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episode37.事故

 数時間の攻防、いや、第一艦隊からの一方的な主砲の攻撃は止まるどころか激しさを増していた。最初は一つの艦につき一つの主砲しか用いていなかったが、大陸上空に至ってからは全主砲でもって攻撃を叩き込んでいる。


 しかしというべきか、<アイギス>の前では全てが無力化される始末。ほとんど意味を成していなかった。


 それもそうだろう。大昔から戦艦などに搭載される装甲は自分の兵器に耐えられるように設計されている。同じ出力の船同士では決着が難しいのは必然。


 ただ、気がかりなことがある。なぜか第二艦隊から反撃が来ない事。そしてこちらと同じようにジェットエンジンを使用せずに進軍していることだった。


 このままではいつか<アイギス>はなくなり船を守ることができなくなる。そして第一艦隊が第二艦隊の予想進路上に先回りすることもできる。それはリアムも分かっているはずだ。


 何を考えているの?


調宮(つきのみや)少佐。このままでは埒が明かない。他の武装も使いましょう」


「了解しました。対艦ミサイル及びレールガン用意! 全艦、第二艦隊旗艦に集中砲火! 準備でき次第、一点突破で撃ち抜け!!」


「了解!!」


「続いて<神門の聖塔(バベル)>用意! <アイギス>を飽和させろ!!」


 通常兵器を一気に叩き込み、リアムのいる旗艦のみに集中砲火する。彼の指揮さえなければ第二艦隊は脚を止めざるを得ない。そしてこの時代、条件が良ければこの距離でも誤差は数ミリの精度で撃ち抜くことは容易。


 次々と同じ場所を攻撃し続ければ流石の<アイギス>も限界はすぐに来るはずだ。


 瞬間、セレネたち第一艦隊を激震が襲った。


「第二艦隊の攻撃が我が方に直撃! 問題なく防御できています」


「やっと反撃? こちらの手を緩めるな! 攻撃続行!」


「了解!!」


 第二艦隊もセレネの乗るユミトだけを狙っている。考えることは同じなのかもしれない。


 しばらくの間互いに主砲を撃ち続けた。しかしその時警報が艦内に響き渡る。


「状況報告!」


「エンジンシステムに異常発生! これは……排熱が追い付いていません! なおもエンジン周辺温度が異常に上昇中——!」


 報告が言い終わらない内にさらなる激震が旗艦ユミトを襲った。それによって立っていたセレネが思わず地面に倒れ込んでしまう。しかも床から感じる重力が弱まった気がした。


 そう。浮遊感のような。


「何事だ?!」


「艦尾で爆発!! ジェットエンジンが爆発した模様です!!」


「エンジン燃料に誘爆! 弾薬庫に被害なし!!」


 セレネは艦内データを一気に参照する。そして原因をすぐに見つけた。


 第一艦隊は第二艦隊に追いつくためにジェットエンジンを用いて加速を続けていた。しかし先ほど<アイギス>を展開した瞬間、そのジェットエンジンの熱が<アイギス>内に押し込められてしまったらしい。


 そして逃げる場所を失った熱が本来熱してはいけない場所を溶かし、ジェットエンジンを破壊。燃料を伝える管を損傷させ意図しない場所で爆発が発生した。


 もはやこれは欠陥設計としか言いようがない。だが、この事実に気づけなかったセレネの責任でもある。


「全艦、ジェットエンジンを切れ!」


「全艦、ジェットエンジン停止!!」


 僚艦は直ちにジェットエンジンを停止。これ以上の被害拡大を阻止した。


 しかしユミトのジェットエンジン付近は吹き飛び、流動装甲(スヴァリン)まで消し飛ばしている。火災も発生し、被害は拡大の一途にあった。


「質量操作エンジンに異常発生!! 後部エンジン応答ありません!! 機能停止ッ!!」


「な、なんですって?!」


 がくんとさらに揺れ、高度がどんどんと下がっていた。


 回復は見込めない。爆発によってエンジン自体が損傷を受けてしまったらしい。


「ッ! 下方に想像生命体(エスヴィータ)反応!! 地下より続々と出現してきています! 種別、アーマイゼ!」


 地表の様子をデータリンクより確認する。するとどうだろう。地表に空いた数メートルにも及ぶ竪穴から溢れんばかりのアーマイゼが雪崩を打って姿を現した。


 文字通りアーマイゼは(あり)のように群れを成し、様々な形状のアーマイゼがこの艦隊を狙わんと空を見上げている。

そして不安をそそる悲鳴じみた泣き声を上げ、不気味な青白い光を放ち始める。


 それと同時に奴らは魔法陣を展開し、対空射撃と言わんばかりの光線を撃ち上げてきた。


 数は、1000、1万、10万、20万……まだまだ増えているッ!?


