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episode16. 新兵器

 超強化氷結晶(パイクリート)によって支えられ氷床に穿たれた局所的ハイパーループに乗り、セレネは帝都近傍の宇宙軍基地に訪れていた。


 今日からこの基地の所属となって軍人としての活動を開始する。


 この基地も氷床の中に建設されているが、地上に軍を展開しやすいように様々な出入口が設けられている。最近ではより大きな搬入口も造られたとかで、意外と空からは目立ってしまっているらしい。


 軍事基地としてそれはいいのだろうか?


「着いたわね」


 数瞬の気圧調整の後に厳重な扉が開くと窓のない車両からセレネは降りた。後ろにはセレネの監察官である黒目黒髪の人間種(ロイテ)の女性が着いてきている。


 他の国であれば護衛のポジションとして複数人着くところだが、まさか軍へ配属されるのに護衛の行列を作るわけにもいかない。


 というか、セレネには護衛はそもそもいない。彼女はどの種族よりも圧倒的に力のある上神種(ディアキリスティス)。適切な条件下であればダメージを受けるという概念すらない、そしてそもそも皇族を害するには皇族と同等の力を要する。ゆえに護衛する意味がない。


 ならばどうして監察官が必要なのかといえば、どちらかというとセレネがどこにいるのかを肉眼で確かめるためという意味合いが強い。


 つまり、セレネが何か問題を起こさないかどうかを見張っているのだ。そして監察官の報告は全て神聖皇帝へ報告される。問題があるとされればその皇族は各種族の代表者が集まってその正邪を判断し、最終判決を神聖皇帝が采を下す神明裁判(クガタチ)に掛けられる。


 私、問題起こしたことないんだけどなぁ……。


 それだけ皇族は大事にされると同時に、危険な存在と見られているのかもしれない。そんな風にいつも自分を納得させている。


 ただ、完全無表情でじーっと見ながら着いてくるのはどうにかしてほしい。

 正直怖い……。

 いや、別に害されるから怖いとかじゃないけれど。

 なんか、怖い。


「お迎えに参りました。第三皇孫殿下」


 しばらく歩くと基地から出てきた軍人に声を掛けられ、セレネがそちらに顔を向けると軍服に身をまとった幻獣種(ミシカル)の女性がいた。彼女は全身が鱗に覆われたトカゲのような見た目のヒトで、その感情表現も少々分かりづらいがどうやら緊張しているのが伺えた。


 予定より結構早めに来たけど、どうやら急いで迎えに来てくれたらしい。

 少し迷惑なことをしたかもしれない。


「私は神聖宇宙軍大佐のリムエル・ノウスパッシャーでございます。本日はようこそお越しくださいました」


 リムエルは恭しく頭を垂れて挨拶をする。それにセレネも微笑を浮かべて返した。


「お迎え、ご苦労さまです。しかしこれからは共に宇宙軍の所属者として共に務めを果たす身。私のことはどうぞ、後輩と思って指導して頂けると幸いですわ」


「はっ。謹んで拝命いたします」


 う〜ん。

 ちょっと違うような?


 まあ、帝都はともかく、その外となるとセレネも交流はあまりない。皇族というだけで緊張されてしまうのだろう。


 これは最初の課題ね。

 まずは打ち解けないと。


 そうして通された場所は氷床を刳り貫いた巨大な格納庫だった。格納庫だけで帝都の一階層分の広さがある。


 そして、数ある兵器群の中でもとりわけ目を引くものがあった。


「あれは何かしら?」


 疑問を口にすれば、案内役のリムエルが答えてくれる。


「あれは我が軍で開発された浮遊型艦艇になります。お恥ずかしながら今までにない技術を詰め込んでいるため、原理は技術開発省の方にお聞きください」


 え?

 飛ぶの?

 飛ばすの?

 船を??


