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君を愛している  作者: シロガネ
EP7 フクザツな気持ち
69/84

7-2

 週が明ければ季節は9月から10月へと移り、総司も転校してから5か月が立とうとしている日曜日の昼さがり。


 10月下旬には中間テストがあるため、週明けからは教師たちがテストが近づいてきていることを意識させる発言をし始めるのだろうなとなんとなく予想しつつ、総司と衣里は家でのんびりとしていた。


「なあ衣里」

「ん?」

「デート行かないか?」

「突然だな」


 2人並んで数年前に大ヒットした映画『アメとムチの女王』がネット配信されていたということでなんとなく見ている。ムチの女王が「レリゴーレリゴー」と歌いながらムチを振っているタイミングで、総司がふと思ったことを口にした。


「いや、だってまだ先とはいえテスト近づいてきたじゃん? そうなれば2人とも勉強しないといけないだろ?」

「いや、私やっても意味無いし」

「やって。俺のためにも一緒にやって。というより一緒に勉強したい」

「仕方ないなぁ~」


 凄くうれしそうな表情をしながら衣里は総司の頭を撫でる。少し撫でにくそうだったので、撫でやすいように頭を傾けた。


「ともかく、テスト勉強に入る前にデート行きたい」

「プランは任せても?」

「任せろ! なんて言えたらカッコいいんだと思うんだけど、そこまで自信ない。だから一緒に考えて欲しいなって」


 どうだ? と尋ねるように総司は衣里の方を見ると、ふっと笑った衣里が了承する。


「いいよ。いいけど、なんとなくは考えてるの?」

「水族館なんてどうかなって」

「ベタだな」

「情けない彼氏で嫌か?」

「情けないことなんてない」


 衣里のその言葉を聞いた総司はさっそく予定を立て始めた。テレビで流れる歌とムチの音を聞きながら、スマホで近場の水族館を調べる。衣里はもたれ掛かるようにして隣からのぞき込んできた。

 ネットで調べると水族館は簡単に見つかった。それも近くはないが遠くもない位置に。


 移動方法として電車があるが、総司達の住んでいるところから駅まではものすごく離れている。そのため一度バスで移動する必要が出てきた。

 バスで移動したのち電車に乗り換えると、水族館の近くに駅までまっすぐ行けるのでそれはありがたい。

 ただ気になることがあり、総司は衣里に尋ねる。


「1日中水族館で過ごすか?」

「私は総司と一緒にいれたらいいけど、ん~どうだろ。ゆっくり見て回るつもりだよな? それでも念のため他にも探す?」

「そうしておくか」


 規模はある程度あるとはいえ、全部ゆっくりと見て回ったとしても丸1日もかからないのは目に見えた。そのため近場で他にデートできそうなところを探す総司と衣里。


 水族館を探すことに気を取られていたが、水族館から電車で数駅離れた距離の所にモールがあったり公園があったりとそれなりに充実している。

 近場に何があるか調べ終えると水族館のホームページへと飛んだ。


「やっぱイルカショーは外せないか?」

「時間が合えば見たい感じ」

「分かった。それじゃあ、魚ショーは?」

「なにそれ?」


 衣里が興味を持った魚ショーとは、飼育員が解説を交えてテッポウウオやピラニアなどのアマゾンに住む魚が大自然で生き抜くために魅せるパフォーマンスを見るというもの。

 水族館と言えばイルカショーだが、他の水族館と差別化を図るためかいろいろとやっているようだった。


 ふと検索に1つのサイトが引っかかった。

 内容はリニューアルを行うという告知。敷地を拡げて新たに棟を作ると書いてあった。ぜひ見に行きたいと思った総司だったが――


「……だめか」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

「わかった」


 隣で自分のスマホを使って水族館を調べていた衣里が少し不思議そうな表情をしつつ自分の視線に目を落とした。リニューアルの完了予定は約5年後と書かれていた。最悪その時には衣里はすでに――


 そこまで考えて気持ちを切り替える総司。遠い未来よりも今を。来週予定している水族館デートに向けて情報収集をしなければならない。


 総司は隣に座る衣里と共に、水族館にいる魚はどんなものなのか。モールにはどんな店があるかなどを調べる。お互い分担して調べ、時より見せあっているとあっという間に時間は過ぎ去っていった。


