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君を愛している  作者: シロガネ
EP7 フクザツな気持ち
70/84

7-3

 計画してから1週間後。もちろんのことではあるが、その間学園生活があった。

 水族館デートを2人で企画してからの1日1日が凄く長く感じたが、振り返ってみればあっという間に感じていた総司。


 それは衣里も同じだったようで、遠足に行く小学生のように前日はずっとソワソワしていた。本人はバレていないと思っていたようだったが、総司からすれば分かりやすいもの。


 そんな感じで一夜明けた今日。現在の時刻は午前10時。天気は雲1つない晴天。まさにデート日和。ただデート先は水族館と言うことであまり天気に影響はされなさそうだが。


 水族館の開園と同時に行くとなると移動時間的に大変なため、午前の遅い時間に水族館に付くようにプランを練った2人。


 家が近くと言うことで一緒に行こうとした総司だが、衣里の要望によってバス停で待ち合わせすることになったため現在は1人。


 バス停にあるコンクリート製の待合所。

 日は当たっているが冷たく感じる灰色の壁に背中を預け、これからのデートに期待で胸を膨らませつつ総司は衣里の到着を待っていた。

 別に中で待っているのもいいが、衣里が来た時に気が付くようにと外に出ていた。


 約束の時間が少しづつ近づく。――と、綺麗に四角く剪定された低木のボックスウッドの向こう側、少し遠い位置に衣里が見えた。

 総司が衣里を見つけるとほぼ同時に衣里も総司がいることに気が付いたようで、少し急ぎ足でやってくる。


 ただ慣れない靴なのか、一瞬躓きかける。


「ああもう、急がなくてもいいのに」


 苦笑いしながら小さくつぶやく総司。もちろんそんな言葉が衣里に聞こえるはずもない。ただこけそうになったためか、少しだけスピードを落とす、されど歩くよりは確実に早い足取りで衣里は近寄ってきた。


「お待たせ。もしかして結構待った?」

「いや、そんなことない。だからそんなに慌てることはなかったぞ」


 こけそうになったところを見られて恥ずかしかったのか、それとも急ぎ足で血行が良くなったのか。はたしてどのような理由は分からないが、少しだけ頬を赤くした衣里がテンプレと言うべき質問をし、それにテンプレで返す総司。


 待ち合わせの時間を決めていたとは言え、お互いにこの時間に家を出るなんていう打ち合わせはしていなかった。それでも彼女を外で待たせるわけにもいかなかった総司は今より1時間ほど前に家を出ていたりする。


「仕方ないじゃん。カッコいい彼氏に早く会いたかったんだから」

「お、おう」


 照れ笑いしながらいう衣里に、思わず総司も照れてしまって頬をかいてしまう。

 

「でも本当にいつも以上にかっこいいよ」

「ありがとう。衣里も大人っぽくてすごく綺麗だ」


 お互いに褒め合う2人。


 総司はこの日のために買った、ネイビーのテーラードジャケットに白のニット、黒のチノパン。靴はネイビーに白のラインが入ったスニーカー。


 衣里はこの前総司に見せた服装とは少し違い、ブラウンのフェイクレザーシャツジャケットに薄茶色のフレアスカート。靴はブラウンのミドルブーツ。どうやら組み合わせを変えた。


 そこでふと衣里の変化に気が付いた総司。もしかしたら勘違いかもしれないと思ったが、尋ねる。


「あれ? 衣里、もしかして少し髪切った? それに……メイクした?」

「……気が付いた? ほんの少し髪切って、リップしてみた」


 少し驚いた衣里だが、すぐにうれしそうな表情になった。今日1番の笑顔かもしれない。


「あ、やっぱり。雰囲気変わってる。すごく可愛いよ」

「ありがと」


 よっぽどうれしかったのか、満面の笑みを浮かべると衣里の方から総司の手をつないだ。




 バスから電車に乗り換えるときの時間も考慮していたためか、11頃には水族館に着いた。予定より少し早めについた総司と衣里はパンフレットを見つつ、どのように回るかを決める。予定は立てていた2人だが、やはりいざ実際に着くと気持ちは少し変わってしまう。


 館に入って出てくる頃には昼食時になりそうだったため、とりあえず半時間ほど中には入らずショップで時間を潰す。その後、他の客とかぶらないように少し早めの昼食を取って少し休憩した後、館の中へと入っていった。


 いつぶりだろう。

 ふとそんなことを思う総司。昔は両親に連れられて水族館に行ったことはあるが、少なくともそれは小学生のころだっただろう。その時には一緒に近くに住んでいた子と――。


 小学生で来た時以来は来たことがなかった。行きたいと思うわけでもなく、ただなぜか。

 それでも久しぶりに水族館に来てみる魚たちはどれも違って見えた総司。それは年齢が上がったためなのだろうか。


「いや、違うな」

「ん? 何が違うんだ?」

「なんでもない」

「そうか? ならいいや。それより総司。あっち凄そうだから見に行こ」


 久しぶりに来た水族館が――魚たちが違って見えるのは、自分よりは確かに年上で今日のために精一杯のオシャレをした、それでも無邪気に笑う子供にも見える可愛い彼女がいるからだろう。


