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episode28.輸送艦隊救出作戦Ⅱ

 正直、こんな世界になってほしくないものです。

 かつて星を破壊せしめるとさえ言われた破壊兵器。その威力、副産物、そのどれもが人類を破滅へと誘うとされた抑止力。しかしそれ以上の脅威を前に、もはやその兵器を恐れる者はいない。抑止力になり得ない。


 それどころかこの時代では対照的に核兵器を神格化し、科学的宗教の象徴的な存在として君臨している。世界から崇められる希望の兵器となった。


 過去の歴史を振り返れば、それを希望と考えていること自体異常だ。それでもこの2世紀弱の常識に他ならない。


 そのような存在を積んだミサイルは今、迎撃され数を減らしていく。しかしついに辿り着いたそれが遺憾なくその威力を放出した。

それも指向性を持たせたゆえに、上空に向けられるエネルギー量よりも海面に向けて放出されたエネルギー量が遥かに高いもの。


 次の瞬間何もかもを焼き尽くす閃光が海上を照らし、大量の海水が水蒸気へと変貌した。それでも消費し切れないエネルギーは大気や水蒸気さえもプラズマにし、光が全てを飲み込んでいく。急激な温度上昇と複数発の核爆発により上昇気流が発生。いくつものキノコ雲が形成されていった。


「起爆を確認! トランコの三割が蒸発確実範囲! 殲滅確実と思われます!」


「よし! 主砲準備次第撃て! 輸送艦隊に近づかせるな!」


「はっ!!」


 核爆発の中心付近にいたトランコはその熱量によって蒸発。しかし蒸発しきれず身体の一部だけを残したものは海底に沈み再生を始める。体表だけを焼かれた、もしくは身体の一部を欠損したトランコはそのダメージを完全に無視して突撃を止めない。


 それでも輸送艦隊に襲い掛かろうとしていたトランコを減らすことができた。残っているものも距離ができたため時間が稼げる。


 再生し続けるそれらとさらに後方から襲い掛かろうとするものを止めるべく、セレネの指示通り神聖宇宙軍艦隊は長射程ながら主砲を撃ちまくった。この時代、例え200㎞離れていても1㎜の精度で当てることができる。50㎞先にいる今の敵なら十分充てることができるだろう。


「ひれを狙え! とにかく足止めに専念せよ!」


「了解っ!」


 大気中で曲射される指向性エネルギー(レーザー)兵器はその性質上トランコに迎撃されることなく直撃していく。その体表を莫大な熱量で吹き飛ばし、身体を内外関係なく焼き尽くし、四肢や胴を切り飛ばす。それにより前衛のトランコは十全に泳ぐこともできずに進行速度が著しく低下していった。


 だが、滅ぼせていない。いや殺してすらいない。あれらは躊躇なく、感情や考えを全く彷彿とさせず、ただただ殺戮を行うためだけに泳ぎ続けている。


 恐怖もなく、これからの損害も全く考慮せず、まるで死兵の如き進撃を続けている。それはもはや生物の行動原理ではない。異常な存在だと改めて認識する。


「ッ! トランコ、魔法陣を展開! 目標は我が艦隊の模様!」


 報告が言い終わらない内にトランコの攻撃が艦隊に直撃した。しかし事前に<アイギス>にて防御していたために直接的な被害は出ていない。


 ただ、こちらも主砲を撃ちづらくなってしまった。


 <アイギス>はあらゆる波長の電磁波を遮断することができる。想像生命体(エスヴィータ)からの攻撃をも防げる優れものだ。


 しかしそれは内部の船から放出されるレーザーのエネルギーさえも全く通さない代物ということ。もし<アイギス>を張ったまま主砲を打てば、その電磁波は行く当てをなくしエネルギーは全て熱となって船を丸焼きにすることだろう。


 簡単に言えば、自らの熱で自らをオーブン焼きにするようなもの。


 ゆえに<アイギス>と主砲を共に使用する際には、主砲を撃つ瞬間だけエネルギーの通る隙間を作る。もちろんこの隙間に敵からのエネルギー兵器の攻撃を受ける確率は非常に高くなるため、どうしても主砲を撃つ頻度を下げる他ない。


