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締めているとはいえ僅かに空いたカーテンの隙間から朝日が漏れて部屋に入ってくる。部屋が僅かに明るくなり、それによって自然と総司は目を覚ました。前日に遊び過ぎたがしっかりと睡眠をとったためか疲れは完全に抜けきっており、体は軽く感じる。
ベッドから起き上がるとカーテンを開け、体全体で朝日を思いっきり浴びる。
「んーっ! 今日もいい天気だな!」
窓に向けていた体を反転させ、部屋の中を見る。住み始めてすでに1週間。すでに見慣れた部屋にある時計に目をやった。いつも起きる時間よりまだ少しだけ早い。どうやら少しばかりはやく目が覚めたようだ。
そのまま二度寝するつもりもない総司は制服に着替えて朝食をとる。取り終えると今度は身支度をして、いつもより少し早い時間ではあるが、登校することにした。
「あれ、ソウ君?」
「レーちゃん!? おはよう!」
「うん、おはよう」
ちょうど学園生がよく通る道まで出たところで、玲奈とであった。早起きは三文の徳とはまさにこのことかと内心思う総司。
「レーちゃん早いね。いつもこの時間に登校しているの?」
「ううん。いつもはもう少し早いかな。今日もまた少し寝坊しちゃって。ソウ君はいつももう少し遅いよね?」
「俺の場合はたまたま早く起きたからそのまま早く出ただけだよ」
そんなたわいもない話をしながら学園へと向かう2人。ここ最近温かく歩きやすい天気である。そんな気持ちのいい気候のもとを歩いていると玲奈が尋ねてきた。
「そういえばソウ君。もうすぐテストだけど大丈夫?」
「……え?」
「もしかして知らなかった?」
2人は立ち止まると驚いた表情で顔を見合わせる。
転校してきたばかりで感覚的に試験はもう少し先だと思っていた総司。危うくテスト勉強をせずに挑むところであった。
例えそうなったとしても普段から復習はきちんとしているために少なくとも赤点は取らないだろうし、そもそも先生が教えてくれたはずではあるが。
「知らなかった。教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。まあ、私が言わなくても先生がホームルームで言ったと思うけれど」
再び学園に足を進める2人。
テストのことを聞いたためか自然と会話は勉強関連になる。覚えている限りのテスト範囲――現代文なら作品名、数学ならどの項目からか――を教えてもらう。ただページ数に関しては玲奈もあいまいならしく、その辺は学校に着いてから教えてもらうことになった。
「それじゃあ、みんなしっかり勉強するように。私のクラスから、赤点を取るような奴は出て欲しくないと、願っていますよ」
玲奈の予想通り、朝のホームルームの内容は主にテストについてだった。学生の本文は勉学。そのためテストが近づいてきているため部活動は休みになり、その時間をテスト勉強に割り振るよう言われた。
ちなみにだが、転校組の総司だけ特別扱いはできないということで、習っていないテスト範囲はクラスメイトの誰かに教えてもらうよう言われた。
その後すぐにホームルームが終わり、次の授業の準備時間となる。総司が準備をしていると玲奈がやってきた。
「ソウ君。テスト範囲大丈夫そう?」
「前の学園でやっていたところとほとんど同じだから大丈夫」
幸いにも、ほとんどのテスト範囲は前の学園でもやっていた授業がテスト範囲だったためになんとかなった。
ほとんどということだけあって、そもそもやっていない授業もあり、その上貰っていないプリントもある。
その例が現代文だったりする。
ノートに関しては浩太に助けてもらって、授業中の板書をなんとかすべて写し終えている。プリント類も担当している先生に直接貰いに行くなど、前から少しではあるがテストに備えていたためどうにかはなった。本当にどうにかだ。
「それならよかった。もし分からないことがあったら聞いて。教えるから」
「ああ。その時は頼む。とりあえずは自分でやってみるよ」
「わかった」
さすがに1から10を教えてもらうつもりはない。どうしてもわからないところは尋ねてみるつもりであった。
夜はテスト勉強をしつつ、昼間は学園で勉強、学園終わりの放課後は教室で玲奈や浩太に時々質問しつつ勉強をしていると、気が付けば金曜日。
授業が終わり帰宅した総司は、本日も浩太からLANEで送られてきたプリントの写真と睨めっこしていた。というのもテストが迫っているため。
教科の中には配られたプリントからテストに出すと伝えられていた。それに関してはすでに貰っていたために良かったが、教科によっては穴埋め式になっているものもあり、それをまずは埋めていかなければならない。
そしてその量が――
「多すぎるだろ!」
1教科だけならまだしも、穴埋め式のプリントを配布している教科は複数。
さらに授業中、先生がテストについて少しだけ触れる時があり、その時に小テストからも似たような問題で出すと言っていた。そのため小テストの方も確認しなければならない。
結局すべてを写し終えたのは日が暮れた時だった。普段の授業より長く座って書きっぱなしだったためか体が凝り固まっているのが分かった。
気分転換も兼ねて近所のスーパーに行くか。
そう考えた総司は用意をすると部屋を出る。その時ちょうど隣の人も出かけるのか扉を開ける。
そういえば挨拶していなかったなとなんとなく思っていた総司は、隣の部屋から出てきた女の人と目が合った。
「「……あ」」
隣の部屋から出てきた女の人――衣里と総司は同時に動きを止めた。
数秒後、衣里の思考が動き出す。
「お前!」
「蘇摩さん!?」
それを聞いた衣里が頭を抱えて蹲ると「嘘だろ! なんで隣に学生が住んでいるんだよ!」と呟くが、隣に衣里が住んでいたことに驚いている総司には聞こえなかった。
がばっと顔を上げて立ち上がった衣里に驚いていると、肩を掴まれる総司。
「私がここに住んでいるなんて絶対に言うなよ! わかったな!」
「あ、ああ……いや待て!」
「ア”? なんだ?」
部屋に戻ろうとした衣里を止める総司。衣里のドスの聞いた声に若干ひるむ。その間に衣里は部屋に戻っていた。
対する総司は驚きのあまりしばらくその場に立っていたが、思考が戻ると夕飯を買いに夜の街へと足を進めた。