表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/78

episode23. 正式配属

 すみません。今回はちょっと短め。

 しばらくして第三皇孫セレネが戻ってくるとハミングは最敬礼で彼女を向かい入れた。彼女が戻ってくるまでの間、一人でいられた。そのためハミングの現実逃避も少しは抑制され冷静さを取り戻しつつある。


 もちろん彼の恐れる皇族はすぐ目の前にいて、彼の心はその恐怖で縛られているままなのだが。


「改めまして、お初にお目にかかります。ミライレ・ハミングと、申します。司令を拝命し、この基地全体の指揮を執っているものでございます」


「はい。初めまして。ハミング司令。先ほどは我が兄がご迷惑をおかけしました。後ほど、割れてしまったカップなどは弁償させていただきます」


「いえ、そこまでしていただく必要は、ご、ございません。私が手を滑らせてしまっただけにございます」


 静かに返答を続けるハミングだったが、内心かなり警戒し続けていた。皇族はかなり自分勝手な行動を取るものだ。この第三皇孫も今はそのようなことを宣わっていないが、その本心ではどう思っているのかはわからない。


 故にハミングはどうしても気を抜くことができなかった。


 早く、こんな時間が終わってくれ……っ!


「ハミング司令。そろそろお顔をお上げください。私は軍人としてあなたの部下となる者ですよ」


「い、いえ……しかし……」


 正直に言えば、あまりのストレスに身体が動いてくれなかっただけである。このままでは不敬になってしまうが、動けないものは仕方ない。


 ぎりぎり冷静であるものの、一歩間違えればパニックになりそうだ。


 そんな彼にセレネが歩み寄る気配がする。


「あなたが私たちを恐ろしいと思っていることはわかります。しかし、どうか私の目を見てお話しください。立場というもがあることは確かです。それでも私は、あなたを含め臣民と信頼で繋がりたいのです」


 ハッとなり、ハミングは顔を上げる。そして恐る恐るその目を見た。


 そこにあったのは恐ろしいものではなかった。慈愛に満ちた笑み。ただ、それだけだった。


 他者を考えていない皇族の有様はなく、今この場にいるハミングのことをしっかりと真っ直ぐに見つめてくれていた。その端正な顔立ちゆえに浮かべた笑みは可憐という他ない。


 眼の前にいる存在は、今までの皇族とは違った。どんなに努力しても歯が立たない恐怖の対象でも、自分勝手に行動するのでもない。この皇女は柔和に微笑み、目の前にいるハミングという存在をしっかりと捉えた瞳を向けてくださっていた。


 そして絶対なる種族の圧力も発しておらず、逆に夜月のような美しく優しい雰囲気を醸し出している。初めて安心感を覚える皇族の姿に、ハミングの心は揺り動かされていた。


「殿下……」


「私は確かに皇族であり、この国で責任のある立場です。しかし今日から私はあなたの部下となり、共に戦うのです。どうか私に対して頭を垂れないでください」


「ありがとう、ございます……っ!」


 ハミングは再び頭を下げた。しかしこれは許しを乞うためのものではない。ハミングはよく分からない感情に心が震えていた。


 セレネの気持ちが、その優しさが、あまりにも美しく気高く思えたのだ。気づけば恐怖で縛られた彼の心は開放され、内側から湧き上がる熱いもので満たされいる。


 そして感謝を込めて再び礼をした後、顔を上げた。それから姿勢を正す。


「では、殿下。私は司令として殿下に……調宮(つきのみや)少佐に正式な配属の旨を通達する。誠心誠意軍務に励むように」


「我が愛する神聖帝国のため。そして臣民の未来のために粉骨砕身励みます」


 セレネの宣誓と共に正式にセレネは宇宙軍の軍人となった。


 ちなみに調宮(つきのみや)とは、それぞれの皇太女——神聖皇帝の娘たち——の家で分けた時の苗字のようなもの。いわゆる宮号だ。


 調宮は第六皇太女と第七皇太子の家をそのように呼ぶ。そしてセレネはその二人の一人娘だ。


 もちろんいとこ同士で兄弟と扱う文化があるため、こういった軍役や学業の際の苗字の代わりとしてでしか使い道のない号ではある。


「少佐には早速ですが、すぐに艦隊を率いて出撃してもらいます。正式な部隊配属の通達は戦地となるでしょう」


「失礼ですが、あまりにも性急すぎませんか? 戦場はそこまでひっ迫しているのでしょうか?」


 セレネが疑問符を浮かべるので、ハミングはひと呼吸してから大事なことを口する。


「これは、主上陛下の聖旨であらせられます」

 次回、戦場へ――。


【用語解説】

・聖旨

最高敬語とされる言葉で、本来は天皇の考えや命令などの意味を持ちます。本作では神聖皇帝の思し召しという意味で使っています。本来これにはなんら強制力のようなものはないのですが、最高権威の言葉を無視したりないがしろにするということは国家に忠誠を誓う軍人や政治家にとって本来ありえないほどの不敬なことで、下手すれば国賊として討伐されかねません。そしてその影響力の高さから天皇や皇帝の位に座する者はむやみやたらに使うものではありません。つまり、本当に大事な時にしか使わない切り札的なカードな訳です。

この暗黙のルールを国民、もしくは皇帝がないがしろにすると大抵国家が滅びてしまいます。(日本はこの暗黙のルールを壊しかねないことを何度もしてるし、現代もそれっぽいから危ないのは秘密)

ちなみに、本エピソードのように個人に対して聖旨を送るなど、個人的にはただの乱用としか思えません。


【解釈について】

 セレネの親は……まあ、姉弟なんでしょうね。この世界の常識で考えると遺伝的にも倫理的にも色々マズいのですが、そもそも彼女たちは人間ではないのでその制限もありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