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君を愛している  作者: シロガネ
EP6 コイビトとして
61/84

6-5

 学園から帰ってきたのち、お互い一度部屋に戻ると総司は制服から私服に着替えた。しばらくすると衣里が総司の部屋にやってくる。


 今日は珍しく課題が出なかったため、窓の外から差し込む夕日を浴びながらソファに座り、バラエティー番組を一緒にボーっと眺める。


 時より衣里が恋人つなぎをしている手に力を入れて握ってきた。そのためそれに答えるように総司が2回握り返してくると、答えるかのように衣里が3回握り返してくる。またそれに総司が答えるかのように4回握ると再び衣里が5回握り返してくる。


 それが何回か続いたとき、握る回数をしっかり数えていなかった総司。そのため握る回数が間違えた。それは総司自身理解しており衣里の方を見る。


「5回少なかったぞ?」

「そんなにか?」


 何が面白いのかわからないが総司の方を見ながら楽しそうに笑う衣里。

 思ったより少なくて驚いた声を出す総司だが、表情は衣里と同じように笑顔。ただ衣里と一緒にいるというだけで嬉しさが笑顔となって出てきてしまう。きっと衣里の笑っている表情も同じものだろう。


「総司」

「なんだ?」

「大好き!」

「俺も衣里のことが大好きだ」


 そんな感じでイチャイチャしていると、気が付けば時刻は6時頃になっていた。ただ隣に座ってお互い寄りかかり、手を握っていただけなのにあっという間に時間が過ぎ去っていた。

 さてどうしようかと総司が悩んでいると、隣に座っている衣里が提案してきた。


「なあ総司。夕飯一緒に食べていいか?」

「ああ」


 互い1人暮らしと言うこともありいろいろと自由にできる。もちろんそのなかの食事も含まれる。こういう時は何かと便利だ。

 総司としても少しでも長く衣里と一緒にいたいと言うこともあり、案外うれしく感じていた。


「衣里は何食べたい?」

「うーん……なんでもは困るよな?」

「困るな。せめて肉が食べたいとか魚が食べたいとか言って欲しい」


 テレビを見つつ、考える衣里。

 バラエティー番組の方ではちょうどCMに入ったようで、夜に放送される番組の紹介が行われる。各地の喫茶店をめぐる企画のようで、番組で流すであろう映像の一部が流れる。


 そのときにある喫茶店で出てきた料理――オムライスの映像が流れた時に「あっ」と小さく衣里が声を出した。そしてCMに移ると衣里が総司の方を向く。


「なあ総司」

「オムライスな。わかった」

「待って、オレそんなに分かりやすい?」


 小さく声が出たのは無意識だったらしい。少し焦る衣里に苦笑いすると総司はソファーから立ち上がった。


 恋愛初心者の総司。そのため衣里が何を求めているかなんてなかなか分からない。今回のように分かりやすかったらいいのにと思いつつ冷蔵庫へと向かう。

 記憶が正しければ材料がない。


 冷蔵庫の扉を開けると総司の記憶通り、必要と思われる材料がなかった。

 さすがに材料がないから出来ないなんて言えない。というより買いに行けばいいだけ。


「衣里。材料がないから買いに行ってくるが……どうする?」

「聞かなくてもわかってるよな」

「じゃあ準備して行くか」


 なんとなく予想はついていたが、案の定だった。当たったことに安堵しつつ、暗くなる前にさっさと行くことにした総司と衣里。






 最寄りのスーパーまで2人で手をつなぎながらのんびり歩いていると、総司たちが住んでいるアパートとはまた別のアパートから小学生低学年と思わしき男の子と女の子が出ててきた。


「それじゃあおままごとしよ」

「えぇ……また?」


 25メートルほど先ではあるが、周りは静かな上に2人の声は高くよく通り聞こえる。会話内容に総司が懐かしさを感じてると、衣里が尋ねてきた。


「玲奈とやってたのか?」

「いや、まあ……やってた」

「お医者さんごっこともか?」

「黙秘権を――ってつねるな。地味にいたい」


 二の腕を無言でつねる衣里。

 今となってはなぜあんなことをやっていたのかと自問したくなるような内容だったと言うことで、あまり触れて欲しくない昔話。それでもなんとなくの内容を衣里は察してしまったようだった。


