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episode21.第二皇孫

 部屋の入り口から発せられる尋常ならざる迫力。上神種(ディアキリスティス)の特有の全てをひれ伏せさせる気迫と隠そうともしない絶大な魔力。


 そちらに目を向ければ、銀朱色の髪をした美青年、第二皇孫リアム・H・ルオンノタルがいた。


「これは、リアム殿下。一体、いつこちらにいらしたのですかな?」


 ハミングはもう心が限界で、不安や恐怖を通り越して表向き至極冷静になってしまっていた。彼をよく知る者が端から見れば感情を失ったようにも見える。


「我が妹が宇宙軍に配属と聞いて文字通り飛んできたのだ!! そんなことよりも教えてもらおう! どうしてセレネが戦場に立つことになったのだ!!」


「そんなことを言われても――」


 知りませんよ。


 思わず本音が出かかったところでハミングは口を噤む。もう開き直っている彼にも家族がいる。家族に被害が出ないように余計なことは口にできない。


 今は現実逃避し始めている心をつなぎ留めなければ。


 ハミングは位の高いリアムに対応するために立ち上がる。それと同時に手の甲を抓って自分の頭を再起動しようと試みた。


 冷静でない第二皇孫などまともな会話が対応できるはずもないが……。


 そう思いつつもハミングは受け答えをしていく。


「実は、国防省より伝達がありました。セレネ殿下自ら志願したと伺っております。皇族の方の意見には最大限応えるのが臣民としてのあり方であり、正式な手順を踏まれております。セレネ殿下個人の適性も問題なく、我らがその提言を拒絶する理由はどこにも――」


「ならば! 少なくとも俺には伝えるべきであろう?! それくらいのことならできたはずだ!」


 そんな滅茶苦茶な……。


 思わずため息が出そうになるのをハミングはぐっと堪える。


 そもそも基地司令のハミングにはおいそれと皇族に連絡して良い立場ではないし、もっと言えばリアムは海軍軍人。ここは宇宙軍だ。管轄が違いすぎる。


 しかしそんなことを言ったところでまともな反応が返ってくるとは思えない。傲慢な皇族は馬鹿な発言をするものだから。それでも艦隊を指揮するほどに優秀な頭脳も兼ね備え実績を上げているのだから質が悪い。


 どちらかと言えばこのリアムは狂人の域に達しているのかもしれない。


 この帝国は大丈夫だろうか?

 そういえば、アストロンはどこに行った?

 ……。

 ……逃げたか。

 面倒臭がりめ。


 祖国の未来を憂い部下の勝手な行動に怒りも湧かないことを実感していると、今度はドアが複数回ノックされた。しかしリアムが入る際に開け放っていたためにその向こうにいる人物の姿を容易に捉えてしまった。


「あ……」


 セレネ殿下!


 ハミングは祖国の未来を憂うどころか、今回の問題の中心人物が現れて、数分先の自分の尊厳すら憂う事態になったと確信した。そしてそこからあまり記憶がない。



            ☽



 セレネは部屋の様子を伺って顔を引き攣らせていた。というのも目の前に自分の苦手な人物がいたのだから。


 しかもその彼が問題を起こしたのか、司令と思しき人物は目から光を失いながら薄く笑みを浮かべている。しかも先ほど本当にこっそり部屋から逃げる軍人も見かけたし。


 いや、ここほんとに軍事基地?

 規律どこ??


 そういえば目から光を失った司令と思われる軍人はセレネを見ただけでさらに諦観めいた顔をした気もする。


 私は何もしてないのに……。


 まあ、皇族が恐れられていることは知っている。けれど、ここまでヒトに絶望を与えるような経験は経験したことがない。

まるで自分が悪役の誰かになった気分だ。


 こっちが気分悪いよ。


「セレネ! 聞いたぞ! 軍に志願したと! どういうつもりだっ!!」


 セレネが思わずため息を吐きそうになっているとリアムが彼女を見つけるやいなや詰め寄ってきた。


 正直セレネはこの兄リアムが嫌いだ。リアムはセレネの敬愛するカティスの双子の兄。カティスと同じ顔でありながら、全く異なる性格をしているからどうにも嫌悪感を覚えざるを得ない。


 しかしだからとってあからさまに嫌な顔ができるわけない。なので、セレネは貼り付けたようなニッコリ顔を彼に向けた。


「リアム兄様。……うるさい口を閉じてください。耳が腐りそうです」


「な、なんだと?!!」


 あ、つい本音が……。


 言ってしまったものは仕方ない。唖然としているリアムは放っておこう。


 本当に嫌な人物に会うと口が悪くなるのはセレネの悪い癖だ。毎回改善しようとしているのだが、本能的に嫌な者が相手だと口に出てしまう。


 ほんとに会いたくないんだけど……。


 とりあえず司令に挨拶をするべくセレネはリアムを無視した。まだ後ろで何か言っているが、知らん。


 対して現実に戻ってきた司令官らしき人物は深々とセレネたちに最敬礼をし、笑みを浮かべているがどこか壊れた笑顔だ。もっと言えば、精霊種特有の宝石のような羽の色が元気なく脱色し、光さえも発していない。


 もう休めばいいのに。


「この度は、お日柄も、良く……ようこそ、おいでくださいました。宇宙軍中央基地司令のミライレ・ハミングと申します」


 ついでに言えば話す声は歯切れ悪く抑揚がない。感情全てがなくなってしまったように現実逃避から帰れていないようだ。もはや彼の中では限界なのかもしれない。


 どうしよう……?


「えっと、はい。お初にお目にかかります。セレネ・H・ルオンノタルと申します。つかぬことをお聞きしますが、体調などは大丈夫でしょうか?」


「い、いえ。ご心配には、及びません。そのような配慮を賜っただけで、き、恐悦至極でございます……」


「……」


 本当にどうしようか?

 このままだとこちらの要件も冷静に聞いてくれない気がする。

 つまり、まずすべきことは――。


「ハミング司令。失礼ながら少し席を外させていただきます。兄様。お話をしてもよろしいかしら?」


「なんだ? やっと話す気に――」


「自分が何したかわかってんの?」


「……」


 とりあえずセレネは殺意を込めてリアムを睨み、その腕を掴んだ。そして彼を引っ張って司令室を後にしたのだった。

 本当にこの国大丈夫——?


【用語解説】

・カティス

意味としては「行儀の良い」「礼儀の良い」という意味があります。


・リアム

ウィリアムと同じ期限を持ち、古い言葉でウィラヘルム?という言葉からきているとか。ウィラは「意志」、ヘルムは「兜」を意味するそうです。繋げて意味を考えると「断固とした保護者」という意味だとか。

本当にカティスとは名前からしても性格が真反対なんだなぁ、と名前を聞いてから納得しました。

(私が意味を知ったのはキャラクターの名前がパッと頭に浮かんでから後のこと)


・セレネ

これを解説するとIQ160以上たぶんだとネタバレになるのでまたいずれ。まあ、名前自体は有名ですが。


【解釈について】

 国ってどこもかしこも良いことも悪いことも抱え込んでいるものですが、神聖帝国も大小あれど変わりません。皇族がこれだと普通は革命やらなんやらで殺されてしまいそうですが、国内最大宗教の権威的存在で他種族が対抗できない力を持っているとなるとそれも難しいんでしょうね。

ちなみに、本作世界では神聖帝国は平穏な国トップ3に含まれています……。

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