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君を愛している  作者: シロガネ
EP6 コイビトとして
64/84

6-8

「間宮! 結婚おめでとう!」

「お、おめでとう! ブフッ!」


 教室にてクラスメイト全員から少し――かなり早い祝福をされる総司と衣里。

 衣里と共に他の人の借り物競争が終わるまで待っている間に、戻った時や昼休みに何か言われるんだろうなと思いながら過ごしていたが、案の定であった。


 退場したあとは他の生徒にほほえましそうに見られたりし、昼休憩となった今ではクラスメイトにからかわれる。衣里は衣里でずっと顔を赤くしたまま。


 ちなみにだが、同じクラスである浩太はこの場にいない。聞けばジョージと一緒に先生に怒られているとかいないとか。おふざけが過ぎたようだ。

 当たり前だろと思いつつ、今は昼休憩だと言うことに気が付いた総司。


「あ、そうだ。衣里昼飯どうする?」

「え? あ、えーっと……」


 総司の問いに目を泳がせる衣里。続きを促すために衣里を見ていると、何かの決心が付いたのか口を開いた。


「……つ……た」

「え?」

「総司のために、お弁当……作って、きた」


 総司が尋ね返したあとの衣里の声は小さかった。

 それでも衣里が何を言っているか聞き取ろうとしたのか、クラス全員が静かになっていたため、変に教室に響いた。もちろん全員にばっちり聞こえた。

 少し時間を開け――


「「「おぉおー! 愛妻弁当!!」」」

「気が早いわ!!」


 無駄にハモッたクラスメイトの声に総司が突っ込む。そんな総司を無視してクラスメイトからいろいろな声が嵐のように飛んできた。

 やれ初めての手作り弁当なのか。やれ何を作ってきたのか。やれお前の体育祭の参加賞と優勝賞品それだから、先生から貰う体育祭の優勝賞品俺のな! などなど。


 恥ずかしさのあまり今にも泣きだしそうな衣里。


「あ~あ、もう。見世物じゃねぇんだから散れ散れ!」

「だってよみんな! 俺と2人っきりで教室で食べるから全員教室からいなくなれだってよ!」


 そうは言ってないだろと言いたくなった総司だが、それよりも先にクラスメイト達が移動を始めた。

「仕方ねぇな! 今日だけだぞ!」や「ゆっくりしてね!」何て口々に言いながら教室から退散していくクラスメイト達。しかも全員弁当箱を持っていく。


「えっ? えっ?」

「それじゃあごゆっくり」


 総司が驚いている間にも最後に出ていく玲奈が楽しそうに声をかけると教室の扉を閉めた。


「……」

「……」


 そして教室には総司と衣里の二人きりの世界が誕生した。


「は、ははは……どうしよう」

「せっかくみんなが気を使ってくれたんだし、ご飯食べよ」

「そう……だな。せっかくだし2人で食べるか」


 日当たりのいい窓際の席へ向かう2人。といっても普段から2人が授業を受けている自分の席。学校の教室で2人きりになったことなんてなかったため、いざ向かい合ってもお互い無言になる。


「えっと……はい、総司の分」

「ありがとう」


 初めての彼女の手作り弁当ということで口では平然としつつも、緊張した振るえる手で弁当箱を受け取る総司。

 その時、衣里の手に視線がいき――


「あれ? そう言えば最近、指の怪我が多かったがそれって……」


 今もその細い指の所々に撒いている絆創膏。

 以前、尋ねた時には紙で切ったといっていたが今思えば不自然なまでにたくさん撒かれていたことを思い出す。それと今日のことがなぜかつながったような気がした。

 総司が何を考えているのか分かったためか、衣里が視線を逸らす。


「……料理の練習、してた」


 自分のためにここまでしてくれていたなんて思ってもおらず、うれしい気持ちでいっぱいになる。

 そんな嬉しい気持ちでいっぱいになったまま衣里を見ていると、視線に気が付いたようでじっと見てくる衣里。表情に出ないうちにさっさと弁当の包みを解き、お弁当箱のふたを開ける。


「おぉ、豪華」


 牛肉とごぼうのしぐれ煮、卵と鶏を使った2色そぼろご飯。ほうれん草のおかか和えなど、色のバランスもよく、どれもおいしそうな料理が入っている。お弁当にしては手の込んだ物がそろっていた。


「結構早く起きたんじゃないのか?」

「そうだけど、総司が食べるって思ったらあんまり苦には感じなかった。それに練習したし、調理時間は短い物ばかりだし……」

「そうだとしても凄いな」

「そういうけど、晩御飯作っている総司を見ると、まだまだだなって……」


 そう言う衣里だが顔を赤くして照れ笑いを浮かべる。

 照れている衣里を見ていると、早く食べてと視線で促してくるので、渡された箸でさっそく料理を口に運ぶ。どれもおいしそうなうえに、彼女の初めての手作り弁当と言うことで、迷った末に牛肉とごぼうのしぐれ煮を口に運んだ。


 衣里がじっと見てくる中、総司は咀嚼する。そのまま静かに飲み込み――


「うぐぅっ! や、やばい! お、俺の! 俺の生命維持に大事なありとあらゆる器官がぁぁぁあああ!!」

「え!? ええ!? 嘘!? オレ何か間違えた!? 本屋で買ったレシピの本に書かれている材料以外入れていなかったんだけど!!」


 突然、箸を片手に腹を抑えてうずくまる総司を見て焦る衣里。

 驚きのあまり、机を挟んで向かいに座る衣里が立ち上がって総司に駆け寄ろうとした時、総司が体を起こす。


「ありとあらゆる器官が衣里の料理をよこせと訴えている。これは点数にして80点!!」

「どんな褒め方だよ! 心臓に悪いんだけど!!」

「ちなみにだが、そこに恋人補正がプラス20点加算されて、味は合計100点満点だ!」

「そんなこと聞いていない!!」


 冗談を言っている総司だが、内心では自分のために用意してくれたことに感謝していた。以前ひとり暮らしをしていると言っていた上に、先ほどの話を聞いている感じ、自分ひとりで作ったらしい衣里。それも指を傷だらけにしながら。


 可愛い上に、苦手だからしっかり練習しこうしてお弁当を作ってくれる。あたらめて思ってみると恵まれているなと思ってしまう総司だった。

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