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君を愛している  作者: シロガネ
EP7 フクザツな気持ち
75/84

7-8

「おーい、テストはどうだったんだ?」

「まあいつも通りかな。いつも通りと言うより、少し上がった感じか」


 衣里と勉強したからなのかは分からないが、いつもよりもほんの少しだけテストの点がよくなっていた総司。個人のテストの点と全体の平均。それがわるよう紙に書かれたものがホームルームにて生徒全員に渡された。

 そのホームルームが終わるや否や浩太がやってきた。


「お前ほんとよくやるよな」

「そう言うお前も」

「まあ冬休みが潰れるなんて嫌だからな」


 浩太のテストの点を見つつ総司がそう言うと、白い歯を見せてニカッと笑った浩太。

 だがその笑顔は何か楽しんでいる物に変わる。実際に変わったわけではなく、雰囲気が変わったのを総司はなんとなく感じた。


「ところで総司。冬休みの予定は決まってるな」

「勝手に埋まっている想定で話すな」


 総司と浩太は赤点でなかったっため無いが、赤点の生徒は終業式の翌日から少しだけ補習が入っている。その補習の予定が入っていると言うわけではないが、総司も浩太予定はすでに決まっているのは決まっている。それもほとんど同じ理由で。

 彼女とのクリスマスデート。


 彼女がいない世間の男共が聞けば殴るだろう。だがすでに彼女がいる総司でも、浩太にその言葉を言われるとなぜかイラッと来てしまった。


 赤点を回避したクラスメイト達も残るはあと数回登校するだけで終業式となる日を待つだけ。そのため自然と浮かれているのか話す内容は冬休みの話らしく、それっぽい声が聞こえてくる。

 ただ「今年もクリボッチ……」や「男だけで初詣とかヤだぜ」と嘆き悲しんでいるもの。ついでに心なしかチラチラと総司と浩太を見てきているが。

 もちろん、総司が知ったことではない。どうすることもできないから。


「まあ大方決まってるんだけどな」

「ほうほう」

「ただ向こうに聞かないとだめだし――あとお前その顔やめろ」


 浩太が来る前にテストの点を見せあった総司と衣里。今はクラスの女子に、玲奈と一緒に前の席の方まで引っ張られてここにはいない。

 気が付けば前の方にいる衣里を見ていた。それが面白かったのかは分からないが浩太がニヤニヤと笑みを浮かべる。


「まあまあそう言うな。同じ側同士仲良くしようじゃないか」


 ポンポンと肩を叩かれるが、よけいウザく感じてしまう。

 実際に殴るのは良くないことぐらいわかっている。無言で浩太の腹にボディーブローを入れる真似をする総司。ノリがいいのか、しっかりと乗って「げふぅ」と腹を浩太は抑えた。


「ところで総司。1ついいか?」

「なんだ?」

「用があるのかわからないが彼女さんが見てるぞ。行かなくていいのか?」


 視線で方向を知らせる浩太。その視線の先に総司が顔を向ければ衣里と玲奈、それに数人の女子が見ていた。総司と視線があった衣里がはにかみながら胸の前で手を振る。それに同じように手を振って総司が答えると小さく黄色い悲鳴が聞こえた。


「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。またな」

「おう、またな」


 きりがいいと思ったのか、浩太はそういうと荷物を持って教室を後にした。ただ向かった先が校舎の出入り口とは反対方向。どうやら浩太は彼女の陽菜乃を迎えに行ったようだ。


 まだ放課後を迎えて時間は経っていない。衣里に声をかけようか迷った総司だが、もう少し待つかと考え直す。というのも再び楽しそうに衣里は玲奈やその友達と会話を始めたから。

 まだチラホラとクラスメイトは残っているが、いつもよく話しているクラスメイトはいないということで何もすることがなくなった総司。


 ぱっと思いついたのは図書室に行くこと。ただそれだと衣里に連絡入れないとならず、そうなれば時々聞こえてくる笑い声から察して盛り上がっているのであろう話を切り上げて帰ると言いかねない。それは申し訳ないので自分の座席で大人しくしていようと思った総司。


 時間が潰せそうなものが机の中に何かないかなと手を突っ込むが手に何も触れなかった。おかしいなと思って机の中を覗き込んで確認するが、遅れて荷物をすべてカバンの中に入れたのを思い出してそうだったと小さく笑ってしまった。


