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episode15. 不安

 三箇日と休日はおやすみです。6日にまた会いましょう。

「ははは……。このまま地下深く、マントルの底まで行って隠れたい……。いや、籠ろう」


「もしそんなことになれば、鉱脈無視で資源採掘庁の職員が迎えに行きますよ?」


「じゃあ、星の中心部まで逃げるわ」


 まあ、軽い冗談ではあるが、実際そんなことが起きればどこまでも星を穿って追いかけられそうではある。


 実際、核融合技術が成熟して以来、世界各国は自国だけで資源を揃えるべくマントルに至るほどの深い坑道を堀り抜いている。結果から言うと採算が合わなくなってきているそうだが、それでも生きるために大国はそのようにして資源確保を実行している。


 地表近くの鉱山を手にしている国家の方があまりにも少ないのだ。


 何を言いたいのかというと、地下を掘りぬく技術はこの星では当たり前のものになっているということ。


このまま逃げたら帝国の経済すらも揺らがしかねないほどに迷惑をかけるかもしれない。


 星の中心部に行くのは……全てを捨てた時くらいにしておこう。

もちろん、セレネがそんな無責任なことができる立場であるわけがないのだが。


「……もういいわ。今さら何を言ってもどうにもならないもの」


 それで、とセレネは言葉を続けて。


「もうひとつ確認したいのだけれど、私の配属先になる"宇宙軍先進技術及び実験兵器運用部隊"とは、なに? 名前長すぎない?」


 名称からして配属先は宇宙軍だろう。しかし宇宙軍の主な任務は偵察と監視であり、持っている分かりやすい兵器と言えば、

軌道兵器"魔の槍(レーヴァテイン)"や”戦術核(ヌリエル)”くらいなもの。


 他には偵察衛星を含めたあらゆる機能を持つ72の人工衛星"カドゥケウス"の運用と管理をし、神聖帝国の通信環境の一部を支えている。


 そんな表向きあまり活躍のない影で支えていることが多い宇宙軍の実験兵器とは一体……?


「申し訳ありません。私もこの指令書で初めて知りまして、全く把握できておりません。各方面にも調べさせたのですが、曖昧な情報ばかりでして……」


「極秘ということかしら? 今回でその秘匿も解かれるみたいだけど」


 神聖帝国では兵器開発の内容と言うものは公開する。だが、国家として公表するには危険があるとされるものだけは隠されて開発されることが多い。


 もちろんこの慣例を悪用すれば、不必要な兵器群を製造出来てしまうが、今のところそのような事例は起きていないとされる。


 すなわち、本当の意味で秘密兵器をこれから扱うようになる。恐らく運用ノウハウを得るための部隊なのだろう。


 しかし、かつて人類が宇宙に飛び出た際は前人未到の世界に向かうために多くの犠牲者を出したという。一番最初というものは危険が伴うものだ。


 決して楽な仕事でも、安全な仕事でもないことを心に刻もう。


「まずは生活様式を改めなくてはね。派兵されることも増えるでしょう。学園には報告してくれる?」


「もう既に」


「相変わらす仕事が早いわね。ありがとう」


 そこでセレネはスィリアがとても不安そうにしていることに気づいた。


「殿下。……本当に、従軍なさるのですか?」


 そこで気づいた。スィリアは本当に心配しているのだと。彼女からすれば妹を戦場に送るようなものだ。


 彼女にとって、心情的には認められる訳がない。


「ごめんなさい。スィリアを不安にさせるわね」


「いえ、殿下がお決めになったことです。私は、大丈夫ですから……」


「ふふっ。スィリアも素直じゃないことがあるのね」


 セレネはスィリアを抱き締めた。彼女を安心させるように。


「これは皇族としての、役目。そして、最も強い種族として生を受けた宿命よ。この力は、国のために使わなければ、盟約に反することになる」


 神聖帝国の全種族が結ぶ盟約。そこには一つの種族、すなわちセレネの種族である上神種(ディアキリスティス)を頂点として各種族に平等な生存権を与えるとある。対して上神種(ディアキリスティス)は国家代表としての責任を背負わなければならない。


