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episode34.宇宙軍第二艦隊司令リアム

 セレネの属する神聖宇宙軍第一艦隊は全ての補給と点検を終えると再度空へと舞い上がり、再び戦地へ赴いていた。


 また唐突に想像生命体(エスヴィータ)の大規模な群れが現れなければ作戦に参加できることだろう。むしろそうあってほしい。あんなギリギリの戦いなど、もうしたくない。


 私も、主上陛下のような力があれば……。


 もし仮に神聖皇帝が親征遊ばされれば、侵攻先の想像生命体(エスヴィータ)は絶滅することだろう。それだけの力が神聖皇帝にはあり、メガラニカ大陸はその恩恵の許に繁栄を謳歌している。


 その力がセレネにもあれば、化け物からの脅威などこの戦場で皆無に抑え込むことができる。それどころか世界すら救ってしまうに違いない。


 だが、それはきっと叶わない。

 セレネには力がない。

 そして主上陛下はあの場所から動かない。

 きっと陛下にはその気がないのだろう。


 もちろん論理的な思考を巡らせれば、外の人間たちが想像生命体(エスヴィータ)によって疲弊している間に神聖帝国は安寧を享受できる。しかしだからといって放置していることが最善策かと問われれば、セレネは首を振る。


 ヒトがこんな地獄で生きていていいはずがない。


「……」


 それから最初の飛行よりも格段に振動を感じない艦の中、セレネたちは派遣された座標に滞空している。三日かけて南極海を渡り、上陸作戦が実施されているリンゴ島付近に辿り着いた頃には海軍が陣形を展開し終えていた。


 宇宙軍の役割としては海軍と共に陸に向けて攻撃を実施すること。大陸内陸部に至らなければ空中にいる利点も生かされないが、初期の戦闘としては十分。


 それにしても、やはりというべきかこの艦は遅い。ここまで来るのに本当に時間が掛かった。飛行する物体にも関わらずエンジン出力の影響で海上艦と同じ速度というのは、本当にエネルギーの無駄としか思えない。


 ちなみに、船の速度というものは数百年前からそう変わっていない。


 海上を奔る船は速度の二乗にならないけれどそれに近い抵抗を水から受ける。ゆえにどんなに推力を上げようともどこかで頭打ちとなってしまうのだ。

つまり、300年以上人類は船の速さを変えて来なかったことになる。


 専門家ではないセレネからすれば、シュバァ!!っと水面を水切りの如く進んでくれれば早く目的地に着けるのに、とか考えてしまう。


 ……でも、そうなったら船の中がミキサーだろうなぁ。


 今は周りの警戒と軍内の通信、艦内の点検などを除けばやることがない。現実逃避して変な妄想をしていたセレネは、唐突に入って来た通信に意識を戻された。


「時刻0530。上陸作戦が始まりました。データリンクより映像受信」


「了解」


 とりあえず確認をする。脳内に流れた情報によれば、上陸作戦では苛烈な攻撃を仕掛けているようだ。


 地表が見る影もなく破壊され尽くされている。こんな星で環境と呼べるものがあるかは疑問だが、地表がドロドロに溶けて赤く染まった大地を見ていると人類はいつも星の環境を破壊しているのだなと実感する。


「すごいものですね。でも……戦争とは、あそこまでするものですか?」


 艦長が若干戦火を情報として目の当たりにし、引いている。セレネも少し引いている。


 映像には地表が活火山の溶岩地帯になったかのような光景が映っている。戦争のためだけにあそこまでしなければならないのか本当に疑問でしかない。上陸部隊すらあの場所を進むことができないのだから。


「我が国の兵器は化け物退治には威力が足りませんが、人類には過剰火力なのでしょう」


「なるほど。その通りかもしれませんね」


 言われてみれば神聖帝国の兵器は想像生命体(エスヴィータ)か、南下してきた敵船のシールドを破壊するために威力を高めている。しかし地上に撃った記録はなく、今回が初めて。上陸作戦に支障が出るほどの威力だったのは想定外だったのかもしれない。


 それでも地表全てが歩けなくなったわけではないため上陸作戦自体は中止されていない。


 暫くして、新たな情報が送られてくる。そしてそれを通信士が読み上げた。


「宇宙軍第二艦隊が北上を開始。敵本土に向けて進撃しています」


「は? 第二艦隊? まだ編成前ではないのですか? それにそんな作戦はなかったはず」


 セレネも出発前に宇宙軍の事情をある程度把握している。セレネが指揮する第一艦隊とは別に第二第三艦隊も編成中と聞いた。しかしまだ人員不足で艦隊としても機能していなかったと聞いている。


 一体、どういうこと?


