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君を愛している  作者: シロガネ
EP5 意識と魅力と告白と
48/84

5-7

 停電が起きてから数日。ついに読書感想文を清書段階まで持って行くことが出来た総司。もう少しで読書感想文は消化できる。それ以外の課題も順調に消化しているため夏休み中にはしっかりと課題を終わらせることが出来るはずである。

 だがそんな読書感想文だがいざ清書しようとした段階で原稿用紙がないことに気が付いた。


 原稿用紙はコンビニでも売っているが、ここ最近買い物に行っておらず食料調達や日用品の調達も兼ねて少し遠くにあるモールに朝早くからやってきた総司。全部一気に買おうと思うとここしかなかった。


 休日の上に夏休み真っ只中ということもあり衣類店から雑貨屋。食品売り場まで人でにぎわっている。もちろん一角にあるゲームコーナーもにぎわっており――


「ぐへへへ!! メダルの音は気持ちいゾイ!」


 赤い服に赤い帽子をかぶった年金生活の老人が朝からメダルゲームで遊んでいる。今日もモールはにぎやかだ。


 そんなモール内を買う予定の物を書いたメモを見ながら購入する順番を考える。もちろん人にぶつからないように壁際で立ち止まって。そんな時、前から聞き覚えのある声が聞こえた。


「総司!」

「あれ? テシ?」


 まさか清司と会うとは思ってもいなかった総司。そもそも顔を知っている奴と会うとは想像もしていなかった。だがよく考えてみるとここのモールはいろいろとそろっている。また学校が休みと言うことで遊びに来る人なんていくらでもいる。


「久しぶりだな。遊びに来たのか?」

「いや、買い物だ。家にあるダンベルが最近物足りなく感じ始めてきてな。新調しようと思ったが、やはり実際に重さを体感してからでないと今の自分にそれが合っているかわからん」


 相変わらずな清司はボディバックからパンフレットを取り出して見せてきた。表紙には今いるモール内にあるスポーツ用品を扱う有名なテナント名が書かれていた。


「それでついさっき見てきたんだ」

「買ったのか?」

「いや。先日別の筋トレ用の機材を購入してな。残念ながら手持ちがない。だから買ってはない」


 パンフレットを仕舞いつつ、残念そうな表情をする清司。よっぽど欲しかったのだろう。ただ筋トレ用の機材を購入したと言っているあたり、清司の部屋の大きさとかそのあたりが凄く気になる。


「ところで総司は何をしに来たんだ?」

「俺は食料調達や日用品の調達。あとは読書感想文用の原稿用紙だな」

「なるほど! 僕のおすすめの食べ物は鶏むね肉だ。高タンパクで低脂質。さらに低カロリーの条件を満たした素晴らしい食材だッ!!」

「そ、そうか」


 触れるのが食品だけかと内心思ったが口には出さない。だからといってこれ以上会話も広げるつもりはない総司。どう聞いても筋肉の話に繋げられるのが分かっている。


「だが鶏むね肉だけではだめだ! タンパク質の吸収率を高めるビタミンを多く含む野菜も大事だ! 一緒に食べることで、効率よく摂取できるからな!!」


 広げるつもりはないのに勝手に広げていく清司。対して話題を変えるために何を話そうか考える総司。お互いそのような状態のため、近づいている人物に気が付かなかった。


「総司とテシ。久しぶりだな。元気にしていたか?」


 ちょうど清司の向こう側からやってきた浩太。総司より体が大きい清司のため近づいてきていた人物に気が付かなかった。


「ああ。僕も総司も元気だ!」

「うん、テシはいつも通りだな」


 うんうんと頷く浩太。逆にテシに元気がない日などあるのだろうかと思いたくなる総司。モール内は冷房が効いているのか涼しい。にも拘らず清司と話していると汗がじっとりとにじみ出てくるような感覚に総司はなっていたが、気のせいではなさそうだ。


「テシは筋トレ道具の新調で、俺はいろいろと買い物に来たが、浩太は遊びに来たのか?」

「ああ。先に言っておくが、今日は1人でブラっと遊びに来ただけだが、昨日は彼女とデートに行ってきたからな! 別に遊ぶ友達がいないとかそんな感じじゃないぞ!」


 実際浩太の友人関係は広い。そのため誰かに声を掛ければ大体は誰かと遊べると依然言っていたことを思い出す。だが無理な日ぐらいあるだろう。


「それじゃあ、時には1人でゆっくりと……か?」

「ああ。1人でゆっくりと服を見に来たりだな」

「なるほど。やはり自分の雰囲気にあったり好みを合わせたりするとなると時間がかかるからな。誰かと一緒に見るのもいいが、時には自分で見るのも大事だと僕は思うぞ!」

「そうだよな。やっぱ可愛い彼女に選んで貰うのもいいが――」


 浩太が増えたところであまり何も変わっていないよに感じた総司だった。




「んじゃ、とりあえず気になる服屋に入る形で見て回るか」

「そういう目的なくぶらつくのも僕はいいと思うぞ!」

「右に同じく」


 何とか収拾が付き、浩太の提案によって適当にぶらつくことにした3人。本当に目的なくぶらつき始める。

 2人とは違って買いたいものがある総司だが、今は友達付き合いとかそういうことでまた帰りにでも買うかと思いつつ足を進める。家に帰っても読書感想文の清書ぐらいしかすることはなく、時には遊んだりして気分転換も大事だ。