 つまり、攻撃手段を奪われる。


 普通であれば。


「主砲は無理のない範囲で攻撃続行! 続いて、攻撃魔法<神の光(アラマズド)>の準備を急げ!」


「了解!!」


 神聖帝国に於いて世界の中で最も進んだ技術、それは魔法に関する技術だ。


 そして<神の光(アラマズド)>は想像生命体(エスヴィータ)が遠距離攻撃する様を参考に開発されたもの。魔法陣を<アイギス>の外に展開して発射するため熱が<アイギス>の中に溜まることもない。


 いわば、魔法版の主砲である。


 威力も科学版の主砲と変わりないものだが、大きな欠点がある。それはあまりにもエネルギー効率が悪いこと。そしてそのエネルギーは<アイギス>と同じエネルギー源であるため使いすぎると<アイギス>を展開できなくなってしまう。


 しかし逆に言えば、使いすぎさえしなければこちらは完全防御した上で攻撃を十全に続行できる便利システムでもある。


 そして今回その魔法に助けられた。


「トランコからの攻撃密度が高まっています! <アイギス>、3%消耗! 25分程で飽和されます!!」


「かまうな! 艦自体の装甲もある! 輸送艦隊が安全圏に離脱するまでこちらに引き付けろ!!」


 正直、今の命令はいただけないものであったかもしれない。もう口にしてしまったことは戻せないが、セレネは自分の中で反省する。


 艦自体の装甲とは言っても、それは最終的に直撃したエネルギーを散らしたり爆発の威力を緩和する最終防御手段。流体装甲(スヴァリン)と呼ばれるこれに攻撃されるということは、それを突破されれば全員が死ぬということ。


 あまりにも命を懸け過ぎた命令に、部下たちが従ってくれているのはただ彼らが忠実で勇敢な兵士だからに他ならない。


 だから、失敗はできない。彼らの信頼を裏切ることは決してできない。


「本国からの援軍はまだか?」


「40分後に沿岸防衛部隊(ヤハセムマ)が到着する予定です! 沿岸防衛部隊(ヤハセムマ)の最大有効射程に入るまで、残り35分!」


 艦長の質問に的確に返された内容。それを聞いてセレネは歯噛みした。

 間に合うのか――?


【用語解説】

・アラマズド

伝説的英雄美麗王アラと最高神アフラ・マズダーの伝承が融合した結果祀られた神の名。かつては主神として祀られていた。全ての神と女神の父、そして天と地の創造者。そのような位置づけにあった存在。光と太陽、そして豊穣を司る神でもある。本作世界では太陽の如き光を顕現する魔法として使われ、その結果敵を打倒し国家繁栄とそれによる生活の豊かさを与えるという願いを込めてこの名が付けられた。


・ヤハセムマ

えっと、馬に乗って走りながら弓を射って的に当てる有名なあれです。流鏑馬の古い言葉。


【解釈について】

科学のように世界共通して信用されるものとなるとそれはある意味人類が信じる宗教のように私には思えてなりません。まあ、実際、そういう性質があるのは否めません。しかし科学が今までの宗教と違うことは魔法のような本当の奇跡を人類に与えたことでしょう。そしてその奇跡が、人類の滅亡から救うものだと誰が見ても明らかだった場合、その対象は科学的宗教の象徴となるかもしれません。本作世界では核兵器がそれですね。

ちなみに、科学が与えた本当の奇跡はとても当たり前のことです。数式という法則を見つけ出し、それによって設計図やプログラミングという魔法陣を組み上げ、実際に発動させることで奇跡を発現する。空を飛び、火をおこし、水を操る。そう、この世界は魔法で満ち溢れた世界なのです。仮によく物語で語られる魔法が溢れた世界に行けば、その世界ではそれを科学と呼び、私たちが毎日使っている技術を魔法と呼ぶことでしょう。


指向性を持たせた核兵器については、私が飼っての思いついたものなので現実世界ではかなり難しいのではないでしょうか?指向性を持たせようにもそれに必要な壁は一瞬で蒸発してしまうので。しかし本作世界のように核兵器が使われまくる世界なら実現できているのかもしれないと思いました。

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