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君を愛している  作者: シロガネ
EP5 意識と魅力と告白と
46/84

5-5

 自分の家の上は綺麗な夕焼け空が見えるが、山の向こうの方の空には曇天が広がり、どこか遠くの方で雷がなっている。もしかしたら向こうの空に見える黒い雲が原因なのだろうか。そう思いながら総司は見ていたテレビ番組から目を離し窓の外を見ていた。


 夏休みの課題の進みが早いのは前の学園でもそうだったため、衣里のおかげと言うわけではない。いや。分からないところは尋ねて教えてもらったため衣里のおかげじゃないとも言い切れなかった。


 それでも思っていたよりも夏休みに出ていた課題の進み具合がよく余裕が持てている。というよりほとんど終わっている。そのためと言うわけではないが、普段より長い時間テレビを見ていた夏休み中盤。


 今日は珍しくどこかに出かけているらしい衣里は総司の部屋に来ていない。最近入り浸っているためかふと衣里がいないことに寂しさを感じてしまっていた総司。

 未だに隣からは人の気配がしない。


「――そのため今夜の早い時間から深夜までは非常に発達した――」


 天気予報では気象予報士の人が、今夜の早い時間から深夜頃まで雷を伴った強い雨に注意するよう促している場面がテレビで流れているところである。

 それを聞きつつ、戸締りをしっかりして寝ようと総司はぼんやり考えていた。




 勉強を始めるのはもう少しあとでいいやと何回も思っているとあっという間に時間が過ぎた。結局勉強することなく、適当にチャンネルを回して番組を見ていた総司は隣の部屋に人がいる雰囲気がすることに気が付く。

 聞き耳を立てるのはどうかと思ったが、僅かに物音が聞こえてきた。どうやら衣里が帰ってきたようだ。

 見れば外はすでに暗くなっているうえに、少し打ち付けるような雨が降っていた。


 夕飯を食べるにはいつもより少しだけ遅い時間になった。空腹になってきたため夕飯の準備をするかと思い立ち上がった瞬間、外が一瞬だけであったが突然明るくなる。その僅か数秒後、大きな音が鳴った。雷が落ちたようだ。

 さらに僅かであったが、部屋の電気が一瞬チカチカと点滅する。


「結構近いな」


 あたりはすでに暗く外は見えない。それでも気になり、カーテンを開けて外を確認する。見た限り周辺の建物は電気がともっているため、停電は起きていないようだ。

 カーテンを閉め直し夕飯の用意をしようとした時、玄関のチャイムがなる。


 誰だろうと思いつつ総司が扉を開けると衣里が立っていた。よく見れば髪の毛が若干湿っているように見えなくもない。ただこんな遅い時間に来るのは珍しい。


「……どうした?」

「え、えっと……今から夕飯か?」

「そうだが、なぜ?」

「いや、なんでも……あ、そうだ。雷落ちたみたいだが大丈夫だったか?」


 衣里とのやりとりにどこか不自然さを感じた総司。だがいったい何が不自然なのかが全く分からない。


「いや。見た通り大丈夫だぞ?」

「そ、そうか」

「じゃあ俺、夕飯の用意するから。あ、そうだ。深夜まで雨強いみたいだから気を付けろよ。じゃあな」

「あ、いや、待って」


 総司が扉をした時、衣里が扉を引っ張って閉まらないようにする。何をしたいのかが分からない。ただ手を挟むと危険なため総司は再び扉を開いた。


「どうした? 何か言い忘れたのか?」

「いや、違……う、ことも……ない」

「だから一体……あ、そう言うことか」


 可能性ではあるが、ある程度予想が付いた総司。友達から貰った映画でもこんな感じのシーンがあった。ちょうど衣里と一緒に見た映画に。そんな総司の様子を見て、衣里はどこか焦ったような表情になる。だが総司は容赦なく言った。


「お前、雷怖いのか?」

「ッ!? ち、ちがっ!」

「違うのか? てっきり怖いのかと」


 予想が外れて少し驚く総司。タイミング的に雷が怖くて来たのかと思ったが、違うようだ。さすがにもう思い当たるものがない。こうなると聞いた方が早いのは分かっている。


「それじゃなんで来た?」

「え、えっとそれは――」


 そこまで衣里が言いかけた瞬間――


 ゴロゴロッ!!


