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episode14. やらかし

「一体、何がどうしてこうなった……?」


 気づくとセレネは自分の部屋のベッドに横たわっていた。そして起き上がると同時に目の前の事実を見て頭を抱えている。


 記憶が曖昧だ。少し酒を飲み過ぎたのかもしれない。しかし問題なのはそんなことではなく目の前のこと。


 ベッドから這い出て、サイドテーブル上に表示された画像を見てみれば、何やらとんでもないことが書かれていた。


『セレネ・H・ルオンノタル


次の通り、新月歴173年1月1日付けを以て、下記の部隊への配属を命ずる』


 軍への配属通知。そして書かれた日にちは明日。


 なぜこんなにも早く配属が決まってしまったのか理解ができない。確かに神聖皇帝に頼んだからおかしなことはないが、さすがに早すぎる。普通はこのような配属はもっと時間をかけて行われるものではないだろうか? 配属となったからには全力で取り組む所存ではあるが、いつの間にここまで話が進んでいるのだろう。


 まさかと思うけど、陛下って私の心を読んでずっと前から画策してたとか?

 ……。

 ありうるわ……。


 というかこちらは全く準備ができていない。そもそも何をすればいいのかの内容すら把握できていない。これでは明日の配属に間に合うはずがない。


 いや、間に合わせなければならないのだけど。

 訓練プログラムを今日中に提供してもらえるのかしら?


「スィリア。いる?」


 声を掛ければ直ぐにスィリアが入室してきた。


「どうかなさいましたか? 殿下」


「これについてなのだけれど、ほとんど憶えてないの……。なんで配属がいきなり明日になってるの? 酒のせいで……何もわからない……」


 表示された物を見て、スィリアはどこか納得したような顔をした。そして気まずそうな表情を浮かべる。


「本当に憶えておられないのですか?」


「ええ……」


「ならば、知らない方がいいかもしれません」


 その言い回しにセレネはものすごく嫌な予感を覚えた。


 だが、知らないわけにはいかないだろう。


「正直に言って。全てを受け止めるわ」


 何かしらまずいことが起きたのならしっかりと把握すべきだろう。皇族という立場でありながら問題でも起こしていたら責任を取らなければならない。責任逃れはヒトとしてすべきことではない。


 そのセレネの言葉に、スィリアは少し躊躇するように視線を逸らせる。しかしセレネが視線を送り続ければ、降参というように口を開いた。


「昨日の……主上陛下との会食のことは憶えておられますか?」


「えっと……途中までなら……」


「その時のことで……後で聞いたところ、殿下はお酒を飲まれていたそうです」


 セレネは頷く。


 そこは憶えている。いつもは飲めないからかなり美味しかった。


「ただ、殿下はそのお酒の味をお気に入りになったのか、その……結構な勢いで飲んでおられたようでして……。その際に明日にでも軍へ赴くと殿下が仰られたと主上陛下がお話になりました」


「……まさか、陛下がそれを押し通したと? 酔っぱらいの戯言を?」


「はい……。陛下曰く、陛下の御前で魔法のドレスを着たまま気を失う余裕があるのだから、やってくれるだろう、と……」


「え……ええっ?!」


 理由もとんでもなく陛下に不敬だが、それ以上に不敬なことを仕出かした可能性が出てきた。


 思わずセレネはサイドテーブルに足をガタリとぶつけながら立ち上がる。そのまま確認するようにスィリアに歩み寄って重要なことを尋ねた。


「スィリア。か、確認するわ……。もしかして私は陛下の御前で……」


「……はい。残念ながら」


「む、むにゃぁぁああああッッッ?!?!!!!」


 咄嗟に頭を抱えて変な叫び声を上げてしまった。

思わず恥ずかしさのあまり壁に頭突きをしてしまう。しかし大きく傷ついたのは壁であった。


 まさか気を付けていたはずなのに、それも陛下の前で恥体を晒すなど、あってはならないことだ!

あの場所でセレネは意識を失った。ということは魔法ドレスは消えてしまい、セレネは陛下の前で下着姿を晒したことになる。


 大変なことになった。皇族とは言え不敬罪に問われかねない。いや、そもそもそんな曖昧な罪状は公式にはないのだが、陛下に天罰を降されようと文句も言えないことは確実で……。


 兎に角それだけのことをしてしまった。


 それに何より恥ずかしい!

 自分があられもない姿を晒したなど、考えるだけでも厭わしい!


 救いだったのは、あの場が公式の謁見ではなかったことくらいだ。おかげで目撃者は非常に少ないのだが、それも慰めにはならない。


 あ、壁に八つ当たりはダメね……。

 反省したいけど……今は恥ずかしすぎて無理!!!


「あと、陛下は、脱ぎ上戸なら普段から脱衣癖を直せ、とも仰られ――」


「そんな癖はない! 断じてない!!」


「ええ。それは私も存じております。存じておりますが……そう捉えられても致し方ないかと」


 陛下の中でセレネは変態と映ってしまったのではなかろうか?


 そう考えると、種族を全滅させるほどの生物兵器でなければ風邪も引かないはずのセレネですら頭痛を覚える。しかし今さらやり直せるわけもなく、ただただ現実を突きつけられる。恐らく酔いつぶれたまま自室に運ばれたのだろう。


 最早弁解の余地すらなかった。


「殿下、お話は変わりますが、物は大事にしてください」


「わかってる! あとで私が修復しておくわ!!!」


 セレネは全くの無傷であった。

 セレネ、強ーい……——。


【解釈について】

 そういえば、前にセレネが「仕方ないことでしょう」と言っていたけど、これ、戦争になるとかなり怖い言葉だなぁと思います。仕方ないは自分への甘えの言葉、あるいは許しの言葉。

 仕方ないから今は諦めて次に繋げようならいいんです。しかし国がやってるから仕方ない、となると怖いものです。

 戦争になってしまったから仕方ない。戦場でヒトを殺さないといけないから仕方ない。生きるためにやってるんだから仕方ない。守るためにやっているから仕方ない。これを繰り返すと”仕方ない”と認めてきたことが”普通”になって、それがいつか”日常”に変わってしまうのです。それを戦争の狂気と呼ぶのでしょうか?

 戦争でなくとも、社会構造もこれの延長線上にあり、みんなが仕方ないと思ってそれが是正されることなく積もり積もった結果が私たちの生きる社会な訳です。

 幼い頃からこの”仕方ない”という言葉を私は嫌っていましたが、成長するにつれてその怖さをより実感してきましたね。

 本作世界でもこの”仕方ない”という言動の結果が招く事態がどうなるのか掛ければよいのですが、それは私の力量次第、ということですね。


 セレネは現実世界の日本で言うところの未成年です。なので、仮に本作がアニメ化でもしたら飲んでる飲み物はジュースになるか年齢が誤魔化されそうですね。(昔のアニメは普通に子供が飲んでたのに)

 本作世界の神聖帝国でも一応お酒を飲んでいい年齢というものは定められています。しかし神聖帝国は多種族国家であるわけで、種族によって酒への耐性もかなり変わってきます。さらには医療技術の発展に伴って酒の悪影響を減らすことも容易になっています。このことから人間種であれば20歳少し前まで飲んではいけないのですが、セレネの種族となるとそもそも自我が芽生えるまでダメとか細かく決まっています。

 ということで、セレネは人間種ではないため普通に飲んでいい法律が神聖帝国にはあるわけです。

つまり、本作世界では問題ありません。

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