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君を愛している  作者: シロガネ
EP7 フクザツな気持ち
74/84

7-7

 中間テストが終わってからさほど立っていないにもかかわらず、早いことに期末テストが近づいてきた今日この頃。


 休日を利用して2人でテスト勉強をしていた総司と衣里。世間の恋人たちは分からないが、なんやかんや真面目な2人はイチャイチャせずに、分からないところは互いに教え合いながらしっかり勉強していた。


 朝から始めているがそこそこ時間がたち、時計の針は長針短針ともに12の文字に近づきつつある。昼が近くなってきている。

 結構長くやっているということもあり、総司は少し集中力がなくなりつつあった。


「ん? ここ違うかな……」


 対して衣里はまだ集中できているようだった。いまもノートに計算式を書いていた。少し難しそうな顔をしながら衣里はつぶやくと、消しゴムを手に取りノートの文字を消す。


「……あ」


 そんな声が聞こえてきたために集中力がなくなり始めていた総司は少し顔を上げる。見れば衣里は何かを探していた。


「ん?どうした?」

「……消しゴム落ちちゃって。あれ、どこいったかな?」


 自分の教科書とノートに視線を落としていたと言うこともあり総司は気が付かなかったが、衣里は消しかすを手で払ったときに、一緒に消しゴムを払ってしまい、机の下に落ちてしまったようだ。


 衣里は腰を浮かせて座布団などをめくったり自分の座っている付近の床に目を向けるが、消しゴムはない。


「ないのか?」

「うん。おかしい。もしかしてこっちにはいったか?」


 衣里はソファ側、総司はテレビ側に座っていたということもあり、衣里は四つん這いになってソファの下を探り始める。


「……っ!」


 総司はその衣里の姿に、思わず声を出してしまいそうになった。しかし寸前の所でなんとか堪える。


「ん……」


 衣里は手でソファーの下を探るが、手前付近にはないらしい。そして手を動かすたびに、お尻がフリフリと揺れて――駄目だと分かっていても総司はそれに目を奪われていた。


 今日の衣里の服はニットにロングスカート。ロングと言うことで中は見えないがスカートは衣里の小さな、されど形のいいお尻の曲線にそって流れるように落ちている。


 見えているわけではない。だから別に言わなくても大丈夫だろう!

 そう思った総司はそのまま何も告げないことにし、口を横一文字に結んだ。

 見ないようにするために教科書へ視線を落とすこともできたが、そこそこ長い時間連続してやっていたこともあり、集中力は一気に消え去った。


 それに……衣里のためであって俺が見たいからではない! などと頭の中で謎の言い訳をしつつ、目の前でかわいらしく左右に揺れるお尻を眺める総司。


「うわ、ソファの下、結構埃が溜まってる。総司、ちゃんと掃除しろよ。……総司?」

「はいぃ!?」


 いきなり名前を呼ばれ、総司は背筋を伸ばしながら返事する。それとほぼ同時にソファの下を探っていた衣里が体を起こした。


「な、なな、ナニカナー?」

「今度ソファの下掃除しとけよ。まあ私も今度しないといけないのだけど」


 衣里はそう言って総司の方を向いて笑った後、先ほどよりさらに身を屈めてソファーの下を覗き込む。そのせいで、丸見えのお尻が付きだされるような形になって、さらに形が分かる。