 さてどうしようかと思って顔を上げた瞬間にクラスメイトの女子2人と視線があう。机の中を見ていた総司は隣に人が来たことに気が付いていなかった。

 クラスメイト女子2人は先ほどまで衣里と話していた子達。そのため何か用があるのかと思い、黙って相手が発言するのを待っていた。だが何も言わず、同時に2人が総司の両手をそれぞれ引っ張る。

 

「待て、何、なんだ!? 用件を言えよ!?」

「いや~、それがエリっちと話してたらさ、クリスマスの話になったんだよ~」

「そりゃクリスマス近いしな!?」


 慌てる総司をよそに、ニヤニヤと笑いながら2人が総司の顔を見る。


「エリっちもいろいろ思っていることがあるみたいなんだけど、ここはやっぱり彼氏さんが何を考えているのか気になりまして?」

「いや、別に俺が何を考えているかなんて衣里以外の他の奴らが聞かなくてもいいよな?」

「でもやっぱり気になりますから」


 それぞれ両方からのぞき込むようにして総司の顔を見ている女子2人。そんな2人にぐいぐいと引っ張られつつ衣里と玲奈、それに数名の女子がいるところまで引っ張られる総司だった。






 結局いろいろと根ほり葉ほり聞かれそうになりつつもとりあえず濁しつつ答えた総司。タイミングを見計らってか衣里が帰ろうと言ったため解散となった。ただその言い方は少しきつく、また少しだけ不機嫌そうな顔の衣里。

 何と言っていいか分からない顔をしていたクラスメイト女子を置いて衣里は総司の手を引くとさっさと教室を後にした。


 校門を出てからほぼすぐ。衣里がギュッと総司の腕に抱き着いたまま離れない。普通に腕を組んで歩くのならいいが、普通に組んでいるのとは少しだけ違うため少々歩き辛い。


「衣里?」

「……」


 何度目か分からないが、名前を呼ぶ総司。それでも表情は教室からここまでずっとかわらず、不機嫌そうなものだった。


「どうした? 言ってくれないと困るんだが」

「……なんだか嬉しそうだった」

「え?」

「クラスの女子2人に腕を掴まれていてなんだが嬉しそうに見えた」


 言っているクラスの女子2人というのは、総司を衣里達のところまで引っ張っていった2人のことだとすぐにわかった。ただ総司自身は嬉しいと思ってはいなかった。


「衣里。俺は嬉しそうにしていたつもりは――」


 そこまで言ったが言葉を止めた。その時の状況を改めて考えてみる総司。もし衣里と総司の立場が逆だったら。


 クラスの男子生徒と一緒に話していて、そのうちの1人が衣里にも話を聞きたいからといって衣里の手を引いてやってくる。もちろん衣里が逃げないように終始クラスの男子と衣里は手を握ったまま。それを見て総司は――。


 そこでようやく気が付いた。

 もしかして嫉妬しているのではないかと。あとは自分の恋人が別の異性と手をつないでいるのは面白くないと感じている。


 驚いていたとはいえ、あの時ずっとクラスの女子と手をつないでた総司。総司もクラスの女子も気にしていなかったので分からなかったが、もう少し衣里に気を使うべきであった。


「衣里。ごめん。俺の考えが足りていなかった。あの時、手を振りほどくべきだったな」


 聞いているかどうかは分からない。それでも自分が原因で衣里の機嫌が悪くなったため謝らなければならないことぐらいわかっていた。

 その時、確かにギュッと衣里が総司の腕を握った。総司が驚いていると衣里が顔を上げる。


「……私、重たいかな?」


 一瞬体重のことかと思ったが、愛情が重たいとか束縛がキツイとかそんな感じの意味合いで言ったことに気が付く総司。


「そんなことはない。俺だって衣里が他の男子と手をつないでいたら嫉妬ぐらいする」

「そうか。総司も嫉妬するんだ」


 そう言った衣里の表情は嬉しそうなものだった。

 そこでふと教室での会話を思い出す総司。教室では有耶無耶で済ませたが、衣里にまだ肝心なことを言っていなかった。


「衣里。クリスマスイブにデートしたいのだけどいいか?」

「うん」


 衣里はこの日、今日1番の笑顔で頷いた。

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