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episode25. 初戦闘

 今回はちょっと長め。

「第二種救難信号を受信! 我が国の海軍輸送艦隊からです!」


 第二種救難信号。それは救難信号の中でもより特殊な事例に於いて使われる。


 より詳しく言えば、想像生命体(エスヴィータ)に襲われた時に発する救難信号だ。しかしそのような事例は神聖帝国に於いてほとんどない。そのため()()()のカテゴリになっている。


 それにセレネは疑問に思う。そしてヴィスタ艦長もそれは同じようで部下に問い質した。


「どういうことだ? 悪霊祓の光石(セレニテス)は付けていないのか?」


「確認します」


 通信を分析している部下は直ちに輸送艦隊の情報を精査し始める。


 悪霊祓の光石(セレニテス)。それは神聖皇帝がこの世界に齎した奇跡の産物。


 想像生命体(エスヴィータ)が世界に溢れた際、神聖帝国の基本装備となった対想像生命体(エスヴィータ)システムである。世界各国も同様の装置を真似て手にしているが、元型は全てこの悪霊祓の光石(セレニテス)だと言われている。


 このシステムはある種の結界のような作用を生み出し、想像生命体(エスヴィータ)から認知されにくくする。もちろん全てを追い払えるわけではないが、自分たちを奴らから見つからないようにするだけでも革新的なのだ。


 各国の都市や船舶などを守るために人類は24時間使っているほどで、被害件数が9割減ったデータもあるほど。


 ただし、認識されにくくするだけであり、たまたま近くを通りかかった想像生命体(エスヴィータ)には見つかってしまう。このようなこともあるので外の人間国家では年に何個かの都市は壊滅しているらしい。


 だから、もしかすると今回もその可能性が考えられる。


 そして全ての情報を洗い出した通信士が報告を上げてきた。


「輸送艦隊全艦、悪霊祓の光石(セレニテス)を装備しています。システムも異常ありません。しかし想像生命体(エスヴィータ)の群れが接近してきているとのことです!」


「データリンクより衛星映像取得! 表示します!」


 ヴィスタ艦長とセレネの前に新しいディスプレイが表示される。衛星から送られてきたリアルタイム映像だ。


「なんて数……」


「これは、トランコか」


 映像には白い体毛に覆われた想像生命体(エスヴィータ)の一種トランコの姿があった。


 特徴的な長い鼻のような器官を振り上げ、象とも鯨とも言えない形容詞難い肢体で海面を引き裂いて疾走する。響き渡る鳴き声は恐怖と絶望をヒトに芽生えさせる海洋全てに響くかのような低い唸り声。


 かつては未確認生物とされていたそれに容姿が似ていることからその名称で呼ばれている。ロマンとして扱われたその名は、この時代では忌み嫌う想像生命体(エスヴィータ)の名として知れ渡っている。


 あれらは特にメガラニカ大陸周辺で暴れまわる迷惑な種だった。


「情報収集と予測進路を導き出せ! すぐにだ!!」


 その命令によって戦闘指揮所はより慌ただしくなった。


 あれらは群れを形成し、鯱と鯨を追いかけていた。どちらも絶滅危惧種で鯱と鯨は食べ食べられる間柄だが、彼らは互いのことなど気にせず逃げている。仲間に気遣う余裕もないほどに。


 それだけトランコは脅威なのは言うまでもない。人類でさえもあれと真正面から戦うと言えば、絶望を抱かざるを得ない。


 だが、不思議なことがある。トランコの群れはどう連携しているのか、半径25キロの綺麗な円を作り内側の獲物を狩る包囲を縮めていた。


 981体のトランコが連携するその様はまるで追い込み漁のそれ。


 その円の中に、運悪く神聖帝国の輸送船団が進んでいた。進路を変えようにも必ずトランコに遭遇する。これでは悪霊祓の光石(セレニテス)も機能しない。


「ソナー員は何をしていた?」


「それが、突然深海から現れたそうで、気づいた時には包囲されていたと。音を観測した時には遅かったらしいです。海底にも異常は見つけられなかったと報告を受けています。今から20分以内に輸送船団と接触します!」


 これはまずいかもしれない。データリンクを見る限り近くには来れそうな神聖帝国の戦力はない。来るまでに多少の時間が掛かる。空軍はすぐに駆け付けられるが、火力が足りるかどうか。


 だが、この艦隊なら間に合う。


「艦長。救出しましょう!」


 セレネは艦長に進言する。対してヴィスタも真剣な表情で頷いた。


「はい。少佐。もちろんです」


 そして艦長は命令を下す。


「全艦に告ぐ! これより輸送船団の救出に向かう! 総員、戦闘準備!!」


「「「了解!!」」」


 作戦の予定にズレが生じるが仕方ない。人命が第一だ。


「本土の空軍からミサイル射出。数1240!」


 神聖空軍が出撃し特殊ミサイルを解き放った。ユミトの戦闘指揮所のディスプレイにはその戦闘の様子が映し出されている。


 それは対想像生命体(エスヴィータ)兵器搭載のミサイル。通常のミサイルと違ってあれらは爆発によって相手を吹き飛ばすのではない。あのミサイルの本当の真価はさらにその中にある。


 ミサイルは目標上空で爆発を起こし、中に仕組まれた子弾が想像生命体(エスヴィータ)に向かって音速の何倍もの速度で突き刺さる。つまり、榴散弾だ。


 そしてその子弾はアーティファクトと呼ばれる代物で魔法的なプログラムが仕組まれている。このプログラムを流し込まれた想像生命体(エスヴィータ)は自壊する。かけらの一つでも刺されば多大な犠牲と大量の弾丸を使わずとも滅ぼせる。