 編成前のはずだった第二艦隊が既に戦場に出ており、すでに敵本土に侵攻している。ここに来ていないということは別の戦場にいるのだろう。セレネが確認を取るとデータリンクより情報が流れてきた。


「第二艦隊は海軍から移籍した軍人により指揮されており、急遽編成されたようですね」


「指揮官は……リアム兄様?!」


 思わずセレネは声を荒げてしまった。大きな声に注目されて恥ずかしい。それでもまさかの人物に動揺を隠せなかった。


 対して艦長はびっくりしていてもどこか嬉しそうだった。


「血染めの紅太子! まさか同じ戦場に立てるなんて!!」


 何その恥ずかしい二つ名……。

 え、というかあいつ本当に英雄として扱われてるの?


「なんですか? それ」


「殿下はご存じありませんか? リアム殿下は数々の戦場で戦われ、帝国の国防に寄与する指揮を熟してきました。その戦果は数知れず! いつしか好まれて着飾られる赤い衣服は敵を滅した時に浴びた敵の血だと言われるようになったのです! 帝国半世紀の国防は彼なしには語れません!」


 あ、艦長はかなりのファンだ。

 あんな考えなしが英雄なんて……。


 それでも気になってしまったセレネはデータベースにアクセスしてみる。


 するとどうだろうか。リアムは想像生命体(エスヴィータ)の群れに対しても、人類同士の紛争でも海軍を指揮し最低限の犠牲で多大な戦果を挙げている。そんな事例がぽんぽん出てきた。


 中には以前セレネが戦った規模と同規模の想像生命体(エスヴィータ)に対して核兵器を使わずに撃退さえしている。


 二つ名も、血染めの紅太子だけでなく、殲滅皇太子、刺突の指揮官なども見られる。個人の力量でも想像生命体(エスヴィータ)の群れを滅した記録もあり、セレネの知らないリアムの姿がそこにはあった。


 うわ、ほんとに優秀だわ。


「それで、リアム兄様はなぜ敵本土に突撃しているのでしょう? 無謀では?」


「それは私にもわかりかねます……」


 リアムは敵本土の、しかも想像生命体(エスヴィータ)支配地域に向けて西部から進撃を続けている。そこには何もないはずだ。元々砂漠地帯であり、都市と呼べるものは既に滅び、遺跡だけが点在している。


 彼の行動に対してセレネが頭を捻っている時だった。唐突にデータリンクとは異なる通信が入る。


「神聖帝国本土より通信です。ッ!? コード識別、銀雪皇宮エリュシオン! 神聖皇帝陛下よりダイレト通信です!!」


「な、なに?!」


「主上陛下?!!」


 あまりにも予想外過ぎる人物からの通信に艦内はパニックになる。驚きすぎて皆が目を見合わせ、頭を抱え、姿勢を正す。セレネもあんぐり口を閉じることができないまま、通信を受けることとなった。

 いやいやいやいや、何してんねん陛下——。


【解釈について】

一艦隊に向けて一国の皇帝が通信を掛けるなんて普通はあり得ません。いや、してはいけません。普通に舐められる行為です。何してるんだと突っ込みを入れざるを得ないのは私だけではないはず。

軍に指示を出すのは国防省やら国防大臣または宰相やら総理大臣などの文官です。シビリアンコントロールの基本ですね。それに対して皇帝の位の者が口出しするとなればシビリアンコントロールを否定しているようなものになってしまいます。人間の国家でこれをするとかなり致命的で、賢帝であれば問題はないんです。しかし世代交代で皇帝が普通、あるいは愚帝となってしまっては軍部が皇帝を操って好き勝手に行動できてしまいます。シビリアンコントロールが完全に破壊されてしまうほどにやってはいけない事なのです。ただ、神聖帝国に於いてはちょっと判断が難しく、神聖皇帝自身に寿命があるのか分からず、そもそも誰も口出しができない天上人以上の存在です。実際建国からずっと君臨し続けているわけで、それ以前からずっと生きている存在です。世代交代すら起きず、神聖皇帝自身はかなり優秀なのだと評されています。終わり無き賢帝の統治というやつですね。

ただ、このような行動をしているということは神聖帝国は議会制民主主義を置いていながら、神聖皇帝による独裁的な発言力を有していることになります。そしてそれを許しているのが神聖皇帝自身の圧倒的な力。

これを良しとするか否かは難しいところですね。特にこの過酷な世界では。

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