 光って数秒後に、空を真二つに裂いたかと思われるほどの音を立てて雷が鳴った。ただ光ってから音が聞こえた秒数が先ほどより僅かに早く、近づいていることを伝えている。さらに少しだが揺れた。


「おっと。今のは結構近かったな。天気予報通りこっちに近づいてきているか?」


 総司と衣里には身長さがあるため、衣里の頭の上から向こうの景色が見える。日はすでに落ちているため真っ暗で、雨の音だけがするだけ。


「雨も強く……蘇摩? どうした?」


 夜の背景から衣里へと視線を落とした総司が異変に気が付く。衣里が俯いている。総司が声をかけるが顔を上げない。


「おーい。蘇摩? どうした?」

「だ、大丈夫。なんでもない」

「いや、お前そう言っているが」

「本当に大丈夫だ」


 大丈夫と言い張る衣里だが、表情はどう見たって今にも泣きだしそうな感じで大丈夫に見えない。こうなったのはやはりさっきの雷が原因。


「お前やっぱり雷怖いんだろ?」

「そんなこと――」


 そこまで言いかけた瞬間、再度雷が落ちる。今度も空が明るく光ると同時に大きな音が鳴った。音によってほとんど聞こえなかったが、衣里が小さな悲鳴を上げていたのを総司は聞き逃さなかった。


「……」

「……」


 総司が衣里の方を見ていると、目が合った衣里が視線を逸らす。玄関から階段につながる廊下の天井にはライトがあり、衣里の顔を上から照らしていた。そして照らされている衣里の顔は少しばかり赤く染まっていた。

 それでほとんど確信が付いた総司。だがさすがに直球には言えない。


「……夕飯食って行くか?」

「ああ」


 総司の提案を聞いて、外は大雨にもかかわらず衣里の表情は夏の太陽のように明るいものだった。

 そんな衣里を背にして先に部屋へと入る総司。

 言ったあとだが、もう少しいい助け船はなかったのだろうかと思った。だがこれ以上に思いつかなかった。



 助け舟の通り、衣里と共に夕食を取る総司。ある程度空腹だったと言うことでカップ麺ではなくそれなりにしっかりした夕食。いつもなら1人分だけだが、今日は2人分ということもあり分量が少し変わってくる。

 それでもある程度料理になれた総司にとっては造作もないこと。何より突然ではあるが献立を変更したことによって、余っても問題ないカレーという楽なメニューとなった。


 夕飯を作っている間、衣里は邪魔にならないところからじっと総司を見ており、作っている総司は少しばかし恥ずかしく感じた。そんな気持ちを少しでも和らげるため衣里に話を振る。


「見ていて楽しいか?」

「うーん。楽しいというより意外って感じ?」

「何が意外なんだ?」

「間宮って不器用なところあるだろ? そんなやつが料理しているところを見ていると、こう……驚く?」


 さすがに包丁を使っていると言うこともあり手元から視線が外せない総司。それでもしっかりと会話をする程度の余裕を見せる。衣里の言いたいことが分かり、苦笑いを浮かべる。


「言いたいことは分かるが、そんなに意外なのか? 1人暮らししていると自然に料理が上達すると思うが」

「いや、そうだけど……オレのイメージだと男子って料理出来ない感じがして」

「謝れ。料理の出来る男子に謝れ」

「へいへい」


 そんな会話をしつつ調理を進めていく総司。材料を鍋に入れて炒める。そのため少しだけなら視線を外しても問題ないため総司が衣里の方を見る。


「蘇摩ってカレー食えるか?」

「ん? 当たり前だろ。逆に食えないやついるのか?」

「前の学校にいたんだよ。それで辛さはどのくらい?」

「辛口でいいぞ。間宮が無理って言うのなら中辛でもいいが。にしてもそういう人もいるんだな」

「世の中にはいろんなやつがいるからな。そういう人もいるさ」


 辛口のカレールーの表のパッケージが衣里に見えるように向けつつ総司が話す。そこで一度会話が終わる。それで居心地が悪くなるような空気になることはなかった。

 調理が進みカレールーを入れてしばらくすると辺りにカレーのいい匂いが漂い始める。そこから少し煮込んで出来上がったカレーを深皿に盛ったご飯へと掛けテーブルについた。


「ほんじゃいただきます」

「おう」


 夏だという安直な理由で夏野菜カレーにした。手を合わせ終えた衣里がスプーンを手に取るとそのカレーをすくい口に運ぶ。一瞬置いて少し驚いた表情をする。


「お。おいしい」

「当たり前だろ。よっぽど変なことしない限り、カレーは誰が作っても大体同じ味になるんだ」


 苦笑いしつつ久しぶりのカレーを口にいれる。辛口だということでカレー独特の辛さが口の中に広がる。この辛さを時々思い出すと無性に食べたくなる。


 皿が空になるまで2人はひたすらカレーを口に運んだ。外では雨が激しく振る音と風邪が強く吹く音、雷が落ちる音が。静かな部屋の中では、どちらかは分からないが、スプーンと食器の僅かに擦れる音が静かな部屋の中に響く。