 そんな風に思いながら衣里に手を引かれつつ、総司は海の魚を展示している館の奥へと進んでいった。


「わぁ……綺麗」


 幻想的な光景に衣里が感嘆のため息を漏らした。

 アクアトンネルの上から差し込む光が水槽内で反射し、青くゆらゆらと揺らめいている。


「凄い。いろんな魚がいる」

「ああ」


 水槽の近くを歩いている総司と衣里のすぐ隣を名前が分からない小さな魚が群れが、すぅーっと横切る。その魚の群れの後ろに追従するかのように、少し大きめの魚が横切った。

 そんな魚たちを手をつないだ2人が見ていると、一瞬フッと足元に大きな影が落ちる。


「え?」

「ん?」


 衣里が見上げるのにつられて総司も見上げると、総司より大きいのではないかと思うようなサメが上を横切っていた。


「デケェ」

「デカいな」


 2人を驚かせようとしたのか、それともたまたまなのか。総司たちと同じ方向に進んでいたサメは満足したかのように急に別方向へ泳いでいった。サメが上からいなくなると、2人の足元に水槽内で反射してゆらゆらと揺らめいている光が再び差し込む。


 そのまま2人はアクアトンネルを通りフロアを移る。

 フロアによってBGMが違うようで、先ほどとはまた別の穏やかなテンポのBGMが周囲を包んだ。それに合わせて壁に埋め込められるようにして配置されている水槽の前のスピーカーからは解説の音声が聞こえてくる。


 歩幅が小さい衣里に歩調を合わせるようにして総司はゆっくりと観覧順路を進んでいく。


「あ、クマノミ。小さくてかわいい」

「オレンジと白が綺麗だな」


 イソギンチャクから出たり入ったりするクマノミを、衣里はガラスに指を触れながらキラキラした目で見ていた。小さな水槽をみようとすれば、自然とお互いの距離が近づいた。お互いの息づかいが聞こえるような距離。

 ふいに総司は隣からの視線を感じて横を見る。


「……ぁ」


 ばっちりと目があった衣里が小さな声を出す。その目には水槽からの光を受けた自分の顔が映り込んでいた。お互いクマノミがいる水槽を見ていると思っていた総司だが、知らぬ間に衣里は総司の方を見ていたようだ。


「どうした? クマノミ見ないのか?」

「いや、見る。見るけど……」

「ん?」

「彼氏の……かっこいい顔も……見たいなって……」


 衣里は恥ずかしかったのか視線を逸らす。髪の毛の間から見える耳は暗い水族館内でも分かるほど赤くなっていた。


「衣里……」

「あ、あっち! あっちの魚気になるから見に行く!」


 名前を呼んだだけなのに、恥ずかしくなったようで、慌てた様子の衣里は少し小走りでほぼ真反対側の小さな水槽へと向かった。


 つい頬が緩みそうになったが、さすがに周囲には人がおり、衣里の彼氏としてそんなだらしない顔は見せられない。総司はなんとかこらえると、衣里がはぐれないようすぐに後を追いかけた。


「この魚ってあれだよな?」

「ナンヨウハギだってよ」


 衣里が向かった展示水槽には、体は青で黒のラインが横に入っており、胸ビレと尾ビレが黄色という3色からなる独特の体色を持つ魚――某海外映像会社が作った魚が主人公の映画の青い魚――がいた。


