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翌日、登校すると校舎の前に周りを女子生徒たちに取り囲まれている稚奈を総司は見つけた。
「おはようございますっ、稚奈先輩!」
「おはよう。今日も暖かくていい天気ね」
周りにいる女子生徒たち全員が憧れの人を見るようなまなざしで、稚奈を見つめている。
「栗生先輩。ちょっと相談があるんですけどいいですか?」
「なにかしら?」
「アロマオイルなんですけど、何かおすすめの物ってありますか?」
「そうね。確かあなたは柑橘系アロマが好きだったわね。ならオレンジなんてどうかしら?」
先輩と呼んでいるだけあって、どうやら後輩のようだ。その後輩らしい女子生徒との会話が終わると、すぐさま今度は別の人との会話が始まった。
「ねえ稚奈。近くのショッピングモールで服のセールをしているのだけれど、付き合ってくれない?」
「それじゃあ今度の休みに行きましょうか」
「えっ! それじゃあ私もついでに!」
「ちょっと! せっかく私と稚奈の2人だけで行けると思ったのに!」
「もう。喧嘩しないの」
「あっ! 稚奈先輩!」
稚奈の同級生――つまり総司の先輩にあたる女子生徒も稚奈と会話をしている。ふと見れば総司のクラスメイトの女子も混ざっている。
稚奈が別の女子生徒と話している間に次から次へと人が増えていく。気が付けば稚奈の周りには10人ほどが集まっていた。
まるで教えを説く人と、その教えを聞きに来た人みたいだな。
総司はそんなことを思いながら教室に入っていった。
「おはよう、総司」
「ああ、おはよう」
教室に入って自分の席に座った総司にすでに登校していた浩太が声をかけてきた。
「なあ浩太」
「ん?」
「栗生生徒会長って無茶苦茶人気なのか?」
「ああ……ってあれ? 知らなかったのか?」
「初耳だ」
「そうか。じゃあ俺が教えてやる」
そういうと浩太は稚奈について説明を始めた。
栗生稚奈。私立伎根多摩学園の現生徒会長。
その柔らかな物腰と優しい口調に加え面倒見まで良く、すべてを包み込むような母性に溢れているせいか相談をされることが多い。そしてその相談を嫌な顔せず乗るためか、生徒たちの人望も厚く支持層も男女関係なく幅広い。
お近づきになりたいと思う男子は数多いが、いつもは周りに女子生徒がたくさんいるため話しかけることがほぼ不可能である。例え告白したとしても、その男子生徒が学園屈指のモテ男だったとしてもことごとく振っている。
結果、振られた奴と告白する勇気のない奴で出来た親衛隊があるとかないとか。
「っとまあこんなところだな。あとは義理とはいえ妹の栗生さん――玲奈さんも可愛いだろ? そんな2人はこの学校では結構人気だな」
そう言うと、浩太はちらりと視線を動かした。その目線の先を総司が辿ると玲奈が自分の席に座って女子生徒と仲良く会話をしている。
「だから玲奈さんと幼馴染であるお前は男子からすれば羨ましい限りだ。もしここで稚奈先輩と親しくなったら全員から嫉妬の目を向けられるから気を付けろよ。なんなら会話したぐらいでも嫉妬の目を向けられるぞ」
「そうか。わかった」
総司は頷いたが、すでに会話をしたなんて言えない。
総司が用意を行い、クラスメイトとしばらく離していると担任の先生がやってきた。本日の連絡を終えると、どうやら担任の先生が受け持つ強化が1時限目らしく、担任の先生はそのまま残る。
授業が始まってしばらくたってから衣里がやってくる。今日も遅刻してやってきたのだった。
衣里が授業が始まってしばらくたってから登校してくるのは毎日続いた。
なんなら2時限目から登校してくる日もあるぐらい。
クラスメイトは特に気にしていないらしく、総司だけモヤモヤとした気持ちで学園生活を送る。
ただその気持ちもずっとと言うわけでもなく、転校してきたばかりと言うことで前の学園とは違うこともある。そのためすこしでも早く慣れるように頑張っていると、あっという間に最初の1週間は過ぎた。
そして金曜の夜。母親から連絡が来て最初の1週間は大丈夫だったなどの話をし終えて電話を切った時、LENAに通知が来ていることに気が付いた。