 そんなことをしつつも歩き続けていると、男の子と女の子の会話が聞こえてくる。


「お前とのおままごと嫌なんだよ」

「なんで?」

「リアルすぎるんだよ」

「別にいいじゃない」


 小学生と思わしき子がやるおままごとの内容ってどんな感じだったっけと総司が思っていると、男の子が文句を言っていた。


「なんだよ。仕事では上司と部下に挟まれて疲れ、家では妻にウザがられる。その上、中学生になる娘には『お父さんの後にお風呂入りたくないから、お父さんお風呂に入らないで!』と言われる父親と、バーのママとのやり取りって」

「しかたないじゃない。テレビでやってたもん」


 リアルすぎでドン引きしている総司。ふと隣から視線を感じたので見てみると、衣里が心配そうに総司を見上げる。子供2人の会話を聞いてか、その表情は可哀想な子を見るような目。


「いや、あんなにリアルじゃなかった」

「そう……か」


 それでもまだどこか可哀想な子を見る目だった。


「あ、そうだ! ねぇ、お兄ちゃんたち、今暇? 一緒に遊ぼ?」


 ちょうど隣を通り過ぎようとした瞬間、男の子に声を掛けられる。買い物に向かう途中だったと言うことで暇ということでもない。それでも今すぐに行かなければならないと言うわけでもないため、総司は衣里の方へ視線を向ける。


「衣里はどうしたい?」

「時間大丈夫だよな? それなら相手してもいいと思うけど」

「よし、それじゃあ遊ぼう!」


 総司がいいという前に男の子はそういうと、女の子と一緒にアパートの裏へと駆けていった。


「なんかごめん」

「気にするな。それよりも付いて行くぞ」


 相手してもいいと言ったために一緒に遊ぶ流れになった。そう感じて罪悪感を抱いたためか謝る衣里の手を引く。まだ学園に通う身ではあるが、小さい子から見れば大人と同じように見えてもおかしくはない。そんな2人を誘うほど物怖じしない2人の子供に続いて総司はアパートの裏へと向かった。




