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君を愛している  作者: シロガネ
EP7 フクザツな気持ち
68/84

7-1

 体育祭と言う2学期にある大きな学校行事が終わったためか少し浮ついた空気のある9月最後の週。

 それでも体育となると学校の中でも怖い先生が担当していると言うことで自然と気持ちは引き締まる。引き締まるはずなのだが――


「おいこら男子! 女子の方ばかり見てないでさっさと並べ!!」

「「はい!!」」


 珍しく男女共に運動場で合同体育と言うことで女子の方をちらちらと見る男子生徒たち。

 今は体育の授業中と言うこともあって、もちろん普通に怒られる。準備体操は終わっており、授業内容を聞くために並ぶ最中である。


 体育は運動場にて合同で行われると言うことで、使える範囲が自然と決まってくる。授業内容を聞き各自準備を始める男子生徒達。


 ここの学園では1学年5クラス。体育をする場合は1組から3組が合同、4組と5組が合同と言う風に分けられている。そのため別クラスの男子とも話す機会は多い。


「無茶苦茶今更なんだけど、蘇摩さんって案外可愛いよな」

「確かに。この学園って案外かわいい子多いじゃん? その中でもダントツは栗生姉妹だったけど、最近じゃ蘇摩さんも可愛いよなって気付く男子も増えてきたみたいだし」


 そう話しているクラスメイトの男子が、すぐ近くにいた総司をちらりと見る。ただ総司は無反応だった。表向きは無反応だったが、内心では嬉しいやら心配やらでごちゃ混ぜになっていた。


 やはり彼女が可愛いと言ってもらえるのはうれしいが、逆に彼女にちょっかいをかけてくる輩がいるのではないかと思ってしまい、心配していた。


「あっ、蘇摩さんがこっち見てる!?」


 その声につられて女子の方を見る総司。

 女子の方はちょうど準備体操が終わったようで移動を始めていた。その集団から少し離れるようにして座って見学している衣里が、にこっと笑って小さく手を振っている。もちろん手を振るときは先生にバレないように。


 そんな衣里に気が付いた男子生徒が嬉しそうな声を出した。


「まさか俺の気持ちが伝わったのか? だから俺に手を振ったのか? か俺なのか――って、あーそっかぁ~。間宮がいるんだなすぐそばに」


 声を出したが、すぐに隣にいた総司に気が付き落胆する。


 もし付き合っていなかったら「今俺に、蘇摩さんが手を振った!」「いや俺だろ」「馬鹿いうな! 手を振ってくれた相手はこの陸上部の中で素晴らしい中臀筋、内転筋、腸腰筋群を持つ俺だ!」とか騒ぎ立ってたはずなんだろうなと総司は思いつつ、他の男子に続くように移動を始めた。


「ああ。当たり前なんだけど、確実に間宮を見てたな。なんかすっげーもやもやする」

「前まで少し怖かったんだけど、今じゃ蘇摩さんって結構可愛いんだよな。それが全部転校してきた間宮の影響かと思うと」

「まあな、あんなにうれしそうな顔って間宮以外に見せないもんなぁ。間宮に手を振った、うん、そうだ間違いない。てかそれ以外考えられない!」


 そんなあほな会話をしつつ男子がのろのろと移動していると、体育教師の怒鳴り声が聞こえてきた。


「男子さっさと移動しろ! あと女子を下心に満ちた目でじろじろ見ていた間宮以下5名はスクワット100回!」

「可愛い可愛い彼女を下心に満ちた目でじろじろ見ていて何が悪いんですか!!」

「こいつ開き直った! しかも惚気まで入ってる!」

「むかついたから俺のスクワット100回お前に譲ってやる!!」


 総司と男子生徒がぎゃーすか言っている端で、体育教師のこめかみがぴくぴくとしていた。


「おい間宮! なんかムカついたから追加で100回! それだけじゃあムカつきが収まらなかったから、以下5名も追加でスクワット100回!」

「「「「「完全にとばっちり!!?」」」」」


 体育祭が終わったためか、いつもの学園生活に戻り始めた総司たちであった。






 帰宅したはいい物の、珍しく課題が出ていなかったと言うことでテレビを見つつのんびりしていると、隣に座っていた衣里が身長さのために総司の顔を見上げるようにして尋ねてくる。