「あ、そんな名前だったんだ」

「まあ、キャラクター名を言った方が伝わりやすかったりするみたいだしな」


 ちょうど水槽の前のスピーカーからは映画のことに少し触れつつ魚を解説する声が聞こえてきた。




 そのままゆっくりと見て回っていると、メインとなる展示スペースに付く。大体用水族館でもそうだが、ここの水族館でも目玉となる水槽。


「「おおぉ……」」


 水槽から少し離れた展示スペースの入り口からでも見えるその水槽の大きさに総司と衣里は驚いた。

 小さいときにも見ており、水族館を調べた時にでも写真で見たが、やはり実際に見ると驚きを隠せないその大きさ。


 横にも上にも大きいガラスの向こうの水槽には何十匹何百匹もの魚が。そんな大きな水槽に近づくとなお一層大きさが実感できた。


 水槽の中ではまるで海中の一部を切り取って持ってきたように見せる。大きい魚から小さい魚まで多種多様な魚が人に己の美しさを見せびらかせるかのように自由に泳いでいた。


「なあ総司」

「ん?」

「ありがとな。連れてきてくれて」


 ふっと柔らかく衣里が微笑んだ。衣里にその意思はなかったかもしれないが、まるでこれで終わりかのように感じてしまった総司。

 胸がぎゅっと締め付けられるような感じがする。それを振り払うために、総司は口を開く。


「何言ってんだ。デートはまだまだこれからだろ。もっと楽しまないとな」

「……え? ふふっ、そうだな。まだまだ楽しまないとな」


 総司の言った言葉に一瞬呆然とした衣里だが、いつもの笑顔に戻る。その笑顔を水槽の中ではたくさんの魚が泳ぎ回り、そのたびに反射した光が衣里の顔を照らした。


 気が付けば衣里は総司の腕に自分の腕を撒きつけ、腕を組んでいた。


 その後、イルカショーを見たり魚ショーを見たり。水族館をひと通り見て回った後は水族館内にあるカフェで休憩。さてどうしようかとマップを見つつ園内を回っていると、お土産屋さんの隣にゲームセンターがあるのが見えた。


「総司。ここに来てまでゲームセンターか?」

「いや違う違う。なんでこんなところにあるのかなって思って」


 ジト目で見てくる衣里に慌てて総司が答えた。水族館に来てまでゲームセンターで遊ぶつもりはない。

 再びマップに目を落とす総司だが、隣で何かを思いついた様子の衣里。


「そうだ総司。ゲームセンターに行こうぜ!」

「おい」

「違う違う。目的はゲームじゃない! ちょっと友達から聞いた情報があってな」


 そういう衣里に腕を引っ張られるようにして総司はゲームセンターの中に入っていった。

 どうやら目的の場所はすぐに見つかったようで、1つの機械の前に連れてこられた。その機械と言うのが――


「プリクラ?」

「知っているんだな。じゃあ取ろう!」


 そう言ってさっそく機械の中に入っていく衣里と、腕を引っ張られる総司。周りを見ても女の子ばかりということで正直居心地がよくなかった。


 普通のゲームセンターにもあるプリクラだが結構有名な話がある。男性だけでのご利用禁止とかそんな感じ。店側もいろいろあるんだなとか当時思っていた総司。まさか自分が彼女と一緒に入るなんて思ってもいなかった。


 2人で撮影スペースに入るが、はやり不思議な世界に迷い込んだそんな感覚になっていた。そんなことを思っていると衣里が尋ねてくる。


「総司ってプリクラ取るの初めて?」

「多分初めて」

「え?」


 コインを入れてポチポチと慣れた手つきでパネルを操作する衣里。だが総司の返事を聞いてその手を止めた。何か勘違いをされたような気がしたため慌てて話す。


「いや、小さいころにやってたとかそう言うのが無ければな」

「ああ。なるほど」


 納得したようで、再び画面に視線を向ける衣里。今度は総司の方が質問をする。


「そう言う衣里は慣れてるっぽいけど」

「休みの時に友達と何回か行って。その時に操作を覚えた」

「なるほど」


 服を買いに行った日とかそう言う日なんだろうなと思っている間も操作を続ける衣里。結構悩んでいるようで、時々手が止まる。


「えっと、こういうのってどういうポーズがいいんだ?」

「うーん、総司初めてだし、2人で初めて撮るから、やっぱりカップルっぽい感じ?」

「まあそう思うんだけど、そのポーズがどういうものがいいか分からなくて」

「わ、私も正直、男のこと一緒に撮るのは初めてだから……」


 そんなことを言っている間に撮影準備が整ってしまった。撮影のカウントが始まる。恋人っぽいポーズを考えていると、ある映画のポスターを思い出した総司。

 そのポーズを真似る。


「え、えぇぇ~~!」


 とっさに背後から衣里に抱き着く。腕は衣里の胸の前に持ってくる形。突然のことに驚く衣里。画面に映っている衣里の目はまん丸に見開かれていた。


「ダメだったか!?」

「いや、これでいい!」


 驚いていた衣里だったが、すぐに総司の腕をとる。2人してかなり密着した状態。

 普段からスキンシップが多めな2人だが、撮影スペースは周りを覆われているとは言え、周りに人はいる。


「……これ冷静に考えると、結構恥ずかしいな」

「ちょ、総司。冷静になるな! こっちも恥ずかしくなるから!」

「ほら衣里。もう撮るぞ!」

「え、あ、」


 衣里が慌てた顔をしている中、パシャっとフラッシュが光り、撮影される。


「あぁー! 絶対さっきの失敗した!」

「ハハハッ! もう1回あるみたいだから、次だ次!」


 そんな感じで、ワイワイと撮影が進んでいく。撮影後は撮影した写真を加工――盛ったり、印刷して見たりして楽しんだ。


 その後は再び移動をする。ウィンドウショッピングで済ますつもりが、似合いそうなベレー帽があったために総司が衣里にプレゼントしたり、衣里が代わりに中折れ帽子を総司にプレゼントしたりと楽しんだのだった。

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