 セレネは困惑してしまう。暫くしても疑問符が頭から消えることがなかった。なぜなら全く意味がわからないからだ。


 しかし実際に何隻もの船のようなものが目の前にある。ただ海洋の流体力学に基づく形状ではなく、独特な形状をした乗り物と分かる何かだ。数百年前であれば空想科学と断じられそうだが、この時代では陳腐的なデザインでもある。


 そして積まれた多くの武装が放つ迫力と威圧感は、この船が軍艦だとハッキリと主張していた。


 どちらかと言うと近未来の武装宇宙船、宇宙戦艦ね……。


 セレネは困惑を隠しきれず、呆然とそれを見つめてしまう。そんな時。


「ふわぁ~……。……あら? もうセレネが来る時間だったかしら?」


 声のした方を見ると見覚えのある人物がいた。

 不必要にしか見えない船――。


【用語解説】

・ハイパーループ

鉄道?ではないけど、それっぽいものです。チューブの中を真空、または低気圧状態にして空気抵抗を極限まで無くすことで超スピードを実現する(現在想定されているのは時速1200㎞)乗り物です。現実世界ではアメリカが開発しようとして頓挫し韓国が計画だけを出していますが、日本では地理的な問題で開発ができないものでもあります。地震が発生して少しでも穴が開いてしまうと、たぶん爆縮してループ全体が押し潰されたように破壊されてしまいます。というか、日々の点検すら全線を破壊しかねないリスクを持っているこれを採用しようとするのはちょっと……。

と、いうリスクを考慮して本作神聖帝国では局所的に(具体的には乗り物のカプセル周辺だけ)を低気圧にし、爆縮させないようにしています。氷河もずっと動いているので、パイクリートで常に形状を変化させることでその圧力を逃がしてはいます。

どうやって局所的に減圧しているのかと言えば……正直推測はできるけどできるのか否かは不明。ただし、気圧の変化による疲労でハイパーループが壊されないためにパイクリートの定期的な新調が自動的に行われていると思います。


・パイクリート

水と植物繊維系の物質をとある比率で混ぜ合わせて凍らせたものです。複合装甲……まあ、現実世界でも使われている(戦車とか)特別な装甲の一種なんですが、過去に一度兵器として使われたこともあります。氷山空母というものですが、結局実戦では使われませんでした。それでもその溶けにくさと、高硬度、高靭性、そして海水を使っていくらでも再生できることから「これ使った空母は沈まないのでは?」と期待されていた素材だそうです。

身近なところで言うと、あずきバーとかもそれに近いとかなんとか話が出回っていたりします(確かにあれはサファイヤと同じくらい硬いか、瞬間的にそれ以上)。

まあ、結局考案者の名前を元に作られたこの素材で空母は作られませんでしたが、本作の神聖帝国ではもう少し改良が施されて装甲の一部に使われていたりします。この世界では自然由来の繊維はかなり高価になっているため、ナノマシン(魔力)を混ぜた水を凍らせることでパイクリートを再現しています。こうすることでパイクリートの欠点だった作成の難しさを簡単にしています(そもそも魔法で凍らせる技術が作られたのもこれのためだったり)。

ここではハーパーループに用いていますが、都市の外壁やら海軍艦艇の最終装甲などに用いられていたりしていると思います(宇宙軍艦艇には使ってません。周りに水がないことを想定しているので)。


・神明裁判

本来は神の意志によって物事の正邪を判断して采を下す裁判のこと。まあ、私からすれば魔女裁判と何が違うんだと言いたいけれど。一応日本でも似たようなものが行われていましたね。

もし集団的心理の集約によって神という存在が顕現するのなら、かなーり残酷冷酷理不尽な神ですよね。それ故に表裏一体の結果が出るとしても人間の寿命の長さからすると、かなりサイコパス気質だなぁと。


【解釈について】

船を浮かすといった発想はよくあるけれど、根拠は語られることはないように感じます。ただ、神聖帝国の実情を知っていくとこれは必要だなぁとしか思えず、逆にこれをこの世界で実現できていることにびっくりです。

まあ、追い込まれた者は異常な発達を遂げるのでしょうね。

あと、これはただの通過点で、本気で浮いてる軍艦を作ろうみたいな目標を立てていたわけではないです。根拠はちゃんとあります。

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