 アパートの裏には小さな公園のサイズに合う滑り台と砂場、そして背もたれのない木製の長椅子と机があった。

 長椅子に座って遅いと文句をいう2人の子供に苦笑いしつつ、総司と衣里は近づく。


「何して遊ぶんだ?」

「うーん、4人集まったし……ひと狩り行くか!」

「えぇ……おままごとしたい!」


 昔やったことのあるゲームのCMにあったということで、懐かしく思う総司。ただ女の子の方はやはりおままごとがいいようだ。


「だから、お前のおままごと妙にリアルだから」

「今日は家族ごっこだから!」


 だがどうやら家族ごっこになるようで、男の子は納得したようだ。やると決まれば今度は配役。総司と衣里は何も言わずに2人に任せる。


「それじゃあ、おれがおにちゃん」

「じゃあわたしはいうもうと! おねえちゃんがママで、おにいちゃんが――」


 勝手に決まっていくのを見ていると、衣里がお母さん役になった。

 この流れで行くと、お父さん役か。そんな風に総司が思って衣里の方を見ると、どこか照れた表情をしている衣里が総司を見上げていた。


「ネコのムスカね!」

「猫かよ! お父さんじゃなくて猫かよ!」


 隣でお腹を抱えてクスクス笑っている衣里を置いて、総司は提案者の女の子と交渉をする。結果、お父さん枠に落ち着いた総司だった。




 配役が決まればさっそく始める4人。


「それじゃあ、帰ってきたところからね。よーい、あくしょん!」


 女の子のその言葉で始まる家族ごっこ。総司は少し離れたところから家の設定である場所に近づく。


「ただいまー」

「おかえりなさい。晩御飯で来てるよ」

「衣里の手料理、早く食べたくて楽しみにして帰って来たかいがあったよ」


 微笑みながら衣里がそう言った。ごっこではあるが、衣里の演技力にまるで本当に仕事が終わって帰って来た時のような感じがする。

 だがそれを止める人がいた。


「カット! お母さん違うでしょ!」

「え? 間違ってた?」


 女の子に止められて困惑する衣里。どこが間違っているか分からず見てくる衣里。総司も同じようにどこも間違っていないように感じて困惑する。


「お父さんが帰ってきたら『ごはんにする? お風呂にする? それとも、わ・た・し?』って言わないと!」

「なんだよそれ。てか、『わ・たし?』ってどういうことするんだ?」


 男の子が純粋な質問をしてくるが総司と衣里が答えられず固まる。内容が内容だけに下手に説明できない。総司と衣里が視線だけでどうするか相談していると女の子が話す。


「そんなものも分からないの? これだからいつまでも子供なのよ」

「そういうお前は知っているのかよ」

「当たり前よ! お母さんに教えてもらったもの」


 まじかよ。親何教えてんだよ。危うくそんな言葉が出そうになった総司と衣里だが、なんとか耐えた。


「じゃあ何やってるんだよ」

「そんなの決まってるじゃない。プロレスよ!」

「まじか! ふーふってすげー!」


 この日2回目のまじかよが出そうになったが、耐える総司と衣里。そんな2人を置いて女の子がさらに話す。


「技名は分からないけれど、パパの上にママが乗るの」

「おおー! すげー! おれのパパとママもできるのかな!?」

「ふーふはみんなできるって言ってたよ」

「じゃあ、帰ったらおれも聞いてみる!」


 聞きたくない家庭事情が聞こえたり、止めてあげてと言いたくなるようなことを言っているが、下手に言えない総司。衣里に至ってはうつむいてプルプルしている。笑いをこらえているのか羞恥からなのかわからない。


「それじゃあ、おにいちゃんとおねえちゃんもしないといけないな!」


 無弱にそんなことを言ってくる男の子と、期待に満ちた目を向けてくる女の子。さすがに出来るわけがない総司。衣里に至ってはその場にしゃがみ手で顔を覆っている。これに関しては羞恥に近いだろう。


 さすがに何も言わないとやらされる。というよりやったら大問題なのでどうにかして回避しなければならない総司は考えを巡らせる。


「夫婦でやっているプロレスなんだけど、すっごく危険だからここじゃできないぞ」

「そんなに危険なのか?」

「ああ。だから誰にも見つからないような場所でやっているんだ」

「そうなんだ。だからわたしが見た時にパパもママも焦っていたんだね」


 なんとか騙せた総司。とりあえず今はなんとかなったので。あとは2人の本当の両親にぶん投げる。さすがにどうしようもない。


「それよりも続きしなくていいのか?」

「そうだね。それじゃあ続きやろっか」


 そうは言ったものの、衣里の回復に少し時間がかかって少しだけかかった。それでもなんとか続けられたのは幸運だっただろう。


 プロレスごっこはしなかったが、衣里が料理の真似事をしたり、リビング代わりのビニールシートで総司がテレビを見つつだらける真似をしたり。子供役の2人と一緒に4人で衣里の作った仮の夕飯を食べたり――もちろん泥や葉っぱなので実際には食べていないが――して遊んだ。




 結局、子供たちの親が迎えに来るまで遊び倒した。

 帰り際なんども頭を下げた子供たちの親。そんな親に連れられて2人の姿が建物内に完全に見えなくなるまで見送った後、総司と衣里はスーパーに向かった。


「久しぶりに童心に帰って家族ごっこなんてやったが、案外面白かったな」

「ああ」


 子供たちはアパートに入って見えなくなるまで振り返っては総司と衣里に手を振っていた。それほどまでに楽し勝ったのだろうと思うと、遊んであげてよかったと心の底から思えた。


「なあ、総司」

「なんだ?」

「総司もやっぱり彼女の手料理は食べたいのか?」


 突然の質問に驚く総司。が、すぐに先ほどのことを思い出した。泥と葉っぱで作った料理と言うことで実際には食べられなかったが、これによって衣里としては思うことが出来たのだろう。

 考えたこともなかったとういうことで、改めて想像してみる。


「だまっているけど、もしかして食べたくないのか?」

「いや、考えたことがなくてな」

「え?」


 ただでさえ心配そうな表情がさらに落ち込んだものになる衣里。

 言葉足らずだったとすぐに分かって慌てて説明する。


「いや、まだ付き合ってあんまり経ってないだろ? だから今の状態でも十分幸せ過ぎて、手料理のことなんて頭からすっぽ抜けてた。まあ食べれるなら食べたいなとは思うな」

「ふーん……そう」


 聞いてきたのは衣里だが、どこか興味なさげにいう物だから、少し焦る総司。


「もちろん無理にとは言わないけど」

「そう。それはともかく、話は変わるけれど――」


 話は学校のことや体育祭のことに切り替わった。それでも総司は何も言わず、むしろ衣里との会話を楽しみつつ、スーパーに向かった。




 ちなみにだが、夕飯は衣里がリクエストしたケチャップのオムライスとなった。残念ながら総司が作った物。

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