 ここ最近近くのスーパーで買い物をしていたと言うことでモールに来ていなかったが、いつもと少し雰囲気が違うことに気が付く。その違いはふんわりとしたもので何か分からなかった。だがテナントの壁を見てすぐに気が付く。


「花火大会?」

「ん? どうした?」

「いや、花火大会のポスターが張ってあって」


 総司が指さした方を見て浩太が少し驚いた顔をする。花火大会に驚いたと言うわけではない。


「あれ? お前知らなかったっけ? ここの近くのテーマパークで行われるんだけど」

「……あ! 昔、両親に連れられて一緒にレーちゃんと行ったことあったな。ちょうど今ぐらいだったか」

「クラスの男子のためにも一部の言葉を聞かなかったことにする」


 そんな風に浩太が呟いている隣で清司が爽やかな笑顔でちょっとした情報を教えてくれた。


「ここ最近、遠方から見に来る人が増えたからか予算がたくさん降りるようになったらしい。それもあって3年ほど前から規模が大きくなっているぞ」

「3年ほど前と言うと、俺が転校して少したってからか」


 総司が引っ越して2年ほど経ってから規模が大きくなり始めたということだ。

 当時の花火大会の記憶は昔過ぎてほとんどほとんど覚えていない。唯一記憶に残っているのは玲奈がはぐれないよう総司が手を握っていたぐらいだ。

 花火の記憶は転校先の花火大会によって上書きされている。


「そういえば総司は転校してきたのだったな。僕としたことか、忘れていたよ。まるでずっと一緒にいるような感覚になっていてな。すまない」

「気にするな。それよりずっと一緒にいるような感覚になってくれている方が俺としてはうれしいぞ。それほど馴染んでいるってことだろ」

「そうか。ならよかった」


 すまなそうな表情をしていたが、総司の言葉を聞いてうれしそうな表情をする清司。ころころ表情が変わって面白い。そんな清司と共に浩太が花火大会についていろいろと話してくれる。屋台が増えたとか打ち上がる花火の量が増えたとか。


 そんな感じで見て回るとやはり目に付くのは浴衣。花火大会があるということでいくつかのテナントではそれぞれ浴衣を来た男女のマネキンをショーウィンドウに飾っている。


「総司も浴衣に興味があるのか?」

「浴衣に興味があるというより、浩太と大林さんは着るのかなって思っただけだよ」

「そのつもりだ。かわ――」

「そういうのはいいぞ浩太」


 浩太の言葉を遮る総司。浩太が彼女である陽菜乃のことが心底大好きであると言うことは、もう十二分に分かっている。だがどうやら言ってもいい足りないのか浩太が怒った。


「最後まで言わせろよ!?」

「浴衣は僕のように筋トレをして体ががっしりとしすぎていると似合わないと言われている。かといって細すぎてもだめだ。その点、浩太は浴衣を着るのにいい体つきだし、肩幅もちょうどいい。似合うと思うぞ!」


 以外にもテシがちょっとした話をする。そんな話に総司が驚き浩太が尋ねた。


「テシはなんでそんなこと知っているんだよ」

「筋トレも大事だが、いかにしてこの鍛え上げられた肉体を魅力的に見せるかも大事だ。その中には服装も入っているから、自然と知識が付くのだよ」

「まじかよ! というより何気にテシってすげぇよな!」


 そんな感じで3人はギャアギャア言いながらモールの通路を歩いていく。

 なんやかんやゲーセンで遊んだりするなど、休日に友達と遊ぶ感覚で過ごした。モール内にある飲食店で昼食をとり、解散したのは夕方だった。


 その時に浩太から花火大会の時はできれば予定を開けておくよう言われた総司。それに分かったと伝えた後、帰路につこうとする。だが1つ肝心なことを忘れていた。読書感想文の原稿用紙を買い忘れていた。


 途中までは覚えていた。だが途中から完全に忘れていた総司。

 気持ちとしてはもう帰る気満々。だがせっかく来たということで、あまり気は乗らないが原稿用紙を買うために再度モール内へと入っていった。

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