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君を愛している  作者: シロガネ
EP5 意識と魅力と告白と
47/84

5-6

 今までのとは打って変わった落雷。その音と光は凄まじいもの。お互いが言葉を交わす暇も与えないように一瞬で部屋の電気が消え、目の前が真っ暗になった。


「お!」

「え?」


 部屋の電気だけではない。先ほどまで聞こえていた冷蔵庫の音や、浴室の乾燥機の音が聞こえなくなる。電源を消したわけでもないにもかかわらず、付けていたエアコンも動きを止めた。停電だ。


「間宮……」

「こりゃ停電だな」


 暗いため表情は見えないが、声からして衣里は少し怯えているように感じる総司。少しでも不安を和らげようと少し明るめの声を出すが、明るめの声を出せたか分かっていない。


「衣里。そこから動くなよ」

「え? どこに行くんだ?」

「スマホ取ってくる」

「待って」


 衣里の制止を聞かず、自分が立っている位置と家具の配置の記憶を頼りにゆっくりと体を動かす。スマホは食卓の上に置いたまま。普段歩くように歩くと何か踏みつけることがあるかもしれないため、すり足でゆっくりと移動する。それでも人の記憶と言うのは頼りない。


「いっ!」

「どうした!?」


 総司の突然の声に背後から心配した声が聞こえる。この暗闇の中で分からなかったが、総司は小指を何かにぶつけた。手探りで探ってみたところ、扉のドアノブが手に触れる。

 頭の中にある部屋の形や家具の配置は間違っていたらしく、思ったより扉との距離が近かったようだ。


「大丈夫だ。扉の角に小指をぶつけただけだ」

「ちょっと待って。あれ、どこだ? ……ってあったあった。」


 総司が再び前進しようとした瞬間、後から光をあてられたことによって壁に自分の影が映し出される。総司が振り返ると、衣里はスマホのライトをつけて総司の方を照らしていた。

 少しではあるがスマホのライトで照らされた衣里の表情はどこか自慢げだった。


「持って来てたのか」

「そりゃな」


 玄関で出迎えた時から総司が風呂に入るまで一度もスマホを取り出していなかった衣里。そのため自然と衣里はスマホを持ってきていないと勝手に判断してしまっていたようだ。


「それよりも玲奈から連絡来てるかもしれないから、間宮も取ってこいよ」


 薄暗いとはいえ、光が完全にない状態と比べればマシになった。そのため総司は先ほどよりは注意せずとも簡単にスマホの元まで向かうことが出来た。見てみると衣里の予想通り玲奈から連絡が来ていた。


『こっちは停電になっちゃった。そっちは停電大丈夫?』


 心配になったらしい玲奈から連絡が総司のLENEに来ていた。

 こっちも停電になった。そう返事を送ると衣里のもとへ戻る。


「レーちゃんの方も停電みたいだな」

「ああ。オレの方にも連絡来た」

「ここだけじゃなくて、周囲一体停電見たいだがな」


 寝室にあるカーテンを開けて周囲の家を見る総司。ある程度建物が立っていたはずだが、外は漆黒に包まれている。いつもなら夜道を照らす街灯も今は沈黙している。


「俺はもう寝るつもりだが――」

「なあ、間宮」

「なんだ?」


 総司の言葉を遮るように衣里が声をかける。ただその声は先ほどまでの声とは違い、どこか申し訳なさそうな声。予想は付いているが、総司はあえて何も言わない。


「今日、泊まっていいか?」

「蘇摩。お前自分が何を言っているか分かっているか?」

「もちろんわかっている」


 衣里の顔を照らしているのはスマホの明かりのみ。そのためしっかりとは見えないが、それでも何とか見える表情は真剣なものだった。


「オレ、暗い中1人で寝るのが怖いんだ。だから普段は電気付けたまま寝てる。今日は電気無いし、雷鳴ってるから本当に無理。小さいときに病室で、それも治療の関係で個室だったから、少しトラウマになっていて」


 その話を総司は無言で聞いていた。


「もちろん無理にとは言わない。できればって話で――」

「ったく、しゃあねぇな」

「え?」


 ため息を盛大についた総司を不思議そうに見る衣里。分かっていないのか、それとも別のことに疑問を持ったのかは分からない。

 そんな衣里に総司は右腕を伸ばして人差し指を立て、衣里に見せる。


「貸し1つ」


 一瞬何を言っているの変わらなかったようだが総司が言いたいことを、ようやく理解したようだ。

 この部屋にはスマホから漏れる光しかない。だがその光によって確かに衣里のすごく嬉しそうな表情が見えた。


「ありがとな」




 何とか真っ暗な中、寝る準備を終えた総司と衣里。すでに電気は消えているが、復旧したときのことを考えあらゆる家電のスイッチは切って置く。

 もちろん冷蔵庫のコンセントも外しておく。中の食材を痛み廃棄すること、コンセントを差しっぱなしで電気が復旧した際の危険度を天秤に切ったらそうなった。


「でもお前、本当にいいのか?」

「お前が今晩泊まることか? それは納得しているが」

「違う違う。家主のお前がベッドを使わなくていいのかって話」


 客人が止まることを想定していなかった総司は、布団を1つしか用意していない。さすがに衣里を床に寝かせ、自分はベッドでなんてできなかった総司。ベッドを衣里に貸して自分は床で寝ることにした。

