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episode27.閑話 この世界についてⅠ

【豈皇国国立図書館禁書庫に保管された歴史書より引用】


 この世界に想像生命体(エスヴィータ)が溢れてから180年余。この時代に至るまでの人類史は最悪と言っていい。


 全人類が未だに悪魔祓の光石(セレニテス)のコピー品を手にする前の時代、持たざる国は想像生命体(エスヴィータ)に対して絶望的な戦いをしていた。かつては抑止力として使われていた最終兵器、核兵器を通常兵器として使うほどに。


 最初の数時間で最初の都市が壊滅した。その後数日でほとんどの都市が瓦礫の山となった。7日経つ頃には人類の生存圏のほとんどが炎と灰に包まれた。一月で3分の2に当たる60億人が死んだ。そして人類以外にも数多の生命が絶滅した。


 奴らが喰い荒らした大地はどんなに小さな虫でも死滅する。意志のない植物だけが取り残されるが、それも人類が放つ炎で死に絶えた。


 人類は戦った。とにかく戦った。それしか生き残る手段がないから。


 しかしそれは戦いとすら呼べぬものであり、残った数少ない記録を参照すれば一週間で国が100以上滅び国民は虐殺された。どこに逃げても脅威は去らず難民も一つの場所に留まらず流浪するしかなかった。


 今まで通常兵器と呼んでいた代物では足止めはできても想像生命体(エスヴィータ)を一匹も殺せず、数多の犠牲を払ってなお国土を失い続け人間は決断した。核兵器を使うしかないと。そして実際核兵器によってのみある程度を圧倒的な熱量で消滅させることができていた。


 ゆえに彼らが核兵器を頼ったことは必然的な思考回路だったのだろう。


 想像生命体(エスヴィータ)は多種多様に存在しているが、共通していることがある。


 あまりにも早すぎる再生能力と死を明らかに恐れないこと。


 寿命も確認できず、止まることなく半永久的に活動し続ける。体の一部さえ残っていればそこから再生し復活して再び襲ってくる。


 世界各地で発生した化け物は全ての人類に戦いを強いた。


 圧倒的な不幸の中で唯一の幸運は想像生命体(エスヴィータ)はどんなに小さな生物であろうとも全力で集団で襲い掛かり、個体としてのスピードは速くても全体としての侵攻速度が遅かったことだろう。そのおかげで比較的安全な場所の確保を可能にした。


 しかしこんな悪夢の中でさえ人類は団結しなかった。人類の中から人間ではないものが現れ始めたからである。それらを総じて人間は差別的に非人間種(ヘテロ)と呼び蔑んだ。


 彼らは総じて身体的特徴が人間から外れたり、おぞましい姿に変貌したりと様々な変化が現れた。その現れ方も様々。


 生きている人類が変異したり、生まれてくる子供が人間でなかったり、死者が復活したり、そもそも何もない場所から現れたりと多種多様だった。


 そんな中で虚空から神と自称する存在さえも現れてしまっては世界は混沌にならざるを得ない。


 非人間種(ヘテロ)の持つ特徴に想像生命体(エスヴィータ)と酷似したものがあることから、世界中のほとんどの人間種は彼らを虐殺し始めた。どちらも想像生命体(エスヴィータ)に喰われて殺されるという共通点を持っていたにも関わらず協力しなかった。


 人間が人間ではない種族に変化した原因を探る暇もなく、自称神がどこから現れたのか研究する暇もなく、人間はただ人間ではないものを排除して回った。それほどに人間は種の単位で恐慌状態に陥っていたのだ。


 そして神や人間でない者たちも人間を殺し返す。三つ巴の戦いは延々と続いた。


 だからこそ、神さえも屈服させた上神種(ディアキリスティス)の一人が神聖皇帝を名乗り神聖ルオンノタル帝国の建国を宣言した時はさらなる敵の存在に極限まで世界は混乱し、ついに戦線は瓦解。人類の絶滅は確定したかに思えた。


 しかし人質を取られた神聖皇帝と豈国の戦いにて双方は手を出せなくなり、双方に技術供与を行うことで争いの中で初めての和平を結んだ。


 その結果豈国は悪霊払の光石(セレニテス)劣化版(モンキーモデル)の設計図を手に入れ、神聖皇帝はメガラニカ大陸を開発するために必要な技術者と技術、資材を手に入れた。そして世界で安定的な国家を作り上げることに成功した我が国は皇国を名乗りナショナリズムを全面的に推し進めた。


 それから我が国は悪霊祓の光石(セレニテス)の国産化に成功し、悪霊払の彫像(ショウキ)と命名。世界の友好国に提供した。他の人間国家が要塞都市を建設し国家が安定するまで。


 ちなみに、神聖ルオンノタル帝国に対する人間国家の認識として、国家という形態をした想像生命体(エスヴィータ)の一種であるという見解すら存在する。

我々からすればかなり真実から遠い。


 そもそもあの化け物は我々の過ちとそれに対する罰によって生まれたもの。あれらを主軸に考えている内は、他の国家に想像生命体(エスヴィータ)の排除は不可能だ。


 逆に言えば、我々は真実を知っているからこそ、想像生命体(エスヴィータ)の脅威を排除できる。そして人間国家一の工業力と先進科学開発、魔法技術解析を実施する。


 我々の敵は想像生命体(エスヴィータ)でも神聖ルオンノタル帝国でも神聖皇帝でもない。人類の理想郷を作り上げようとする、傲慢な(アルコーン)だ。


 それを殺すためなら人間性すら捨てよう。

 本当の敵は――。


【用語解説】

・ショウキ

鍾馗のこと。疫病神を追い払い、魔を除く存在。日本では疱瘡除け、学業成就などの意味合いが込められ、絵や彫像として祀られている。想像生命体を魔とするのなら、それを剣で刺しているような絵や彫像が用いられているのかもしれない。


・アルコーン

グノーシス主義における低位の存在。あるいは偽の神。悪魔とも解釈されている。対してさらなる上位の神的存在としてアイオーンがある。しかしこれらも位としては一番上位というわけではなく、グノーシス主義によれば世界の創造主たる劣悪な神と人間の心の中に自らの要素を閉じ込めた善なる至高者が存在しているとされる。アイオーンはこの至高者に由来するもので、アルコーンに対して真の神と呼ばれる。アルコーンは最高執政官の称号で、世俗的権力者などの意味を持つ。いわゆる地上の支配者のことを示す。

そのような定義で言えば、本作世界の神聖皇帝もアルコーンと言えなくもない。


【解釈について】

この資料が禁書庫に保管されているということは、一般的に知られてはいけないけれども国家としては保存しなければならない重要書類の一つということ。後々の話にも関わってくる、かもしれません。

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