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君を愛している  作者: シロガネ
EP6 コイビトとして
60/84

6-4

「それじゃぁあああ! 体育祭の出場種目決めるぞぉおおおお!」


 ロングホームルームにて近々行われる体育祭の出場種目を決めることとなり、指揮を執るのは祭りごとが大好きな八重柱浩太――ではなくテシこと勅使河原清司。体育祭の実行委員と言えば体育委員の仕事。つまり清司が総司達のクラスの体育委員である。


 体育委員は基本的に体育系の部活動に所属している生徒がなる。そう言うこともあって清司がなったが、なにせ柔道部。無駄に声がでかい。


 もちろん女子の体育委員も同じく体育系の部活にはいっている生徒がなる。そんな女子の体育委員は清司の後ろで黒板に種目一覧を書いていた。


 総司たちの通う学園では各学年クラスごとに競う。

 前の学園で生徒が6つの団に分かれて戦うといったもののため、入学してきた1年の時に感じるような新鮮味を総司は感じていた。


「ふぅん。改めて見ると種目結構あるんだな」

「確かに」


 お互い転校してきたため、体育祭をやっていない。その上お互い隣同士と言うことで、黒板に書かれた種目を見ながら総司と衣里が小声で話していた。

 黒板には短距離走に各種リレー、障害物競走に借り物競走、綱引きなどが書かれている。総司のいた前の学園と大差ない。


 少し離れたところに部対抗リレーと書かれている。これは言葉通り部活動対抗リレー。それも『運動部の』が付くので、帰宅部の総司と衣里には関係ない。


「障害物競争か借り物競争か」

「競争好きだな」

「じゃあ徒競走もやるか?」

「いや、そんな種目ねぇし!」


 衣里の突込みの通り行われる種目の中に徒競走はない。総司と衣里が会話をしていると清司の大きな声の元、教室のなかで男女が別れる。


「それじゃあ、男女で別れて決めるぞぉおお!!」

「もう少し静かにしなさい」

「それじゃあ、男女で別れて決めるぞぉぉ……」


 担任の先生に怒られたため、静かに言い直す清司。

 窓側に男子、廊下側に女子が集まって出場する種目を話し合う。男女混合リレーなど、男女が混ざって行う競技はその都度男女間で誰が出るかの情報を交換しつつ順番を決めていった。


