表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君を愛している  作者: シロガネ
EP6 コイビトとして
58/84

6-2

 本日は始業式だけということで、部活動がない生徒は昼までには帰宅となった。玲奈は友達と話してから帰るらしく、総司は朝と同様に衣里とならんで帰宅する。もちろん手をつないでということも忘れない。


「そういえば俺が戻ってくる前に他の女子と話していたみたいだけど、まさか変なこと話してないだろうな?」


 衣里の歩幅に合わせるように隣を歩いていた総司が尋ねる。


 帰りのホームルームが終わるなり先生に呼ばれて職員室に立ち寄った総司。長くなりそうだったと言うことで衣里には教室で待ってもらっていた。

 10分ほどで話が終わった総司が教室へと戻ってくると女子生徒が教室の1か所に固まっていることに気が付く。ちょうど総司の席の近く。


 不思議に思いつつ近づいた総司に女子生徒の内の1人が気が付き、それによって他の女子生徒も気が付いたらしく、モーゼの海割りのごとく人が左右に分かれる。すると中心に困り顔の衣里が見えた。

 聞けばどっちから告白したのかやどこまで行ったのかなどを根ほり葉ほり聞かれたとのこと。


 衣里からはあらかた聞いたためか今度は総司が質問攻めされた。会話をしつつタイミングを見計らい、キリのいいところで衣里を連れて総司はこうして帰路についている。


「大丈夫。変なことは……言っていない」

「蘇摩?」


 自信が無かったのか視線を逸らした衣里に一瞬心配する。だがすぐに総司の方へと視線を戻した衣里。身長差があると言うことで下から見上げる形に近い。


「だ、大丈夫だから! というよりまだ付き合って数日しかたってないし! 話すことあんまりないし!」


 衣里が必死に訴える。

 夏休みの終わりから付き合いだしたと言うことで、まだ数日しかたっていない。さらにこれといって進展がなかったためか特にこれといった話がでてこなかったのだろう。


「なあ衣里。このあと出かけるか?」

「え?」

「いや、その……デートしないか? もちろんいったん帰ってから」

「えっ!? で、デート!?」


 デートの誘いに衣里が驚く。ここ数日特に進展がなかったと言うこととも相まって驚いている様子。


「突然すぎたよな。無理なら――」

「だ、大丈夫! 無理じゃない! ただ驚いただけだ!」

「そうか。ただその……初めてのデートだから丸1日一緒がいいとか、そういうのだったらまた改めて誘いたいんだけど」

「確かに丸1日の方がいい」


 その言葉に少し肩を落とす総司。特に進展がなかったと言うこともあって少し慌ててしまった自分が情けなく思ってしまった。


「でも、オレは今日がいい。せっかく間宮が誘ってくれたんだし。何よりオレのことを思ってだろ?」

「な、何をいっているんだ? 俺はただ蘇摩とデートに行きたいから誘っただけなんだけど」

「はいはい。そういうことにしといてやる」


 楽しそうに笑う衣里を見つつ総司は苦笑いを浮かべる。確かに進展がなかったことに少し焦ったこともあるが、やはり衣里を楽しませたいと思ったこともある。

 ふと何かに気が付いた衣里が総司に尋ねた。


「それよりもどこに行くんだ?」

「あ、えっと……」


 そこで言いよどむ総司。勢いよく言ったはいいものの、帰ってから調べるのでは遅すぎる。かといってこの辺りのデートスポットで知っているところなんてほとんどない。

 あっても近くのショッピングモールか花火を見に行ったテーマパークか。ただ近いということもあってどうかなと思い、もう少しいいところを探すべきかどうか迷っていた総司。

 総司が迷ったのがわかったからなのか衣里が助け舟を出す。


「近くにショッピングモールあったよな。間宮と玲奈がデートしてたところ」

「え? 俺いつレーちゃんとデートしてた? というよりショッピングモールでいいのか?」


 こいつまじでいってんのか!?

 そう声には出さなかったが、目を見開いている衣里。ただ総司の方はショッピングモールでいいのかと聞いたことに驚いたと勘違いしていた。


「いや、驚かれても。蘇摩がショッピングモールを提案してきてたんだが……まさか引っかけか!?」

「いや、そうじゃない。ショッピングモールでいい。ショッピングモールでいいんだけど、そうじゃない……」


 少しなやんだ衣里だが、まあいっかと何かを割り切ったような表情をすると、総司の手を握った。


「まあ最初のデートだし、お互いまだ完全に相手のこと理解していないだろうし、だからショッピングモールでいいし、というより間宮とならどこでも楽しいだろうし、その……デート、お願いします」


 そう言いながら視線を逸らす衣里。付き合う前とは打って変わっての女の子らしさに総司は内心悶えていた。






 一度帰宅したのち、用意してから一緒にショッピングモールに向かった総司と衣里。

 デートの定番の待ち合わせをしようか総司が相談したが、少しでも一緒にいたいという衣里の要望で自宅から一緒に行くことにした。待ち合わせはまた今度とのこと。


 9月に入ったといっても熱いのには変わりなく、衣里の体を心配した総司の提案によって、ちょうど近くのバス停に留まったバスに乗り込んでショッピングモールに向かった2人。