 渋々納得した衣里だったが、今になって再び疑問を持ち始めた。


「別にオレは間宮と同じ布団で寝てもいいぞ?」

「いやあのな? お前本当に分かってるか?」

「そりゃ間宮は男で、そういうのに興味があるってのは分かっている。ベッドを貸してもらう。だから対価として」

「馬鹿言ってないでさっさと寝ろ」


 同じ部屋。それもすぐ隣で女の子が寝ている。そんな状況で理性が持つのだろうかと総司は若干心配している。だからさっさと寝てしまおうと考えていた。


 照れからなのか小さな声ではあったが「ありがとう」と返事をした衣里。どうやら寝やすい体勢になろうと体を動かしているらしく、総司の元に外でなっている雨音に交じって布の擦れる音が聞こえてきた。


「なあ間宮」

「なんだ?」

「ありがとな」

「貸し1つだからな」

「わかってる」


 それっきり、2人は話さなかった。

 すぐ隣で女の子が寝ている。それを意識しているためか、総司はなかなか寝付けなかった。ただ衣里の方は気が付けば規則正しい寝息を立てていた。






「ん……んん?」


 どのくらい寝たかは分からなかったが、ふと目が覚める総司。それとほぼ同時に涼しく優しい風が頬を撫でる。

 寝るときはエアコンは止まっており、横殴りの雨が降っていると言うことで窓は締めきっていた。にも関わらず風が吹く理由が分からなかった。


 風が吹いてきた方を見ると、ベランダに出る扉が開いており、開けたことによって入ってくる風がカーテンをなびかせている。そしてその向こう側には1人の人影があり、その奥に満天の星空が広がっていた。


「……そう、ま?」


 総司の声が聞こえたのか振り返る衣里。


「あ、悪い。起こしてしまったか?」

「確かに起きてしまったが、別に大丈夫だ」


 そう言いながら起きあがる総司。ある程度意識がはっきりして分かったが、寝汗で寝間着が体に張り付いている。


「結構汗かいた」

「まあ、あんな狭い部屋で窓も開けず冷房も付けずに寝ていたらそうなるわな」


 汗を乾かす意味でもベランダに出る総司。それでも汗臭いと思われたくないために衣里から少し距離を開ける。

 ベランダに出たために空全体が見えるようになって分かったが雲は一切なく、空一面に夜空が広がっていた。雨が降っていたのがウソのようだ。


「まだ電気は復旧してないみたいだな」

「らしいな」


 総司言った通り、見渡す限り辺りは真っ暗。スマホに表示されている時刻は深夜1時を少し回った所。天気予報通り嵐は過ぎ去ったようだ。


 電気が復旧しているのであれば少なくとも街灯は転倒していると思われるが、その街灯は光を発しておらず、まだ電気が回復していないことを告げている。


 ただでさえ都会とは違って夜は暗い田舎。そこから街灯の光がなくなると、残るは月の明かりか星空の明かりだけになる。今は晴れているが月は出ていないということで空は満天の星空でおおわれている。夏の風物詩の1つ、天の川もしっかりと見える。


「なあ間宮」

「なんだ?」

「今日はありがとうな」

「気にするな……って言いたいが、貸し1つだからな」

「わかってる。しつこいぞ」


 そういった衣里だったが総司の方を見ながら笑っている。

 星空の下だからなのか、背後に星空があり目にも星空が映り込んだ衣里に総司はドキッとした。気が付けば鼓動が早くなっていた。


 その鼓動の音が聞こえた――わけではない。ただ総司が固まっていることに対し不思議に思ったのであろう衣里が下からのぞき込むようにして尋ねてきた。


「どうした?」

「いや、まさか蘇摩に弱点があるなんてなって今更ながら思ってな」


 気が付かれないようにと話を蒸し返したところ、衣里の顔が星空の下にも関わらず赤くなったのが分かる。


「まじで忘れろ!」

「無理じゃね?」

「おい!」


 そんな風にやりとりをしつつ、どちらかが眠たくなるまで夏の夜風を浴びつつ、2人は星空を見上げていた。






 翌朝――正確に言うと星を見た時には日付が変わっていたためその日の朝――8時には衣里は帰宅していった。その時にはありがたいことに電力は復旧していた。


 星空を眺めた後に再度寝るときには窓は開けたためいくらか涼しなり寝やすくなったとはいえ、隣で衣里が寝ているのは変わらずなかなか寝付けなかった総司。そのため衣里が帰ったあと、緊張の糸が切れたのか睡魔に襲われ始めた。


 特に予定も入っていなかったと言うことで、そのままベッドまで向かった力なく倒れる総司。やはりベッドの方がいいな。そう思いながら深呼吸をするため大きく息を吸った総司は――


「蘇摩ぁぁぁぁぁあ!!?」


 一晩中衣里が寝ていたということでベッドから漂う衣里の匂いに、総司の眠気が吹き飛んだ。さすがにそのままにできなかった総司は布団を干すことになった。

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