 ふと隣から視線を感じて総司は衣里の方を見た。


「どうした?」

「いや、総司も男だよなって思って」

「いや、ちょっと待て! 俺が男以外の何に見えるんだよ!?」

「……真ん中?」

「……」


 そんな男性、女性、中性みたいにいつのネタだよと言いたくなる気持ちを抑え、衣里をじっと見る総司。頑張って衣里なりにボケたのだろうが、ちょっと拾ってあげられなかった。


「だ、黙るなよ! 恥ずかしいだろ!」

「いや、うん。そうだな?」

「やーめーろー!」

「痛い。地味に痛い」


 あまりの恥ずかしさに衣里は頭をグリグリと総司の二の腕に押し付けてくる。痛いと言いつつも頭を優しく撫でる総司。ボケは救いようがなかったが、恥ずかしがる姿はあまりにもかわいく感じてしまった。


「で、衣里。なぜ突然俺が中――ゴホンゴホン。男かどうか怪しんだんだ?」

「うわー。こいつ最低。まあいいや。聞いた理由がちょっと友達との会話を思い出したからって理由」


 どういうことだ? と総司の顔に書いていたのか衣里が説明をする。


「ほら、男って……エロいものがないとだめじゃん?」

「いや、まあ、間違ってはないと思うぞ? それで?」

「それで、こう……総司の部屋にもあるのかなと思いまして」

「一体何があると思ったのでしょうか」


 衣里が突然丁寧に話し始めたのでつられて総司も丁寧に話す。話の流れ的になんとなく衣里の言いたいことはわかったが、総司はとりあえず分からないふりをする。


「いや、その……えっちぃ本とか? あとは……その、DVDとか」

「……」

「え? あるのか? あるんだな! この部屋にあるんだな!」


 黙ったのが悪かった。衣里が慌てて首を回して部屋の中を見始める。衣里の言う通り、総司だって男だ。きちんと持っている。そしてしっかり隠している。特に夏休みに入って衣里がき始めてから。


「探していいか?」

「え?」

「探していいか?」


 一瞬耳を疑って聞く総司に同じ言葉を言った。さすがに衣里に探されるのは困る。内容がどうのこうのと言う問題ではなく、男的に、何より彼女に見られたくない。

 そんな総司の内心を知らない衣里は返事を聞く前に立ち上がってテレビ台に向かって行く。


 もちろんそんなところに衣里の探しているDVDどころか本すらない。だが今のままだといずれ見つかってしまうのは目に見えていた。

 そのため早急に止める必要が出てきた。


「おい衣里。いくら彼女だからって勝手に漁るな。男の部屋なんだからどこからヤバい物が出てきても知らんからな」


 そんな総司の言葉を聞いて振り返ってくる衣里。その表情は興味半分と言ったところ。


「え、何? もしかして超マニアックすぎるエロ漫画とか? さすがの私でも――」

「ゴキブリ」

「帰る。それじゃさよなら」


 総司が答えてからが早かった。すぐに総司の近くに置きっぱなしにしている携帯を手に取ると玄関に向かって行く。もちろん冗談なので慌てて止めに向かう総司。


「嘘だって! 衣里も見たらわかるが、俺も奴が出現するほど部屋は汚くしてないぞ!」

「……」

「いや、本当だって!」


 若干、半信半疑の衣里だがなんとか納得はして貰えた。先ほどまで座っていたソファに並んで座る。だが衣里として思うところがあるのか、僅かに2人の間に距離がある。


「で、衣里。どうして友達との会話を思い出したから探そうなんて思ったんだ?」

「そりゃ、総司だって男だから多少は仕方がないとは思うよ? でも彼女がいるのにその彼女を見ないで他の女を見るのはどうかと思って」

「嫉妬か?」

「……」


 総司が尋ねると衣里は俯いて黙った。見れば顔は赤い。どうやら図星らしい。


「大丈夫だ。俺は衣里しか見ていない」

「それでもこう、彼女としては思うところがありまして」


 衣里と付き合う前までは女性の勉強をするため使っていた教材。だが衣里と恋人になってからは使っていない。だがいまの衣里の様子を見ているとそもそも持っているというだけで思うところがあるようで――


「……前向きに少し考えてみます」

「よろしい」


 どうやら納得してくれたようで、衣里が笑顔を見せた。

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