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君を愛している  作者: シロガネ
EP6 コイビトとして
57/84

6-1

 8月も終わり9月に突入した初日。9月になったからとはいえすぐに涼しくなるようなこともなく、本日も雲1つないため日差しがきつい。

 そんなきつい日差しの中、学園へと続く通学路を制服に身を包んだ2人の男女が歩いていた。


「にしても暑いな」

「もっと熱く――」

「いやそれ前も聞いた。というより昨日も聞いたし、なんなら一昨日も聞いた」


 とある元男子プロテニス選手の名言を言おうとして止められた間宮総司。5月に転校してきたが、すでに彼の通う私立伎根多摩学園の生徒に馴染んで来ている。

 その横を歩いている、同じく私立伎根多摩学園の生徒の蘇摩衣里がどこか諦めたような表情をすした。


 少し距離を開けて並んで歩いて楽しそうに話しているその姿は、まさしく仲のいい友達同士。

 ――だが、実際は違ってこれでも付き合っている。8月の終わりの方に行われた黄昏コンサートから付き合い始めた2人。


 付き合い始めたはいいものの、夏休み期間が残り数日だったということでどこにも行けず、結局家で過ごしていた。家で過ごしたと言っても、お互い意識しすぎて家の中でも少し距離を取っていた。


 恋人になったにもかかわらず、前より距離が空いたのは果たしていいことなのだろうかとお互い内心思いつつ、されど相手に言えないまま過ごしていた。


「というより、お前最近おかしいだろ」

「そ、そんなことないぞ?」

「キョドるな」


 衣里の言う通りここ最近総司は少しおかしい。いや、前からおかしいのだが特にここ数日おかしくなっている。


 理由は簡単。初めての彼女ということで、どういう風に接していいのか手探り状態のため。今は衣里と一緒に並んで歩くだけでドキドキして少しでも紛らわせようと必死である。


「まあいいや。ほら早くいかないと遅れるぞ」


 総司の歩幅1歩分だけ少し前を歩く衣里が振り返って笑う。付き合う前より柔らかくなった笑みに総司は見とれていた。それでも足を止めるようなことはせず、学園を目指して2人並んで歩いて行く。


「衣里」

「なに……あ!」


 僅かにだが衣里が驚いた。その驚いた理由は総司の方から衣里の手を握ったから。今日から始業式と言うことで初めて一緒に登校する。なんなら付き合い始めて一緒に外に出たのも初めて。そのため手をつなぐのは初めて。


「嫌だったか?」

「そんなことない」


 衣里はそう言うと離さないと言わんばかりに総司の手をギュッと握り返した。





 学園に近づくと好奇の眼差しを感じるようになり始めた総司。それでも不快な感じはせず、むしろ心地よく感じていた。

 これが彼女のいる優越感か。恥ずかしくもそんな風に思いながら歩いていると、通学路を歩いているときに感じた視線は学園の敷地に入るとますます増えていく。


「なあ間宮?」

「なんだ?」

「無茶苦茶恥ずかしいから手離していいか?」

「だめだ。俺は繋いでいたい」


 ギュッと手を握りながら総司がそういうと顔を赤くして衣里は睨んできた。そんな睨んだ顔も可愛く感じてしまう総司。


 結局手をつないだままと言うこともあって視線を感じつつ教室に入る2人。少し急いでいたとはいえ、ぎりぎり間に合った感じである。


「おはよう。久しぶり」

「おはよう――じゃねぇよ! なにさらっと手を繋いで教室に入ってきてんだよ!」

「え? 何々? 無茶苦茶面白い言葉聞こえてきたんだけど?」


 入り口近くにいた近くにいたクラスメイトの男子に挨拶を交わすと目を見開いて驚く男子。その男子の声が聞こえたのか、これまた近くにいた女子生徒が目をこれでもかと言うほどキラキラさせながら総司と衣里を見る。

 そのまま視線は総司と衣里の握りあっている手に移って行き――


「キャーッ!! おめでとう!」

「え? 何!? 付き合っているの!? いつからいつから!?」


 いっきにクラスの女子生徒に囲まれる総司と衣里。

 1学期に総司が間に立って衣里とクラスメイト達の関係を良くしたが、今回のように一気に何人もの女子生徒に囲まれることがなかった衣里。そのためか驚いて反射的に総司の腕にしがみつく。