 神聖帝国が誇る世界で最も進んだ技術だ。


 だが。


「トランコ周辺に魔力が集中! ミサイル、迎撃されています。命中数、17……っ!!」


 自壊に追い込んだ個体もいるが、全体の量からすれば微々たる数。数値にして、1.37%。

100発撃って2発も当たらない数。


 トランコのような想像生命体(エスヴィータ)には知性がない。機械のようなプログラムもない。ただそこに存在し、ただ無差別に電気的な信号を持った存在——神経細胞やコンピュータの回路など——を襲う化物である。


 それゆえに帝国の保護から外れた種だが、なぜか魔法を行使してくる。


 そんな化け物がレーザーを放ち音速の20倍から30倍で向かってくるミサイルを迎撃するなど悪夢でしかない。世界を破滅の淵に追い込んだそれが、未だに1000体弱。


 そうだ。あれはただの生物ではない。世界を脅かす怪物なのだ。


「空軍ミサイル全て撃ち尽くしました。対艦レーザーを照射していますが、芳しくありません」


「普通なら小国一つが一瞬で歴史から消える規模の攻撃だぞ。バケモノめ!」


 艦長が悪態を吐くのも仕方ない。人類はあれらを駆除できず、200年弱もの間都市とその周辺地域しか実質的に確保できていない。近づくだけで精神を乱され、肉体強度と再生能力は生物のそれを凌駕し、何より死を恐れない。


「全砲門展開! 準備出来次第報告せよ!」


 今度はセレネが指示を出す。他の国は知らないが、艦の方針は艦長が、戦術レベルの指示は副艦長が行う。つまり、セレネの仕事。


「攻撃を行う前に各システムの最終チェックを! 動作不良など、あってはなりません!」


「「「はっ!!」」」


 これは初の実戦。この飛行戦闘艦にしても実験以外では兵器を使用していない。さらに兵士たちはまだこの空中戦闘艦の扱い方に慣れていない。自動学習システムも基本的な操作方法しかマニュアルを作れていないのだから。


「主砲異常なし! ミサイル発射管にも異常なし!」


「魔力正常に循環中。魔法行使に問題ありません!」


 その他含め全てのシステムに問題ないことが報告される。それを受け、セレネは艦隊前方を睨んだ。


「全艦、全速前進!」


 それから細かな指示を出していく。


「輸送艦隊の突破口を開きます! 輸送艦隊に南進を指示。飛行艦ユミト、スペランツァ、スペースは輸送艦隊の避難方向の敵に集中砲火! シーワンは左翼、エスペランサは右翼の敵に攻撃開始! その両翼の敵を抑え突破口を塞がれないように気を付けろ!」


 彼女は言葉で伝えると同時にデータリンク上に命令内容を入力していく。これによって細かな指示を可能にした。


 ついに、彼女らにとって初めての戦闘が始まった。

 ——世界の敵との闘い。


【用語解説】

・セレニテス

あるいはセレニティス。月長石、つまりムーンストーンの古い名です。その意味は月。石に込められた意味は健康や長寿、恋の予感、厄払いなどこれ以外にも数多くのものがあります。ヒーリング効果もあるとか。光石は、確かムーンストーンを表していたと思ったのですが、なぜか調べても出てきませんでした。ということで想像生命体を悪霊に見立てて悪霊払の光石と呼びます。

名称からもわかる通り、セレネの名前と由来を同じにするのですが……まあ、それはいつか解説します。


・トランコ

海の象。正式名称マーゲート・シーサーペント。いわゆるUMAの名称で二体の鯱と互角に戦っている様子が観察されたとか、色々噂されている未確認生物です。まあ、とある理由で想像生命体はUMAの形をしていることが多いという設定があります。知っている人からすると、本作の想像生命体は超魔改造されているのでどう思われるかは謎ですが。


・アーティファクト

人工物や工芸品という意味で、人工遺物などに使われる用語で、言葉自体は有名なものですよね。神聖皇帝が生み出し、神聖帝国に齎した人工物。本作ではそんな意味合いですね。世界を滅ぼした怪物を自潰させて滅ぼせるのですから、この世界からすると一見進みすぎた技術にも見えますね。

まあ、そもそも届かなければ意味がないんですけどね。


・榴散弾

簡単に言ってしまえば、砲弾の中にたくさんの散弾(小さい金属片など)が詰まっていて、一定高度でそれをばらまき広範囲に渡って被害をもたらします。似たようなものにクラスター爆弾があり、子弾と呼ばれる小さな爆発物をばらまくのがクラスター爆弾です。しかしこのクラスター爆弾については衝撃によって爆発する子弾を用いられるため、不発弾が発生しやすいです。その非人道性から禁止条約が作られ、現実世界では日本などが批准したため自衛隊もこの装備を手放しました。しかし不発弾の問題さえなければいいわけで、EFPと呼ばれる似たような装備が開発中のようです。

実はEFPは近年の戦争アニメで採用されていたりもします。これは金属を自己鍛造してぶつけるため、戦車などの機甲部隊にも有効的に働くかもしれません。(設定上EFPと魔法は相性が悪い)

どちらにしろ、これらの兵器に共通したものは広い範囲を効率よく制圧することです。物量で攻めてくる敵に対してかなり有効的に働きます。現実世界でも宇露戦争で用いられるくらいには面制圧できる代物なのでアメリカが提供し続けているとかなんとか。


・ユミト、スペランツァ、スペース、シーワン、エスペランサ

これらは全て違う言語で希望という意味です。

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