「そういえば間宮と以下数名スクワットしてたけど、なにやらかしたの?」

「……女子の方見てたら怒られた」

「……え?」


 一瞬どうしようか迷った末に正直に答えた総司。もしかしたらと思ったが、衣里の顔が笑顔と無表情を足して割ったような何とも言えないものになっている。

 少し焦った総司は衣里の背中と膝裏に手を回して脚の間に横――総司から見て体が右を向くように座らせて顔をしっかり見れるようにしてから勘違いを訂正する。


「違う違う! 女子と言っても見てたのは衣里のほう!」

「……」

「ホントだって! 可愛い彼女をつい目で追っかけてしまうんだよ! 仕方ないだろ!」

「……」


 真剣に伝えたつもりだったが、プイッと音が聞こえてくるかのようにそっぽを向いた衣里。

 信じてくれなかのかと思った総司だったが、髪の毛の間から見える耳が赤く染まっていることに気がつく。


 まさかだが、恥ずかしくなったために顔を逸らしたのではないか。そう考えてしまった総司の心にふと悪戯心が沸いてしまった。真っ赤になっている衣里の耳に口付ける。


「衣里」

「ひゃっ……」


 腕の中でビクッと体をさせる衣里。聞いたことのない声に少し驚いた総司だが、そのまま耳元で話す。


「大好きだよ」

「っ、やめて! 耳元で囁くのやめて!」


 腕を突っ張り棒のように最大限まで伸ばして総司から耳を遠ざけようとする衣里。バランスが崩れてこけないように総司は慌てて支えた。顔は背けたままなのでどんな表情をしているか分からない。それでも拒絶をされると申し訳ない気持ちが出てくる。


「ごめん。悪かった」


 総司の言葉で衣里が顔を総司の方へ向けた。

 突っ張り棒のようにして総司を拒絶していた腕は力が抜かれて手は総司の胸に添えられるようにくっつけている。


「嫌じゃない。いやじゃないけど、なんていうか……ぞわっとする」

「気持ち悪さを感じると」

「そ、そうじゃな。けど……その、なんというか、ぞくぞくするというか……」


 総司がわざと悲しそうな表情をすると、衣里が慌てて訂正する。再び悪戯心が沸いた総司。


「なるほど?」


 総司は空いている右手で衣里の顔を体と同じ方向へと向けると、背中を支えていた左腕を移動させ左手を衣里の顎に添えた。


 そのまま右手で衣里の髪の毛を耳にかけると隠している衣里のかわいらしい小さな耳が出てくる。そのまま唇を近づけて、ふぅ……っと耳に息を吹きかけると、勢いよく振り返ってくる。


 真っ赤な顔で今度は衣里に強く睨まれる総司。あまりやり過ぎるのも良くないため、総司は「ごめん」と優しく囁いて、真昼の体を包み直す。

 完全に油断していた総司。衣里は顔の向きを調整すると、ふぅ……と息を吹きかけた。


「おぉ、びっくりした!!」

「だろ?」


 得意げな顔をする衣里はそのまま総司の頭の後ろに手を回すと、自分の方へ引っ張る。少し頭が下がった総司。突然のために驚く暇もなく、衣里の次の行動に驚かされる。


「ハムッ」

「……え、お、ちょ、おい!」


 一瞬何が起きたか分からなかったが、突然左耳に違和感を覚えた総司。だがすぐに分かった。衣里に耳を甘嚙みされていることに。


「食べるな! 耳を食べるな!」

「ん~? んー……」

「だから食べるな――息を吹きかけるな!!」


 衣里が息継ぎをするたびに暖かい吐息が耳をくすぐる。

 今度は総司が衣里を押しのけようとするが、手の位置が悪いのと衣里がしっかりと腕を首の後ろに回しているのもあり、押しのけることが出来ないでいた。


 結局諦める総司。ふとスマホに表示されている時刻を見ると、夕飯を作り始めるのにいい時間になっていた。


「衣里」

「ん~?」

「夕飯何食べる?」


 ハムハムと甘嚙みを続ける衣里に尋ねる。ここ最近毎日尋ねていること。


「ん~、耳」

「……え?」

「ごめん間違えた。肉がいい」


 耳を甘嚙みしていたためにぱっと出てきたのが耳だったらしく、総司の耳から口を話すと顔を赤くしながら衣里が答えた。

 面白いようなかわいらしい間違いのようなそんな感じがして総司はつい微笑んでしまった。それが気に食わなかったのか、衣里が総司の胸を弱くパンチする。


「ごめん。ごめんって。肉だな? 確かひき肉あったから、ハンバーグにするか。用意するから降りてくれ」

「手伝う」

「じゃあいっしょに作るか」


 少し不機嫌そうな顔をしながら降りた衣里に苦笑いをしつつ、総司は立ち上がる。

 そのまま耳食系――もとい、肉食系女子の衣里が望むハンバーグを作るため台所へと向かった総司と衣里。


「なあ総司」

「なんだ?」

「私も総司のこと大好きだよ」


 そう言いながら衣里は嬉しそうに笑った。

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