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君を愛している  作者: シロガネ
EP8 君を愛している
83/84

8-4

 そのまま季節は過ぎ秋がやってきた。雲1つない秋晴れの元、体育祭が行われる。


「今年もやーってきた! そう! 借り物競争だぁぁあぁぁ!!」


 超ハイテンションで司会を務めるのはもちろんジョージである。今年は浩太は出場選手側。そして総司もである。


「そう言えば総司、栗生さんと最近結構仲良くなっているように見えるが付き合ってるのか?」

「付き合ってないぞ」

「……まじか」


 呆れた顔をする浩太だが無理はない。夏休みに入ってからはほとんど勉強しており、夕飯も手軽なものにしていた。結果、夏休み開けた時にはクラスメイトに少し困惑されるぐらい痩せていた。ガリガリになっていたというより、顔つきがスッとしていた。


 体調が悪くなったということはなかったが、心配した玲奈が「しっかり栄養取って」と言って、わざわざお弁当を作ってくるようになっていた。


「おい総司。分かっていると思うが――」

「あ、すまん。次俺だ」

「っておい」


 浩太の話を遮るかのように立ち上がった総司はスタート地点に向かう。浩太が何を言いたいかなんてわかっていた。だから総司はその先を聞きたくなかった。

 総司は第2走者。ちょうど第1走者がお題の“物”――ではなく“者”を連れてゴールしたところだった。


 タスキを受け取りスタートする総司。ふと甦る記憶。

 その時、ふと赤の折り畳まれた紙が目に入った。そう言えば赤だったな。そんなことを思いつつ、まるで吸い寄せられるかのように赤の折り畳まれた紙に近づいて拾い上げた。

 今年は浩太にもジョージにも、なんなら誰にも何も言っていない。だから完全に油断していた。


 そこに書かれていた文字は――


「……あいつらッ!」


 振り返ればジョージと浩太がにやついていたのだった。




 山を赤く染めていたモミジはちり、季節は冬へとやってきた。思い出したくなくてもやはり思いだしてしまう。そんな気持ちを切り替えて、総司はひたすら試験勉強をしていた。


 ちょうど冬休みに入った稚奈に勉強を見てもらいつつ、今の関係以上に近づこうとしてきた玲奈と共に。総司と玲奈は友達を続けることにした。総司がしっかりと心の整理ができるそのまで。




 冬休みが開けると卒業式が着実に見えてくる。それと同時に大学入試が近づいてくる。人によってはすでに終えている人もいるが、総司はこれから。


 自由登校になったあとも総司は学校に登校し、少しでも分からないところがあれば先生に尋ねた。先生側も総司だけではなく、大学入試を控える生徒のために懸命に努力しているのだった。




 そしてついに入試が数日後となった日。総司は前日には現地入りするため今日を持って卒業式の日まで学校にはこなくなる。それは他の生徒たちも同じようだった。


 2年には満たないが、それでも見慣れた廊下を歩く。教室ではクラスメイトと応援し合って――どちらかというと総司の方が応援された――別れた。


「間宮君。今帰りですか?」

「あ、先生」


 ちょうど廊下で担任の先生と会う。もうあと卒業式ぐらいしか顔を合わせないだろうと思っていたので、少しうれしく感じる総司。


「間宮くん、今日までよく頑張りました」

「ありがとうございます。これもクラスメイトや先生のおかげです」

「1人の生徒に肩入れするのは良くないけれど、これだけは言わせて欲しい」


 総司の言葉を聞いて微笑んでいた担任の先生は、真剣な表情になる。


「間宮君が頑張ろうとしていたから、私や他の先生方も全力で答えようとしてきた。それがどのくらい間宮君の力になったかはわからない」


 総司がなぜ医学部に進むかは職員が全員知っていると言っても過言ではない。というのも、春休みが終わって早々に担任の先生に伝えに行ったから。どうやらそれが職員室で広まったらしい。