 これはもう言った方がいいのではないか。もっと早く言えよと思わなくもないが、タイミングが少し遅いツッコミを頭の中で行う総司。

 それでも目を逸らさないのはそれができないから。健全な男子諸君なら絶対同じだろう。


「うっ、わぁ……結構奥まで入ってる」


 消しゴムがソファの深くまで転がり込んでいるみたいだが、今の衣里の体勢を見るとどうしても別の意味に聞こえてきてしまう総司。

 その間にもうんうんと衣里は唸っており、どうにかして取れないかと試行錯誤しているらしい。


「ん……もうちょっと……届いた!」


 どうやら取れたようで、手で消しゴムを探り当て衣里は、体を起こした。そして笑いながら、無事に取ることが出来た消しゴムをなぜか自慢気に見せてきた。


「よし取れたぞ」

「お、そ、そうだな」

「……なんか顔、赤いけど……どうした?」


 やはり衣里は何も気づいてないらしい。なので総司はそのまま誤魔化すことにした。


「そ、そうか? ちょっと気合入れたからかな! 集中力切れてきたし」


 総司は自分の両頬を手でぴしゃりと叩いて見せる。すると衣里は『そうなの?』と言う感じにきょとんとしながら首を傾げた。


「それより、ホコリついたならちゃんと手を洗ってこい」

「そだな。それよりも今度掃除しろよ」


 衣里はそういうと、手や腕に付いたホコリが落ちないように下に反対の手を添えつつゆっくりと立ち上がると、洗面台に向かった。


「はぁぁあ……」


 1人残った総司は、木疲れから少し解放され大きなため息をつく。


「衣里のあれは……もしかして計算でやっているのか……」


 もしや俺のことを篭絡せんと、わざとああいう体勢をして見せつけて……。なんて考える総司。だが――。


「いや、無いな。それはない」


 腹積りでやっているように思えなかった。天然だろうと結論付けた。それに衣里が計算してやってたとしたら、なんとなくだがわかる。先ほどのはそう言うのが全くなかった。


「……あれ? これ天然でやってる方がたちが悪いよな?」


 別の存意が出てきたために腕組みをして唸り始めた総司のもとに、手を洗った衣里が戻ってくる。


「どうした? 難しい顔して……って、あ! もしかして分からないところか? 見せろ!」


 なぜかすごくうれしそうな衣里が、総司の隣に座ってくる。教え合うときだが、なんやかんや言って実際は衣里の方が年上。そのためかすごく嬉しそうにする。


「あー! 違う、違うって!」

「ほらほら、ちゃんと見せろ!」

「大丈夫、大丈夫だから! 本当に!」


 そんなことを言いあいながら、総司達はノートを取り合い始めた。どうやらお互い集中力が切れたようだった。




 気分転換に昼食をとったのち、テスト勉強の進捗がよかったということでソファの下を掃除することとなった。他の所は普段から総司がしっかりとしていると言うことで、ソファの下だけ。