 静かすぎるのも寂しく感じ、時々会話を挟む総司と衣里。


 しばらくして完食した総司がお代わりをすると、驚いたことに衣里もお代わりをした。衣里は小食だろうと思っていた総司は驚いた。


「学校に持って行っていた弁当に入っていた物、案外少なかったが結構食べるんだな」

「まあな。というより昼食ほとんど食べてなかったからな。ごちちそうさまでした」

「お粗末様でした。水いるか?」

「いや、いい」


 スプーン置いて手を合わせ終えた衣里の表情からは満足していることがうかがえ、総司としては作ってよかったと思う瞬間であった。


「なあ総司」

「なんだ?」

「もう少しいていいか?」


 一瞬だが脳の処理が止まった総司。それでもすぐに衣里が何を言っているかわかり、顔が引きつる。


「いやお前もう帰れ! 何時だと思っているんだ!」


 夕飯を作り始めた時間帯も遅く、また調理自体も時間がかかった。さらに少ないとはいえ衣里と話しながら夕飯を食べたため、衣里が来てからそれなりに時間が経っている。

 これから洗い物をして風呂に入ろうと思っていた総司だが、衣里がいる手前、風呂に入れない。


「大丈夫。夜はまだこれからだ」

「雷が怖いからっていつまでもいようとするな!」


 総司のツッコミが図星だったのか衣里が視線を逸らす。別に晩御飯ぐらいならいいがさすがにこれ以上はマズイ。


「あ、オレのことは気にせずに風呂に入ってきていいぞ?」

「おまっ、俺が気にするんだよ! お前も恥じらいを持てよ!」

「恥じらいと雷の怖さを天秤にかけたら、恥じらいを捨てるのが勝った」


 再度視線を逸らす衣里。このまま言い合っても帰る気のなさそうな衣里に総司は諦めた。


「ああもう、わかった。テレビ見るなりなんなりしておけ。その代わりこっちくんなよ!」

「行かないから安心しろ。あ、洗い物はオレがしとくから安心しろよ!」


 本来なら立場が逆なんだよなと思いつつ、総司は風呂へと向かう。


 30分ほどして上がってきた総司。寝間着にもしっかり着替えている。脱衣所と廊下をつなぐ扉を開いた総司は、微かにテレビの音がしていることに気が付く。結局帰っていないのか。そう思いながらダイニングへ行くと、テレビが付きっぱなしだった。


「消していけよ……」


 結局帰ったのか。そう思いつつテレビを消す総司。

 その時、ふと寝室代わりに使っている部屋とダイニングを区切る扉の方へと視線が移る。なぜ視線が移ったのかは分からないが、視線を向けて異変に気が付いた。僅かにだが扉が開いていた。そしてその僅かに空いた隙間から消えているはずの電気が漏れ出ていた。


 嫌な予感が総司を襲う。叫ぶようにして扉を開けた総司。


「蘇摩!」


 アニメであるようにベッドの下をあさる。そんなことをされているのではないか。そんな風に考えていた総司の期待は悪い意味で裏切られた。ベッドの下をあされている。そんなことはなかった。


 だが、総司に――寝室への入り口に背を向けるようにしてベッドの上に寝転がっている衣里を総司は見つける。

 明らかに無防備すぎる。それに対して少し苛立ちやら呆れやらいろいろな感情が沸いた総司。それは言い方に現れた。


「おい蘇摩。何やっている」


 言った後に少し強く言い過ぎたかと後悔した総司。対する衣里は反応を返さない。それどころか一切動かなかった。今度は息をしているのか逆に心配になり出す総司。


「蘇摩?」


 声を掛けながら近づく総司。手を伸ばせば手が届くという距離になって、微かに聞こえた音。

 すぅ、すぅ、と穏やかな呼吸を繰り返している衣里に「なんでだよ」と総司がつぶやいた。


 起こすべきか一瞬迷った総司だが、同じ部屋で寝るわけにもいかず、何より総司が今夜寝る場所がなくなる。どういう風に起こすべきか迷った総司は、衣里の肩を軽くたたく。


「おい起きろ」

「んんっ……」

「おい」


 何度か肩を叩くが一向に衣里は起きる気配を見せなかった。それでも諦めなかったためかしばらく奮闘していると、ようやくゆっくりと目を開ける衣里。


「んん……ん? 間宮? なんでオレの部屋に?」

「寝ぼけてるぞ。ここは俺の部屋だ」

「なんで……って、ああそうか」


 思い出したのか、1人で納得する衣里。それでも寝起きなのかボーっとしているように見え、総司が目を離せば再び寝てしまいそうな雰囲気がある。


「寝るんだったら自分の部屋で寝ろ」

「……動きたくない」

「馬鹿言ってないで、さっさと――」


 総司がそこまで言いかけて雷が落ちた。空が明るく光るタイミングと音が聞こえるタイミングはほとんど同じ。


「間宮」

「いや……あのな?」


 上目遣いでお願いする衣里。よく見ると瞳が潤んでいる。それを見て一瞬心が揺らいだ総司。だが無理なものは無理である。


「ほら、早く帰れ」

「でも」


 その瞬間、大きな音と共にカーテンをしているにもかかわらず部屋がわずかに明るくなるほどの光に襲われる。雷が落ちた。先ほどとは明らかに違う落雷。


 ――バツン。


 僅かに遅れ、一瞬で部屋の電気が消える。目の前が真っ暗になった。

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