「ちょっとちょっと! 蘇摩さんが無茶苦茶可愛いんだけど!」

「うんうん! 彼女がかわいいとか間宮くんは幸せ者だなこんちくしょう!」

「くっそ! なんで間宮だけ! なんで間宮だけ!」

「諦めるな! 諦めたらそこで試合終了だ!」


 女子の向こう側では男子が総司に嫉妬の視線を浴びせている。また教室の隅では男子数名が固まって、小さな声で何やら話し始めた。


「なあ、どうすれば間宮と蘇摩さんを別れさせることが出来ると思う?」

「間宮の歩く先にバナナの皮置こうぜ」

「いや、背中に紙を張ろうぜ。紙に書く言葉は巨こ――」

「させっかァァァァァ!」


 阻止しようとした女子生徒が一瞬で近づき、1人の男子生徒に渾身の右ストレートを放つ。

 それが見事男子生徒Aの腹部に突き刺さった。


「んーー!」

「クラスメイトA!」


 やられた男子生徒が吽行像のような顔をして地面に倒れる。そのまま女子生徒は再度拳を後ろに引くように構えると右ストレートを放つ。


「あーー!」


 その右ストレートも男子生徒の腹に刺さり、男子生徒は阿行像のような顔をして倒れた。


 あっという間にクラスメイトAとクラスメイトB――もとい金剛力士像のような顔をした生徒は撃沈。もちろん質問攻めにあっている総司と衣里にはそんなことが起きているなど気が付いていない。


「やっぱり間宮くんから告白したんだ! しかも2回も!」

「ヒュー! 衣里ちゃん愛されてるぅー!」


 ただ総司と衣里も根ほり葉ほり聞かれており、告白の所も白状させられた。

 恥ずかしさのあまりか衣里の顔はリンゴのように真っ赤。いつも見ていた衣里とのギャップに女子はさらにヒートアップしていく。

 女子の輪の外側では浩太や清司たち男子生徒が話し――


「つまり間宮君と蘇摩君は上腕二頭筋と上腕三頭筋のような存在になったのだな!」

「いやどんな存在だよ!」

「上腕二頭筋が肘を縮める筋肉で上腕三頭筋が肘を伸ばす筋肉だから、お互いいつも一緒にいないといけないということか?」

「ああ。なるほど」


 それじゃあただのバカップルになるぞと突っ込みたいところだが、そんなことは気にしないらしく、何やら納得した男子生徒。とりあえずそれっぽい解釈が出来たので満足しているようだ。


 また別のところでも小さいながら1つのグループが出来ていた。場所は教室の後ろの席。

 総司と衣里を祝っているという雰囲気はない。だからといって祝っていないと言うわけでもない。単に少しだけ別の話をしていた。


「ちょっと玲奈。どういうこと?」

「私応援していたのに」

「まあ、見ての通りかな?」


 玲奈とクラスメイトメイトの女子数名が教室の後ろの方のある女子生徒の席の周りに集まっていた。囲まれている玲奈はと言うと友達に迫られて苦笑いを浮かべているだけ。


「それじゃあ――」

「ねぇ、お願いがあるんだけど」

「ん? 何々?」

「私あの2人の恋愛を応援したいの」


 玲奈のお願いを聞いた玲奈の友達が一瞬驚いたがフッと笑った。悪だくみを考えている笑みではなく優しい笑み。


「わかった。それじゃあ私達もあの2人を応援する」

「ありがとう」

「その代わり、学校終わったらどこか食べに行こ?」

「あれ? ダイエット中って聞いたんだけど?」

「いいの! 今日ぐらいいいの! 玲奈のために!」


 ここはここで話がまとまりつつあった。

 だが総司と衣里の方はまとまらずその騒ぎは大きくなり、廊下を通り過ぎようとしていた他クラスの生徒が野次馬で集まり始める。


「それじゃあ――」

「ほら。ホームルーム始まるから席に戻って」


 そこに担任の先生が生徒の波を潜り抜けて教室へ入ってきた。実はと言うと数分前には来ており入るタイミングをうかがっていた。もちろん総司と衣里が付き合い始めたと言うこともしっかり分かっている。


「えぇー! 先生、せっかくいいところだったのに!」

「早く済ませないと始業式に間に合わないから。ほら、他の子たちも自分のクラスに戻りなさい」


 分かってはいるが、それはそれこれはこれ。生徒たちもわかっているようで、先生の言葉に従い、渋々ではあったが散っていく。それに続くように総司と衣里も席についた。


「2人ともおはよう」

「おはよう、レーちゃん」

「玲奈おはよう」

「朝から大変だね」


 久しぶりといっても数日前に出会ったばかりの玲奈。それでもなんとなくだが雰囲気が変わったと総司はどことなく感じていた。それでも余計なことは言わない方がいいのでは。そう思ったため、何も言わなかった。




 本日は始業式のみ。

 ホームルームと言っていいのか分からないほど短いホームルームの後、体育館に移動して校長先生の話を聞いたりいろいろして始業式は終わった。

 その後、教室に戻ってくると再度ホームルーム今度は連絡事項や書類などが配られる。そして……


「それじゃあ体育で体育祭の練習が始まると思うけれど、他にも出る種目も考えておくように。前の学園と大差ないと思うから、蘇摩さんと間宮くんは友達に聞くなりして把握しておいてね。それじゃあこれで終わります」


 そう先生が締めくくると、学級委員の号令で本日は解散となった。

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