8-1
本日1/2話目となります。
12月が終わろうとしていたある日、雲1つない晴れ渡った空がどこまでも続いていた。太陽の熱で、冬の割には温かい気温。
どのような葬式だったか、喪失感から力が抜けきってしまっていた総司はよく覚えてなかった。
唯一といっていいのか、衣里の友達として一緒に最後の別れを告げに来て、隣に座っていた玲奈の鳴き声が耳に残ってる。あとは――
「間宮君。ありがとう」
「……ありがとうございました」
「いえ」
衣里の両親に頭を深々と頭を下げられたこと。どんな話をしたかなんてほとんど覚えていなかった。それでも衣里から預かっていたと父親に言われ、渡された総司宛の手紙のことは覚えていた。
式が終わった今でも開封はしていない。しようと思えなかった。これを開ければ、衣里がもうこの世にはいないことを決定づけてしまうと、それだけはしたくないという拒絶の気持ちが思い留めていたから。
「ソウ君。お疲れ様」
「お疲れ様、レーちゃん」
帰り道がほぼ同じ方向と言うことで2人は並んで歩いていた。玲奈の足取りはまだしっかりとしていたが、総司はどこかボーっとしているためか段差があれば躓いて転びそうなもの。
だからなのかまるで総司を介護するかのように玲奈は総司の横に立ち脇に手を入れ身体を支え、反対側の手で総司の手を下から支えるように軽く握っていた。
かなり体を密着させている状態。普通なら気が付いてもおかしくはないが、まるで気が付いていないかのような雰囲気。力なく玲奈に導かれるまま足を前に出して歩いている。結局総司は玲奈に導かれるまま自宅へと帰宅した。
どんなこともいずれ時間が解決してくれる……と言うわけではない。それでも葬儀が終わり、両親に心配されつつ一緒に新年を迎え、さらに数日たったころにはある程度心の整理ができ、総司は落ち着きを取り戻していた。
ただ何もしていないとふとした時に思い出してしまっていた。
ふと目を開ければ、部屋にはカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。それでも朝日が出てまだそこまで時間がたっていない上、夜の冷え込みが部屋の中に伝わったらしく、部屋は布団から出たくはないほどまでに冷え込んでいた。
いつ寝たからなのかわからないが体調が悪いと言うことはない。
そんな気持ちを少しでも無くそうと、重たい体を起こす総司。ここ最近無理やりにでも体を動かし、少しでもつらい気持ちを忘れようとして総司をしていたため散らかってはいない。
冬休みから増えた荷物はたった1つだけ。テレビの前にある机の上に袋。机の上にある袋は衣里の葬儀から数日後、部屋の整理に来ていた衣里の父親から渡されたもの。
避けていたわけではないと言えばそれは嘘になる。掃除をするから。夕飯を食べるから。冬休みの課題をするから。そんな理由をつけては開けるのを躊躇していた総司。でも実際、心の底では衣里がいなくなったことから目を背けたかったから開けたくなかったのかもしれない。
だがいつまでも開けないわけにはいかない。その袋を手に取ると中を確認する。
そこには封筒が2枚と小さなチャック付きのポリ袋、そして1冊の手帳が入っていた。ポリ袋は透明で、中が見える。その中身は――
「……指輪」
一瞬なぜ指輪が入っているのか疑問に思った総司だが、すぐに思い出す。総司が衣里に送った指輪。それが小さなチャック付きのポリ袋に入っている指輪だった。
10秒ほど指輪を見つめていたが、総司はその指輪を机の上に置くと、封筒と手帳を見る。手帳の表紙には何も書いていない。適当にページを開くとそこには日付とその日のことが書かれていた。日記だった。読みたい気持ちはあったが、それよりも先に封筒を確認する。
封筒にはそれぞれ別の差出人が書かれていた。1枚には衣里の名前が。もう1枚には衣里の両親が。総司はそれぞれに目を通した。