しかし生存権を得るためにも神聖帝国に対する貢献がなければならず、貢献が見られなければ段階を踏んで処分が下されていく。


そしてその盟約を守るために皇族も必ず何かしらの貢献のために働く。上の者が実践しなければ面目も立たないから。


ただ、別に軍でなくとも良い。神聖帝国への貢献ならば、何でも良い。


セレネが従軍するのは自分勝手な願望があるから。それを神聖帝国への貢献とすり替えて実行しようとしているだけ。


だがそれは、スィリアに話す必要はない。余計な心配をさせるだけだから。


「私は幸せよ。なに不自由なく暮らせて、欲しいものも多くを手にしてきた。だから、今度は私が我が帝国と臣民に恩を返したい。この国難に()って、軍へ志望することが一番だと思ったの」


 嘘だ。

 しかし結果が言葉通りならきっと――。


「……殿下のお気持ちはわかりました。なら、せめて――」


そこでセレネは思いっきり抱き締められた。

それに少しびっくりしてしまう。


「今夜はずっと甘えさせてください」


「ふふふ。いいわよ。でも、変なことはしないように」


「心得ています」


そうして暫くの間、セレネはスィリアを慰めていた。

 嘘つき皇女の勤労奉仕――。


【用語について】

・軌道兵器

現実世界では地球の軌道上に設置された人工衛星の一種で、地表の敵あるいは他の人工衛星を攻撃するための宇宙兵器です。しかし宇宙デブリの問題から宇宙条約で包括的に禁止された代物です。しかし実際に作られた攻撃型の人工衛星も過去には存在しており、旧ソ連ではアメリカの人工衛星を破壊する目的でマシンガンのような銃器が取り付けられたこともあります。現実的ではない陰謀論ではアメリカの神の杖なども有名です(核兵器並みの威力を出すことは高校物理で計算すると不可能であると私が実証済み。しかし小さな目標を攻撃する技術を持っているのは現在アメリカだけなのも事実)。


・レーヴァテイン

世界そのものに近い意味を持つ世界樹を照らし出す雄鶏を唯一殺すことのできる魔法の武器とされる。神話内に於いてその形状は明記されていないが、一般的には剣であるとされている。ただし、槍や杖、はたまた矢や細枝の形状をしているともされている。剣とされているのは古語に於いて「~の枝」と書いて剣を表すからという話もある。

レーヴァはレーの複数形かつ「~の」の助詞を付けたような言葉で破滅、禍い、不吉なこと、裏切り、害など負の意味を持つ。テインは枝や杖の意味を持つ。つまり、「破滅の剣」。

ただし、レーヴァテインは固有の剣を指し示す言葉ではないとする論調も存在する。

本作の神聖帝国では違約して伝えられており、「魔の槍」とされている。主な攻撃対象は想像生命体エスヴィータである。


・ヌリエル

完全に忘れてしまいました。すみません。ウリエルの別名かとも思ったのですが、どうにもそんな情報はない。信憑性の低い情報筋によると悪魔を追い払う力があり、魔除けに使う火の属性を持つ天使の名前だそうです。これなら後に出てくる魔法アイテムとの名称の関連性が見られるのでこの情報が元なのかなとも思うのですが……何せ、この話を書いたのが5年くらい前なので分かりませんね。

誰かそれっぽい情報を持っていたら教えてください。


・カドゥケウス

本作世界では、現実世界のGPS衛星のように星全体を監視する人工衛星として使われています。

名称に関してはかなり情報量があるためここでは割愛。ただし、「伝令」の意味合いを持つ。72という数値については、完全にその関連性を忘れてしまいました。ソロモン72柱の名称がそれぞれの人工衛星に付けられているのかな?とも思うのですが、これを書いた時の私は何を知って、何を覚えていて、これを採用したのか……。

対立物の統合によって完全性を示すとされており、こんな名称を使っているにもかかわらず本作世界はその完全性から遠のいてしまった世界ですね。いくつかの対立物は統合で来たのに神聖帝国は結局完全にはなれなかった。皮肉の産物なのかもしれません。GPSが世界を一つにまとめる力を持っているのに、本作では神聖帝国だけが使っているんですから。


・ディアキリスティス

とある言語で管理職を言い表す言葉。神さえも含めて全ての種族を管理する皇族らしい言葉ではないでしょうか?


【解釈について】

 セレネは情報収集を欠かしていません。そしてそれを手伝ってもらうためにスィリアにも情報収集させてあらゆる面から物事を把握しているのです。

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