「俺リレー出る!」

「やめとけやめとけ。お前じゃ他のクラスに勝てないぞ。ここは陸上部でもある俺が出て女子にできるアピールをだな」

「陸上部のくせにこの前帰宅部に負けてたやつが出てもな」

「ばっ、違うし! 帰宅部の奴に靴の中に石を入れられていてだな」

「言い訳が見苦しいぞ。第一お前その時、靴履かずに競ってただろ! そもそもお前陸上部じゃねぇだろ!」


 窓側にて楽しそうに男子がギャアギャア言いながら話を進める。体育系の部活に入っている男子が女子にいいところを見ようとしているのか譲らない戦いが始まった。

 あまりにも地味なものが回ってくるのも困るので総司も参加する。


「じゃあ俺は――」

「「「お前は綱引きだけな!」」」


 なぜかクラス男子の満了一致で決ま――


「せめて障害物競争か借り物競争を入れろ!」


 ――りかけるのを防ぐ総司。もちろんそれを聞いて黙っているクラスメイト男子ではない。


「ふざけるな! お前すでに彼女いるだろ! 彼女いない男子に輝く機会を!」

「この体育祭を機に彼女獲得を!!」

「我々に栄光を!!」


 男子は体育祭優勝を目指すのではなく、彼女獲得を目指すのは前の学園と一緒かと思いつつ、総司は苦笑いしつつ聞いていた。それでも内心では優越感にひたっていた。



 結局、体育系の部活の生徒がリレーなどの競走種目に出場し、帰宅部や文化部などの生徒は借り物競争や玉入れなどの競技に振り分けられていく。

 クラス男子の予想を裏切って、意外にも前の学園で運動部に入っていた総司。そのためまあ大丈夫だろうと借り物競争と障害物競争に振り分けられた。


「なあ、この2つってあんまり運動能力求められてないよな?」

「まあ、借り物競争は運で障害物競争はバランス力とかそんなところか?」


 以前の学園でも2つともあった競技。その時はリレーに出ていたということで借り物競争などには参加せず見ている側だった。そのためなんとなくの知識しかない総司。

 それはクラスメイトも同じだったらしく、あいまいな返事。


 まあ、なるようになるか。

 そんな風に思いつつ、他のクラスメイト男子が決めるのをのんびりと総司は待っていた。



「仕方がない! 綱引きには俺が行く!」

「いや、俺が!」

「いやいや、俺が!」

「「どうぞどうぞ」」

「譲るなよ!」


 どこの倶楽部だよと言いたくなるような会話が聞こえて来たり、俺にモテる機会を! 俺に彼女を! なんてアホなやり取りをして先生に怒られつつ、出場する決まっていった。


 そして最後に回された出場者を決める競技が騎馬戦である。これに関しては全クラス男子の人数がちょうどいい人数になるため全員出場することになっている。


「よし。決めるぞ! 4人組を作ってくれ」

「どうする? やっぱ身長か?」

「後ろの2人は左右で背丈を合わせる感じじゃね? それに加えて土台のやつは体力があった方がいいかもな」

「じゃあそれで1回別れてみるか」


 そういうとクラスの男子がそれぞれ別れる。すでに転校してきてある程度たっているため全員とは話したことがある総司。そのため話しにくい男子がいるわけでもない。それは他の男子も同じようで、よく話しているメンバーに近くにいた男子が加わると言った感じで別れていく。


 総司も近くにいた浩太と、これまたたまたま近くにいたクラスの男子2名が合わさった。


「んじゃさっそく役割決めるか」

「んじゃ浩太、上頼むな。よし決まったな」

「ふっざけんなよ!」


 流れで浩太を上にできないかと思った総司だが、本人の手によって止められた。

 だが他の2人もそれには乗り気のようだ。


「いやでも浩太の方がいいんじゃね? お前運動部だろ?」

「え? 浩太、お前運動だったのか?」

「いや、俺の方が驚きだわ! なんで今まで知らなかったの!?」


 驚く総司に逆に驚く浩太。

 何度か話にはしていたつもりの浩太だったが、聞いていなかったのかそれとも話していたのは別の相手だったのだろうかと自分を疑い始める。


「いやまあ知っていたんだけどな?」

「おまっ!」

「まあまあ、そう言うわけで帰宅部3人は土台になるから、運動神経のいいであろう浩太が上になってほしい。と言うよりなれ」


 浩太の肩を叩きながらクラスメイト男子が促し、反対側の肩を別の男子が頷きながら手を置いていた。


 浩太はあまり乗り気ではなかったが、なんやかんや話し合い、結局浩太が1番上になった。下の土台は総司が前で男子2人が後ろに。というのも3人の中で男子2人の身長がもっとも近かったから。


 尚、総司を上にしようとした浩太の言い分は「最近彼女出来たから他の男子連中は良く思っていない。だから上にしたら面白そうじゃね?」だった。




 他のクラス男子も誰が上に行くかで揉めているようだったが、少しずつ決まり始める。


「俺が上に行く!」

「いや、俺が上に行く!」

「いやいや、俺が上に行く!」

「お前らうっせぇ! 俺が上に行く!」

「「「どうぞどうぞ!」」」

「おい!」


 ただ、そんな決め方でいいのだろうかと思ってしまうような決め方をしている4人組もいるが。ただ本人たちは納得しているようなので、その4人組以外の人は特に口出しするつもりはなかった。

 決まった人達は登録用紙に名前と出席番号を書くと、自分の席へと戻っていった。


 女子の方は誰がどの協議に出るかでもめているようで時間がかかっている。それは毎年のようで、男子は今年もかと思っているような表情。


 そんな様子を総司がぼんやり見ていると、前の席に座っているクラスの男子が後ろを振り返ってきた。


「彼女でも見ているのか?」

「いや、この学校でもそうなんだなって思ってな」

「何が?」

「体育祭の時はたいてい女子が何に出るかで揉めてなかなか終わらない」


 前の学校での風景を思い出しつつそう言うと、男子がどこか納得した表情をする。


「ああ、そういうこと。この学園でもっていうことは、お前の学園でもそうだったのか?」

「ああ」


 苦笑いを総司が浮かべると、同じく苦笑いを浮かべて男子生徒が苦笑いを浮かべた。

 暇だと言うことで、前の学校の体育祭について話すこと十数分。ようやく女子の方も決まって、ぞろぞろと席に戻り始めた。


「おかえり。長引いたな」

「まあな。オレも出ることが出来たら皆の負担へせるんだけどな……」


 なぜ出ないのか聞きそうになった総司だが、病気のことがふと頭を過る。それと同時に告白の時に衣里がいっていた「できないことだってある」という言葉がふと甦った。


「……出れないのか?」

「まあな」


 衣里自身それにはあまり触れて欲しくないのが分かったため、総司は話を止めた。

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