「緊急事態発生を本土に連絡! 総員退艦!! 直ちに別の艦艇へ脱出せよッ!!」


 他艦艇が進撃を中止しユミトに向かって救援に入る。二番艦スペランツァと三番艦スペースがユミトから脱出してくる船員を助けに行き、四番艦シーワン及び五番艦エスペランサはユミトの下方に降りて<アイギス>を全力展開。


 下からの攻撃を防御しつつ脱出を行う。空を飛んでいればアーマイゼはこちらに手が届かない。


 だが、現実はそう甘くない。完全に壊れていないとはいえ出力の落ちた質量操作エンジンを抱えたユミトはどんどん下降していき、ついには雲の下まで降っていく。


「これ以上は危ない。全艦直ちに離脱! 安全圏に退避せよ!!」


 他の艦を巻き込むわけにはいかない。犠牲は最小限に抑えなければならない。

結局、ほとんど脱出することはできなかった。


「<アイギス>に使用していた魔力を流動装甲(スヴァリン)に回せ!! 乗組員は全員武装を装着!」


「艦のバランスが保てません! 落下速度上昇!!」


「質量制御エンジン出力さらに低下ッ!!!」


 魔法を使えば空を飛びこの船から離れることはできる。しかし攻撃を受けている間、<アイギス>や流動装甲(スヴァリン)はその熱を逃がそうと激しく奔流を起こす。それ故にそんな時に外に出てしまえばその奔流に巻き込まれて身体を引き裂かれる。


 脱出が上手くいかなかったのもこれが原因だ。


 だからと言ってそれらを展開しなければ想像生命体(エスヴィータ)に簡単に撃墜される。


 そうか。

 リアム兄様はこれを狙って――ッ!


 きっとリアムはこの船の弱点を設計図からかなり前から見出していた。だからジェットエンジンを使わなかった。


 そしてその欠陥設計を逆手に取り、想像生命体(エスヴィータ)の巣の上で<アイギス>を展開させる攻撃を加えれば必然的にこんなことになる。よって第一艦隊はユミトを救わなくてはならなくなり、第二艦隊を止めることはできない。


 しかも狙ったのがセレネの船ということから、セレネであればこの程度の危機なら全員を救えると思っているに違いない。


 そんなわけないだろう!!

 私にそんな力はないッ!


 目的のためなら手段を選ばない。

リアムはまさに有言実行していた。


「さあ! ここが地獄から生きて帰るぞ! 救援が来るまで持ちこたえるんだ!!」


「「「「はッ!!」」」」


 ヴィスタ艦長も乗組員を鼓舞し武器を手に取った。


 決死、いや、必ず生き残ることを覚悟し、全員が戦意を奮い起こさせる。中には恐怖で震える者もいるが武器を取らない選択肢を取る者はいない。生き残りたければ武器を取り、敵を討つこと以外にないことを理解しているからだ。


 セレネもまた腰の太刀を携え、進言する。


「私は遊撃隊として敵を狩ります。艦長、生き残っている武装で出来得る限りの敵を攻撃してください。艦内の指揮もよろしくお願いします!」


「殿下いけません! それでは殿下が危険に晒されます!!」


「いえ、想像生命体(エスヴィータ)を滅することができる人員は限られます。私であれば例えこの四肢が喰われようとも戦えます! 最後まで戦友を守らせてください」


「しかし……」


 指揮官の不在は問題だが、艦長ならば問題はない。それにほとんど人工知能(AI)によって全て効率化されている軍艦は最悪全自動でも敵を攻撃可能だ。


 あとは、確実に敵を滅することの出来る人材が必要なだけ。


 しかしそんな芸当が出来る者は限られる。想像生命体(エスヴィータ)を撃破できる武器を持ち、殺される前に敵を殺す技量を持った優秀な軍人、もしくは上神種(ディアキリスティス)神霊種(テオス)の上位種のような強大な力を持つ存在だけ。


 もちろんそれらが揃っても想像生命体(エスヴィータ)に対して圧倒できるわけではない。


 それでも、殺せるか殺せないかの違いは大きい。


「もうすぐ地表です!!」


「総員! 衝撃に備え!!」


 急激に傾いたユミトは艦尾から落ちていく。そして船体を真っ二つにしながら轟音と共に地表に横たえたのだった。

 絶望――。

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