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episode22.喧嘩

「リアム兄様。ヒトをあそこまで怖がらせるなんて、何をなさったのですか?」


 司令室を出てすぐの廊下でセレネはリアムに問い詰める。


 たぶん自分の顔は人生で一番怖い笑顔を浮かべているだろう。なぜ分かるかといえば笑っているつもりなのに、目の間のリアムが引きつった表情をしているからだ。


 まあ、怒りと軽蔑は確かに抱いていたが。


「お、俺は何もしていない! それよりも、だっ! 聴かせてもらおう! なぜお前は従軍したのだ!」


「はぁ……。これで半世紀以上生きてるなんて、嘆かわしい……」


「流石に怒るぞ? セレネ。俺はお前を心配して――」


「心配? あなたの行動で我々皇族がどう見られるのか、兄様の小さな頭では理解できないのかしら? ああ、それともシスコンを発症してるの? 仕事をほっぽり出してここまで来てるもんね? うわー」


「……」


 リアムは引きつった表情をさらに引きつらせて、若干青筋を浮かべていた。だが、セレネも喧嘩腰で相対する。


 普段は温厚と侍女たちの噂で最近話題となっていたらしいセレネでもリアムには辛辣にならざるを得ない。いや、皇女としての態度を忘れてしまう。それこそ世の中のセレネの噂らしく。


 なんか、こう、馬が合わないのだ。やってることや言ってることその一つ一つがセレネのしたいことと真っ向からぶつかる。一体どうすれば冷静に話し合えると言えるのか。


 いや、もしかしたらカティスと同じ顔でセレネを不愉快にさせるからこそ、嫌悪感が出るのかもしれない。双子でもカティスの方がよっぽどヒトとして尊敬できた。対して、リアムはセレネの理想とする皇族像とはかけ離れているように見える。


「兎に角。他人のことを考えて行動してください。兄様は皇族として褒められるべき姿を見せるべきです」


「……悪かったな。お前のことを考えていたら冷静さをなくしていたのは事実だ。だが、これだけは本当に聴かせてほしい。なぜ軍に入る? 禄でもないことになるぞ」


 それはどういう意味だろうか?


 軍というものがよほど悪いところなのか、それとも凄惨な戦場のことを言っているのか。どちらにしろ軍に所属していながら軍に所属することを禄でもないというリアムの一言は責任あるものとして信じられない言葉だった。


「私はただ、カティス兄様の最後を知りたいだけです。外地で消えたカティス兄様を探すには外地に行ける今しかありません。そして、リアム兄様。あなたがこの十年何も情報を集めていなかったことも知っています。だからこそ、私が直接行くしかないのです」


 その言葉を聞いて、なぜリアムは遠くを見つめるような瞳をした。その視線の先に何があるのかはわからない。けれどすぐに彼はため息を吐いて言った。


「あいつのことを何も調べなかったの事実だ。これから俺が調べると言ってもお前は聴かないのだろうな。ああ、くそっ!! なぜお前まで戦場に出るのだ! 俺はもう失いたくないんだ!!」


 これが皇族なんて、この国は大丈夫だろうか?


 軍に所属するにあたりセレネは戦場の記録にも目を通している。その際に出た結論としてどう見てもリアムは損害度外視で効率的に敵を屠る戦い方をしているということだ。つまり、臣民の命など彼の前ではあまりのも軽いものでしかない。


 ヒトの心がないのであればそれはそれで納得できたかもしれないが、親族なら心配するなど国家を背負う皇族としてあり得ない考え方だろう。いつか彼は責任を放棄して親族だけを救う選択をしてしまうのではないかと思ってしまう。


 ……それとも、私がおかしいのかな?


「お話になりませんね。兄様は一度自分が何者なのか、鏡とにらめっこしてはどうです?」


「どういう意味だ?」


「はぁ……。とにかく、これは主上陛下直々に承認していただき、かつ推薦していただいた決定です。文句があるなら主上陛下の考えを変えてください。」


「主上陛下……主上陛下だとっ! ……くそっ!!」


 リアムは悪態を吐いているが、それをセレネは無視する。リアムは納得できていないようだが、帝国最高権威の決定に逆らうほど愚かではないと思いたい。


 本当に、この国は大丈夫なのだろうか?

 あんなのが海軍で命令を出して回っているなんて。


 セレネはまたため息を吐く。そして再びリアムに声を掛けた。


「そういうわけですから、帰っていただけません? ここは宇宙軍。兄様の海軍に帰ってください」


「……ここで話しても無駄なようだ。じゃあな! セレネ。あまり戦場では気を抜くなよ」


「ええ。また、戦場でお会いしましょう」


 そうして二人は別れた。それからセレネは一度嫌悪感を抱えた心を落ち着かせるべく深呼吸を繰り返す。そして平常を取り戻すと司令室の扉を開けて再び入室するのだった。



            ☽



 そんな兄弟喧嘩をリュミナスは眠りながら仕事をしつつ、聞いていた。

どうということはない。これは彼女のいつもの日課だ。そして寝ている間も色々なことができる。


 ほんと、運命って変わらないのかしらね?


 リアムとセレネは短絡的なところで似ている。セレネのあれの態度は同族嫌悪に近いのではないかとすら思えてならない。どちらにしても冷静になれていないから話し合いが通じないのだ。


 そんな結論を出すリュミナスも二人の間を取り持つつもりはない。彼女は非常に忙しいから。あと少しで安寧の眠りに就けるはずなのだが、それまでは自分の魂を酷使して技術開発に取り組まなければならない。


 まあ、未来を考えるならセレネに注目するのは主上陛下も変わらないのね。


 リュミナスは再び仕事に集中する。この後1時間後には再び起床して他の仕事をしなければならない。少しでも休めるように、リュミナスは自らの思考速度を下げていくのだった。

 手を出さないだけ二人は大人――。

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