 総司は放課後も遅くまで残って先生に勉強を教えてもらっていた。担任の先生からはストレートではないが、諦めた方がいいのではとも言われた。


 それでも総司は諦めなかった。だからなのだろうか。それなら先生も最後まで付き合ってやろう。そういった先生たちがおり、確実に総司は力をつけていった。

 だから、すごく力になりました。総司はそう言おうと思った。だがそれを言う前に先生が続ける。


「当たり前だけれど、試験には1人で挑むことになる。それでも忘れないで欲しい。私含めて先生方は全員間宮君のことを応援している。だから――頑張ってきなさい」

「はい。行ってきます!」


 総司は力強く頷くと、校門がある方向へ向かって歩き出した。


「ソウ君」


 総司の後ろから聞きなれた声が聞こえて総司が振り返る。


「レーちゃん」

「ごめんソウ君。一緒に帰ろ」

「いいよ」


 何度一緒に帰ったかわからない道を並んで歩く。すでに山の向こうに隠れようとしている太陽が、並んだ2人を照らして道に影を落とす。


「試験、明後日だよね?」

「ああ確かレーちゃんもだよね。試験頑張って」

「ソウ君も頑張ってね」


 別の大学ではあるが、玲奈も総司と同じように明日に現地入りし、明後日に試験がある。 途中まで一緒に帰ったが、別れる。その際、お互いに健闘を祈りあった。






「それでは委員長。最後の号令をお願いします」

「きりーつ、礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 卒業式を終え、教室に戻ってきた総司たち3年。最後のホームルームを終えると、別れを惜しみ合う。


「早かったな」

「ああ」


 あっという間だった。浩太のその言葉にはいろいろな意味が込められていた。


 総司が引っ越ししてきてから。3年になってから。卒業式が始まる前から今この瞬間まで。もしかしたら衣里がなくなってから今日までを指しているかもしれない。


 例えどのような意味だったとしても、振り返ってみればあっという間に総司は感じていた。別に会うのは今日が最後と言うわけではない。それでもそれこそほぼ毎日のように会うことは今日で終わりになる。


「大変だったか?」

「……ああ。大変だったな。すべてが」

「この学校に引っ越ししてきて後悔はしてないか?」

「確かに一時期後悔したときはあった」


 ふと自分を責めた時のことを思い出す総司。その時は辛く、苦しかった。それでも――


「この学校に来てよかったとは少しは思えるな」

「少しか。まあ全く思えないよりはいいな」


 在校生は3年を見送るために準備を行う。それを待つ必要があり、今はまさに待機しているところ。その残り少ない時間を中のいい友達と一緒に過ごしているクラスメイト達を見つつ、浩太が小さく笑った。

 話を変えるため総司は話題を振る。


「浩太は結局、彼女と同じ大学に行くのか?」

「狙って同じ大学に行ったというより、たまたま2人とも同じ大学を受けていたって感じだな」


 それぞれ別の学部を目指していたとはいえ、同じような学力の2人。だからなのか、浩太と浩太の彼女は同じ大学に進学することになった。


「ちゃんと仲良くやれよ」

「わかってる」


 茶化すようにそう言うと、浩太が笑った。


「それよりも、総司もきちんと栗生さんと向き合えよ」

「……いずれな」

「ならいいんだが」


 そんなことを言いあっていると、教室に担任の先生が入ってきた。どうやら在校生の方の準備が出来たようで、呼びに来たらしい。

 玲奈は女友達と一緒に行くようで、総司と浩太は男2人仲良く行く――


「おいおい。なーに2人だけで行こうとしてんだよ。俺らも混ぜろ!」

「俺も乗せろ! そのビッグウェーブに!」


 ――ことなく、クラスの男子と向かうことになった。しかも何人も集まる。

 ふと何かに気が付いたクラスの男子生徒。その視線を追えば総司が持っている卒業証書が入った筒。1人1本だが、総司は2本も持っていることに今更ながら気が付いたようだ。


「って総司。お前なんで卒業証書2つも持ってんだよ」

「先生からもぎ取ってきたんだよ」

「何してんだよ」


 総司の半分ふざけた回答に言葉を聞いてクラスメイトが呆れる。だが理由を知っている浩太はそれとなく言った。


「許してやってくれ。“もう1人のクラスメイト”のためにもぎ取ってきた分だからな」

「もう1人ってそんな奴――あぁ、なるほど?」

「総司、そこまで来るとさすがにやばいと思うぞ?」

「うっせぇ!」


 ニヤニヤしてくるクラスメイトの頭を手のひらで叩く総司。実際自分でもやばい奴なのではと感じてはいる。それでもどうしても欲しかった。だから行動した総司。

 でも改めてクラスメイトに言われたら、やってよかったのだろうかと疑問に思ってしまった。


「ちょっと男子! 最後まで迷惑かけないで!」

「「「「すいません!!」」」」

「ほーら、さっさと行くよ!」


 教室の入り口から何人かの女子が顔を覗かせながら呼ぶ。その中には玲奈もいた。やりとりを聞かれていたのか全員が笑っている。どうやら気が付けば総司を含む数人しか教室に残っていなかったらしい。


 総司を含むクラスメイト達は最後まで締まらずに教室をドタドタと出ていった。


 誰もいなくなった教室。掲示板に張られていたプリントなども綺麗に取られてすっかり寂しくなった教室。そんな教室の中にまだ少しだけ冷たい風が開け離れた窓から吹き込んできた。

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