7-4
「なあ間宮」
「なんだ?」
「テストをなくすにはどうすればいいだろうな?」
「お前それさっきからずっと言ってるよな」
放課後。テストが近づいてきているため、学校に残ってテスト勉強をしているとクラスメイトの男子が尋ねてきた。すでに何度目か分からないその質問に淡々と仕事をこなすかのように答える総司。
ちなみにだが、浩太は彼女と一緒に家でテスト勉強をするんだと言いながら帰っていった。本当にテスト勉強をするかは怪しいが、それでもし赤点取ったとしても総司の知ったことではない。
「だってテスト勉強面倒じゃんか!」
「じゃあ勉強しなきゃいいんじゃね?」
「だったらテストの点下がるじゃん!」
「じゃあ、授業中に完璧にマスターして、テスト勉強しなくても余裕になればいいんじゃね?」
「俺そこまで器用じゃねぇし!」
総司がああ言えばクラスメイト男子はこう言う。もうほとんど諦めている総司。
「どうした? 分からなければ俺が全力で教えてやるが」
「大丈夫です先生! 頑張れます先生!」
様子を見に来た現代社会担当の男性教師に肩をポンとされた男子生徒が慌てて答える。体育教師以上に鍛え上げられた先生の肉体はスーツの上からでもよく分かる。
見た目と違って普段は優しい先生だが、学生にテスト勉強のために教えてくださいと言われると、ビシバシしごく。その結果、中間では赤点だった生徒が期末では90点台後半まで上がったなんて逸話があるぐらい熱血教師である。
なおその学生曰く「もう教えてもらわない」と根を上げるほどのため、教えるぞと言われたら全力で回避しようとする人が後を絶たなくなったとか。
そんな先生に声を掛けられた男子生徒がすぐに教科書に視線を移して勉強を始めた。
「間宮には別に教えなくても大丈夫だな。蘇摩が教えるだろうし」
「ハ、ハハハ……」
ちらりと教室の前の方で玲奈を含む友達とテスト勉強をしている衣里の方を見る先生。ちょうど衣里が玲奈に教えているところだった。
再び総司の方をみた先生は「まあ、恋愛に現を抜かさず頑張れよ」と言うと総司の肩をポンポンと叩くと離れていった。
体育祭で総司と衣里が付き合っているのは先生も含めて全校生が知っている。そのためか、何かと2人をセットにしてくるが、総司は諦めている。
先生が離れたからなのか、男子生徒が再び声をかけてきた。
「なあ間宮。3つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
教科書と睨めっこをしながら総司が返事をすると、顔をぐっと近づけるようにして男子生徒が話しかける。
「1つ目。蘇摩さんと一緒にテスト勉強やっているのか?」
「ああ。普通にやるぞ?」
「やっぱり?」
「やっぱりってなんだ」
目を細めるようにして男子生徒を見る総司。それに気が付いていないのか、男子生徒は胸の前で腕を組んでうんうんとうなずいている。
「いやぁ、いいよな。彼女と一緒にテスト勉強って。俺やったことないけど」
「まあな」
下を向いて再度テスト勉強を始める。男子生徒の方向から舌打ちが聞こえたような気がしたが、無視する総司。
「2つ目。やっぱ蘇摩さんに分からないところを尋ねられたりするの?」
「どっちかっていうと俺が尋ねる方が多い」
「ああ。なるほど。蘇摩さんなんやかんや頭いいもんな……」
結構真面目な質問だなと思いつつ、総司はテスト勉強を続ける。どうしても分からないところがあれば衣里に聞く総司だが、最初からすべて聞く訳でもない。
自分ではどうしても分からなかったり、いい覚え方が無かったりした際に聞くようにしている。でないと自分の力にならない。
「やっぱ俺も彼女に質問されたいな! 『ここわからないから教えて?』ってな感じで!」
「それじゃあ、まずお前は勉強できるようにならないとな」
「やっぱ勉強するってところに行きつくのかぁ……」
目の端で、男子生徒が背もたれに体重を預けている。
が、すぐに起きあがって再びグッと近づいてきた。
「3つ目だ。蘇摩さんとどこまで行った? というよりどこまでヤった?」
「お前は何を言っているだ?」
総司がの回答に満足していないのか、男子生徒がじっと見てくる。男子に見つめられて嬉しくない総司は答えた。
「ノーコメントだ」
「お前、やったんだな。友達だと思ってたのに。屋上へ行こうぜ……久しぶりに……切れちまったよ……3分間待ってやる。45秒で準備しな」
人差し指を天井に向けるクラスメイト男子。なんだか面倒なことになってきたのでどうにか話題を逸らそうと試みる。
「そういえばお前、塾とかないのか?」
「え? ゲッ!? もうこんな時間!? だが大丈夫! まだ慌てるような時間じゃない!」
どうやらあったようで、結構慌てて帰る準備を始めたクラスメイト。また明日と総司に声をかけるとそのまま慌てて教室を後にして行った。速さが足りないかもしれないが、きっと彼なら大丈夫だろう。
教室の前の出入り口から出ていった男子生徒とはまるで入れ替わるようにして教室の後ろの出入り口から1人の男子生徒が教室へ入ってきた。
総司は教科書へ視線を落としていたため気が付かなかったが、新たにはいってきた男子生徒はそのまま総司に近づき、先ほどまで別の男子生徒が座っていたところへ座る。そこでようやく総司は気が付いた。
「おおぉ、ジョージ」
「久しぶりだな、ソージ」
周りが勉強しているということで、いつものテンションよりかなり落とした声であいさつを交わすジョージ。教室が別と言うことともあり、体育祭以来ほとんど話していなかったため、久しぶりに感じていた。
「どうだ? 元気にしているか?」
「ああ。ジョージは?」
「ワタシはいつでも元気さ!」
「ならよかった」
サムズアップしているジョージを見て、総司は疑問が浮かんだ。
「ところでジョージ。俺に何か用があったのか?」
「ん? どういうことだ?」
「いや、放課後になってわざわざ来たと言うことは何か用があったのかなって」
休み時間中ならまだしも、今は放課後になってそこそこ時間がたっている。用があるなら休み時間中や放課後になってすぐに来るとだろうと総司は考えていた。
「用というよりソージがいたため、ワタシもここでテスト勉強をやろうと思って来たのだ! ワタシの中のいいクラスメイトはみな帰ってしまった」
そう言いながらカバンから古典のテスト勉強に使う参考書などを取り出すジョージ。
「やっぱり古典は難しいか?」
「とっても難しい。特に漢文」
「ああ、漢文な。あれは難しいよな……」
そこからは互いにほとんど話さず、黙々とテスト勉強に励む。気が付けば午後6時が近づく。夏より早くに日が暮れるということもあり、すでに暗くなり始めている。あんまり遅くなるのもよくないので、総司はそろそろ帰るかと思い始めた。
衣里に帰るか尋ねるため、女子の集団に近づく。
「衣里、そろそろ帰るか?」
「ん? あ、ちょっと待って。今教えているところを教え終えたら帰る準備するから」
「わかった。慌てなくていいぞ」
そういうと総司は自分の席に戻って帰る準備をゆっくりと始める。前の方では何やら話しており、クラスの女子から自分の名前がわずかに聞こえてきたが、聞こえないふりをした総司だった。