 テレビを見ると言うことも考えたが、それをしてしまうと夜までダラダラ見てしまうのはなんとなく想像ついた。そのため今は掃除だけして、夜にテレビを見ることになった。


「ほら総司。そっち持て」

「ほいほい」


 衣里に指示されて、衣里の立っている反対側のソファの側面へ移動する。問題のホコリが溜まっていたソファの下を綺麗にするため、ソファ持ち上げて動かそうとしている。


「衣里、無理するなよ」

「これくらい持てる」


 持ち上げていたソファーを少し離れたところまで移動して一緒に置くと、2人してソファを置いていた場所に目をやる。


「うわぁ、結構溜まってるな」

「やっぱソファの下って掃除機かけないのか?」


 尋ねてきた衣里に総司は頷いた。


「普段はな。いちいち移動させるのも大変だし、掃除機じゃ奥までは入らない。フローリングだからウェットワイパーを使えば行けると思うがあいにくないし」

「……柄がつかえて奥まで入らないんじゃ?」

「……そうだな」


 盲点に気が付いていなかった総司。買わなくてよかったのかどうかを少し疑問に思いつつ、準備していた掃除機を手に取ってホコリを吸い取って行く。


「そういえば1人暮らしの時は掃除機の音とか洗濯機の音とか気を付けないといけないよな」

「ああ。俺の場合は隣が衣里だけど、やっぱその辺気にはしている」


 さすがに2人とも夜中に洗濯機を回したり、掃除機をかけたりなんてかけたりしない。洗濯機は朝早くに起きて室内物干ししたり、土日に一気に洗濯したりしている。


「総司はお隣さんから『うるさい』って壁叩かれたりしたか?」

「壁ドンってやつか」

「……それはまた違う意味なんじゃない?」


 正確な名前が分からず適当に言った総司。若干苦笑いしつつ、総司が手にしていた掃除機を衣里が奪って電源を切ると、そのまま総司の手を引いて壁際に連れていく。


「こうやって女の子を壁際に追い詰めて、壁に手をつくやつ。ほらほら、こういう感じで。これが壁ドンじゃない?」

「……」


 まさか衣里に壁ドンをされるとは思ってもいなかったため、いきなりのことで総司は面食らってしまった。そのこともあり衣里のことを無言で見つめてしまう。

 それが思いのほか恥ずかしかったらしく、ポーズも相まって衣里は赤くなってしまった。


「まさか衣里から壁ドンされるとは」

「……い、今のは無しってことで……」

「インパクト強くて頭から離れないなぁ」

「忘れろ! まじで忘れろ!」

「ごめんごめん。突然だったから、つい」

「もう嫌ぁ……恥ずかしい……」


 赤くなった両頬を手で押さえる衣里。そのまましゃがみ込んでしまった。


「衣里もそう言うことされてみたいって思う?」

「わ、私っ?」


 衣里は何度か瞬きする。短い時間だがそんな場面を想像してみているようだ。


「わ、私はいいかな。絶対照れるだろうし……」


 何やら恥ずかしそうに少しニヤけつつも否定する衣里。そんな衣里が愛おしく思い本人は我慢したつもりだったが、総司はニヤリと笑った。


「それはされてみたいってことでいいのかな」

「ええ!? そ、そりゃ好きな人になら――って、無し! なんでもない! ほら、総司! 掃除しろ! 総司だけに!」


 笑みを浮かべたのは馬鹿にしているからと誤認した衣里は我に帰ると、話を切り上げてしまう。そして動かしたソファーに手をかけた。


「ほらほら、戻すからそっち持って」

「はいはい」


 苦笑いしつつ衣里と反対側のソファに手をかける。そのまま顔を少し赤くしている衣里と息を合わせて、ソファを元の位置に戻す。


「あ、そうだ衣里。ちょっとこっち来てくれ」

「どうした?」


 手招きした総司の元に近づく衣里。腕を伸ばせば届く距離まで来た衣里の腕を掴むと強く引っ張る。そのまま衣里を壁際に追い詰め壁に手を着くと、衣里を自分と壁との間に閉じ込めた。


「……え? え? ……えぇぇええ!!??」


 遅れて状況に気が付いた衣里がものすごく驚く。そんな衣里が面白く感じ、真剣な表情を崩さないよう総司はそのまま続けた。


「衣里」

「総司。冗談がすぎるぞ」


 余裕を見せようと無理して笑おうとしているらしい衣里。それでもそれでも内心は余裕がないのかしっかり笑えておらず、中途半端な笑みを浮かべている。


「衣里。好きだぞ」

「う、ううぅっっ……」


 総司が名前を呼びながら衣里の頬に手を添える。それが恥ずかしく感じたのか、衣里は顔を赤くしながら顔をそむけた。

 もう少しやろうと思った総司は、衣里の顎に手を添えて自分の方を向かす。


 目が合った衣里。そのまま総司は衣里の小さな可愛い唇へと自分の唇を重ねた。赤かった顔がさらに赤くなる衣里。よく見れば恥ずかしさのあまりか目の端に涙が少しだけ溜まっている。


「ッ~~~~!!」


 声にならない悲鳴をあげながらその場にぺたんと座った。ぺたんと座ったというより――


「……腰、抜けた?」

「バカ……」


 腰が抜けたらしく、上目使いで睨んでくる衣里。そんな衣里を見てついつい微笑んでしまう総司。結局治ったあとも時々ではあるが、弱いパンチを定期的に受け続けた総司だった。

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