 ショッピングモール近くのバス停に留まったバスから降りると、そのままショッピングモール内へと入っていた。


「じゃあどこから見て回る? 蘇摩の行きたいところからでいいぞ?」

「えっと、間宮」

「ん?」


 その場から動かない衣里。何かを言おうか迷っている雰囲気。総司が待っているとようやく口を開いた。


「苗字じゃなくて名前で……呼んで欲しい」


 一瞬驚く総司。別に恋愛について全くの知識がなかったと言うわけではない。名前呼びになったりすることぐらいわかっている。

 ただいざ自分がその立場となると恥ずかしい気持ちが沸く。それでも総司は決心をつけて――


「衣里」

「な、なに……? そ、総司?」


 名前を呼ばれた瞬間、顔を赤くして総司から視線を逸らす衣里。それでもしっかりと手は握っている。それどころか離さないとばかりにぎゅっと握ってきた。

 そんな衣里が愛おしく思い、彼氏としてリードすべく総司は衣里の手を引いた。


「デート行こうか」






 学校から帰るとすぐに着替えて出発したということで、昼食をとっていなかった2人。さすがに空腹のまま見て回るつもりもなく、とりあえず近場の喫茶店に入った。


「そう――衣里は何食べる?」

「そうだな」


 文化祭後に玲奈と来た店とはまた違った店と言うこともあり、少し悩んだ総司。それでも冒険をしてまで気になる料理を選ばず、どこの店で注文したとしても大体同じであるハンバーグの内、デミグラスソースのハンバーグを選択した。

 衣里はメニュー表を最初から最後まで目を通して考えている。一瞬デザートの所で手が止まったが、すぐに最初のページへ戻って再び選び始めた。


「総司は何食べるつもり?」

「デミグラスソースのハンバーグ」

「あ、冒険しないんだ」


 顔を隠すようにしてメニュー表を見つつ話す衣里。メニュー表に隠れたために総司は気が付かなかったが、総司の名前を呼んだり、逆に総司に呼ばれるのに慣れていないらしい衣里は顔を僅かに赤くしていた。


 結局迷った末におろしポン酢のハンバーグにした衣里。

 このあとどこ見て回るか話していると、2人の前に湯気をあげるハンバーグが乗ったお皿が持ってこられた。店員が丁寧にそれぞれの前にお皿を置いた後、伝票を置く。


「それじゃあ食べようか」

「うん」


 店員が「ごゆっくり」といって立ち去ったのち、総司の言葉で2人は食事を始めた。

 このあとどうするか話しながら食べる総司と衣里。ただチラホラと自分の食べているハンバーグの方へ視線が向いていることを総司はなんとなく感じていた。


「……食べるか?」

「え、あ、いや。いい」


 首を振る衣里に我慢しなくていいぞという総司。予想が外れて内心少し落ち込んでいた。

 衣里が求めることをやってあげたい総司だが、まだ相手のことを理解できていないためか望んだことを出来ないことを、知らぬ間に悔しく思っていた。


「な、なあ総司」

「ん?」

「少し量が多いから手伝って」

「そのぐらいいいぞ」


 欲しいのではなく、食べるのを手伝って欲しかったのか。

 内心そう思いながら、衣里が分けた分を自分のお皿に乗せやすいように自分のお皿を衣里の方に近づける。


 それを見た衣里が箸でハンバーグを切って挟んで持ち上げる。ただ量がおかしかった。多いと言うわけではなく、逆に少ない。

 違和感を感じた総司だったが、さらに驚かされた。


「……はい」


 ハンバーグが落ちないようにするためか、左手を下に添えて箸を突き出してくる。明らかに食べさせるため。

 話で聞いたことはあってもいざ自分がされる立場になると思考が追いつかない。


「そ、総司?」

「あ、わ、悪い!」


 顔を赤くした衣里を見て慌てて差し出されているハンバーグにかぶりつく総司。初めてされて分かったが、無茶苦茶恥ずかしく感じていた。味なんて分かるわけがなかった。


「どう?」

「美味しいぞ。ありがとう」

「そう」


 うれしかったのか、はにかむ衣里。ただ自分だけやられて終わりというのは総司もどうかと思うと同時に、先ほどの衣里の表情の意味がなんとなく分かった。


 衣里の方にやっていた自分の皿を引き寄せ、一口サイズに箸で切る。その一口サイズも自分が食べる大きさよりはるかに小さい。それをつかむと、衣里と同じように左手を添えて差し出す。


「ほら衣里。あーんして」


 少し躊躇した衣里だが覚悟を決めたような表情をすると、総司が差し出すハンバーグを食べた。どのくらいの大きさにすればいいか分からなかった総司だが、無事に衣里の口に入って内心ほっとしていた。


「どうだ?」

「おいしい」

「本音は? 味はわかった?」

「……恥ずかしくて味が分からない」


 まさかと思って尋ねたら、総司と全く同じことを感じていたらしい衣里。そんな衣里を見つつ、総司は笑うと食事を続けた。時々食べさせ合いながら。




 食事中は照れていた衣里だが、食事を終えて店を出いると上機嫌になる。いつもの衣里に戻ったらしい。


 そんな衣里と総司はショッピングモール内を見て回る。

 前回は玲奈もいたし何より総司と衣里の関係は今とは違った。そのためなんとなくだが前回とは見える景色が違い、面白く感じていた総司。なにより隣に衣里がいるということがすごくうれしかった。


 2人していろいろ見て回る総司と衣里。以外にもゲームに興味があったようで、ゲームセンターでエアホッケーをしたり、ゾンビを撃ってポイントを稼ぐゲームなど幅広くした。また服を見たりなど改めて女性だなと思わせるようなデートとなった。


 ただやはり半日だけだったということであっという間に時間が過ぎ夕方になる。

 そのため2人はお開きにして帰宅していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