトと呼ばれる人類ではない。意識もなく、ただ意識あるものを喰らい続ける化け物の鳴き声だ。


 なぜ化け物でありながらヒトと同じ声域で、ヒトの感情を不安にさせる声で泣き叫んでいるのかは長年謎に包まれている。


 加えて奴らが体を動かすたびに、大昔の黒板を引っ搔いたような高音と、根源的な恐怖をそそる低音が耳に触る。さっきから鳥肌が立って仕方ない。耳を塞ぎたくても、振動そのものが寄生虫が這い回るように体内に伝ってくる。


 兎に角、不愉快極まりなかった。


「化け物めッ」


 セレネは金作の太刀を振るい、種族ゆえの身体能力で駆けていく。時には魔法を使って飛び、一撃一撃にバフを掛けて切りつける。


 アーマイゼの懐に駆け寄り、切り裂き、突き技を繰り出す。そして外骨格の内側にある神経系に自壊に追い込むプログラムを流す。その度にぐしゃりと奴らは砂の彫刻のように崩れていった。


 敵は死んでいっている。しかしどうしてもアーマイゼの数を減らす一助にはなれていない。流れる溶岩に一滴の水滴を落とすが如く勢いを削ぐには至らない。


 ユミトからは残った武装で攻撃し、上空の僚艦からも全武装を用いて攻撃を加えている。周辺のアーマイゼを滅殺しているが、異常な数を前に減るどころか増え続けていた。


 地中には想像を絶する数の敵が潜んでいるようだ。


 セレネがしていることも、防衛が薄いところに群がっているアーマイゼを撃退しているに過ぎない。


 そして彼女は飛行や攻撃用の魔法陣をいくつも描き、艦の周りを飛び回ってアーマイゼを殺していく。


 少しでも高く飛べばアーマイゼからレーザーが身体を焼く。しかし飛び回らなければ艦の防衛もままならない。切っては飛び、切っては飛びを繰り返していた。


 一見無双しているように見えるセレネでも、アーマイゼの鳴き声と、少しも油断できない現実に精神を摩耗していった。


「どんだけいるのよ。これじゃ、守りきれない……ッ」


 艦内通信からも絶望的な報告が挙げられ続けている。


『こちら後部防衛班! バリケードを突破された! 撤退の許可を求む!!』


『こちら艦底格納庫! 地下からアーマイゼが装甲を破ろうとしている!! こちらにも防衛班を!!』


『こちら艦橋防衛班!! 隔壁を突破された! これより戦闘指揮所に向けて後退する!!』


『負傷者多数!! 撤退を……撤退を求むッ!!』


 ダメだ。

 私では皆を守れない。


 それでもセレネは魔法でアーマイゼの脚を次々に切り飛ばしていく。少しでも足止めをして再生し切る前に殺すのだ。


 絶望的状況。

それでも敵への攻撃を止めるという選択肢はあり得ない。


 だが次の瞬間、艦の後部が爆発を起こした。


『こちら後部防衛班!! ジェット燃料を爆破された模様!! 多数の死傷者あり!! 隔壁も吹き飛ばされ、守り切れません!! アーマイゼがなだれ込んで、がぁ――ッ』


『敵に回り込まれた!? 敵は――ぎゃ――ッ』


『死にたくない死にたくない死にたくないッ!!』


『母さんッ!』


『ああああッ?!?!』


『神聖帝国万歳——ッ』


『主よ、どうか――』


「ッ!」


 まずい。

 防衛戦を破られた?!


 その爆発と通信でセレネの集中力が一時的に切れてしまった。そしてその間隙を突くように、気づいた瞬間にはセレネの右手足がアーマイゼに噛みつかれていた。


「あ――」


 瞬間、セレネは上空に投げ飛ばされていた。右手足は噛み千切られ、痛みを感じる暇もなくアーマイゼがセレネを食い殺さんと飛び掛かって来る。


『殿下ッ!!?』


 こちらの状況を把握していたヴィスタ艦長の悲鳴が通信越しに聞こえた。


 セレネはそれでも冷静だった。痛みで意識が朦朧となりながらも魔法陣を描く。


「<感覚切断>ッ。 <再生>!!」


 <感覚切断>によって全身から伝わる感覚がなくなり痛みが消える。<再生>によって上神種(ディアキリスティス)の自己再生よりも急速な再生によってセレネの手足も復活した。


 そして地表に目を向けようとした瞬間、セレネは全身を巡る電撃的な直観から魔法陣を描いていた。


「<アイギス>ッ!!!」


 魔法発動と同時にセレネの視界は真っ白に染まった。そして全身を焼くような熱を感じ、地表に叩きつけられる。


 あ、危なかった……!


 あまりにも上空に上がり過ぎたせいでアーマイゼからのレーザー攻撃を受けたのだ。魔法陣を描かなければ全身がその熱で蒸発していたかもしれない。


 それで上神種(ディアキリスティス)であるセレネが死ぬことはないが、戦闘続行は不可能だったに違いない。


「あ! 太刀が――!」


 しかし右手に持っていた太刀を食い千切られた時に奪われていた。これではアーマイゼの硬い外骨格を破って神経系にプログラムを流し込めない。


 プログラム自体があの金作の太刀には刻まれている。自分でプログラムを組んで、外骨格を魔法で破るしかない。だがセレネの頭脳では一体殺すだけでも数分はかかってしまう。そしてそれをしようとしている内に別の敵が襲い掛かってくることだろう。


 あの太刀は魔法で作成できる。しかしセレネの能力的にあんな精密なものを作れる余裕はなかった。


 実質的にアーマイゼを殺せなくなった。このまま戦っても、魔法で飛んでも、魔法のレーザーで身体の一部を吹き飛ばしても、セレネに群がったアーマイゼは止まらずに突き進んでくる。


 脱出もできないこの防衛戦は失敗した。


 データリンクによれば艦内に多くのアーマイゼが入り込み、残るは戦闘指揮所のみ。しかしそこは元々防衛用に設計されていない。


 突破されるのは時間の問題だ。


「ごめん、みんな……」


 きっとセレネは死なないだろう。上神種(ディアキリスティス)は身体を失っても別の地域、別の時間に新しく身体を生み出してそこに精神を定着させることができる。ある意味テレポーテーションに近い。


 だが、他の種族はそうではない。ここで終わってしまえば、本当に終わり。


 だから最後まで。

 最後まで私は戦う!


 死なない種族として生まれたセレネは、皇族本来の責任に従ってこの戦闘を放棄することはできない。

無意味だったとしても、少しでも長く命を護る!


 それが、彼女の矜持だった。


「滅びなさいっ!!!」


 目一杯の集中力を以って魔法陣をいくつも描き出し、敵に攻撃を仕掛ける。あらゆる光が敵を焼き、空気の刃が敵を切り伏せる。


 それでも敵は死なない。バラバラになっても生き物とは思えない動きで這い、再生し、襲い掛かってくる。


 そして集中のし過ぎで動きが単調になっていたセレネは、背後から忍び寄ったアーマイゼの鎌のような前足で切り上げられた。


「――ッ!?」


 声も出ず、気づけば十何mも上空に投げ出される。

思わず咳込み、多量の血を吐いた。


 それでもセレネの目は死なない。諦めない!


 真っ直ぐに敵を見据え、自分のできることを考え実行する。

敵を足止めするために。


 だがその時、セレネの視界が闇に染まった。

 こんな化け物が星全体を覆っている――。


【解釈について】

艦の防衛戦で戦闘指揮所が最後の防衛場所になったのは、ユミトの全システムを司るスーパーコンピュータと人工知能がその場所にあるからです。もしこの場所が真っ先に破壊されてしまうとデータリンクの効率が一気に落ち、武器や隔壁などを用いた効率的な防衛も不可能になります。つまり急所のようなところなので、その場所は最後まで防衛し続けたということになります。


想像生命体を殺すためには専用のプログラムを流し込む必要があります。しかし奴らは基本的に強力な外骨格や鱗、強靭な毛をまとっているため現実世界の軍隊が所有しているような小銃の類では出血させることもできません。それでいてとんでもない再生能力をもっているため、苦労してその防御を突破してもすぐにふさがってしまいます。

そもそもの問題、中遠距離では船を撃沈させるほどに強力なアーマイゼの魔法で攻撃され、近距離では強力な身体能力と刃物のような体で切り付けられます。それでいて死を恐れず、バラバラになっても再生し切る。近づくことも遠距離で殺すことも困難。

やばすぎる化け物です。

もちろん想像生命体の群れが少数であれば物量で押し切れるんです。そうやって各国は防衛しています。

結果的に物量に物を言わせるため、資源があまりにも足りず他勢力圏から略奪戦争を繰り返していたり支配下に置いていたりしています。

ちなみに、核で地表全てを焼き尽くしても今回のアーマイゼのように地下に潜む敵には有効打になりませんし、海からもどんどん上陸してくるので核もそこまで万能ではないのです。都市の近くで撃てば都市も被害を受けますしね。

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